任運自在
運(はこび)に任せて自在。流れに逆らわず、しかし流されるのでもなく、おのずからなる動きに身を委ねること。
出典の物語
「任運(にんぬん)」とは、ものごとの自然な運び(流れ)に任せること。禅の本によく出てくる言葉で、臨済は「縁に従って過去の行いを消していき、成り行きのままに服を着る」と語っている。そこには「どう生きるべきか」という気負いがない。「自在」は、何にも邪魔されず自由であること。観音さまのことを「観自在菩薩」と呼ぶように、仏教では迷いや執着に縛られない状態を「自在」という。二つ合わせて「任運自在」は、流れに逆らわず、しかし流されるのでもなく、おのずからなる動きに身を委ねることをいう。「なるようになる」という投げやりとは違う。流れをよく見て、その流れに乗りきった人の動きは、はた目には何の努力もしていないように見えるが、実はいちばん的確なのである。老子や荘子の「無為自然(むいしぜん)」という考え方とも通じ合い、禅が中国で老荘思想と出会った跡を残す言葉でもある。
出典:『臨済録』『景徳伝灯録』ほか(「任運」は禅籍に頻出)
ウェルビーイング研究とのつながり
状況を自分の思いどおりに変えようとする「一次的コントロール」に対し、変えられない状況に自分を合わせる「二次的コントロール」という概念がある(Rothbaum, Weisz & Snyder, 1982)。この研究の続編では、日本では二次的コントロールが広く価値を置かれ、精神的な健康を支えていることが論じられた(Weisz, Rothbaum & Blackburn, 1984)。変えられないものを受け入れ、変えられるものに関与する姿勢が回復力を高めるというACTの知見(Hayes et al., 2006)とあわせ、「任運自在」は二次的コントロールの東洋的な表現である。
現代の暮らし・仕事への示唆
計画どおりに進まないと腹を立て、思いどおりに動かない人に苛立つ。しかし世界は自分の計画のために動いてはいない。任運自在は、コントロールできないものをコントロールしようとする消耗から降りる知恵である。心理学の研究でも、変えられないことを受け入れる「受容」と、変えられることに注力する「関与」の組み合わせが、幸福感と回復力を高める。川を泳ぐとき、流れに逆らえば溺れ、流されるままなら岩に当たる。流れを読んで、流れの力を借りて進む。それが任運自在の泳ぎ方だ。
決まった長さを置かずに、流れにまかせて区切る進み方を「任運」と名づけています。
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