どんなレポートか
「仕事と幸福(Happiness at Work)」は、『世界幸福度報告2017(World Happiness Report 2017)』の第6章である。執筆者はオックスフォード大学サイード・ビジネススクールのヤン=エマニュエル・ドゥ・ネーヴ(Jan-Emmanuel De Neve)と、マサチューセッツ工科大学およびロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのジョージ・ウォード(George Ward)である。著者は、多くの人が人生の大部分を職場で過ごす以上、雇用と職場が個人や地域の幸福をどう形づくるかを理解することが極めて重要だと述べる。そこで本章は、雇用状態(働いているか、失業しているかなど)、職種、職場の特徴が主観的ウェルビーイング(本人が自分の生活や気分をどう評価するか)とどう関係するかを、世界規模のデータで調べている。結論部では、雇用の促進や失業の害からの保護、良質な仕事を増やす政策への示唆も示している。
何をどう測っているか
主なデータはギャラップ世界世論調査(Gallup World Poll)で、150か国以上、世界人口の98%を代表する各国の代表標本を2006年以降ほぼ毎年調査しており、数十万人分の回答を使っている。職場の具体的な特徴の分析には欧州社会調査(European Social Survey)を、失業の時間的な影響の分析には1984年から毎年同じドイツ住民の大規模標本を追跡するドイツ社会経済パネル(German Socio-Economic Panel)を補助的に用いている。幸福の指標は、キャントリルの梯子(0〜10の段で自分の人生を評価する質問)による人生評価、日々の肯定的感情と否定的感情(ストレスや心配など)、さらに仕事への満足度と従業員エンゲージメント(仕事への熱意・関与)である。回帰分析(複数の要因を同時に考慮して関係の強さを推定する手法)では、性別、年齢とその2乗、教育水準、世帯所得(対数)、婚姻状態、世帯構成を統制し、国と年の固定効果(国ごと・年ごとの政治・経済・文化の違いを取り除く処理)を入れている。結果の指標は全標本で平均0・標準偏差1にそろえ(標準化)、指標間で係数の大きさを比べやすくしている。雇用状態の分析対象は21〜60歳で、人生評価のモデルは162か国・848,594件の観測にもとづく。
これまでの歩み
本章は『世界幸福度報告2017』に収められた単発の章であり、各年版のような継続的な系列はない。章の構成は、まず世界全体での雇用状態と幸福の関係を示し、次に男女別・地域別の違い、続いて失業への慣れと「傷跡」、失業率の波及効果を扱う。その後、ブルーカラーとホワイトカラーという職種の違い、さらに賃金やワークライフバランスなど職場の具体的な特徴と幸福の関係へと進む。使われるギャラップ世界世論調査は2006年以降の繰り返し調査であり、時間の経過を追う分析にはドイツの1984年以降のパネルデータが使われている。最後に、研究者と政策立案者が今後検討すべき方向を示して章を締めくくっている。
分かってきたこと
働いている人は失業者より人生評価がかなり高い
世界全体で、働いている人は失業者より0〜10の人生評価が平均で約0.6点高く、失業者は否定的な感情経験が約30%多い。所得などを統制した回帰でも、失業はフルタイムの被雇用者と比べて人生評価で0.236標準偏差低く、肯定的感情が0.100低く、否定的感情が0.207高い。所得を一定にしてもこの差が残ることから、著者は失業の影響が収入の喪失をはるかに超えると述べている。この傾向はすべての地域で見られるが、人生評価との関係は南アジア(-0.095)と東南アジア(-0.113)で弱く、北米・オーストラリア・ニュージーランド(-0.434)や西欧(-0.396)で強い。
失業には慣れにくく、傷跡が残り、周囲にも波及する
ドイツのパネルデータでは、失業した直後に生活満足度が大きく落ち、失業が長引いても低いままである。再就職した後も、最近失業を経験した人は経験していない就業者より体系的に幸福度が低い「傷跡(スカーリング)」が見られる。同じ性別・年代・国・年の失業率が高いほど、本人が失業していなくても人生評価が低い傾向があり(男性-0.449、女性-0.154)、ただし日々の感情には同様の影響は見られない。一方、失業者本人にとっては周囲の失業率が高いほど落ち込みが小さい「社会規範効果」があり、本章は世界規模の標本で男女ともにこれを示した。それでも失業の影響は3つの指標すべてで明確にマイナスのままである。
パートタイムと自営業は条件や地域で結果が変わる
パートタイムで、これ以上の労働時間を望まない人はフルタイム被雇用者より人生評価が高く(+0.048)、否定的感情が少ないが、もっと働きたい人(不完全就業)は人生評価が低い(-0.096)。この利点は主に女性に見られ、男性には同じ傾向が見られない。自営業は世界全体ではやや人生評価が低い(-0.018)が、欧州、北米、オーストラリア・ニュージーランド、独立国家共同体、東アジアでは人生評価や肯定的感情が高く、中南米・カリブ、サハラ以南アフリカでは低いという逆転がある。ただし多くの地域で、自営業はストレスや心配など否定的感情の多さと結びついている。
労働市場の外にいることは男性の幸福により強く関連する
働き盛りの年齢で労働市場の外にいる人(家で子育てをする人、障害や引退による人など)は男女とも人生評価が低いが、その差は男性(-0.092)のほうが女性(-0.027)より大きい。男性ではこの状態が否定的感情の多さと肯定的感情の少なさに結びつくが、女性では日々の感情にフルタイム被雇用者との統計的に意味のある差がない。失業の影響も男性(人生評価-0.281)のほうが女性(-0.201)より強く出ている。
ブルーカラーの仕事と職場の特徴
関連する要因を考慮しても、ブルーカラーの仕事は一貫して幸福度の低さと関連しており、建設、鉱業、製造、運輸、農業、漁業、林業といった労働集約的な産業すべてで同じである。職場の特徴では、賃金の高い仕事に就く人ほど人生や仕事への満足度が高い傾向がある。それ以外では、ワークライフバランスが特に強い予測因子として浮かび上がる。仕事の多様性や新しいことを学ぶ必要性、本人の自律性、雇用の安定、同僚からの支え(社会関係資本)も幸福と正の関連があり、健康や安全のリスクを伴う仕事は幸福度の低さと結びついている。