どんなレポートか
本報告書は、内閣府経済社会総合研究所が開いた有識者の「幸福度に関する研究会」(座長:山内直人・大阪大学大学院教授)が、2011年(平成23年)12月5日にまとめた幸福度指標の試案である。研究会は、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」に盛り込まれた、新しい成長と幸福度に関する調査研究を進めるために設けられた。報告書のいう「幸福度指標」とは、個々人が感じる幸福感と、それを支えるさまざまな要因を、地域や時系列で比べられるようにした物差しであり、評価の道具である。背景には二つの事情がある。一つは、GDPを超える指標づくりが欧州、北米、オセアニア、アジアで進んでいるという国際的な動きである。もう一つは、日本では所得が増えても主観的幸福感が低いという課題である。研究会の開催中に東日本大震災が起きたため、報告書は震災後の政策立案に指標が役立つことも願いとして掲げている。
何をどう測っているか
指標の体系は、主観的幸福感を頂点に置き、その下に「経済社会状況」「心身の健康」「関係性」の3本の柱を立てる形をとる。将来世代の幸福を犠牲にしないという観点から、「持続可能性」は3本柱とは別建てにした。主観的幸福感には、主観的幸福感、理想の幸福感、将来の幸福感、人並み感、感情経験、世帯内幸福度格差の6つを含める。指標の数は、経済社会状況が56(基本的ニーズ14、住環境9、子育て・教育13、仕事15、制度5)、心身の健康が21(身体的健康5、精神的健康9、身体・精神共通7)、関係性が33(ライフスタイル7、個人・家族のつながり8、地域・社会とのつながり13、自然とのつながり5)である。各指標は「子ども・若者」「成人」「高齢者」(80歳前後で区切る)と「個人・世帯・地域」に分けて選んでいる。例として、子どもの貧困率、望まない非正規雇用率、制度への信頼(政府)、自殺死亡者数、健康自己評価、孤独を感じる子どもの割合、有給休暇取得率、自然への畏敬などが挙がる。持続可能性は第三次環境基本計画などから選び、温室効果ガス排出量、エコロジカル・フットプリント(人間の活動が地球環境に与える負荷を面積で表す指標)、フェアトレード商品購入量、CSR報告書を作成している企業数などを採用した。
これまでの歩み
研究会は2010年12月22日に初会合を開き、2012年9月28日の第7回まで開催された。本報告書は第4回(2011年8月29日)までの議論をもとに、2011年12月にまとめられた。報告書は、政府がこれまで作ってきた社会指標(SI)、国民生活指標(NSI)、新国民生活指標(PLI)、暮らしの構造改革指標の4つと自らを比べている。過去の指標は生活の活動領域ごとに体系化し、既存の統計だけから指標を選び、変化率を標準化して一つの統合指標にまとめていた。これに対して今回の試案は、主観的幸福感を中心に据え、既存統計で把握できない指標も必要なら含め、指標どうしの重なりを明らかにし、統合指標は作らないという点で異なる。報告書は試案を「指標化の出発点」と位置づけ、今後は内閣府経済社会総合研究所が世帯ごとの幸福度パネルデータ(同じ世帯を繰り返し追う調査データ)を数年程度、試験的に集め、試案の政策的な有効性を検証すべきだと結んでいる。
分かってきたこと
幸福感の判断で重視されるのは家族・健康・家計
内閣府「国民生活選好度調査」の平成21年度と22年度の結果では、幸福感を判断する際に重視した事項の上位に「家族」「健康」「家計(所得・消費)」「精神的ゆとり(または自由時間)」が入っている。報告書はこの調査結果と国内外の研究成果をもとに、3本柱を決めた。なお、両年度で選択肢の一部が変わっている。
重視する項目はライフステージで大きく異なる
平成22年度の調査では、男性の10代後半と20代前半は「友人」を最も重要とし、「精神的ゆとり」が3番目に入る。男性の20代後半から50代前半は「家計」または「家族」が最も重要で、50代後半以上では「健康」が最も重要になる。女性は10代後半が「友人」、20代前半から30代後半が「家族」、40代前半以上が「健康」を最も重要としており、「家計」を最も重要とした年代はない。この結果から、報告書はライフステージごとに指標を選ぶ方針をとった。
一つの数字にまとめない理由
報告書は、指標の目的を日本社会の良い点と悪い点を明らかにすることに置いている。そのため、一つの数字にまとめると、分野ごとの特徴が隠れてしまうと判断した。フランスのスティグリッツ委員会も、統合指標には四つの欠点があるとして反対している。悪化している点が見えなくなる、重み付けが必要になる、変化の解釈が別に必要になる、価値観が違う中で国際比較に向かない、の四つである。報告書は指標を「社会状況の診断書」として使い、指標ごとに良し悪しを判断する方が望ましいとしている。
リスクの重なりを把握する
報告書は、各指標から、複数のリスクを同時に抱える個人や世帯を明らかにすることを重視している。たとえば、経済社会状態が劣悪で、本人や家族が健康を害し、人間関係も切れている世帯がどれだけいるかという事実である。こうした重なりがどの属性の人々に偏っているかを示すことが、一人ひとりを包み込む社会づくりにつながると述べている。
幸せの要因が望ましいとは限らない
報告書は、いま幸せをもたらしている要因が社会的に望ましいものかどうかは、検討が欠かせないと指摘する。たとえば、劣悪な住環境に住むしかない人が、その状況を受け入れて理想を下げることがある(センの議論)。また、今後も同じ要因が幸福感に影響し続けるとは限らない。そのため報告書は、採用する指標を固定せず、絶えず見直す必要があるとしている。