ウェルビーイングの調査・報告書

報告書・指針単発

第4期教育振興基本計画(「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」)

文部科学省(2023年6月16日閣議決定)

2023〜2027年度の国の教育政策で「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を柱に掲げた計画。
頻度・期間
単発(2023年)・例年6月ごろ発表
幸福の測り方
指標として「自分にはよいところがあると思う」「普段の生活の中で、幸せな気持ちになることがある」児童生徒の割合など

どんなレポートか

第4期教育振興基本計画は、文部科学省が取りまとめ、2023年6月16日に閣議決定された国の教育計画である。教育振興基本計画とは、教育基本法第17条第1項に基づいて政府が定め、国会に報告する計画で、2023(令和5)年度から2027(令和9)年度までの5年間の教育政策の方向を示す。計画は自らを、将来の予測が困難な時代に教育政策の進む方向を示す「羅針盤」と位置づけている。「学制」公布から150年の節目に策定され、変わらない使命(不易)と時代の要請(流行)を両立させる「不易流行」の考え方を基調にしている。最大の特徴は、「2040年以降の社会を見据えた持続可能な社会の創り手の育成」と並べて、「日本社会に根差したウェルビーイングの向上」を計画全体の総括的な基本方針(コンセプト)に掲げた点である。

何をどう測っているか

本計画は調査ではなく政策文書であり、自らデータを集めて測るものではない。構成は、Ⅰ 現状・課題・展望、Ⅱ 基本的な方針(2つのコンセプトと5つの基本的な方針)、Ⅲ 評価・指標と教育投資の在り方、Ⅳ 今後5年間の16の目標と基本施策・指標の4部からなる。5つの基本的な方針は、①グローバル化する社会の持続的な発展に向けて学び続ける人材の育成、②誰一人取り残されない共生社会の実現に向けた教育、③地域や家庭で共に学び支え合う社会、④教育デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進、⑤計画の実効性確保のための基盤整備・対話である。16の目標には「確かな学力」「豊かな心」「健やかな体」から「多様な教育ニーズへの対応と社会的包摂」「教育DX」までが並ぶ。目標ごとの指標の多くは、全国学力・学習状況調査(小6・中3対象の全国調査)の質問と同じ文言で、例えば「自分にはよいところがあると思う」「普段の生活の中で、幸せな気持ちになることがある」児童生徒の割合などであり、いずれも「割合の増加」という方向で示されている。計画は、ウェルビーイングの諸要素を教育で高めた結果として、特に子供たちの主観的な認識が変化したかについてエビデンスを集めることを求めている。

これまでの歩み

教育振興基本計画は、2006年の教育基本法改正を受けて2008年7月に初めて策定され、以後5年おきに改定されてきた。第1期(2008〜2012年度)は今後10年間を通じて目指すべき教育の姿を示し、第2期(2013〜2017年度)は「自立」「協働」「創造」を軸とする生涯学習社会の構築を掲げた。第3期(2018〜2022年度)は第2期の理念を引き継ぎつつ、「教育を通じて生涯にわたる一人一人の『可能性』と『チャンス』を最大化する」ことを基本方針とした。第4期は、第3期期間中の新型コロナウイルス感染症の感染拡大やロシアのウクライナ侵略を経て、初めて「ウェルビーイング」を総括的な方針の柱に据えた。第4期は「自立」「協働」「創造」を発展的に継承し、「自立」と「協働」を個別最適な学びと協働的な学びの一体的充実に、「創造」を主体的・対話的で深い学びに対応づけている。2026年(令和8年)8月21日には、第5期計画(2028〜2032年度)の策定が中央教育審議会に諮問され、その概要では、調和と協調を重視する「日本社会に根差したウェルビーイング」を基本とし、その更なる向上を図ることが引き続き掲げられている。

分かってきたこと

ウェルビーイングを個人と社会の両面から定義した

計画はウェルビーイングを「身体的・精神的・社会的に良い状態にあること」と定義し、短期的な幸福だけでなく、生きがいや人生の意義など将来にわたる持続的な幸福を含むとしている。また、個人だけでなく、個人を取り巻く場や地域、社会が持続的に良い状態であることまで含む包括的な概念だと述べる。その捉え方は国や地域の文化的・社会的背景や、一人一人の置かれた状況によって異なり得るとも明記している。背景として、OECDの「ラーニング・コンパス2030(学びの羅針盤2030)」が個人と社会のウェルビーイングを「私たちの望む未来」と位置づけていることを挙げる。

「獲得的要素」と「協調的要素」を一体で育むという日本発の考え方

計画によれば、ウェルビーイングの国際比較調査では自尊感情や自己効力感の高さが人生の幸福をもたらすという考え方が強調され、これは個人が獲得・達成する能力や状態(獲得的要素)を重視する欧米的な価値観に基づく側面がある。これに対し日本では、利他性、協働性、社会貢献意識など人とのつながり・関係性に基づく要素(協調的要素)が重要な意味を持つと計画は述べる。そのうえで両者を調和的・一体的に育む「日本発のウェルビーイング」を目指し、「調和と協調(Balance and Harmony)」の考え方を国際的に発信することも重要だとしている。ただし協調的幸福は「同調圧力」につながる、組織への帰属を前提とした閉じた協調ではなく、他者とのつながりの中で共創する基盤としての協調だと断っている。

