どんな調査か
EU所得・生活条件統計(EU Statistics on Income and Living Conditions、EU-SILC)は、ユーロスタット(Eurostat、EU統計局)がまとめ、加盟各国の統計局が実施する、EUの所得と暮らしについての公式統計である。この調査の中で、16歳以上の人に生活全体への満足度を0〜10で尋ねている。背景には、生活の質は国の経済的な産出や生活水準だけでは測れず、仕事、健康、人間関係、安全、統治なども含むという考え方がある。ユーロスタットは、市民のウェルビーイング(よく生きている状態)を確保することをEUの主要な目標と位置づけ、経済指標を生活の質の指標で補う枠組みを整えてきた。ウェルビーイングを扱う特別モジュール(追加の質問群)は2013年と2018年に行われ、2022年からは6年ごとの定期モジュールになった。現在、生活満足度は毎年の中核調査で尋ねられ、EUの「生活の質指標」の総合指標になっている。
何をどう測っているか
中心となる質問は「全体として、最近の生活にどのくらい満足していますか」で、0(まったく満足していない)〜10(完全に満足している)で答える。ウェルビーイング・モジュールの年(2013・2018・2022年)には、生活の意味、幸せや落ち込みといった感情をどのくらいの頻度で感じるか、仕事や人間関係などの領域別の満足度もあわせて尋ねた。調査は毎年の横断調査で、毎年別の人の集まりを対象にその時点の状態を測る。所得・学歴・健康などの項目と同じ調査で集めるため、それらと組み合わせて分析できるのが特徴である。2021年に施行された「統合欧州社会統計(IESS)規則」により、EU-SILCは労働力調査(EU-LFS)や家計予算調査(HBS)とともに一つの法的枠組みにまとめられた。この規則のもとで生活満足度と他者への信頼は毎年集められ、ウェルビーイングや社会関係・社会参加の情報は多くの項目で6年ごと、一部は3年ごとに集められる。8か国は任意で生活満足度の四半期データも集めており、結果は「生活条件:四半期統計」の記事で公表されている。
これまでの歩み
出発点は2008年のスティグリッツ・セン・フィトゥシ委員会報告で、生活満足度に寄与する条件を多面的に測る生活の質指標の開発を勧告した。2012年に統計の作り手・使い手などからなる専門家グループが設けられ、既存のデータを整理して最初の指標群を作り、2014〜2015年に最初の生活の質指標が公表された。2013年に実施した主観的ウェルビーイングの特別モジュールの結果は2015年に公表された。2016年には、生活の質の枠組みの変数を使って主観的ウェルビーイングの違いを多変量回帰分析(複数の要因を同時に考慮する統計手法)で説明しようとする分析報告と、枠組みと総合指標を示した専門家グループの最終報告が出た。2018年には再び主観的ウェルビーイングの特別モジュールを30か国(EU28か国+ノルウェー・スイス)で実施した。2021年のIESS規則以降は生活満足度が毎年の項目となり、2022年はウェルビーイング・モジュールの年として生活満足度のEU平均7.1が公表され、2023年は7.3、2024年は7.2と続いた。
分かってきたこと
EUの多くの人は「満足」の側にいる
生活満足度のEU平均は2022年が10点中7.1、2023年が7.3、2024年が7.2で、いずれも7点台である。2022年はブルガリアを除くすべての国で平均が6を上回り、記事はEUの多くの人が「不満」よりも「満足」の側にいると述べている。2024年には全加盟国が6を上回った。
国による差と、上位・下位の顔ぶれ
2022年の首位はオーストリア(7.9)、最下位はブルガリア(5.6)で、27か国中18か国がEU平均と同じかそれを上回った。2023年の首位はフィンランドの7.8、最下位はブルガリアの5.9で、27か国中15か国がEU平均以上だった。2024年も首位はフィンランドの7.8、最低はブルガリアの6.2である。最下位のブルガリアの値は5.6、5.9、6.2と3年続けて上がっている。
属性による違いも示されている
2024年データの記事は、国別の平均だけでなく、年齢、学歴、世帯構成、所得による生活満足度の違いも示している。EU-SILCは所得や学歴、健康と同じ調査で生活満足度を尋ねるため、こうした集団ごとの比較ができる。2016年の分析報告は、生活の質の枠組みに含まれる様々な変数で主観的ウェルビーイングの違いを説明しようと試みている。
生活満足度は「8+1次元」の要となる指標
専門家グループは、EUの生活の質指標を「8+1次元」で整理するよう勧告した。8次元は物質的な生活条件、生産的・主要な活動(仕事など)、健康、教育、余暇と社会的交流、経済的・身体的安全、統治と基本的権利、自然・生活環境で、人が自分の価値観に沿ってウェルビーイングを追求できる力に関わる。残る1つの「人生の全体的な経験」は、生活満足度、感情、生活の意味と目的という本人の受け止め方を扱い、生活満足度はその総合指標である。
出発点はGDP中心の測り方への問題提起
スティグリッツ・セン・フィトゥシ委員会報告は、測定の重点を経済の生産から人々のウェルビーイングへ移す時期が来ていると結論づけている。報告は、GDPと人々の実感の間に大きな隔たりがあり、社会のウェルビーイングはひとつの指標では要約できないため、測定の仕組みは複数の指標を含むべきだとしている。例として、家計の実質可処分所得がGDPの伸びと一致しない国にイタリア、日本、韓国、ポーランド、スロバキア、ドイツを挙げている。