世界の思想と宗教の幸福観マップ

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マップ2 幸福の対義語——何が「幸福の反対」とされているか

「何が幸福を妨げるか」列を10のカテゴリに圧縮した。幸福の定義より、その対義語のほうが思想の輪郭をよく示すことがある。

この地図の結論
「幸福の反対」は、思想によって世界の側にも自分の側にもある。10の対義語のうち、不調和・分断(先住民系・儒教(原始))、罪・背き(一神教・カント)、穢れ・不浄(神道・修験道・ジャイナ)は関係や外部との関わりの破れであり、苦・渇き、無知・誤認、自我・執着、無意味は自分の内側の問題である。前者は「修復する」、後者は「取り除く/見抜く」という異なる対処を要求する。
実務上の帰結:現代の主流の幸福尺度(生活満足度、感情、心理的ウェルビーイング、機会の指標など)は、個人の感情・生活評価・機能や機会の不足——本マップの対義語で言えば「苦痛の量」と「剥奪」に近いもの——を捉える一方、穢れ、関係の破れ、宗教的な背き、無意味は個人の自己申告では直接には測りにくく、「幸福度が低い」という結果の背後にどの型の不幸があるかは尺度からは分からない。「無意味」を幸福の対義語に置く立場(ニーチェ・実存主義・ユング(分析心理学))が近代西洋にしか現れないことも注目に値する。
この地図の目盛りの定義

◎○△×の件数は「47の思想をこの見方で分類した内訳(=見方の多様さ)」であって、実証研究の裏づけや、思想の優劣を表すものではありません。

目盛り定義
苦・渇き満たされない渇きや苦そのもの。仏教の dukkha(苦)/taṇhā(渇愛=もっと欲しがる心)、エピクロスの恐れと空虚な欲望
無知・誤認本当の自分や世界を見誤っていること。ヒンドゥー(ヴェーダーンタ)の無明(本当の自分や世界を見誤っている根本の無知)、ストア派の誤った判断、イスラム教の神への忘却
罪・背き神や契約に背くこと。ユダヤ教の ḥeṭ'(的を外す)、キリスト教の傲慢、カントの他律(自分の外の動機に従うこと)
穢れ・不浄身体や場所に付着してしまう汚れ。心の中の罪悪感とは別のもの。神道の穢れ(死や血に触れることで付く)、ジャイナ教の業物質(行いの結果が微細な物質として魂に付着する)
不調和・分断関係の破綻や均衡の崩れ。共同体・土地・祖先・カムイ(アイヌの世界観における神々。熊・火・道具なども含む)との関係が損なわれること
自我・執着「私が」という自我意識と、それに基づく執着。禅の求める心、シク教の haumai(「私が」という自我意識。シク教が幸福の妨げとする)、スーフィズムの nafs
不自由・作為わざとらしいはからい・世間の慣習・固定した考えに縛られること。道家(老荘)が退ける作為(自然に反するはからい)、キュニコス派・ピュロン主義が退ける世間の慣習への依存、プラグマティズムが退ける固定した目的や習慣
無意味苦痛そのものより、苦痛に意味を与えられないこと。ニーチェ、実存主義
苦痛の量純粋に負の量としての苦痛。功利主義。道教では精気の漏泄・老病死
剥奪外的善(健康・財産・友人など、自分の外にある善いもの)・機会・ケイパビリティ(その人が実際に選べる生き方の幅)の欠損。アリストテレス、ケイパビリティ・アプローチ(各人が実際に選べる生き方の幅で豊かさを測る立場)、現代の徳倫理学
思想苦・渇き無知・誤認罪・背き穢れ・不浄不調和・分断自我・執着不自由・作為無意味苦痛の量剥奪
インド系(沙門)
仏教(上座部)●
仏教(大乗)●
禅●
密教・チベット仏教●
仏教(浄土)●
仏教(日蓮)●
インド系(ヴェーダ)
ヒンドゥー(ヴェーダーンタ)●
ヒンドゥー(ギーター)●
インド系(沙門)
ジャイナ教●
インド系
シク教●
東アジア
儒教(原始)●
新儒教●
道家(老荘)●
道教●
神道●
修験道●
アブラハム系
ユダヤ教●
カバラ・ハシディズム●
キリスト教●
キリスト教観想的思想●
イスラム教●
スーフィズム●
古代地中海哲学
プラトン●
アリストテレス●
ストア派●
エピクロス派●
キュニコス派・ピュロン主義●
西洋近現代
功利主義●
カント●
ニーチェ●
実存主義●
プラグマティズム●
現代の徳倫理学●
ケイパビリティ・アプローチ●
世俗的人文主義●
アドラー(個人心理学)●
ユング(分析心理学)●
ポジティブ心理学1.0●
ポジティブ心理学2.0●
ポジティブ心理学3.0●
関係的・土着
Ubuntu●
アフリカ哲学の共同体主義●
先住民的世界観(総論)●
スマック・カウサイ●
マオリ●
アイヌ●
北米先住民(Hózhó/Mino-Bimaadiziwin)●

●=その思想が幸福の主要な対義語として置くもの。原語はCSV「何が幸福を妨げるか」列を参照

読み取れること
・「幸福の反対」が何かは、その思想が幸福を何だと考えているかを裏から示す。苦(インド沙門系・エピクロス派)、無知(ヒンドゥー(ヴェーダーンタ)・イスラム教・ストア派)、罪(一神教主流)、穢れ(ジャイナ・神道)、自我(仏教(大乗)・禅・シク・新儒教・観想〔静かに神や真理を見つめる祈り〕・スーフィズム)、不調和(儒教・土着思想すべて)、無意味(ニーチェ・実存主義)、剥奪(アリストテレス・ケイパビリティ)。
・土着思想7行がすべて「不調和・分断」に集まるのに対し、西洋近代は「無意味」「剥奪」「苦痛の量」に散る。幸福の反対を「関係の破れ」と見るか「個人の欠如」と見るかが、東西というより「関係的か個人的か」で分かれる。
・「自我・執着」を反対に置く8行は、幸福の障害が外にではなく自分の内にあると見る思想。介入は「取り除く」型になる。
はぴテックの二枚の地図 発達段階×ウェルビーイング統合マップ → この幸福観マップの姉妹版。あちらは「縦に5段階を貫く翻訳辞書」で、同じ言葉が段階ごとに別の意味で聞こえる(875行×5段階)。