はぴテク相談室:「うちの子、何も話してくれない」の話
はぴテクさん、聞いてください。中2の娘のことなんですが、最近学校のことを何も話してくれないんです。「学校どうだった?」と聞いても「別に」「普通」ばかりで…。
それは心配になりますね。「別に」が続くと、何かあるのかな?と気になりますよね。
そうなんです。先週なんて「学校行きたくない」とポツリと言って。理由を聞いても黙っちゃうんです。悩みがないなら話してくれてもいいのに、って思っちゃって。
なるほど。実は最近、まさにこのテーマの論文を読んだんです。スクールカウンセリングの視点から書かれた論文で、そこにこんな言葉がありました。「語らないことは、問題がないことでも、意欲がないことでもない」と。
語らないことは、問題がないことではない…?
はい。カウンセリングの現場では、本人が「語らない」「語れない」ことがよくあるそうです。でもその沈黙の背後には、理由があることが多い。例えば「話したら相手がどう反応するか怖い」「どう言葉にすればいいか分からない」「話したら心配をかけてしまう」とか。
ああ…。たしかに私、娘が何か言いかけると「え、いじめ?先生に相談する?」って先回りしちゃうかも。
それ、親心なんですよね。でもお子さんからすると「話したら大ごとになる」と感じて、余計に口を閉ざしてしまうことがあるんです。日本の子供のデータで、興味深いものがあるんですよ。日本の子供は身体的健康は38カ国中1位。でも精神的幸福度は38カ国中32位なんです。
えっ、そんなに差があるんですか。
しかも生活満足度は平均以上なのに、自殺率は対象国平均の1.6倍。つまり「表面的には満足そうに見えるけど、いざという時に助けてと言えない」子供たちがいる、ということなんです。助けてと言ったら、弱いと思われる、我慢が足りないと言われる、和を乱すと思われる…そう予期して口を閉ざしてしまう。
うちの娘も、そうなのかもしれません…。じゃあ私はどうすればいいんでしょう。無理にでも聞き出した方がいい?
逆なんです。その論文が一番大事にしていたのは「安全基地」という考え方でした。安全基地とは、安心して頼れる人や場所のこと。そこがあるから、外の世界に挑戦できる心の土台です。ポイントは「失敗しても、話しても話さなくても、ここは大丈夫」という条件なしの安心なんです。
条件なし…。「話してくれたら安心するのに」って思ってた私は、条件をつけてたんですね。
気づかれましたね。「話す」ことを求めるより、「話さなくても大丈夫な場所」でい続けること。矛盾するようですが、安心できる場ができると、人は自然と語り始めることが多いんです。
なるほど…。あと、正直「学校行きたくない」の方も不安で。休ませたら、そのまま行けなくなるんじゃないかって。
その論文には、精神科医の言葉も紹介されていました。「学校への不適応は、必ずしも社会への不適応ではない」と。学校って実は、子供にかなり高度な社会性を求める場なんです。一日中集団の中で、空気を読んで、自分を調整し続ける。大人でも疲れますよね。
たしかに、大人の会社より逃げ場がないかも。
だから、ある子にとっては「学校を休む」ことが、自分の健康を守るための能動的な選択である場合もある、と論文は言います。もちろん不登校を推奨しているわけではありません。でも「休む=ダメなこと」と決めつけず、「この子は自分を守ろうとしているのかも」という見方を持てると、接し方が変わってきます。
休むことが、自分を守る行動…。そう考えたことなかったです。でも、このままずっと親に頼りっぱなしで、自立できなくなったりしませんか?
いい質問です。日本の研究では、自立は「親から離れること」ではなく「質の良い頼り先が増えること」で進むと考えられているんです。面白いことに、青年の心理的自立に一番影響を与えていた相手は、本人たちの自覚とは違って、母親だったという調査もあります。
えっ、頼らせることが自立につながるんですか?
はい。安心して頼れる土台があるから、外へ挑戦できる。順番が逆じゃないんです。「自分から動ける子になってほしい」なら、まず「安心して失敗できる場」が先。これは子育ても、学校も、実は会社も同じです。
なんだか肩の力が抜けました。まずは私が「聞き出す人」じゃなくて「安全基地」になればいいんですね。
その通りです。今日から「学校どうだった?」の代わりに、一緒にご飯を食べながら、お母さん自身の話をしてみるのもいいですよ。「今日こんな失敗しちゃった」なんて話は、「失敗を話してもいい家なんだ」というメッセージになりますから。
それならできそうです。ありがとうございました。娘の沈黙も「表明」として、受け止めてみます。
■ 今日のまとめ
- 「語らない」ことは、問題や意欲がないことではない。沈黙の背後には理由があり、それ自体がひとつの表明。無理に聞き出すより「話さなくても大丈夫な場」でい続けることが、語り始める土台になる
- エージェンシー(自分から動く力)の前に、安全基地(条件なしで安心できる人や場所)が先。安心して失敗できる土台があってはじめて、人は能動性を発揮できる
- 自立とは親離れではなく「質の良い頼り先が増えること」。安心して頼れる関係が、かえって子供の心理的自立を促す
■ 出典・注意事項
- 原美香 (2026). 日本の学校教育におけるウェルビーイングとエージェンシー ーカウンセリングの視点からの模索ー. 教職研究, 45, pp.15-27. 立教大学教職課程.
- 本論文は実証研究ではなく、政策文書・先行研究・カウンセリング実践の視点に基づく理論的考察です
- 対話中の国際比較データはユニセフ・イノチェンティ研究所の調査(2022)、自立に関する知見はSugimura et al. (2009)、Oda et al. (2021)、江口 (1966) に基づきます
- この対話はフィクションであり、個別のお子さんの状況については、スクールカウンセラーなど専門家への相談をおすすめします
論文本編の紹介はこちら😊
https://archive.happytech.co.jp/posts/2026-08-12-1786522800/