2026.08.24

はぴテク相談室:数字と正解に疲れたときの、リアルに戻る話

相談者

最近、仕事も生活も「正解探し」ばかりで疲れてしまって。会社ではKPIの数字、家ではSNSで見た「正しい習慣」。全部ちゃんとやってるはずなのに、なんだか息苦しくて、幸せを感じにくいんです。

はぴテクさん
はぴテクさん

それは疲れますね。ちゃんとやっているのに満たされない、というのがポイントだと思います。ちょっと不思議な角度からですが、最近読んだ経済学と創造性の論文が、まさにその状態を説明しているように思えたので、それをもとに話してみてもいいですか。

相談者

経済学と創造性? 私の悩みに関係あるんですか。

はぴテクさん
はぴテクさん

ありますよ。ノーベル賞をとったセンという経済学者の「ケイパビリティ」という考え方がベースです。日本では「潜在能力」と訳されがちですが、本当は「その人が選べる人生の選択肢の幅」のこと。幸せの研究でも、この「選べる幅」がとても大事だとされています。

相談者

選択肢の幅、ですか。でも私、選択肢はたくさんあると思うんです。むしろ多すぎて。

はぴテクさん
はぴテクさん

いいところに気づかれましたね。その論文でも、選択肢が多すぎると「組合せ爆発」といって、限られた時間では最適解が見つからなくなると書かれています。しかも「ベストを選ばなきゃ」と思うほど苦しくなる。だから「そこそこ良ければOK」という考え方が紹介されていました。

相談者

そこそこでいいんですか。なんだか手を抜いているみたいで。

はぴテクさん
はぴテクさん

手抜きではなく、幸せの研究では「最善を追いすぎる人ほど満足度が低い」という結果がよく出ています。まず、その肩の力を少し抜いてほしい。そのうえで、論文の本題に入ります。人間がものを考えるプロセスには、二つの流れがあるそうです。

相談者

二つの流れ?

はぴテクさん
はぴテクさん

一つは、現実をよく見て情報を集め、そこからモデルや概念、つまり「型」をつくる流れ。もう一つは、その型を使って現実を見直す流れ。ほとんどの人は後者、つまり型から入ります。楽譜から演奏する、型から演武する、マニュアルから仕事を覚える。それ自体はまったく問題ないんです。ただ、その型はもともと誰かが現実から切り取ってつくったものだ、ということを忘れると、型の中だけで考えが閉じてしまう。論文はこの上り下りをぐるぐる回すことを勧めています。

相談者

なるほど。KPIとか「正しい習慣」は、その「型」の部分ですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

その通り。そして論文のいちばんの主張はここです。型をつくるときには、必ず何かを切り捨てている。数字にした瞬間、数字にならないものが落ちる。その切り捨てられたものを忘れて、型と型の間だけで考え続けると、部分的には正しいのに全体としてはズレていく。これを「部分最適」と呼んでいます。

相談者

ああ、それかもしれません。KPIは達成してるのに、チームの雰囲気はどんどん悪くなっていて。

はぴテクさん
はぴテクさん

まさにそれです。論文では「マクナマラの誤謬」という例が出てきます。測れる数字だけを目標にすると、測れない大事なものが「重要じゃない」、さらには「存在しない」と思い込んでしまう危険がある、と。幸せも同じで、幸福度の点数はあくまで入口。その人の生活というリアルに戻らないと、本当のところは見えません。

相談者

じゃあ、どうすればいいんでしょう。数字をやめるわけにもいかないし。

はぴテクさん
はぴテクさん

やめなくていいんです。論文が勧めているのは「型を使いながら、もう一度リアルに戻る」こと。面白いことに、ここで禅僧の道元が出てくるんです。

相談者

道元? 経済学の論文にですか。

はぴテクさん
はぴテクさん

はい。「一方を証するときは一方は暗し」という言葉が引かれています。何かをはっきりさせると、必ず何かが見えなくなる。だから、見えなくなったものにも気を配り続けなさい、という姿勢です。もう一つ、「自己を運びて万法を修証するを迷いとす。万法進みて自己を修証するは悟りなり」。自分の物差しで世界を測りに行くのは迷い、世界のほうから自分に届くのを受け取るのが悟り、というような意味だそうです。

相談者

自分の物差しで測りに行く、まさに私がやってることですね。「正しい習慣」を当てはめて、自分を採点してる。

はぴテクさん
はぴテクさん

そうなんです。そして幸せの観点で言えば、自分を採点し続ける人は幸福度が下がりやすい。逆に、型は道具として持ちつつ、自分の体や生活の実感に戻る人のほうが安定します。論文には、体調を崩して音楽から離れた演奏家が、復帰後にかえって表現力が豊かになった話も出てきました。リアルに戻ると幅が広がるんです。

相談者

具体的には、何から始めればいいでしょう。

はぴテクさん
はぴテクさん

三つ提案します。一つ目、KPIの横に「数字にならないけど気になること」を一行メモする。チームの空気とか、自分の疲れ具合とか。二つ目、「正しい習慣」を採点表ではなく道具箱として扱う。合わない日は使わなくていい。三つ目、週に一度は型を全部外して、ただ現実を眺める時間を持つ。散歩でも、人の話をただ聞くでもいい。論文の言葉でいえば「未知のリアルに立ち還る」時間です。

相談者

それなら、できそうです。全部やめるんじゃなくて、戻る時間をつくる、ということですね。

はぴテクさん
はぴテクさん

そうです。論文の最後に印象的な一文がありました。「人工知能の危険は、機械が人間のように考えることではなく、人間が機械のように考えることだ」。数字や正解に合わせて自分を機械みたいに動かすと、選ぶ力そのものが痩せていく。選べる幅、つまりケイパビリティを保つことが、創造性にも幸せにもつながる、というのがこの論文の結論です。

相談者

なんだか、少し息がしやすくなった気がします。正解を探すより、いま目の前にあるものをちゃんと見てみます。

はぴテクさん
はぴテクさん

それがいちばんの「型」かもしれませんね。型から入るのは自然なこと。ただ、型の「本」であるリアルを忘れない。利休の言葉にも「守り尽くして破るとも離るるとても本を忘るな」とあるそうですよ。

■ 今日のまとめ

  • 数字や「正しい習慣」は現実を切り取った「型」。型から入るのは自然だが、道具として使い、切り捨てられたものにも気を配る
  • 最善を追いすぎず「そこそこ良ければOK」でいい。選べる幅(ケイパビリティ)を保つことが幸せにつながる
  • 週に一度は型を外して、自分の体や生活というリアルに戻る時間をつくる

■ 出典・注意事項

  • 杉原弘恭・田口玄一郎(2026)「創造的思考ツールとしてのケイパビリティ・アプローチ」『生活大学研究』Vol. 11, pp. 46–66(自由学園最高学部)

  • 本論文は実証研究ではなく理論的考察です。対話中の「幸せの研究では」という部分は、論文の内容ではなく、はぴテクさんによる一般的なウェルビーイング研究の知見からの補足です

  • 道元の言葉の解釈は論文著者によるものを、さらに対話用にかみくだいています

  • この対話はフィクションです。強い息苦しさや不調が続く場合は、専門家にご相談ください

投稿者によるコメント・補足(1件)
コメント 1

論文の紹介はこちら😊
幸せを生み出すハピネス・ケイパビリティ・ループ
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-24-1787562480/

はぴテクさんのウェルビーイング相談室 なんとかなるありのままに 主観的幸福・幸福測定意味・目的・スピリチュアリティ感情・レジリエンス

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