この号の内容
6つの要因で国の差の4分の3を説明
第2章は、国の平均の生活評価を6つの変数で説明している。6つとは、1人当たりGDP、社会的支援(頼れる人がいるか)、健康寿命、人生の選択の自由、寛容さ、腐敗のなさである。2005〜19年のデータで、これらは国ごとの年平均スコアのばらつきの約4分の3を説明する(調整済み決定係数0.751)。ただし順位そのものはこの6要因から作った指数ではなく、回答者自身の評価にもとづく。前日の感情を加えた分析では、ポジティブ感情は生活評価と大きく有意に結びついていたが、ネガティブ感情は結びついていなかった。
📖 報告書では:第2章「Measuring and Explaining National Differences in Life Evaluations」p.19–20、表2.1、図2.1
信頼が逆境の打撃を和らげる
第2章は、病気・失業・低所得・差別・離別・夜道の不安といった不運が生活満足度をどれだけ下げるかを、個人単位で推計している。条件のよいマリーと不運が重なったヘルムートの差は、信頼の低い環境では0〜10の尺度で3.5点である。他者・政府・警察への信頼が高い環境では、この差は3分の1縮む。信頼が高く友人と頻繁に会うルイージと、信頼が低い環境に住み人とのつながりも弱いクララの差は1.8点である。信頼の高い環境を考慮すると、この差は5分の1縮む。報告書は、信頼ある社会環境は苦境にある人の幸福をもっとも押し上げ、ウェルビーイングの格差を小さくすると結論づけている。
📖 報告書では:第1章「Social Environments for Happiness」p.9–10、第2章序論
北欧並みの信頼で欧州は7.68に
35か国の欧州人37万5,000人のデータで、全員の信頼と人とのつながりを北欧の平均水準に置き換える試算を行った。健康・所得・雇用などはそのままにしている。現在の欧州の平均7.09は7.68に上がり、格差も大きく縮んだ。信頼の引き上げだけで0.50点上がり(7.59)、北欧(8.05)と欧州全体の差の半分以上にあたる。つながりはさらに0.09点を加え、両方で差の60%を説明する。報告書は、とくに重要なのは社会や制度への信頼の高さだとしている。
📖 報告書では:第1章 p.10、図1.1、第7章「The Nordic Exceptionalism」
初の世界都市ランキング
第3章は、住民自身の生活評価にもとづく初の世界都市ランキングである。研究者が選んだ指標を合成する英エコノミスト誌の「住みやすさ指数」とは作り方が違う。138か国について大都市住民と国全体の平均生活評価を比べると、相関係数は0.96で、都市の順位と国の順位は本質的に同じである。米国の10大都市は186都市中18〜31位に固まっている。ストックホルム(9位)とイェーテボリ(24位)は15位離れているが、統計的な信頼区間の中では同じ範囲にある。
📖 報告書では:第1章「Urban Happiness」p.11–12、図1.2、第3章 p.53–54、図3.1
都市の優位は豊かな国で消える
多くの国、とくに国の平均幸福度が低めの国では、都市住民は都市外の住民より生活評価が約0.2点高い。この都市の優位は、幸福度が上位の国では小さくなり、マイナスになることもある。第4章の図4.3では、経済発展がある水準を超えると都市の平均が農村を下回る。カナダでは農村部の生活評価が都市部より0.18点高い。地域への帰属意識を農村並みに保てばこの差は半分になり、幸福の格差も農村並みに保てば3分の1になる。
📖 報告書では:第1章 p.11–12、第4章 図4.3、Annex
緑・水辺・誰かと一緒の気分
第5章は、OECD諸国のデータを分析し、大気中の粒子状物質が生活評価に有意なマイナスの影響を持つことを示した。ロンドン圏では、ボランティア13,000人がスマートフォンで約50万回、その時の気分を報告した。近くの公園や街路樹、テムズ川や運河の近くにいるときほど気分がよかった。PM10の濃度は気分と関係が見られず、NO2は一部のモデルでのみ小さなマイナスだった。英国の230万件の回答では、43の活動すべてで、友人やパートナーと一緒のほうが気分がよかった。散歩は1人で+2%、友人と+7.5%、パートナーと+8.9%である。通勤・移動は平均−1.9%だが、友人とだと+5.3%になる。行列待ちは1人で−3.5%、友人とだと+3.5%である。
📖 報告書では:第1章「Sustainable Natural Environments」p.12–13、第5章、図5.2a・5.2b、第5章オンライン付録
日本の結果
この号の調べ方
データの中心はギャラップ世界調査(Gallup World Poll)である。160か国以上・世界人口の99%をカバーし、各国で毎年1,000人以上、15歳以上を対象とする。主な指標はキャントリルの梯子で、0(最悪の人生)〜10(最良の人生)の段のどこに今いるかを答えてもらう。国別順位はこの値の2017〜19年の3年平均である。都市ランキングは2014〜18年のデータを使い、米国分はギャラップ米国調査で補った(両調査の平均は6.96と6.97でほぼ同一)。ポジティブ感情(楽しさ・よく笑ったか)とネガティブ感情(悲しみ・心配・怒り)は、前日の経験を「はい・いいえ」で尋ねて作っている。
この号から言えること
- 報告書は、人や制度への信頼が平均の幸福度を上げるだけでなく、不運に見舞われた人の落ち込みを小さくし、幸福の格差を縮めると結論づけている。
- 都市の幸福度はほぼその国の幸福度で決まる(相関0.96)。都市住民が農村より幸福な傾向は、豊かな国では弱まるか逆転する。
- 日本は62位で韓国と僅差である。東京も都市ランキング79位と、国の順位に近い位置にある。
- 同じ活動でも、友人やパートナーと一緒のときほど気分がよい傾向がある。この傾向は、通勤や行列待ちのような不快な場面でも見られる。
読むときの注意
示された関係の多くは相関であり、「信頼が高いと幸福になる」といった因果がそのまま証明されたものではない。米国以外の都市はサンプルが小さく、順位差が大きく見えても統計的には区別できない場合がある。活動と気分の推計については、不快な場面には友人を誘わないことなどから過大または過小になりうると、報告書自身が断っている。