犬と大学生の不安についての、チリの最新研究
獣医学部と法学部の大学生127人を対象に調査頂きました。
これまでの研究は「犬をなでる」「犬と遊ぶ」など、
直接ふれあう効果を調べたものばかりでした。
教室での研究もありますし、会社での研究もありますね。
今回は、ふれあいなし。
訓練された犬が、いつもの授業中に教室の前の方で、
ただ寝そべっているだけ。
学生には「なでないでね」と、何の活動もなし。
それで授業の前後に不安の度合いを測ってみると、
犬がいた教室の学生は、授業中に不安が下がり、
犬がいなかった教室の学生は、横ばいかちょっと上がる。
という違いがはっきり出ました。
しかもこれ、獣医学部でも法学部でも同じ。
(動物好きだから、ではなさそう)
なんで効くのか?の候補としては、
- 犬といると安心ホルモン(オキシトシン)が出て、ストレスホルモンが下がる
- 大学って、評価されたり比べられたりし続ける場所。
そこに「こっちを評価しない、ただ受け入れてくれる存在」がいることが効くのでは
という見解。
会社のウェルビーイング施策としても、わんちゃんがただいる。というのは良さそうですね。
「何もしなくても、安心できる存在がそこにいるだけで、人は少し落ち着ける」
というのはなんだか納得感があります。
職場でも家庭でも、
「評価しない、ただいてくれる人」の存在が、実はけっこう大きいのかもしれません。
そういう人に、私はなりたい😊
Beyond Direct Touch: Passive Canine Presence Is Associated with Lower Anxiety in South American University Students
直接ふれあわなくても:犬の受動的な存在は南米の大学生の不安の低さと関連する
Maximiliano Cavieres, Ana María Urrutia, Gonzalo Chavez & Hernan Cañon-Jones(ウニベルシダ・デ・ラス・アメリカス、チリ)
Pets, 2026/10/2
https://doi.org/10.3390/pets3040045
教室に犬がいるだけで不安が減少? 触れ合わなくても効果的な「受動的プレゼンス」のチカラ Low-cost, Practical Mental Health Support for Universities 課題:大学生のメンタルヘルス危機と支援リソースの不足 約3人に1人がメンタル不調を経験 低コストな支援が求められている 新たな発見:直接触れ合わなくても「犬がいるだけ」で不安が軽減 犬が教室に静かに寝ているだけの状態でも、学生の状況不安・特性不安が大幅に低下 受動的プレゼンス 授業前後の状態不安(STAI-S)の変化 条件 | 授業前(T0) | 授業後(T1) 犬あり(受動的プレゼンス) | 0.318 | 0.282(有意に低下) 犬なし(通常授業) | 0.385 | 0.386(ほぼ変化なし) 実証結果と導入メリット 授業後の不安度:犬あり群 vs 犬なし群 犬なし群 → 0.384(横ばいまたは上昇) 犬あり群 → 0.300(有意に低下)↓ 犬がいない教室では授業後に不安が横ばいまたは上昇する傾向 専用施設や特別な体験プログラムは一切不要 通常の講義環境のまま簡単に導入でき、大学の予算や人員の負担を最小限に抑えられる 触れなくても、 癒やされる 教室に「犬がいるだけ」で 大学生の不安を劇的に軽減する 新しいアプローチ Based on research from Universidad de Las Américas, Chile (Cavieres et al., 2026) 拡大する大学生のメンタルヘルス危機 圧倒的なストレス要因 学業、社会的プレッシャー、経済的 不安が重なる大学生活。 高まる不安(Anxiety) WHOの調査による、大学1年生の 約「3分の1」が過去1年間にメンタル ヘルスの不調を経験。 パフォーマンスの低下と 中退リスク 慢性的な不安が学習意欲を削ぎ、 最悪の場合は大学中退へ繋がる。 不安障害は、現代の高等教育において最も蔓延している課題の一つです。 既存のサポート体制が抱える「リソースの限界」 メンタルヘルス支援を求める学生の急増。 ・従来のカウンセリングは高コストで枠に限りがある。 ・特にラテンアメリカやグローバルサウスの大学では、専門の人員やインフラが不足。 ・「病気になってから」の対症療法が中心。 日常的で、低コストで、誰もがアクセスできる「予防的・スケーラブルな介入」が急務とされています。 