どんな調査か
ラティノバロメトロ(Latinobarómetro)は、チリ・サンティアゴの非営利団体ラティノバロメトロ協会(Corporación Latinobarómetro)が1995年から続けている、中南米の代表的な世論調査である。毎年18か国で約2万人に面接し、6億人を超える住民を代表する形で、人々の態度・価値観・行動を測っている。目的は、民主主義・経済・社会の移り変わりを追うことである。中心となるテーマは、民主主義への支持、政府や制度への信頼、経済の見通しである。あわせて「幸福(El Bienestar)」の章で生活満足度も示している。2026年版は「自由民主主義の危機?(¿La crisis de la democracia liberal?)」と題し、2026年10月2日に公表された。
何をどう測っているか
2026年調査は、2026年5月7日から6月17日にかけて中南米17か国で実施した対面の聞き取り調査で、回答者は1万9,207人である。各国の標本は18歳以上の人口を代表するように抽出している。南米諸国とメキシコでは1,200人、中米諸国とドミニカ共和国では1,000人に聞いた。ニカラグアは調査員の安全を確保できないため、2020年以降は調査していない。誤差の幅は、各国の標本で3%、全体で1%である。生活満足度は「とても満足/まあ満足/あまり満足していない/まったく満足していない」の4段階で尋ね、「とても」と「まあ」を合わせた割合を「満足している人」として示す。調査は世界各地の世論調査をつなぐグローバル・バロメーター(Global Barometer)網の一員で、1995〜2026年の31年間に18か国で合計53万件の面接を重ねてきた。
これまでの歩み
2023年版はパンデミック後初めての調査で、表題は「ラテンアメリカの民主主義の後退」である。民主主義への支持の低さ、権威主義を好む態度、政府の実績の崩壊、政党のイメージ低下などを挙げ、10年にわたる民主主義の劣化を総括した。汚職で有罪となった大統領、任期途中の退任、再選ルールの書き換えといった大統領職の問題も、人名と件数で示している。2024年版は「しなやかな民主主義」と題し、民主主義の支持が4ポイント上がって52%となり、2010年から続いた悪化が反転したと報告した。同じ号では、家計の先行きへの楽観が過去最高を記録し、市場経済を支持する人も増えた。2026年版は、2024年に回復した52%の水準が維持されたことを確認した。そのうえで、2024年以降の選挙で相次いだ政権交代と右派政権の広がりを大きく扱っている。報告書が毎年、生活満足度の章を設けるとは限らない。2023年版は民主主義への満足が中心である。
分かってきたこと
民主主義への支持は最悪期を脱した
30年間で民主主義の支持が最も低かったのは2018〜2023年で、48%と49%にとどまった。報告書は、この時期がパンデミック(2020〜2023年)や、2010年代末の経済の不振と重なると述べる。2019年にはコロンビア、チリ、エクアドルで社会的な暴動も起きた。支持は2023年の48%から2024年に52%へ回復し、2026年もこの水準が確認された。報告書は、米国とイランの戦争やトランプ政権の誕生といった世界の出来事は、中南米の経済には響いても、民主主義の支持には響いていないと見ている。
国ごとの差が大きく、地域の平均だけでは語れない
2026年に民主主義の支持が最も高いのはアルゼンチンの73%である。ウルグアイが64%、コスタリカとチリが63%で続く。ベネズエラも63%だが、独裁体制の国でこの数字が出ることを、報告書は逆説的と記している。最も低いのはグアテマラの35%で、ブラジル41%、ホンジュラス42%、エクアドル43%と続く。上位と下位の差は約20ポイントあり、報告書は「ラテンアメリカの民主主義」とひとまとめにせず、国や国のまとまりごとに語るべきだとしている。
政権交代と「実利の一票」
2024年以降、12回の大統領選挙で7回の政権交代が起き、2年足らずのうちに11か国で右派が政権を握った。報告書は、これはイデオロギーによる選択ではなく、「結果を出す政府」を求める実利的な選択だと結論づけている。左派から極右への大きな交代があった国では、民主主義の支持が上がった。上げ幅はコロンビア10ポイント、ペルー9ポイント、チリ2ポイントで、ホンジュラスも6ポイント上がった。一方、ボリビア(−2)、ウルグアイ(−6)、パナマ(−9)では交代後に支持が下がっている。
エルサルバドルと汚職の問題
エルサルバドルは、1995年の測定開始以来、中南米で最も低い民主主義支持を記録した国である。支持は2009年の68%から2018年には28%まで落ちた。ブケレ大統領の当選後、2020年には46%に上がっている。報告書は、この国はもはや民主主義ではないと述べる。また、汚職の告発や有罪判決を受けていても大統領に選ばれる例がある(パナマ、ペルー、ホンジュラス)と指摘する。汚職対策が進んでいると感じる人は、30年を通じておおむね3分の1にとどまる。
悲観の中でも、自分の生活には満足
2026年調査で生活に「とても満足」または「まあ満足」と答えた人は78%で、2024年の79%とほぼ同じである。2003年の73%と比べても大きくは変わっていない。報告書は、国や世界の状況を悲観しながらも自分の生活には満足しているという「逆説」を強調している。国別では、最も高いのがコスタリカの90%、最も低いのがボリビアの61%である。