幸せの名言集
読む はじめに 名言を探す やってみよう ありがとう なんとかなる ありのままに その他 人物 出典と作り方 引用文献 研究から見ると
自分の人生を全体としてどれくらい良いと評価しているか(認知的評価=生活満足)と、日々の感情の良し悪し(感情的評価)を合わせた主観的な幸福。
人として良く機能している状態としての幸福。自己受容・人間関係・自律性・環境制御・人生の目的・人格的成長(Ryffの6次元)など。
「世界の主要ウェルビーイング研究」の概念と代表的な論文です。名言の内容が実証されているという意味ではありません。
「幸福とは、徳に基づく魂の活動である」 Happiness is an activity of the soul in accordance with virtue.
— アリストテレス 『ニコマコス倫理学』
幸福(エウダイモニア)とは、快い気分のことではなく、人間の優れた能力(徳)を発揮して生きる「活動」そのものだ、という定義。よい演奏をしている最中の音楽家のように、よく生きている状態そのものが幸福だとする
心理学では この言葉は、心理学でいうエウダイモニア的幸福(自分の長所を発揮して生きることによる充実)の定義である。Waterman(1993)は学生を対象とした相関研究で、自分の最良の力を使っていると感じる活動ほど、「これこそ自分だ」という手応えと結びつくことを示した。Huta & Ryan(2010)の介入研究では、成長や卓越を意識して数日間過ごした人は、楽しさを優先した人に比べて、時間がたってからの充実感がより高まった。ただし疲れた時期は、気晴らしの楽しみと組み合わせるとよい。結果よりも「いま自分の力を丁寧に使えているか」に目を向けることが、毎日の充実につながる。 参考:Waterman(1993)「Two conceptions of happiness: Cont…」 /Huta & Ryan(2010)「Pursuing Pleasure or Virtue: The D…」 人物 古代ギリシャの哲学者(BC384-322) 「幸福は、常にそれ自体のために望まれ、決して他のもののために望まれることのない唯一のものである」 Happiness is desirable in itself and never for the sake of something else.
— アリストテレス 『ニコマコス倫理学』第1巻
幸福はすべての目的の最終地点にある
心理学では アリストテレスのいう幸福は、心理学の言葉でいえば、ほかの目標をすべて束ねる「最終目標」(それ以上「何のために」と問えない、目的そのものとしての価値)にあたる。King & Napa(1998)は、大学生と一般の成人に架空の人物の人生を評価してもらう実験を行った。その結果、人々は「良い人生」を判断するときに幸福と人生の意味を重く見ており、富はそれほど重視しないことが分かった。また、Ryanら(2008)は自己決定理論(人の基本的な欲求から動機を説明する理論)の立場からエウダイモニア(よく生きること)を論じた。そこでは、富や名声といった外発的な目標よりも、成長やつながりといった内発的な目標を追う生き方が、よく生きることにつながると整理されている。日々の目標に「それは何のためか」と問いを重ねていくと、自分にとって本当に大切なものが見えてくる。 参考:King & Napa(1998)「What makes a life good?」 /Ryanら(2008)「Communion revisited: A self-determ…」 ↗ 人物 古代ギリシャの哲学者(BC384-322) 「一羽のツバメが春を作るのではない。同様に、一日や短い時間が人を至福にするのでもない」 One swallow does not make a summer, neither does one fine day.
— アリストテレス 『ニコマコス倫理学』第1巻
幸福は瞬間ではなく、生涯の営みとして評価される
心理学では この言葉は、幸福研究でいう「人生評価」(人生全体を振り返っての満足)と「感情的幸福」(その時々の喜びや気分)の区別を先取りしている。Kahneman & Deaton(2010)は米国の大規模調査を分析し、収入が両者とそれぞれ異なる形で関連することを示した。そして、この二つが幸福の別々の側面であることを明らかにした。Stegerら(2008)は大学生を対象とした日誌研究で、人を助ける、目標に励むといったエウダイモニックな行動(意味や成長を目指す行い)が多い日ほど、人生の意味や満足が高いことを見いだした。さらに、そうした行動は翌日の意味の感覚とも関連していたと報告している。楽しい一日に一喜一憂せず、価値ある行いを日々積み重ねることが、人生全体の手応えにつながる。 参考:Kahneman & Deaton(2010)「High income improves evaluation of…」 /Stegerら(2008)「Being good by doing good: Daily eu…」 ↗ 人物 古代ギリシャの哲学者(BC384-322) 「幸福とは、理性の理想ではなく、想像力の理想である」 Happiness is not an ideal of reason, but of imagination.
