この号の内容
2005〜18年の世界の幸福の推移
第2章は、ギャラップ世界調査(Gallup World Poll)の2005〜2018年のデータで、幸福の推移を追っている。指標は3つある。人生評価はキャントリルの梯子(0〜10で人生を評価する質問)で測る。ポジティブ感情は前日の幸福感・笑い・楽しみの頻度、ネガティブ感情は前日の心配・悲しみ・怒りの頻度で、いずれも0〜1の値をとる。2015年以降、人口で重みづけした世界平均は大きく下がり、各国平均を単純に平均した値は同じくらい急に上がっている。人口上位5か国(中国・インド・インドネシア・米国・ロシア)を除いても重みづけ平均の伸びは単純平均に届かない。報告書はここから、2015年以降は小さな国ほど幸福度の伸びが大きいと読み取っている。
📖 報告書では:第2章「The Evolution of World Happiness 2005-2018」、図2.1(PDF p.15–16)
幸福の格差は国内で広がる
人生評価のばらつき(標準偏差)で測ると、世界全体の幸福の格差は拡大している。報告書は、その主因を国と国の差ではなく、国の中での格差の拡大としている。地域ごとの動きは異なる。西欧では2006〜2012年に格差が広がり、その後は着実に縮小している。一方、東南アジアとサハラ以南アフリカでは2010年以降、急な上昇が続いている。
📖 報告書では:第2章、図2.5・図2.6(PDF p.21–22)
6要因とポジティブ感情の役割
国別順位には、人生評価を説明する6つの要因が添えられている。1人当たりGDP、社会的支援(困ったとき頼れる人がいるか)、健康寿命、人生の選択の自由、寛容さ(寄付など)、腐敗の少なさである。6要因を幸福度の計算に使っているわけではなく、国ごとの差を説明するために使う。6要因で、2005〜18年の国別年平均の梯子スコアのばらつきのほぼ4分の3を説明できる(調整済み決定係数0.740)。説明式にポジティブ感情を加えると、その係数は2.063で強く有意である。これに対し、ネガティブ感情の係数は0.242で有意ではない。報告書は、良い人生にとってはネガティブ感情が無いことよりもポジティブ感情があることのほうがはるかに重要だという心理学の知見を、この結果が裏づけるとしている。
📖 報告書では:第2章「Ranking of Happiness by Country」、表2.1(PDF p.22–24)
政府への満足と投票行動
第1章はメキシコ国立統計地理情報院(INEGI)の調査を紹介している。国への満足度は2013〜2017年に約0.5点下がり、2017〜2018年に同程度上がって2013年の水準に戻った。この間、2018年の選挙では現職政権が敗れた。第3章(ジョージ・ウォード執筆)は、2000年の米国全国選挙調査(ANES)の約1,300人のデータを分析している。人生に「とても満足」の人は「あまり満足でない」人より、投票する確率が6.7ポイント高い。この差は教育の影響に匹敵する大きさである。英国のパネルデータ(同じ人を追跡する調査)では、生活満足度が1点高まると、次の選挙で投票する傾向が2%高まる関連がある。幸福な人ほど現職に投票する傾向もある。ただしポピュリスト(大衆迎合的な政治家)への投票についての証拠はまちまちである。
📖 報告書では:第1章「Happiness and Government」図1.1・1.2(PDF p.7–9)、第3章「Happiness and Voting Behaviour」(PDF p.52、本文p.47〜)
人を助けると幸福感が増す条件
第4章(アクニンら執筆)は、向社会的行動(寄付や手助けなど他人のための行動)について、調査データと実験結果を合わせて検討している。結論は、向社会的行動はおおむね幸福感を高めるというものである。効果が出やすい条件は3つある。助けるかどうか・どう助けるかを自分で選べるとき、助ける相手とのつながりを感じるとき、自分の助けが役立っている様子が見えるときである。章内では、日本の学生1,500人超を対象とした相関研究も紹介している。夏の間に他人のためにお金を使い、それが人間関係に良い影響を与えたと感じた学生ほど、全体的な幸福度が高かった。
📖 報告書では:第4章「Happiness and Prosocial Behavior」(本文p.67〜)、第1章の概要(PDF p.10)
米国のデジタルメディアと依存
第5章(ジーン・トウェンギ執筆)は、米国の若者がデジタル機器に費やす時間が増えていることを記録している。そのうえで、これがより有益な活動の時間を押しのけ、不安の増加と幸福の低下につながったとする証拠を示している。章が示す根拠は主に2つある。デジタルメディアの利用が多いと、後の幸福度が低いことを予測する。また、無作為に割り当てられてソーシャルメディアの利用を制限・中止した人は幸福度が改善する。第6章は、ビッグデータが幸福の把握に役立つ一方で、複雑さの増大、プライバシーの喪失、経済力の集中という危険を伴うと論じる。第7章(ジェフリー・サックス執筆)は、米国を薬物・アルコール、食べ物と肥満、インターネットなどの「大量依存社会」と位置づけている。対策として、公的資金によるメンタルヘルスサービスの急拡大と、処方薬業界への規制強化を挙げている。
📖 報告書では:第5章(本文p.87〜)、第6章(本文p.97〜)、第7章(本文p.123〜)、第1章「Happiness and Digital Technology」「Looking Ahead」(PDF p.10–11)
日本の結果
この号の調べ方
国別順位はギャラップ世界調査にもとづく。キャントリルの梯子(0=最悪の人生、10=最良の人生)の2016〜2018年の3年平均を使っている。推移の分析は2005〜2018年の年次データで行い、2005年と2006年は初年の対象国が少ないため合算している。国ごとの変化は2005〜08年と2016〜18年の比較である。6要因の回帰分析(説明力を測る統計手法)は157か国・延べ約1,500の国×年データを用いている。
この号から言えること
- 上位は北欧諸国が占める。日本は健康寿命や所得では上位だが、寛容さやポジティブ感情の順位が低く、全体では58位にとどまる。
- 報告書は、人生評価にはネガティブ感情が無いことよりポジティブ感情があることのほうがはるかに重要だとし、自由と寛容さの効果の多くはポジティブ感情を通じて現れると推論している。
- 幸福度の高い人ほど投票し、現職を支持する傾向がある。幸福は政治の「結果」としてだけでなく、政治行動を左右する「入力」としても扱われ始めている。
- 人助けによる幸福感は、自分で選べる・相手とつながる・効果が見える、の3条件で生まれやすいと第4章は整理している。
読むときの注意
国別順位の数値は3年平均の推定値で信頼区間(推定の誤差の幅)を伴うため、近い順位の国どうしの差はわずかである。日本(5.886)と韓国(5.895)の点数もごく近い。6要因は幸福度の差を統計的に説明するもので、幸福度そのものを計算する材料ではない。日本の学生の研究など多くの結果は相関であり、報告書自身も、幸福な人ほど他人にお金を使いやすいといった逆向きの説明がありうると述べている。