どんなレポートか
地域幸福度(Well-Being)指標は、デジタル庁が「デジタル田園都市国家構想」のなかで整備した、まちづくりのための指標である。設計には一般社団法人スマートシティ・インスティテュート(SCI-Japan)などが関わり、指標設計やサイト運営、導入支援は三菱UFJリサーチ&コンサルティング(MURC)が受託している。デジタル庁は、街づくりでは多様な事業が行われており、この指標を「共通指標」として使えば、市民や事業者など立場の違う関係者が共通の目標に向けて協力できると説明している。住民アンケートで測る「幸福感」と、統計データで測る「暮らしやすさ」を組み合わせ、地域の姿を見えるようにする。2022年7月には自治体向けのオンライン説明会が開かれ、2024年3月29日に活用のための専用サイトが公開された。
何をどう測っているか
指標は二つの柱でできている。一つは住民アンケートによる主観指標で、住民が自分の暮らしや地域をどう感じているかを尋ねる。もう一つは統計などの客観指標で、地域の環境やサービスの状況を数字で示す。アンケートの全国共通設問は令和4年度(2022年度)には約160問あったが、令和5年度(2023年度)から50問に絞られ、全問が必須になった。指標は24のカテゴリー(「移動・交通」「医療・福祉」「子育て」「地域とのつながり」「健康状態」など)に分かれており、自治体は関心のある分野について独自の設問を追加できる。専用サイトでは、全国調査の結果や各自治体のデータをダッシュボード(グラフや表で一覧できる画面)で見られるほか、アンケート設問票、利活用ガイドブック、分析作業用テンプレート、施策の筋道を整理する「リファレンス・ロジックツリー活用ガイド」、自治体アンケート調査支援システムなどが提供されている。自治体が独自に行った調査データを登録することもできる。
これまでの歩み
2022年7月15日に自治体向けのオンライン説明会が開かれ、令和4年度は約160問の設問ひな型で自治体のアンケートが行われた。令和5年度には全国共通設問が50問に絞られ、2023年5月以降、年度ごとに活用説明会が開かれている。2023年11月の調査報告書は、令和3年度補正予算の交付金(デジタル実装タイプType2/3)に採択された26自治体の実施実態をまとめ、独自設問の参考事例集をつくった。2024年3月29日に専用サイト「地域幸福度(Well-Being)指標利活用サービス」が公開され、浜松・横浜・会津若松・神戸で1Dayセミナーも開かれた。2024年10月の報告書は調査対象を101自治体に広げ、ヒアリングも加えて政策への活用状況を調べた。同じ2024年10月にはワークショップを支えるファシリテーターの紹介・派遣事業が始まった。客観指標に誤りが見つかったことを受けたダッシュボードの公開再開(2025年10月10日)を経て、2026年2月には民間事業者向けオンラインセミナー、同年秋には市民や事業者向けの体験ワークショップ(東京・大阪)へと、対象が自治体の外へ広がっている。
分かってきたこと
設問数の多さが最初の壁だった
2023年11月の報告書によると、26自治体(回収率100%)のうち73%がアンケートで苦労した点に「実施すべき設問の取捨選択」を挙げた。報告書は、約160問のひな型では回答者の負担が大きな課題と受け止められていたと分析している。次いで多かったのは結果の分析(35%)、アンケート設計(31%)、独自設問の検討(23%)である。2024年の調査でも設問の取捨選択は34.0%で最多だったが、独自設問の検討(32.1%)や全国共通50問の分析・解釈(30.2%)とほぼ同じ割合になっている。
独自設問は多くの自治体が「効果あり」と答えた
2023年の調査では、アンケートを実施した自治体の81%が独自設問を設け、そのうち95%が「効果があった」と答えた。設けた理由で多かったのは、今後力を入れる分野との関連を知るため(43%)、既存の施策との関連を知るため(38%)、独自に重視する価値観を知るため(38%)である。一方で設問づくりの難しさを訴える声もあり、報告書は自治体の実例をもとに、24カテゴリーと「観光」などに分けた5段階回答(5件法)の参考設問集をまとめた。例として「運転免許を返納しても移動に不安がない」「子育てについて相談できる相手がいる」「最近、人とのかかわりが少なく、孤独や不安を感じる」などが並ぶ。
現状分析は広がったが、政策への反映は1割前後にとどまる
2024年の調査(101自治体に配布、77自治体が回答、回収率76%)では、令和5年度にデータに基づく地域の現状分析を行った自治体が49%、ダッシュボードで他自治体と比べた自治体が39%、庁内の勉強会・研修を開いた自治体が30%だった。一方、総合計画やまち・ひと・しごと創生総合戦略での活用は10%前後にとどまる。今後の予定では、ロジックツリー等による施策の検討が27%となり、令和5年度の12%より高く、総合計画等での活用も20%前後に増える見込みである。報告書は、住民向けワークショップや広報が限られている点も課題に挙げている。
「できたこと」は地域の把握、「難しいこと」は指標とウェルビーイングの理解
指標の活用で実現できたこととして、地域の特徴の把握(53%)、データに基づく地域課題の整理(40%)、住民目線でのデータ分析(27%)が挙がった。これに対し、政策の立案・評価への活用は8%、ウェルビーイングへの庁内理解の深まりは5%、住民や企業による「自分事化」は3%だった。苦労した点では、指標の仕組み・ツール等の理解(39%)とウェルビーイングの意味の理解(36%)が上位を占めた。自由回答には「指標を理解することに苦労し、結果政策・予算に反映させることまで至らなかった」「『Well-being』という言葉自体が職員及び市民に浸透しておらず、説明することに苦慮した」という声がある。
首長の後押しが成功要因の一つ、岐阜市は独自調査に組み込む
ヒアリング調査の結果、報告書は、政策に指標を反映できている自治体では首長の後押しが成功要因の一つになっていると指摘している。ただし、首長の支援がない自治体でも、指標のデータを総合計画のKPI(成果を測る目標値)に使ったり、新規事業の検討に使ったりする予定の例が報告された。岐阜市は2013年度から幸福度を含む市民意識調査を毎年行っており、2023年1月にSCI-Japanの南雲氏をアドバイザーに迎え、地域幸福度指標を参考にした調査を実施している。同市は幸福度や生活満足度の回答を5段階から11段階に変え、2024年3月策定の「岐阜市未来創生総合戦略」で主観指標と客観指標をKPIに設定した。