この号の内容
経済:伸び悩みと生活費の苦しさ
英国経済は直近2年間、ゆっくりとしか成長しておらず、求人も数年前より少ない。雇用の面では、ウェールズは以前より英国の他地域に近づいた。一方で、賃金は英国の多くの地域より低く、新しい製品やサービスを開発する企業も他地域より少ない。世帯収入は長期的には増えているが、日々の生活費が足りない人は多く、子どものいる世帯は大人だけの世帯より貧困に陥りやすい。燃料貧困(家を暖かく保つ費用を払えない状態)の世帯は約4世帯に1世帯と推計される。働く人の約3人に2人は、生活費をまかなえる水準として定められた賃金「リアル・リビング・ウェイジ」以上を得ている。また、貧しい家庭の子どもの学業の遅れは今も解消されていない。
📖 報告書では:第1章「A prosperous Wales」p.10–14
健康:寿命は延びるが健康期間は縮む
ウェールズの人々は長生きになっているが、改善の速さは以前より鈍っている。人生のうち健康に過ごせる期間は短くなっており、貧しい地域の住民ほど健康に過ごす期間が短い。低体重で生まれる赤ちゃんは以前より増えた。若者の喫煙と飲酒は減り、健康的な習慣を持つ若者は増えている。成人の精神的ウェルビーイングは近年ほぼ横ばいだが、若者では時間とともに悪化した。貧しい家庭の若者ほどウェルビーイングが低い傾向があり、豊かな地域と貧しい地域の差は広がった。主な死因には、認知症・アルツハイマー病と心臓病が引き続き並んでいる。
📖 報告書では:第3章「A healthier Wales」p.21–23
平等:集団ごとの差
ウェールズでは約5人に1人が貧困の状態にあり、子どもは大人より貧困に陥りやすい。女性は男性より働いている割合が低く、賃金も低いが、男女の賃金差は以前より縮まった。高齢者は若い人よりウェルビーイングが高く、孤独を感じにくい傾向がある。少数民族の人々は白人よりウェルビーイングが高いと答えるが、孤独を感じやすく、賃金が低く、貧困に陥りやすい。障害のある人やレズビアン・ゲイ・バイセクシュアルの人は、孤独や貧困に陥りやすい。また、男の子とも女の子とも自認しない若者は、ウェルビーイングが低く孤独感が高い。既婚者は独身者より、宗教を持つ人は持たない人より、ウェルビーイングが高い傾向がある。
📖 報告書では:第4章「A more equal Wales」p.25–29
地域:帰属感・孤独・治安
地域社会の一員だと感じる人は10人に6人近くで、高齢者ほどそう感じやすい。住む場所としての地域に満足している人は10人に8人を超える。一方で、地域の決定に影響を与えられると感じる人は減った。暗くなってから安全だと感じる人は約10人に7人で、男性は女性よりそう感じやすい。成人の約10人に3人がボランティアをしており、近年より増えた。孤独を感じる人は約8人に1人で、若い成人ほど孤独を感じやすい。ホームレス状態を避ける支援を受けた世帯は前年より増え、一時的な住まいで暮らす人や路上で寝る人は減った。犯罪被害者と警察が記録した犯罪は減ったが、ヘイトクライム(相手の属性を狙った犯罪)の記録は増え、その多くは人種や民族的背景に関わるものである。
📖 報告書では:第5章「A Wales of cohesive communities」p.31–35
環境:改善と資源の使いすぎ
大気と水の質は改善し、土壌もほとんどの地域で健全に保たれている。一方で、絶滅の危機にある動植物があり、多くの住宅や建物に洪水の危険がある。家庭ごみのリサイクル率は、ほぼどの国よりも高い。ウェールズで作られる電気の約3分の1は、風力や太陽光などの再生可能エネルギーによるものである。しかし、水・土地などの自然資源は、回復が追いつかない速さで使われている。地球全体で見た公平な取り分より多くの資源を使っている状態も続いている。大気への汚染物質の排出は以前より減った。自然資源の公的機関であるナチュラル・リソーシズ・ウェールズ(Natural Resources Wales)の報告は、ウェールズの自然が依然として深刻な課題に直面していると指摘している。
📖 報告書では:第2章「A resilient Wales」p.16–19、第7章「A globally responsible Wales」p.42
文化・言語と地球規模の責任
芸術・文化・遺産の活動に参加する成人は約10人に7人で、近年ほとんど変わっていない。週3回以上スポーツをする成人は約3人に1人である。一方で、学校外でスポーツをする子どもは減った。ウェールズ語を話せる人の数は直近2回の国勢調査の間に減り、その割合は国勢調査で過去最低となった。ただし、少しなら話せると答える人は増えている。地球規模の課題では、現代奴隷(他人に支配され、生き方や働き方を選べない状態)の被害者の可能性がある人として報告された人が増えた。英国に滞在できるかの判断を待ちながら支援を受けていた人は3,100人を超える。幼い子どもの多くは予防接種を受けているが、接種する子どもは数年前より減った。
📖 報告書では:第6章「A Wales of vibrant culture and thriving Welsh language」p.37–40、第7章 p.42–44
この号の調べ方
本報告はシリーズ10回目で、ウェールズ政府が法律に基づいて毎年作成している。7つのウェルビーイング目標に対する進み具合を、2016年にウェールズの大臣たちが定めた50の全国指標で測っている。あわせて、将来どこまで到達したいかを示す目標値「マイルストーン」に照らした評価も行っている。使うデータは調査・研究・公式統計などで、本記事は報告書の「やさしい版(Easy Read)」PDFをもとにしている。
この号から言えること
- 健康面では「寿命の延び」と「健康に過ごせる期間の短縮」が同時に起きている。健康期間の短縮は貧しい地域ほど目立ち、格差の拡大が浮かび上がる。
- 精神的ウェルビーイングは、成人では横ばいだが若者では悪化している。高齢者ほどウェルビーイングが高く孤独を感じにくいという、年齢による違いがはっきりしている。
- 全体の平均だけでなく、障害のある人、性的少数者、男女のどちらとも自認しない若者、少数民族など、集団ごとの差を細かく示している点がこの号の読みどころである。
- 環境では、リサイクルや大気・水質の改善が進む一方で、自然資源を回復を上回る速さで使い続けている。改善と課題が並んでいる。
読むときの注意
本記事が参照したやさしい版は「約5人に1人」のような丸めた表現が中心で、指標の得点や年ごとの詳しい数値は載っていない。そのため、温室効果ガスの削減率などの具体的な数字は、本文HTML版や公開データ(ODS)で確かめる必要がある。また、集団ごとのウェルビーイングや孤独感の違いは傾向を示すもので、属性そのものが原因であることを示すものではない。