世界の思想と宗教の幸福観マップ

← 17のマップ一覧

マップ9 実践形態——幸福に至るために何をするか

この地図の結論
幸福に至る実践は8形態あるが、現代の介入は「瞑想」と「制度」の二つに偏っている。瞑想・観想(静かに神や真理を見つめる祈り)は仏教系・ヒンドゥー(ヴェーダーンタ)・道家(老荘)・キリスト教観想的思想・スーフィズム・カバラ・ハシディズム・ストア派と宗教と哲学の境界をまたいで広がり、それゆえ世俗化されやすかった。一方、労働・日常を実践に組み込む思想(禅の作務〔禅寺での掃除・炊事などの労働。修行の一部〕、浄土教の念仏の日暮らし、ヒンドゥー(ギーター)の行為の道、シク教の kirat karṇī〔正直に働くこと〕、新儒教の事上磨錬〔日々の実務のなかで心を練る〕、カバラ・ハシディズムの日常の聖別)、儀礼・祭祀、共同体・対話、身体技法(道教・密教・チベット仏教・修験道)は、介入の語彙としてほとんど使われていない。
実務上の帰結:職場の幸福を扱うなら、「瞑想プログラムを入れる」より先に、労働そのものを実践の場と見なす思想と、共同体・儀礼を重視する思想の知恵を参照する余地が大きい。本マップの分類では、「制度・政策」を幸福実現の主要な実践形態として独立に置いたのは、西洋近現代の功利主義・ケイパビリティ・アプローチ(各人が実際に選べる生き方の幅で豊かさを測る立場)等に集中した(儒教(原始)の政治論やユダヤ法・イスラーム法のように制度を含む思想はあるが、それらは儀礼・共同体・戒律の一部として現れる)。
この地図の目盛りの定義

◎○△×の件数は「47の思想をこの見方で分類した内訳(=見方の多様さ)」であって、実証研究の裏づけや、思想の優劣を表すものではありません。

目盛り定義
瞑想・観想坐る・観る・唱えるなど、心を対象に向ける、あるいは向けないための訓練
儀礼・祭祀祭り・礼拝・祓い(穢れを取り除く儀礼)・護摩など、定められた作法によって神仏や共同体と関わる行為
戒律・規範してはならないこと・すべきことの体系(戒・律法・ミツヴォート〔律法の戒め〕)を守ること
労働・日常日々の仕事や暮らしそのものを実践の場とすること(作務、kirat karṇī、安息日)
学習・思索経典・古典の学習、哲学的な吟味、対話
共同体・対話共同体への参加、共食、対話、相互扶助そのものが実践であるもの
身体技法呼吸・体操・行・苦行など、身体に直接働きかける技法
制度・政策個人の実践ではなく、制度・政策・指標の設計によって幸福を実現しようとするもの
思想瞑想・観想儀礼・祭祀戒律・規範労働・日常学習・思索共同体・対話身体技法制度・政策
インド系(沙門)
仏教(上座部)●●●
仏教(大乗)●●●●
禅●●●
密教・チベット仏教●●●●
仏教(浄土)●●●
仏教(日蓮)●●●
インド系(ヴェーダ)
ヒンドゥー(ヴェーダーンタ)●●
ヒンドゥー(ギーター)●●●●
インド系(沙門)
ジャイナ教●●
インド系
シク教●●●
東アジア
儒教(原始)●●●
新儒教●●●
道家(老荘)●●
道教●●●
神道●●
修験道●●●●
アブラハム系
ユダヤ教●●●●
カバラ・ハシディズム●●●●
キリスト教●●●
キリスト教観想的思想●●●
イスラム教●●●
スーフィズム●●●●
古代地中海哲学
プラトン●
アリストテレス●●
ストア派●●
エピクロス派●●
キュニコス派・ピュロン主義●●
西洋近現代
功利主義●
カント●
ニーチェ●
実存主義●
プラグマティズム●●●
現代の徳倫理学●●
ケイパビリティ・アプローチ●
世俗的人文主義●●●
アドラー(個人心理学)●●
ユング(分析心理学)●●
ポジティブ心理学1.0●●
ポジティブ心理学2.0●●
ポジティブ心理学3.0●●●
関係的・土着
Ubuntu●●
アフリカ哲学の共同体主義●●
先住民的世界観(総論)●●
スマック・カウサイ●●●
マオリ●●●
アイヌ●●
北米先住民(Hózhó/Mino-Bimaadiziwin)●●

●=主要な実践形態(複数可)

読み取れること
・「瞑想・観想」は仏教系・ヒンドゥー(ヴェーダーンタ)・道家(老荘)・キリスト教観想的思想・スーフィズム・カバラ・ハシディズム・ストア派に広がり、宗教と哲学の境界をまたぐ。
・「労働・日常」を実践に組み込むのは禅(作務)・ヒンドゥー(ギーター:カルマヨーガ〔結果を求めず義務として行為する、ギーターが説く道〕)・シク教(kirat karṇī)・新儒教(事上磨錬〔日々の仕事のなかで心を磨くこと。陽明学〕)・カバラ・ハシディズム(avodah be-gashmiyut〔日常の労働や食事を神に仕える行いとすること〕)・プロテスタント(召命)。「働くこと自体が修行になる」思想は東西に散在する。
・「制度・政策」だけを実践形態とするのは功利主義とケイパビリティ(その人が実際に選べる生き方の幅)。個人の修行体系を持たない。
・「学習・思索」だけなのはプラトン・カント・ニーチェ・実存主義(フランクルを除く)。実践体系を持たないことが哲学的立場の帰結。
・土着思想は「儀礼+共同体」で揃う。個人が一人で行う実践がほぼない。
はぴテックの二枚の地図 発達段階×ウェルビーイング統合マップ → この幸福観マップの姉妹版。あちらは「縦に5段階を貫く翻訳辞書」で、同じ言葉が段階ごとに別の意味で聞こえる(875行×5段階)。