最近発達段階の論文を紹介していますが、発達段階が高いと幸せなのか。についてのロシアの研究。18〜85歳の364人のデータから調べて頂きました。
成人発達理論では、大人の器(発達段階)は段階を経て育っていくとされます。
アンバー:みんなに合わせる
→オレンジ:自分の内面に気づき、自分の基準で考える(人生の主人公は自分)
→グリーン:他者のもつシステムの理解(みんなが、それぞれ人生の主人公は自分)
→さらにその先へ。
で、素朴な疑問。
「段階が上の人ほど、幸せなのか?」
実はこれが難しく。
例えば、人生に満足しているか、で幸福度を測ろうとしたときに、
段階によってどのような人生が満足いくものかが大きく変わるんですね。
周りから浮いていないことが満足という人もいれば、自分の基準での達成があると満足という人もいる。
ちなみに、既存の研究では若干関係があるくらいと言われています。
今回の結果としては、
- 直接の関係は、あるけどめっちゃ弱い。(相関0.1程度)
- ただし中身を分解すると、
発達段階が高い
→成長や意味を求める気持ちが強まる
→幸福度が高い
という経路がきれいに出た。
つまり、段階そのものではなく、
段階とともに育つ「意味への関心」が幸せの通り道。
さらに面白いのが、人生の意味の捉え方が4タイプに分かれたこと。
①無関心:「意味とか考えるだけ無駄」
②アンビバレンス:「気になるけど、あるのか分からない」
③受容:「意味はある。でも自分の行動とは別物」
④探求:「意味は自分の選択で実現していくもの」
①→④の順に、発達段階も幸福度も上がっていく。
発達段階が上がると、人生の意味が
「他人事の抽象論」から「自分の選択で作る現実」に
変わっていく。そう、人生の意味は作っていくんですね。
- 「発達すれば幸せになる」わけではない。でも発達とともに、意味を自分事として引き受けるようになり、それが幸せにつながる。
- 意味は一度見つけて終わりではなく、探し続けながら持っている状態がいちばん良さそう。(フランクルの言う通り)
- ちなみに快楽的な幸せ(リラックス、気楽に)は発達段階と無関係。こっちはこっちで大事ではありますが。
という感じでしょうか。
いずれにせよ、大人の発達と幸せをつなぐ鍵は「意味」。
成人発達理論とウェルビーイング研究の橋渡しになる研究です😊
※ただし論文での発達段階は、ローヴィンジャー先生の発達段階です。ティール組織もあってキーガン先生のが著名ですが、ローヴィンジャー先生のが測りやすいので研究で使われやすい。
A growing concern for meaning: Exploring the links between ego development and eudaimonia
意味への関心の高まり:自我発達とユーダイモニアの関連の探索
Evgeny N. Osin(HSE大学、ロシア/パリ・ナンテール大学、フランス), Elena Yu. Voevodina & Vasily Yu. Kostenko
Frontiers in Psychology, 2023/3/22
https://doi.org/10.3389/fpsyg.2023.958721
心の成長と「生きる意味」 本当の幸せへの科学的アプローチ 心理学が解き明かす、私たちの視座(レンズ)と幸福(エンジン)のメカニズム。 Gemini Notebook 2つの「幸せ」のカタチ 快楽的幸福(Hedonia) 特徴(Focus):心地よさ、欲求の充足、苦痛の回避 プロセス(Process):比較的容易。現状維持と安定(ホメオスタシス)をもたらす。 状態(State):リラックス、満足感、快楽 自己実現的幸福(Eudaimonia) 特徴(Focus):成長、本来の自分の追求、卓越性の追求 プロセス(Process):困難を伴う。課題を乗り越え、自己を変化させるプロセス。 状態(State):渋頭、崇敬の念、深い充実感と「生きる意味」 「自我の発達」とは何か? 心の成長(成熟)とは、単に年齢を重ねることではありません。それは、自分と世界を認識するための「意味づけのレンズ」が、より複雑で洗練されたもの(へと進化していくプロセスです。 発達段階が進むにつれ、人は社会のルールを盲信することから抜け出し、予盾を受け入れ自らが「意味の創造者」であることに気づき始めます。 Genius Notebook 心が登る3つの階段 Step 3: 自律と統合の段階 (Post-conventional / 個別・自律・統合) 自分自身の基準で生きる。社会の慣践さや正解のない葛藤を受け入れ、自己実現と深い意味を探求する。(約38.4%) Step 2: 同調と自覚の段階 (Conventional / 順応・自己認識) 集団のルールや常識に従い、他者からの評価や帰属意識を重視し、徐々に自分の内面にも気づき始める。(多くの人がこの段階にいる:約53.8%) Step 1: 自己中心の段階 (Pre-conventional / 衝動・自己防衛) 自分の欲求と安全が最優先。世界を「快・不快」や「勝ち・負け」の単純な基準で評価する。(諸説では約7.7%) Genius Notebook 成熟すれば、自動的に幸せになれるのか? 直感(The Myth): 心が成長し、視座が高くなればなるほど、人は幸福になるはずだ。 