11の要素を挙げ、子供の主観的認識の変化を見るよう求めた

計画は日本社会に根差したウェルビーイングの要素として、「幸福感(現在と将来、自分と周りの他者)」「学校や地域でのつながり」「協働性」「利他性」「多様性への理解」「サポートを受けられる環境」「社会貢献意識」「自己肯定感」「自己実現(達成感、キャリア意識など)」「心身の健康」「安全・安心な環境」を挙げる。これらを教育を通じて高め、その結果として特に子供たちの主観的な認識が変化したかについてエビデンスを集めることが求められるとしている。また、コロナ禍で機会が減った自然体験・社会体験・文化芸術などの体験活動を、自己肯定感や協調性、主観的幸福感などウェルビーイングの向上に資するものと位置づけ、その機会の充実を求めている。

学力と対立させず、個人の幸せをまず尊重する

計画は、ウェルビーイングと学力を対立的に捉えず、学力や学習環境、家庭環境、地域とのつながりを個人のウェルビーイングを支える要素とみて、環境整備の施策を講じる視点が重要だとする。社会情動的スキルやいわゆる非認知能力を育てる視点も重要だと述べる。さらに、組織や社会を優先して個人のウェルビーイングを犠牲にするのではなく、個人の幸せがまず尊重されるという前提に立つ必要があると明記している。学校で「みんなで同じことを、同じように」することが過度に求められ「同調圧力」を感じる子供が増えてきたという指摘にも触れ、異なる立場の人々が混ざり合い学び合うことの重要性を説いている。

教師と学校のすべての構成員のウェルビーイングも対象にした

計画は、子供たちのウェルビーイングを高めるには教師のウェルビーイングの確保が必要であり、学校が教師のウェルビーイングを高める場となることが重要だとする。そのために、子供の成長実感、保護者や地域との信頼関係、職場の心理的安全性、良好な労働環境などが求められると述べる。職員や支援人材など学校の全ての構成員も対象に含め、こうした状態が学習者のウェルビーイングの基盤となり、家庭や地域にも広がるという循環を描いている。背景には、第3期期間中も長時間勤務の教職員が多いことや、採用倍率の低下・教師不足といった課題があると計画は記している。

日本の結果

本計画そのものが日本の国の教育計画であり、ウェルビーイングを日本の文化的背景に即して捉え直そうとしている点に特徴がある。計画は、国際比較調査では日本を含むアジアの文化圏の子供や成人のウェルビーイングが低いという傾向が報告されることがあると認めたうえで、日本では協調的要素が重要な意味を持つと述べている。現状認識としては、いじめの重大事態の発生件数や児童生徒の自殺者数が増加傾向にあり、不登校児童生徒数も増えていること、生産年齢人口(15〜64歳)が2050年には現在の2/3に減ると推計されていることを挙げる。指標に対応する全国学力・学習状況調査の2026年度結果では、「自分には、よいところがあると思う」が小6で85.6%・中3で84.0%、「普段の生活の中で幸せな気持ちになる」が小6で92.4%・中3で91.0%である。

どう読む・どう使う

教育基本法は、地方公共団体が国の計画を参酌して地域の実情に応じた教育振興基本計画を定めるよう努めると規定しており、本計画は都道府県や市町村が自らの計画や教育大綱を作る際の土台として使われる。研究や政策評価の場面では、目標ごとの指標が全国学力・学習状況調査の質問と同じ文言で設定されているため、同調査の結果を計画の進み具合を見る材料として読むことができる。学校現場では、子供のウェルビーイングを学力と対立させない考え方や、教師自身のウェルビーイングを重視する視点が、学校運営や働き方を見直す手がかりになる。文部科学省は、中央教育審議会委員の内田由紀子氏による「計画ポイント解説~ウェルビーイング編~」などの解説動画や、各地域の取組を紹介する「地域発!教育振興基本計画×実践事例レポート」を公開しており、研修や授業でも活用できる。

読むときの注意

本計画は政策文書であって調査報告ではなく、計画の中にウェルビーイングの測定結果が示されているわけではない。指標は具体的な目標値ではなく「割合の増加」という方向で示されているため、達成度を読む際には全国学力・学習状況調査など別の調査結果と照らし合わせる必要がある。体験活動がウェルビーイングの向上に資するといった記述は計画としての位置づけであり、計画自体が因果関係を検証したものではない。「協調的幸福」は同調圧力につながる閉じた協調ではないと本文で断っている点も、読み落とさないことが重要である。

確認日:2026-10-07。URL・数字は公式の資料で確かめたものです。解説は、公式ページと報告書本文に書かれていることだけをもとにAIが書き、数字が元資料にあることを照合しています。

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