この号の内容
首位スイス、上位は西欧の中小国
生活評価はキャントリルの梯子(0〜10で、最悪の人生を0、最良の人生を10として自分の人生を評価する質問)の2012〜14年平均である。首位はスイスで、アイスランド、デンマーク、ノルウェーとともに統計的に差のない欧州4か国の集団を作っている。従来首位の常連だったデンマークは今回3位である。上位10か国はいずれも中小規模の西側工業国で、うち7か国が西欧にある。国の平均は上位で7.5を超え、最下位付近では3を下回り、上位10か国と下位10か国の差はおよそ4点である。
📖 報告書では:第2章 図2.2、PDF p.20(本文p.34–35)、第1章「The Geography of Happiness」PDF p.6
6つの要因で国の差の4分の3
国や地域の間の生活評価の差のおよそ4分の3は、6つの変数で説明できる。1人当たりGDP、健康寿命、社会的な支え(困ったときに頼れる人がいるか)、信頼(政府や企業に汚職がないと感じるか)、人生を選ぶ自由、寛容さ(所得の違いを調整した最近の寄付)である。なかでも社会的な支え、所得、健康寿命の3つが重要である。上位10か国と下位10か国を比べると、1人当たり所得は4万3,000ドル対1,770ドル、頼れる人がいる人は94%対61%、健康寿命は71.5年対50年、選択の自由があると答える人は93%対64%、汚職があると感じる人は38%対71%である。感情の指標を加えて分析すると、生活評価に有意に寄与するのはポジティブな感情だけで、ネガティブな感情は寄与しない。
📖 報告書では:第1章「The Geography of Happiness」PDF p.6、第2章 注48(PDF p.21、本文p.36–37)
危機をはさんだ変化に大差
図2.3は、2005〜07年から2012〜14年への生活評価の変化を125か国について並べたものである。最も下がったのはギリシャ(-1.470)で、エジプト(-1.231)、イタリア(-0.764)、サウジアラビア(-0.762)が続く。デンマークも-0.399、米国も-0.245と下がっている。報告書は、こうした差は危機への巻き込まれ方の違いと、統治の質・信頼・社会的な支えの違いによると結論づけている。社会関係資本(人々の間の信頼や助け合いの蓄え)が十分に高い国は、災害や経済ショックのもとでも主観的な幸福を保つか、高めることさえできたとしている。一方で、所得の減少や失業の増加だけでは説明できないほど幸福度が下がった国もある。
📖 報告書では:第2章 図2.3(Part 3)、PDF p.17–20、第1章 PDF p.6
男女差は小さく、年齢差は大きい
第3章は、標本を十分に確保するため2005〜2014年のギャラップ世界調査を国ごとにまとめて分析し、9つの地域について性別・年齢別の違いを示した章である。世界平均では、女性の生活評価は男性より約0.09点高い。これは上位10か国と下位10か国の差4.0点の約2%にすぎない。年齢による差はこれよりずっと大きく、最も若い層で高く、中年までに0.6点近く下がり、その後はほぼ横ばいになる。ただしこの形は地域によって大きく異なり、U字型になる国もあれば、下がり続ける国もある。高齢層ほど生活評価が高い地域では、高齢層ほど社会的な支え・自由・寛容さも高い(世帯所得は高くない)。
📖 報告書では:第3章(本文p.42〜)、第1章の要約 PDF p.6
幸福で費用便益を測る
第4章は、政策の便益を人々の幸福への影響で測る費用便益分析を提案している。お金を便益の物差しにすると、同じ1ドルでも貧しい人のほうが豊かな人より多くの幸福を得るという事実を反映しにくい。幸福を物差しにすれば、この点を織り込めるうえ、所得以外の要因も含められる。著者らは、支出総額は政治的に決めたうえで、どの配分が最も多くの幸福を生むかを証拠で示すことを勧めている。将来世代の幸福を割り引く率は年1.5%以下とし、最終的な便益の物差しには質調整生存年(QALY、生存年数を生活の質で重みづけしたもの)を使う考え方を示している。
📖 報告書では:第4章(本文p.76〜)、第1章の要約 PDF p.6
脳・子ども・社会関係資本
第5章は、幸福を支える4つの要素とその脳の基盤を挙げている。①ポジティブな感情の持続、②ネガティブな感情からの回復、③共感・利他・向社会的な行動、④心のさまよいとマインドフルネスである。これらの神経回路には可塑性があり、2週間ほどの短い訓練でも脳に測定可能な変化が生じうることから、章は幸福を訓練で伸ばせる技能とみなしている。第6章は、世界人口の3分の1を占める18歳未満に焦点を当てる。学校でのライフスキル教育や、子どものウェルビーイングの定期的な測定を勧めている。第7章はイタリアの「市民経済」の伝統を紹介し、第8章は信頼や良い統治を通じて社会関係資本を高める道筋として、教育や所得格差の縮小などを論じている。
📖 報告書では:第5〜8章(本文p.88〜)、第1章の要約 PDF p.6–7
日本の結果
この号の調べ方
主なデータはギャラップ世界調査(Gallup World Poll)である。キャントリルの梯子への回答を2012〜2014年の3年分平均し(1国あたりの標本はおおむね3,000人)、158か国を順位づけしている。変化の分析では、2005〜07年と2012〜14年の平均を比べている。第3章では2005〜2014年のデータをまとめ、生活評価に加えて、前日に経験した6つのポジティブな項目(幸せ、笑顔・笑い、楽しさ、夜の安心感、よく休めた感覚、興味)と6つのネガティブな項目(怒り、心配、悲しみ、抑うつ、ストレス、痛み)を、性別・年齢・9地域別に分析している。
この号から言えること
- 上位国と下位国の差は、所得だけでなく、頼れる人の有無や健康寿命、選択の自由、汚職の少なさといった生活条件の差と並行している。
- 経済危機による落ち込みは国によって大きく異なる。報告書は、信頼や社会的な支え、統治の質が高い国ほど幸福を保ちやすかったと結論づけている。
- 日本は46位で、2005〜07年からは-0.380下がった。一方で女性の生活評価が男性より高い差は世界でも大きい部類に入り、震災後の福島で信頼と幸福が高まったとする研究も紹介されている。
- 報告書は、幸福を政策の物差しとし、費用便益分析や学校教育に組み込むことを具体的に提案している。
読むときの注意
順位には95%信頼区間(推定値の誤差の幅)があり、上位4か国のように統計的に差のない国が並んでいる。日本(5.987)と韓国(5.984)の点数もごく僅差である。6つの要因は国の差を統計的に説明するものであり、各要因の分だけ幸福が生まれることを示すものではない。