科学の答え(The Reality): 驚くべきことに、自我の発達と幸福感の直接的な相関関係は「非常に弱い」ことが分かっています。 なぜじゃろうか?視座が高くなる(レンズが複雑になる)と、社会とのプレッシャーを感じたり、より深い葛藤を抱えたりするため、単なる「心地よさ」だけでは満足できなくなるからです。 Connell Notebook 幸せを動かす真の「エンジン」 心の成長 (Ego Development) 成長への意欲 (Eudaimonic Motives - 成長や本物を求める動機) 深い幸福感 (Eudaimonic Well-being) 意味の発見 (Presence of Meaning - 人生の目的や意義を持っている実感) 心の成長そのものが幸福を作るのではありません。成長することによって「人生の意味を発見し」「より深く成長したいと願う」ようになり、その2つのエンジンが結果として、私たちに深い幸福感(Eudaimonia)をもたらすのです。 Cornelll Notebook 「意味を探すこと」と「持つこと」のパラドックス 一般的な傾向: 通常、人生の意味を「探している」人は、現在意味を「持っていない(満たされていない)」状態にあります。 (両者はマイナスの相関) 意味を探すこと (Search for Meaning) 意味を持っていること (Presence of Meaning) 成熟した心に起こる変化: しかし、自分の発達段階が高まり、意味を持ちながら、同時に「探し続ける」という特徴を持ちます。 精神科医V.フランクルが指摘したように、意味は一度見つけ出して終わるものではありません。 成熟した人は、状況が変わるたびに「新たな意味」を能動的に再発見しているのです。 Cornell Notebook 「生きる意味」に対する4つのスタンス 調査から、人々が「生きる意味」をどのように捉えているか、4つの明確なタイプが存在することが明らかになりました。あなたはどのレンズを通じて世界を見ていますか? 2.葛藤 (Ambivalence) 4.探求 (Seeking) 1.無関心 (Indifference) 3.受容 (Acceptance) 学びの重要性の高さ (Importance of learning & well-being) 心の成長レベル (Ego Development Level) Connéct Notebook スタンス1&2:意味への「無関心」と「葛藤」 タイプ1「無関心」(Indifference) 思考:「人生の意味なんて幻想だと、考えるだけ無駄。」 特徴:意味は自分には関係ないと考えます。快楽(心地よさ)を求める動機が最も高く、自我の発達レベルは最も低い傾向にあります。 タイプ2「葛藤」(Ambivalence) 思考:「意味は自分で創るべきだと思うが、どうしても見つからない。」 特徴:意味の存在や重要性に確信が持てず、迷っています。「意味を持っている感覚」と「辛悩感」が最も低い。苦悩の段階です。 Coronet Notebook スタンス3&4:意味の「受容」と「探求」 タイプ3「受容」(Acceptance) 思考:「意味は人生に不可欠であり、誰にでも初めから与えられている。」 特徴:意味をポジティブに捉え、すでに持っている実感しています。幸福感は高く、人生を肯定的に受け入れています。 タイプ4「探求」(Seeking) 思考:「意味は、自分自身の意識的な選択によって『創り出す』現実だ。」 特徴:自我の発達レベルと幸福感が最も高いループ。意味は与えられるものではなく、行動によって実現する「可能性」だと考え、日々探求を続けています。 🏔 Cairnlist Notebook 心の成長と「意味」の進化メカニズム 心の階段を上るについて、私たちは「意味」に対する見方(レンズ)を根本的に変えていきます。 意味は自らの選択で創り出すもの (Created) 意味は与えられている (Given) 意味を探すが難しい (Struggle) 意味は存在しない (Illusion) スタンスの進化(Type 1→2→3→4) 心の成長 (Ego Development & Well-being) Cornellia Notebook 今日から生かせる3つのヒント 1. 問いや葛藤を恐れない 人生の意味に悩み、葛藤するのは「心が成長している証拠」です。複雑なレンズを手に入れたからこそ、難しい問いが生まれるのです。 2.「快適さ」の先を求める 一時的な快楽(Hedonia)だけでは、深い充足感は得られません。困難があっても「成長(Eudaimonia)」に意識を向けることが、真の幸福のエンジンになります。 3. 意味は「見つける」のではなく「創る」 意味はどこかに落ちている正解ではありません。日々の小さな選択と行動を通して、あなた自身が主体的に「創り出し、更新していく
【研究背景】
■1. 出発点:ヘドニアとユーダイモニアという2つの幸せ
▼当初の論点
▼定義の混乱と交通整理
■2. 本論文が依拠する2つの理論モデル
▼機能的ウェルビーイング・アプローチ (Vittersø, 2016, 2018)
▼動機づけレベルでの区別 (Huta, 2016)
▼ここから導かれる本論文の着想