— イマヌエル・カント 『道徳形而上学の基礎づけ』(1785)
幸福の中身は人によって異なり、確定できない
心理学では カントの言う「想像力の理想」は、心理学でいう感情予測(ある出来事で自分がどう感じるかを前もって思い描くこと)の不確かさと重なる。Gilbertら(1998)は、終身在職権の審査を控えた若手大学教員と、審査を終えた元教員を比べた研究などで、人は望まない結果の後に落ち込みが続く期間を実際より長く見積もることを示した。また、Gilbertら(2009)の実験では、相手のプロフィールを詳しく知るよりも、同じ体験をした他者の感想を聞くほうが、自分がどれだけ楽しめるかを正確に予測できた。幸福は頭の中の計算だけでは描ききれない。大きな選択の前には、すでにその道を歩んだ人の実感に耳を傾けることが助けになる。 参考:Gilbertら(1998)「Immune neglect: A source of durabi…」 ↗ /Gilbertら(2009)「The Surprising Power of Neighborly…」 ↗ 人物 ドイツの哲学者(1724-1804) 「幸福な生とは、自己の自然(本性)に一致した生である」 The happy life is a life that is in harmony with its own nature.
— セネカ 『幸福な生について』
自分の本性に沿って生きることが幸福の条件
心理学では セネカの言う「本性に一致した生」は、心理学でいう本来性(オーセンティシティ:本当の自分に沿って感じ、行動すること)やエウダイモニア(自分らしさを生かして生きる充実感)に近い。Waterman(1993)は大学生を対象にした質問紙研究で、「これこそ自分だ」と感じられる活動ほど、単なる楽しさとは異なる深い充実感と結びつくことを示した。Sheldonら(1997)も役割ごとの性格を調べ、役割が変わっても性格が大きく揺れず、本来の自分でいられる人ほど主観的幸福感が高いと報告している。「いまの自分は自分らしいか」と時々問い、その感覚が強まる活動や人間関係に時間を割くことが幸福への近道になる。 参考:Waterman(1993)「Two conceptions of happiness: Cont…」 /Sheldonら(1997)「Trait self and true self: Cross-ro…」 人物 古代ローマのストア派哲学者(BC4頃-AD65) 「快とは、身体に苦痛がなく、魂に動揺がないことである」 Pleasure is the absence of pain in the body and of trouble in the soul.
— エピクロス 『メノイケウス宛の手紙』
快楽主義の祖が定義した快は「平静」だった
心理学では エピクロスの言う快は、心理学でいえば興奮をともなう快ではなく、穏やかな落ち着き(低覚醒のポジティブ感情)や「心の平安」(内面の調和と安らぎ)に近い。Leeら(2013)は、台湾の大学生などを対象に心の平安を測る尺度を作った。そして相関研究によって、心の平安が高い人ほど幸福感が高く、穏やかな快の感情を感じやすいことを示した。またDienerら(1991)は、幸福感は強烈な喜びの大きさよりも、ほどよい快を感じる頻度と強く結びつくことを報告している。刺激的な楽しみを足していくより、睡眠や体調を整え、心配の種を一つずつ減らす。それが日々の満ち足りた感覚につながる。 参考:Leeら(2013)「The Construct and Measurement of P…」 ↗ /Dienerら(1991)「Happiness is the frequency, not th…」 人物 古代ギリシャの哲学者(BC341-270) 「人間の生活の最も幸福な時間は、仕事に没頭している時間である」 — カール・ヒルティ 『幸福論』(1891)
没頭できる仕事の中にこそ幸福が宿る
心理学では ヒルティの言う「仕事への没頭」は、心理学でいうフロー(挑戦と能力がつり合い、時間を忘れて活動に入り込んでいる状態)にあたる。Csikszentmihalyi & LeFevre(1989)は、働く人に一日に何度も合図を送り、その時の活動と気分を記録してもらう研究(経験サンプリング法)を行った。その結果、フローは余暇よりも仕事中に多く生じ、フローの最中ほど集中や満足、前向きな気分が高かった。幸福は休息の中だけでなく、打ち込む時間の中にも宿るのである。少し背伸びした目標を立て、通知を切って一つの作業に向き合う時間をつくることが、没頭の幸福につながる。 参考:Csikszentmihalyi & LeFevre(1989)「Optimal experience in work and lei…」 ↗ 人物 スイスの法学者・思想家(1833-1909)。三大幸福論の一人 「幸福な人とは、客観的な生き方をし、自由な愛情と広い興味を持つ人である」 The happy man is the man who lives objectively, who has free affections and wide interests.
