この号の内容
子ども自身の視点を重視
この調査は、子ども期を大人になる準備期間ではなく、それ自体ひとつの人生段階とみる。子どもが「いま」の生活と幸福をどう感じているかを、子ども自身に尋ねる。2010年に資金のない小さな試行として始まり、ジェイコブス財団の支援を受けて、5大陸40か国超の20万人以上の声を集めるまでになった。第3波は最大規模の回で、ナミビア、ネパール、ノルウェーのように背景の大きく異なる35か国・地域を対象とした。報告書によれば、既存のHBSC(学齢期の子どもの健康行動調査)やPISA(OECD生徒の学習到達度調査)は、生活の側面の網羅性と、対象国の幅の両方で不足がある。
📖 報告書では:第1章「Introduction」PDF p.6
12万8千人の内訳と年齢
最終データは、8歳32,608人、10歳49,427人、12歳46,149人の計128,184人である。国別ではインドネシア(西ジャワ)の23,402人が最多で、イングランドは717人だった。35か国すべてで調査したのは10歳だけなので、国際比較は主に10歳で行う。多くの国は特定の地域だけで調査しており、結果は国全体を表さない。8歳は5段階の顔文字で答えたため、0〜10で答えた年長の2グループとは比べられない。
📖 報告書では:第1章 表1.1(PDF p.8)、注記(PDF p.7)、質問紙の説明(PDF p.9)
家庭環境は国ごとに大きく違う
10歳のほぼ全員が家族と暮らしている。95%を下回ったのは、ブラジル(93.8%)、ナミビア(93.5%)、ネパール(94.8%)、南アフリカ(93.9%)の4か国だけである。実の両親の両方と暮らす子どもが90%を超えた国は7か国、70%未満の国は5か国あった。両親のどちらとも暮らしていない子どもの割合は、南アフリカとナミビアで約8%と最も高かった。祖父母と同居する子どもは、インドとアルバニアで半数を超え、フィンランドとノルウェーでは2%未満だった。過去1年に親が1か月以上国外で働いた子どもは、ルーマニアとアルバニアで4分の1を超えた。
📖 報告書では:第2章「The context of children's lives」PDF p.12、図2.1〜2.4(PDF p.13〜16)
物の不足と学校行事
「状態のよい服がある」と答えた子どもは、1か国を除くすべての国で90%以上だった。例外のベルギー(73%)は、質問の言い回しの違いが影響した可能性があると報告書は述べている。インドネシア、ナミビア、ネパール、南アフリカでは、約8〜10%が通学用の状態のよい服を持っていないと答えた。状態のよい靴を2足持っていない子どもが1割を超えた国は10か国あった。学校の遠足や活動に参加するお金が足りない子どもが1割を超えた国は13か国あった。報告書は、学校活動に参加できないことを、子どもの社会的排除の重要な要素の一つと位置づけている。
📖 報告書では:第2章「Material circumstances」Box 2.2、表2.1(PDF p.16〜17)
生活満足度尺度と比較の限界
第3波では、これまで使ってきた生活満足度尺度を、子どもとの話し合いをもとに改めた。新しい尺度がCW-SWBS(子どもの主観的ウェルビーイング尺度)である。「自分の人生を楽しんでいる」などの文にどれだけ同意するかを0〜10で答える。6項目のうち「自分の人生が好きだ」はモデルの当てはまりが悪かったため除き、5項目を使った。信頼性係数(クロンバックのα:項目どうしの回答の一貫性を示す値)は、8歳0.85、10歳0.92、12歳0.94だった。国の間で尺度が同じ意味で働くかを確かめる検定の結果、相関や回帰係数は国の間で比べられる。一方、どの年齢でも平均点の国際比較は支持されなかった。
📖 報告書では:第3章「Overall well-being」Box 3(PDF p.26)、「Cognitive subjective well-being」(PDF p.27)
ポジティブ感情の上位と下位
ポジティブ感情は、過去2週間に「幸せ」「落ち着いている」「元気いっぱい」と感じた程度を0〜10で尋ねた。10歳の平均はアルバニアが9.52で最も高く、ギリシャ(9.09)、クロアチア(8.83)、ルーマニア(8.80)が続いた。最も低かったのは香港の7.21で、バングラデシュ(7.33)、台湾(7.38)が続いた。12歳でも最上位はアルバニア(9.33)で、最下位は香港(6.85)、台湾(6.88)、韓国(7.22)だった。香港は10歳の「幸せ」(8.15)と「落ち着いている」(5.97)がどちらも35位だった。ポジティブ感情は10歳から12歳にかけて下がる傾向があり、多くの国でその差は統計的に有意だった。
📖 報告書では:第3章 表3.3(PDF p.32)、図3.3(PDF p.33)、本文(PDF p.31)
ネガティブ感情は12歳で上昇
10歳と12歳には「悲しい」「ストレスを感じる」「退屈」の程度を0〜10で尋ねた。平均が最も低かったのは両年齢ともアルバニア(1.9と2.0)である。最も高かったのは、10歳がマレーシア(5.5)、12歳がブラジル(5.1)だった。ギリシャはポジティブ感情が高い一方、「ストレス」は4.9で30位だった。すべての国で、1割を超える子どもが高いネガティブ感情(5超)を示した。12歳で男女差が有意だった15か国のうち、14か国で女子のほうが高かった。10歳から12歳にかけての変化は、上昇が22か国、低下が8か国だった。8歳で「いつも悲しい」と答えた子どもは、イタリアとフィンランドで2%未満、マレーシア、インドネシア、アルジェリアで10%超だった。
📖 報告書では:第3章「Negative affect」PDF p.34〜35、図3.4・図3.5、表3.4
この号の調べ方
2016〜19年に、35か国・地域の学校で8歳・10歳・12歳の計128,184人を調べた。多くの国は特定の地域だけが対象である。満足度や同意の質問は、10歳と12歳が0〜10の11段階、8歳が5段階の顔文字で答えた。分析では各国の重み付けと標本設計を考慮し、有意水準5%で、主に男女差と年齢差の単純な比較を行っている。
この号から言えること
- 35か国すべてを比べられるのは10歳だけである。ポジティブ感情では、アルバニアが年齢を問わず首位で、香港と台湾が下位にとどまった。
- 12歳は10歳に比べてポジティブ感情が低い傾向がある。ネガティブ感情は22か国で上がり、とくに女子で高い国が多い。
- 実の両親と暮らす割合、祖父母との同居、親の海外就労、物の不足など、子どもの家庭環境は国によって大きく異なる。報告書は、幸福の結果をこうした背景の中で読むべきだとしている。
読むときの注意
報告書自身が、CW-SWBSの国別平均を比べることは測定上支持されないと明記している。文化による回答の傾向や翻訳の難しさも指摘しており、順位は目安として読む必要がある。また多くの国は一部地域だけの調査で、国全体の値ではない。日本はこの調査の対象国に含まれていない。