この号の内容
コロナ禍の「前・中・後」設計
SHAREは2020年春、第8波の途中でコロナ禍のため対面面接を中断した。その3か月後の2020年夏に第1回コロナ調査(SCS1)を電話で実施した。1年後の2021年夏には、同じ回答者に電話で再び聞く第2回コロナ調査(SCS2)を行い、パンデミック開始時から1年後への個人内の変化を国際比較できるようにした。2021年10月に通常の対面調査である第9波が始まった。報告書は、第8波の対面調査、SCS1、SCS2、第9波対面調査の4つをつなげた設計を「前・中・後」のデータ収集と位置づけている。
📖 報告書では:第1章1.1「Overview」p.13、図1.1;第3章3.1「General Framework」p.25、図3.1
28か国で約7万件の面接
第9波の通常調査では、27の欧州諸国とイスラエルで、約2,000人の調査員が約7万件の面接を集めた。暫定データ(Release 0)による実施件数は個人72,596人、世帯50,395世帯である。個人の内訳は、以前の波から続けて答えている追跡(縦断)回答者が56,581人、第8波で抽出済みの新規補充サンプルが16,015人である。国別の個人数はポーランドの5,110人が最多で、クロアチア4,803人、エストニア4,768人、スロベニア4,623人、ドイツ4,536人が続く。最も少ないのはキプロスの764人で、イスラエル806人、ルクセンブルク823人も少ない。
📖 報告書では:第1章1.1 p.13;第2章 表2.2「Number of Realised Interviews…」p.21–22
新規サンプルを引かず継続
SHAREは確率に基づく標本抽出で、各国の50歳以上の人口全体について推論することを目指している。第9波ではコロナ禍の先行きが不透明だったため、新たな補充サンプル(パネルの目減りを補う新規回答者)を抽出しなかった。代わりに、第8波の前に抽出したものの一部しか調査できていなかった補充サンプルを整理し直し、第9波で面接した。第8波の中断前に面接済みの補充回答者は縦断サンプルとして扱う。コロナのため第9波で初めて面接した世帯は、第9波の補充面接として数える。
📖 報告書では:第2章2.1「Introduction」p.19、2.4「Sample Composition」p.20–21、表2.1
対象は2021年の50歳以上
第9波の母集団は、2019年に50歳以上で2021年まで生存し、その国に通常の住居を持つ人である。これにより、多くの回答者が面接を受けた2021年時点の50歳以上人口について推論する。服役中・入院中・国外在住で調査期間中ずっと不在の人、その国の言語を話せない人などは除外する。50歳以上の人の配偶者・パートナーは、本人の年齢に関係なく対象に含める。人口の10%を超える人が話す言語には調査票を翻訳する。多くの調査と異なり、抽出の名簿に含まれていれば介護施設の入居者も対象とする。
📖 報告書では:第2章2.2「The SHARE Target Population in Wave 9」p.19、脚注1
コロナ調査2の質問設計
SCS2の調査票は5つの部分からなる。①心身の健康と健康行動、②コロナ感染、③医療の質、④仕事と経済状況、⑤社会的ネットワークである。設計方針は、SCS1からの変更を最小限にしつつ内容を最新化し、電話面接を30分未満に収めることだった。最大の変更点は質問の期間設定である。SCS1の「コロナ発生以降」を、SCS2では「SCS1の面接日以降」に改め、出来事の二重計上を避けた。新たに加わった世帯内パートナーには「2020年7月以降」を、コロナ前との比較を問う質問には「直近3か月」を基準とした。
📖 報告書では:第3章3.1–3.2「General Framework」「Contents」p.25–26
終末期面接・調査員・認知
第9波の調査票では、コロナ禍に亡くなった回答者について近親者などに尋ねる終末期面接(End-of-Life interview)に、コロナ関連の質問を加えた。報告書はこの質問から、死亡時の状況や医療体制の状況を扱っている。あわせて、23か国で4回目となる調査員調査(Interviewer Survey)を実施した。報告書は、このデータで回答に対する調査員の影響を研究できるとしている。さらに、認知機能を他国の加齢研究と同じ方式で測る調和型認知評価プロトコル(HCAP)を第9波に追加した。
📖 報告書では:第4章 p.29–37、第9章 p.161–166、第10章 p.171–172(目次p.8–10、第1章p.14の概要)
この号の調べ方
対象は、欧州27か国とイスラエルの50歳以上の人とその配偶者・パートナーである。電話調査のSCS2を2021年夏(8月終了)に、対面のCAPI(コンピューターを使う面接)調査の第9波を2021年10月から実施した。第9波では個人72,596人・世帯50,395世帯の面接を実施し、うち追跡回答者が56,581人である。各国は同じ実施日程・仕様・調査票・面接ソフトを使い、回答率を中央で監視している。各章の数値は、執筆時点で利用できた暫定データ(Release 0)に基づく。
この号から言えること
- コロナ禍でも、第8波の中断から電話調査2回を挟んで対面調査に戻ることで、同じ人を「前・中・後」で追える縦断データが保たれた。
- 新規サンプルを引かず第8波の補充サンプルを継続したため、第9波の補充面接(16,015人)は「第8波の続き」という性格を持つ。
- SCS2では質問の基準時点を「前回面接以降」「直近3か月」などに改め、出来事の二重計上を避ける工夫をしている。データ利用時は質問ごとの期間設定に注意が要る。
- 終末期面接へのコロナ関連質問、調査員調査、HCAPの追加により、死亡状況・調査員の影響・認知的加齢を分析する材料が加わった。
読むときの注意
本号は方法論の報告書であり、CASP-12(統制・自律・自己実現・喜びの12項目で生活の質を12〜48点で測る尺度)、生活満足度、EURO-D抑うつ尺度の集計結果は元資料に含まれていない。調査期間の終わりは、公式ページでは2022年10月、本文第1章では2022年9月初めと記述が異なる。また報告書の件数は暫定データ(Release 0)に基づくため、公開版(Release 9.0.0)とは異なる可能性がある。