■3. ユーダイモニアの発達的基盤
▼「ユーダイモニアは成熟と関係する」という理論的提案
▼しかし実証研究は乏しかった:測定の難しさ
■4. 成熟の測定手段:ローヴィンジャーの自我発達理論
▼理論の概要 (Loevinger, 1976)
▼9つの発達段階(E1〜E9)
▼測定法:文章完成テスト
▼自我発達とユーダイモニアの理論的親和性
■5. 自我発達と「意味への関心」の高まり
▼自我=意味生成の原理
▼理論間の対立:意味の欲求は普遍的か、発達的か
▼「素朴理論」という切り口
■6. 自我発達とウェルビーイングの関係:弱い関連の謎
▼ローヴィンジャー自身の見解
▼実証データ:一貫して弱い相関
▼なぜ関連が弱いのか:3つの説明
■7. 以上を踏まえた本研究の目的
【研究内容】
■1. 方法
▼研究デザインと参加者
▼測定用具1:自我発達
▼測定用具2:動機づけ
▼測定用具3:ウェルビーイング
▼測定用具4:人生の意味
▼測定用具5:意味の素朴理論
▼分析方針
■2. 結果
▼結果1:サンプルの発達段階分布
▼結果2:EDと各変数の相関
▼結果3:媒介分析——「なぜ・どのように」を検証
▼結果4:意味の素朴理論の4タイプ
意味を幻想・考えても無駄な問いとみなし、「自分には関係ない」「今の自分を悩ませていない」と最も強く意味を突き放すタイプ。Schnell (2010) の実存的無関心に対応
(アンビバレンス=相反する気持ちが同居する両価的な状態)意味の問いを無意味とまでは切り捨てず、気にはなっている。しかし意味は理性で理解できるものではなく感じるしかない、見つけるものではなく作るしかない、と考え、その存在や重要性には確信が持てないタイプ
意味は幻想ではなく現実であり、人生の目標や方向として実在し、誰にでも理解可能と考える。ただし意味を「自分の選択に依存しない、普遍的な所与(あらかじめ与えられているもの)」とみなす傾向があり、実在は認めるが自分の行動と強くは結びつけないタイプ
意味の問いを合理的で答えられる、自分の人生に直結した問いと捉え、意味を「所与」ではなく「自分の選択の結果として立ち現れる、実現可能な可能性」とみなす実存的なタイプ
▼結果5:4タイプと発達段階・幸福の関係
■3. 考察
▼発見1:弱い相関の意味を捉え直す
▼発見2:完全媒介——発達と幸福をつなぐのは「ユーダイモニック志向」
▼発見3:意味の「存在」と「探求」の両立
▼発見4:発達に伴う意味の問いの変質
▼発見5:ヘドニアは敵ではない
▼限界
■4. まとめ:この研究が示したこと
■ローヴィンジャーの自我発達段階とキーガンの発達段階の対応
前提として、両理論は出自が異なるため、対応はあくまで「近似」です。ローヴィンジャーは文章完成テストの回答内容から帰納的に段階を作った実証派、キーガンは「何を主体(自分そのもの)とし、何を客体(眺められる対象)とするか」という構造の変化で段階を定義する理論派。とはいえ両者の対応は比較研究で繰り返し整理されており(Cook-Greuter, 1999; McCauley et al., 2006)、おおむね以下のように重なります。
▼対応表
→ キーガン第0段階(抱合的段階)。自他未分化の乳児期。両理論とも測定対象外
→ キーガン第1段階(衝動的段階)。衝動が主体であり、まだ衝動を「持つ」ことができない
→ キーガン第2段階(道具主義的段階/利己的段階)。自分の欲求・利害が主体。他者は欲求充足の道具として現れる。「バレなければいい」の世界
→ キーガン第3段階(環境順応型知性)の中核。所属集団の期待や規範が主体になっており、「みんなと同じ」であることから自分を切り離せない
→ キーガン第3段階の後半〜第3-4段階の移行期。順応の枠内にいながら「例外もあるかも」「自分は自分かも」という気づきが芽生え始める。環境順応型から抜け出しかけの状態
→ キーガン第4段階(自己主導型知性)。他者の期待を客体化し、自分で作った基準・価値体系が羅針盤になる。両理論の対応の中で最も一致度が高いとされる部分です
→ キーガン第4段階の完成〜第4-5段階の移行期。自分のシステムを持ちつつ、「自分のシステムも複数ある視点の1つにすぎない」という相対化が始まる
→ キーガン第5段階(自己変容型知性)。自分の価値体系そのものを客体化し、矛盾や解決不能な葛藤を抱えたまま生きられる
→ キーガン第5段階の十全な形。ただしここまで来ると両理論とも該当者が稀すぎて、実証的な対応づけはほぼ不可能です
▼構造的に見たときの目安
ざっくり束ねると、
という4ブロックの対応で捉えるのが実用的です。
注意点として、E5をどちらに寄せるかは研究者間で揺れがあります。第3段階の内側と見る立場と、3-4移行の入口と見る立場があり、境界線の引き方は資料によって半段階ほどずれます。
▼Osin論文をキーガンの言葉で読み直すと
この対応を使うと、先ほどの論文の結果がキーガン理論の物語としてきれいに読めます。
動画での解説はこちら😊
https://youtu.be/zu35pWu6e0U
会話形式の紹介はこちら😊
はぴテク相談室:「人生の意味とか、考えたほうがいいんですか?」の話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-16-1786853220/