どんな調査か
欧州価値観研究(European Values Study、EVS)は、欧州の人々の基本的な価値観を、国をまたいで繰り返し調べる大規模な調査研究プログラムである。1970年代後半に研究者の非公式な集まり「欧州価値体系研究グループ(EVSSG)」が始め、現在は財団として運営されている。事務局はオランダのティルブルフ大学が担い、データの保存と公開はドイツのGESIS(ライプニッツ社会科学研究所)が担当する。最初の調査は1981年で、欧州議会の初の直接選挙を控えた時期に「欧州人は共通の価値観を持っているのか」「価値観は変わりつつあるのか、変わるならどの方向か」「キリスト教的な価値観は今も欧州の生活と文化に浸透しているのか」「それに代わる意味の体系は現れているのか」「それは欧州統合にどんな意味を持つのか」という問いに答えることを目的とした。データは無料で公開されており、EVSの文献目録には2,800件を超える出版物が載っている。
何をどう測っているか
EVSは、決まった人を追い続けるのではなく、回ごとに新しく選んだ人に同じ形式の質問票で尋ねる「繰り返し横断調査」である。対象は18歳以上で、約9年ごとに実施され、参加国の数は回によって異なる。扱う領域は家族、仕事、環境、人生のとらえ方、政治、社会、宗教と道徳、国への帰属意識と幅広い。その中で毎回、幸福感(「全体として、あなたは幸せですか」を4段階で答える質問)と生活満足度(1〜10で生活全体への満足を答える質問)を尋ねている。標準化された質問票を使うことで、国どうしの比較と、過去四十年分の推移の比較ができる仕組みになっている。2017年調査では世界価値観調査(WVS)と協力して質問を共通化し、欧州でのデータ収集を行った。準備には欧州の調査基盤づくりの事業であるSERISSプロジェクトへの参加も生かされている。
これまでの歩み
第1回の1981年調査は、当時の欧州共同体の加盟国を中心に欧州10か国(英国本土とは別に調べた北アイルランドを含む)で行われ、標準化された質問票を使って市民に面接した。この取り組みは南北アメリカ、中東・極東、オーストラリア、南アフリカでも関心を呼び、同じ質問票を使う提携グループができた結果、26か国をカバーするデータが生まれた。1990年の第2回はスイス、オーストリア、中東欧諸国、米国、カナダを加えて規模を広げ、1999年の第3回はノルウェー、スイス、旧ユーゴスラビアの一部を除くほぼ全欧州で行われ、価値観変化の原因と結果を探れるようになった。2008年の第4回はアイスランドからアゼルバイジャン、ポルトガルからノルウェーまで47の国・地域を対象とし、欧州全体で約7万人に面接した。2017年の第5回「EVS 2017」は2017年9月に始まり、新型コロナウイルスの流行の影響で2021年10月まで続き、統合データには36か国・59,438人の回答が収められている。第6回「EVS 2026」は現在進行中で、一部の国では実査が始まり、多くの国は2026年と2027年に実査を始める予定である。この回では、長年続く7つの伝統的な価値領域に、欧州連合(EU)の政策文書から導いた6つの新しい価値分野を組み合わせるという、調査票の考え方の転換が行われている。
分かってきたこと
現代文化の深い変容が進んでいる
1981年、1990年、1999年、2008年の西欧・中欧の結果を詳しく分析した研究は、現代文化に深い変容が起きているという印象を強めた。ただし、その変化はすべての国で同じ速さで進んでいるわけではない。EVSは、この変化の方向と速さの違いを長期にわたって追える数少ないデータである。
変化は経済発展の段階と各国の歴史に左右される
公式ページは、文化的・社会的な変化が、その国の社会経済的な発展段階と、その国固有の歴史的要因に依存しているように見えると述べている。つまり、欧州で価値観が一律に動くのではなく、国ごとの事情によって変化の姿が異なる。国どうしを比べるときには、この背景の違いを踏まえて読む必要がある。
2017年調査は経済危機と統合・分断の影響を映す
2017年調査は、この変化の問題にさらに踏み込むとともに、経済危機が欧州人の価値観に与えた影響を分析できるようにした。公式ページがこの回でいちばん大きく扱う問いは、統合と分断が同時に進む欧州で人々の価値観がどう変わったかである。あわせて、過去四十年分の推移を比べられるデータの仕組みと、品質を保つための調査設計を詳しく説明している。
参加国は回を追うごとに広がった
1981年の10か国から始まり、1990年には中東欧や北米、2008年には47の国・地域へと調査の範囲が広がった。公式ページは、最初からすべての欧州諸国が参加していたわけではないが、参加国の数は回ごとに増え続けてきたと説明している。その結果、欧州の東西を含めた価値観の比較が可能になっている。
価値の測り方そのものを見直している
2026年調査では、7つの伝統的な価値領域に、EUの政策文書から導いた6つの新しい価値分野を加える。これは調査票の考え方の転換であり、従来の長期比較を保ちながら、政策の議論に直接つながる価値を測ろうとするものである。