どんなレポートか
世界幸福度報告(World Happiness Report/WHR)は、世界各国の人々の幸福度を比べ、それをどう高められるかを論じる年次報告書である。2012年4月に初回が出た。初回はジョン・ヘリウェル、リチャード・レイヤード、ジェフリー・サックスの3人が編集し、「幸福は社会ごとに体系的に異なり、その理由は特定でき、公共政策によって変えることもできる」と打ち出した。現在はオックスフォード大学ウェルビーイング研究センター(Wellbeing Research Centre)が発行している。調査会社Gallup、国連持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)、独立した編集委員会と連携している。公式サイトによれば、2012年以来150人を超える著者が100を超える章を執筆し、140か国以上の公開データを提供している。
何をどう測っているか
土台は、Gallupが世界各国で行う世論調査「Gallup World Poll」である。各国で毎年約1,000人の15歳以上に、自分の人生を梯子にたとえて0(最悪の人生)〜10(最良の人生)で評価してもらう。この質問を「キャントリルの梯子」と呼ぶ。直近3年分の回答を平均して国別順位を出し、2026年版は2023〜2025年の平均で147か国を並べた。順位は6つの要因を合成した指数ではなく、人々自身の人生評価という一つの質問だけに基づく。そのうえで報告書は、国ごとの差を6要因でどこまで説明できるかを分析している。6要因とは、1人あたりGDP、社会的支え(頼れる人がいるか)、健康寿命、人生の選択の自由、寛容さ(寄付など)、腐敗の認識である。順位表には推定の誤差を考えた95%信頼区間も示され、ポジティブ感情・ネガティブ感情の頻度も併記される。毎年テーマ章があり、2026年版では、OECDの15歳対象調査PISA、中南米のデータ、欧州社会調査(ESS)など、Gallup以外のデータも使ってソーシャルメディアと幸福の関係を分析している。
これまでの歩み
初回の2012年版は、上位4か国(すべて北欧)の平均7.6と下位4か国(すべてサハラ以南アフリカ)の3.4という大きな差を示した。この差の約8割は少数の要因で説明できたとしている。2013年版は精神疾患を不幸の最大の単一要因と位置づけ、2015年版は世界金融危機をはさんだ変化の国ごとの違いを、統治の質・信頼・社会的な支えと結びつけて分析した。2016年版アップデートは国内の「幸福の格差」の拡大を取り上げ、2017年版は「幸福の社会的基盤」を重点とした。2018年版は移住を特集し、この年フィンランドが初めて首位に立った。2019年版は「幸福とコミュニティ」、2020年版は社会・都市・自然という「幸福のための環境」を特集し、初めて世界186都市を順位づけた。2021年版は全編をコロナ禍にあて、2022年版(創刊10周年)は寄付や手助けの増加を「善意のパンデミック」と呼んだ。その後のテーマは、2023年版が信頼と支え合い、2024年版が「幸福と年齢」、2025年版が「思いやりと分かち合い」、2026年版が「幸福とソーシャルメディア」である。
分かってきたこと
北欧が上位を占め、フィンランドは2018年から首位
首位は、2016年版がデンマーク、2015年版がスイス、2017年版がノルウェーと入れ替わってきた。2018年版以降はフィンランドが首位を続けている。2022年版のフィンランドは7.821点で、デンマーク(7.636)とアイスランド(7.557)が続いた。2026年版では、首位フィンランドの次にアイスランド、デンマーク、コスタリカが並んだ。コスタリカの4位は中南米の国として過去最高である。
国の差は所得だけでなく信頼や支え合いと結びつく
2012年版は、上位国と下位国の差の約8割が、所得・健康寿命・頼れる人の有無・自由・腐敗の少なさなど少数の要因で説明できると示した。2015年版は、金融危機後の変化の違いを統治の質・信頼・社会的な支えと関連づけた。2021年版は、政府や他人への信頼が幸福を支え、コロナ対策の成否と死亡率の差にも深く関わっていたと結論づけている。2025年版は、人々が他人の親切を悲観的に見積もりすぎており、落とした財布が戻る割合は予想よりはるかに高いと報告した。
危機の中でも人生評価は底堅い
2021年版によれば、コロナ禍1年目でも人生全体の評価は「驚くほど」安定していた。一方で、心配や悲しみを感じた人は約10%増えた。2023年版は、コロナ禍、ウクライナでの戦争、世界的なインフレが重なる中でも、世界の生活評価の平均がコロナ前と同水準を保ったと報告している。ただし2026年版は、ネガティブ感情がすべての地域で増えつつあると指摘する。それでもポジティブ感情の頻度は、ネガティブ感情の2倍を保っている。
北米と西欧の若者の幸福度が下がった
2024年版は、北米で15〜24歳の幸福度が2006〜10年以降に大きく下がり、若者のほうが高齢者より幸福度の低い状態になったことを示した。2026年版では、25歳未満の幸福度の変化の順位で、米国・カナダ・オーストラリア・ニュージーランドが136か国中122〜133位に並ぶ。世界10地域のうち8地域では、最も若い年齢層の人生評価が2006〜2010年より高い。若者の幸福度が大人と比べても絶対値でも下がったのは、この4か国と西欧だけである。
SNSのヘビーユーザーには、特に英語圏と西欧でリスクがある
2026年版によると、47か国の15歳を対象にしたPISAでは、SNSを1日7時間超使う生徒は1時間未満の生徒より幸福度がかなり低い。西欧の女子ではその差がほぼ1点(10点中)で、他地域の女子のほぼ2倍である。中南米のデータでは、交流を助ける型のSNSは幸福と正の関連を示した。逆に、アルゴリズムで選ばれた投稿が流れる型のSNSは、使用量が多いと負の関連を示す傾向があった。報告書は「SNSのヘビーユーザーは、特に英語圏と西欧でリスクにさらされている」と結論づけたうえで、SNSだけで若者の幸福度低下を説明できるわけではないとも述べている。また、学校への帰属感の差に伴う生活満足度の違いは、SNS使用量の差に伴う違いより大きかった。その差は英国・アイルランドの女子で4倍、47か国全体で6倍である。