動物介在介入(AAI)の現状と課題 物理的な接触が前提 (Direct Touch) 犬を撫でる、一緒に遊ぶといった「直接接触」が効果の源泉だと考えられてきた。 専用の空間が必要 (Dedicated Spaces) 教室外の「セラピールーム」や特別な場へのアクセスや場への移動が必要。 スケジュールへの干渉 (Disruption) 授業とは別に時間を設け必要があり、日常的な学習環境から学生を切り離してしまう。 これらは効果的ですが、教育現場の日常に導入するには「コスト」と「手間」がかかりすぎます。 パラダイムシフト:「積極的な交流」から「受動的な存在」へ 従来手法(Active AAI) 場所 (Location) セラピルームなどの特別空間 学生の行動 (Student Action) 撫でる、遊ぶ(能動的) 犬の行動 (Dog Action) 人と触れ合う 必要なリソース (Resources) 高コスト・少人数向け 新手法(Passive Presence) いつもの教室(日常の学習環境) 授業を受けるだけ(接触なし) 前方で静かに休む・寝る 低コスト・一度に数十人をカバー (高いスケーラビリティ) 「犬と同じ空間を共有するだけ」で、 本当に不安は軽減されるのでしょうか? 実証実験:チリの大学における検証 総参加者数:127名の大学生 専攻A:獣医学部 65名・平均年齢23.7歳 専攻B:法学部 62名・平均年齢29.5歳 Universidad de Las Américas(チリ・サンティアゴ)にて実施された準実験的研究。 「動物好き」の学生だけでなく、年齢や専門分野の異なる法学部の学生も含めることで、結果の普遍性を担保しました。 何を測定したのか?(2つの「不安」) 状態不安(State Anxiety) 特定の状況(試験や授業など)に対する「一時的」な不安や緊張感。その場限りのストレス。 特性不安(Trait Anxiety) 個人の性格に根ざした「長期的・日常的」な不安の感じやすさ。ベースラインのストレス。 授業の開始前(T0)と終了直前(T1)に、心理学で広く使われる指標(STAI)を用いて測定しました。 教室での厳格なルール:絶対に「触れない」こと コントロール群:犬なし [T0]不安度テスト → 通常の60分講義 → [T1]不安度テスト 介入群:犬あり [T0]不安度テスト → ハンドラーと共に犬が入室し、前方に伏せる → 通常の60分講義 → 犬が退室 → [T1]不安度テスト ・犬は前方にいるだけで、学生との直接的な接触(触てる・エサやる等)は一切禁止。 ・教員は普段通りに授業を行い、カリキュラムの変更はゼロ。 結果①:その場のストレス(状態不安)が明確に低下 Divergence Curve State Anxiety T0 T1 コントロール群 (Dog absent) 授業によるその場の緊張が和らぐ 介入群 (Dog present) 犬がいない教室(コントロール群)では、授業が進むにつれて不安が維持・または上昇しました。 しかし、犬が静かに同居した教室では、開始から終了にかけて状態不安が統計的に有意に低下(p < 0.001)しました。 Canines Notebook 結果②:根深いストレス(特性不安)の「感覚」も和らぐ Divergence Curve Trait Anxiety 介入群 (Intervention) ストレス感覚の低下 特 性 不 安 ド ス ト レ ス (Trait Anxiety) コントロール群 (Control) T0 T1 個人の性格的な不安傾向(特性不安)も、犬がいる教室では有意に低下(p < 0.001)しました。 研究者の視点:たった1時間の授業で人間の「性格」が根本的に変わるわけではありません。しかし、状態不安が急激に下がったことで、学生自身が感じる「ベースラインのストレスに対する自己評価(認知)」がその間隔に劇的に改善されたと考えられます。 Gemmas Notebook 専攻や年齢に関係なく「誰にでも」効く 法学部 獣医学部 どちらの学部でも、 犬による不安軽減効果は 「全く同じ」でした。 年齢層が高く(平均29.5歳)、 比較的若く(平均23.7歳)、 動物の専門家ではない学生。 動物に慣れ親しんでいる学生。 犬の受動的な存在がもたらす癒やしは、動物好きかどうかに依存するのではなく、 人間の普遍的な反応(アフィリエーション行動)によるものであることが示唆されます。 Gonuma Notebook. なぜ「触れなくても」効果があるのか?(メカニズム) 評価を下さない存在
