一切衆生 悉有仏性
生きとし生けるものは、ことごとく仏性をもっている。誰の中にも、仏となる種子がある。道元はこれを「悉有は仏性なり」と読み替えた。
出典の物語
『涅槃経(ねはんぎょう)』というお経の有名な一節で、「生きとし生けるものは、みな仏性(ぶっしょう)を持っている」という意味である。仏性とは、仏になる可能性のこと。この考え方は大乗仏教の根っこにあり、禅にとっても「この心がそのまま仏」「本来の面目」といった言葉の土台になった。趙州が「犬に仏性はあるか」と問われて「無」と答えたのも、このお経の言葉を前提にした問いである。道元はこの一節を、『正法眼蔵』の「仏性」という章で、驚くような読み替えによって深めた。ふつうは「すべての生き物は、仏性を持っている」と読んで、生き物が仏性という何かを「持っている」と考える。道元はこれを「すべては生き物であり、『ことごとく有る』ということ自体が仏性である」と読んだ。仏性は、生き物の中にしまわれた種ではなく、「ある」ということそのもの、存在そのものである。だから草や木も山や川も仏性であり、仏性は「将来仏になる可能性」ではなく、今ここに全部現れている。この章は『正法眼蔵』の中でもいちばん難しく、いちばん独創的な章の一つとされる。
出典:『大般涅槃経』/道元『正法眼蔵』「仏性」巻
ウェルビーイング研究とのつながり
教師が「この子は伸びる」と信じると、実際にその子の成績が伸びるという「ピグマリオン効果」は、古典的な実験で示された(Rosenthal & Jacobson, 1968)。その後の研究では、効果の大きさは当初の報告より小さく、条件に依存するが、期待が低く見積もられている子どもに対しては効果が確かに存在することが確認されている(Jussim & Harber, 2005)。「誰の中にも仏性がある」という人間観は、教える側の期待を通して、相手の現実を変える力を持つ。
現代の暮らし・仕事への示唆
人を見るとき、「この人には可能性がある」「この人は無理だ」と選別していないか。悉有仏性は、その選別を根本から拒む。誰の中にも、例外なく、仏性がある。これは楽観主義ではなく、人間観の問題である。教育研究で知られる「ピグマリオン効果」、つまり教師が子どもの可能性を信じると実際に成績が伸びる現象は、この人間観が現実を変える力を持つことを示している。そして道元の読み替えに従えば、仏性は「可能性」ですらなく、今ここにいるその人がすでにそれである。問題を抱えた部下も、反抗期の子どもも、仏性の現れとして見る。見方が変われば、関わり方が変わり、相手が変わる。
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