この号の内容
問い:揺れる欧州と価値観
公式ページによれば、近年の欧州では「ともに成長すること」と「ばらばらになること」が同時に起きた。国や地域のあいだでモノ・サービス・労働の行き来が増え、欧州連合(EU)は地理・政治・社会の単位として拡大し、文化的な壁も低くなってきた。一方で、ユーロ危機の余波と近隣諸国での暴力的な紛争の急増が、市民の暮らしと働く環境を変えた。経済危機は欧州内の連帯を問い直させ、欧州外からの移民の増加は「要塞としての欧州」を揺さぶっている。それに伴い、安全保障、国境管理の責任、富の分配が問われている。第5回調査は、こうした変化が欧州の人々の価値観にどう影響したかを知る手がかりとして位置づけられている。
📖 報告書では:公式ページ「EVS 2017」冒頭の導入部
四十年の推移をたどれる設計
EVS 2017の質問の多くは、過去の調査回と同じ内容をくり返している。そのため、EVSの主要な側面について時間を通じた変化を分析できる。第5回が加わったことで、EVSは過去四十年にわたる推移データの他にない情報源であり続けている。第5回の作り込みでは、世界価値観調査(World Values Survey、WVS)との協力と、SERISSプロジェクトへの参加が重要な柱とされた。調査手法の基準と運用の強化も、同じく柱の一つに挙げられている。
📖 報告書では:公式ページ「EVS 2017」導入部後半
最終公開版のデータ構成
最終公開版は、37の参加国と2つの少数派(マイノリティ)調査について、データと資料を収めている。統合データは3種類ある。1つ目は36か国・59,438人分の統合データ(ZA7500)である。2つ目は、質問を回答者ごとに分けて割り当てる「マトリクス設計」をとったドイツ・アイスランド・スイス・オランダの4か国、約一万五百人分のデータ(ZA7502)である。3つ目は、個人情報保護の観点から一般向けファイルに入れられなかった機微データ(ZA7501)で、利用には個別の契約が必要である。このほか、ギリシャ、フィンランドのスウェーデン語系少数派、ルーマニアのハンガリー系少数派などの個別データも公開されている。
📖 報告書では:公式ページ「Final release EVS 2017」
最終版で加わったもの
最終版では、2021年に調査を実施したラトビアが統合データに加わった。2021年5月に単独の国別データとして公開されていたウクライナも、統合データに組み込まれた。教育については新たに調整済みの変数が追加された。国際標準教育分類(ISCED 1997)の1桁区分と8区分の変数で、過去の調査回との比較ができるようにするためのものである。
📖 報告書では:公式ページ「What is new in the final release?」
サンプルの決め方
調査対象は、各国の18歳以上の成人人口である。代表性のある一段階または多段階の抽出で選ばれている。目標の人数は「有効サンプルサイズ」(抽出方法の影響を考えたうえで実質的に確保すべき人数)で決められた。人口二百万人超の国は1,200人、二百万人未満の国は千人である。ただし、この基準を下回る人数で計画した国もある。抽出設計は事前にEVS方法論グループ(EVS-MG)が審査・承認し、各国チームは抽出の各段階と選ばれる確率を所定の様式に記録した。記録した確率は、集計時の重みづけ(デザインウェイト)の計算に使われる。
📖 報告書では:公式ページ「Participating countries and study design」
面接が基本、一部でウェブ併用
主な調査方法は、調査員による対面面接(CAPI/PAPI)である。ドイツ、オランダ、アイスランド、スイス、フィンランド、デンマーク、ラトビアでは、回答者が自分で答えるウェブ・郵送方式(CAWI/Mail)も並行して使われた。その際、回答者が方式を選ぶことはできず、どちらかの方式に割り当てられた。ドイツ、オランダ、アイスランド、スイスは、有効サンプルサイズの一部(50%以上)だけを面接方式に配分している。質問票は英語の原版をもとに、人口の5%以上が話すすべての言語に翻訳された。翻訳の過程は、中央チームが翻訳管理ツールで監督した。
📖 報告書では:公式ページ「Participating countries and study design」後半
この号の調べ方
対象は欧州を中心とする36か国(統合データ)の18歳以上の成人で、統合データの回答者は59,438人である。現地調査は2017年9月に始まり、新型コロナウイルスの流行のため2021年10月に終了した。対面面接を基本とし、一部の国ではウェブ・郵送方式を並行して使っている。目標人数は国の人口規模に応じて1,200人または千人の有効サンプルサイズで定められた。
この号から言えること
- EVS 2017は、過去の回と同じ質問を多く引き継いでいる。そのため、欧州の価値観の約四十年にわたる変化を追える点に最大の特徴がある。
- 調査はユーロ危機、近隣での紛争、欧州外からの移民の増加という変化を背景に設計され、それらが価値観にどう影響したかを問うている。
- 世界価値観調査(WVS)との協力、事前審査つきの抽出設計、翻訳の一元管理など、各国で比べられるデータにするための品質管理が詳しく示されている。
読むときの注意
今回の元資料は調査の概要とデータ公開の説明だけで、幸福感や生活満足度の結果(平均値や国別順位)は含まれていない。最終公開版の説明には「37の参加国」とあり、統合データの「36か国」と数え方が異なる点にも注意が要る。日本はこの調査の対象国に含まれていない。