動画解説はこちら😊
https://youtu.be/BrVdP4AtAMY
本研究のウェルビーイング小話はこちら😊
はぴテク相談室:なでなくても、そこにいるだけで?——教室で静かに眠る犬と不安の話
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-10-10-1791569401/
【研究背景】
■ この研究の前提となる研究背景
この論文(Cavieres et al., 2026)は、チリの大学で「犬が教室にただ静かにいるだけ」で学生の不安が低いかどうかを調べたものです。その背景には、大学生のメンタルヘルス問題、動物介在介入(AAI)の研究蓄積、そしてまだ埋まっていない知識の空白があります。順を追って見ていきます。
■ 1. 大学生のメンタルヘルスは世界的な公衆衛生課題
▼ 不安の有病率が高い
▼ 影響と大学側の対応
■ 2. 動物介在介入(AAI)とは何か
■ 3. なぜ犬が効くと考えられているのか:想定されるメカニズム
▼ 社会的・心理的な働き
▼ 生理学的な働き
▼ 「非評価的な社会的サポート」という視点(考察で言及)
■ 4. 大学生を対象とした実証研究の蓄積
▼ 短時間の交流でも効果が報告されている
▼ 近年の研究
▼ 系統的レビュー(複数の研究をまとめた検証)
■ 5. 残されている知識の空白
▼ 空白1:地理的な偏り
▼ 空白2:「直接触れること」に偏った研究
▼ 空白3:生態学的妥当性(現実の場面に当てはまるか)の不足
▼ 接触が少なくても効果があるという手がかり
■ 6. 測定に関する前提
■ 7. 背景から導かれた本研究の問い
【研究内容】
■ この研究が扱った問い
大学生の不安の高まりは世界的な課題で、Auerbach et al. (2018) のWHO国際大学生プロジェクトでは、1年生の約3分の1が過去1年に何らかの精神疾患の基準を満たし、不安は最も多い状態のひとつでした。こうした中、動物介在介入(AAI:動物を教育・医療・社会的な場面に意図的に取り入れ、人の健康や幸福を高めることを目的とした介入)が注目されています。
ただし、これまでの研究の多くは「犬をなでる」「一緒に遊ぶ」といった直接的・能動的なやりとりを扱っており、犬が「ただそこにいる」だけ(受動的な存在)で効果があるのかは十分に調べられていません。また、専用のセラピー室ではなく、実際の授業という日常的な環境で検証した研究も少なく、北米・欧州・豪州以外(ラテンアメリカなどグローバルサウス)からの報告も限られています。
そこで本研究は、チリの大学で、通常の授業中に訓練された犬が静かに同席することが、学生の不安の低さと関連するかを検証しました。仮説は「犬が受動的に存在する授業を受けた学生は、犬のいない同等の授業を受けた学生より不安が低く、それは学科を問わず、直接のやりとりなしでも生じる」というものです。
■ 研究方法
▼ デザイン
▼ 参加者
▼ 介入(犬の受動的な存在)
▼ 対照条件
▼ 不安の測定
▼ バイアス対策
▼ 統計解析
■ 結果
▼ 参加者の特性
▼ 全体の比較(要旨の数値)
▼ 混合計画ANOVA:特性不安
▼ 混合計画ANOVA:状態不安
▼ 推定周辺平均
▼ 事前→事後の記述的な変化
図1A 状態不安(その場の不安)の授業前(T0)と授業後(T1)の平均値。左=犬なしの教室、右=犬ありの教室。灰色の実線=法学部、黒の破線=獣医学部。縦の線は誤差の範囲。
出典:論文のFigure 1(A)。Cavieres, M., Urrutia, A. M., Chavez, G., & Cañon-Jones, H. (2026). Pets, 3(4), 45.(CC BY 4.0) https://doi.org/10.3390/pets3040045
図1B 特性不安(不安の感じやすさ)の授業前(T0)と授業後(T1)の平均値。見方は図1Aと同じ。
出典:論文のFigure 1(B)。Cavieres, M., Urrutia, A. M., Chavez, G., & Cañon-Jones, H. (2026). Pets, 3(4), 45.(CC BY 4.0) https://doi.org/10.3390/pets3040045
▼ 変化量(Δ)の解析
■ 考察
▼ 先行研究との位置づけ
▼ 考えられるメカニズム
▼ 生態学的妥当性
▼ ラテンアメリカ・グローバルサウスにおける意義
▼ 学科の影響
▼ 特性不安の低下についての注意
▼ 限界
▼ 今後の研究
■ 結論