— バートランド・ラッセル 『幸福論』(1930)結論部
自己没入から抜け出し、外界への興味と愛情を持つこと
心理学では ラッセルの言う「客観的な生き方」は、心理学でいう自己注目(自分の内面や欠点ばかりに注意を向けること)から離れ、外の世界へ注意を向ける姿勢にあたる。Mor & Winquist(2002)は多数の研究を統合したメタ分析で、自己注目が強い人ほど抑うつや不安などの否定的な感情が強いことを示した。一方、Kashdan & Steger(2007)は大学生に日々の記録をつけてもらう研究で、好奇心(新しい物事への関心)が強い人ほど、また好奇心を感じた日ほど、人生の意味や満足感が高いことを見いだした。自分のことで頭がいっぱいになったときこそ、身近な人や物事へ関心と愛情を向け直すことが、心を軽くする助けになる。 参考:Mor & Winquist(2002)「Self-focused attention and negativ…」 ↗ /Kashdan & Steger(2007)「Curiosity and pathways to well-bei…」 人物 英国の哲学者・数学者(1872-1970)。ノーベル文学賞 「幸福な家庭はどれも似ているが、不幸な家庭はそれぞれに不幸である」 All happy families are alike; each unhappy family is unhappy in its own way.
— レフ・トルストイ 『アンナ・カレーニナ』(1877)冒頭
世界文学で最も有名な書き出しの一つ
幸福には共通の条件があり、不幸の形は多様である
心理学では この名言は、幸福には欠かせない共通条件があり、一つ欠けても崩れるという構造(アンナ・カレーニナの原則)と、悪い経験ほど細かく枝分かれする性質(ネガティブ分化)を言い当てている。Diener & Seligman(2002)は大学生を対象とした調査で、とても幸福な人々がみな良好な人間関係をもっていたことを示し、それを幸福の必要条件に近いものと位置づけた。またRozin & Royzman(2001)は多くの研究を概観し、悪い出来事や感情は良いものより多様で、細かく区別されやすいと論じた。家庭や職場がぎくしゃくしたときは、個々の不満を追うより、信頼や対話といった土台の条件がそろっているかを点検することが立て直しの助けになる。 参考:Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 /Rozin & Royzman(2001)「Negativity Bias, Negativity Domina…」 ↗ 人物 ロシアの作家(1828-1910) 「この世の子らの最高の幸福は、人格である」 Höchstes Glück der Erdenkinder sei nur die Persönlichkeit.
— ゲーテ 『西東詩集』(1819)
独語原文
何を持つかではなく、何者であるかが幸福を決める
心理学では ゲーテのいう「人格」は、心理学でいう性格の強み(感謝・好奇心・希望など、その人らしさをつくる望ましい特性)にあたる。持ち味を生かして生きるエウダイモニア(充実した生き方としての幸福)の考え方とも重なる。Parkら(2004)は成人への大規模調査で、希望・熱意・感謝・愛情・好奇心の強みが高い人ほど生活満足度が高いことを示した。Seligmanら(2005)の実験では、自分の上位の強みを新しいやり方で使う課題を1週間続けた人で、幸福感の高まりが半年後まで続いた。自分の強みを知り、仕事や人間関係で意識して使うことが、日々の幸福を育てる土台になる。 参考:Parkら(2004)「Strengths of Character and Well-Be…」 /Seligmanら(2005)「Positive Psychology Progress: Empi…」 人物 ドイツの文豪(1749-1832) 「満足した豚であるより、不満足な人間である方がよい。満足した愚者であるより、不満足なソクラテスである方がよい」 It is better to be a human being dissatisfied than a pig satisfied; better to be Socrates dissatisfied than a fool satisfied.
— ジョン・スチュアート・ミル 『功利主義論』(1863)
快楽には質の違いがある
心理学では ミルの言う快楽の質の違いは、心理学ではヘドニア(快や満足を中心とする幸福)とエウダイモニア(意味や自己実現を中心とする幸福)の区別にあたる。Baumeisterら(2013)は米国の成人を対象とした調査で、幸福感は欲求の充足や「いま」への集中と関連することを示した。一方、人生の意味は他者への貢献や過去と未来のつながりと関連し、意味を感じている人ほどストレスや悩みも多かった。またHuta & Ryan(2010)の介入研究では、成長や徳を目指す活動に取り組んだ人は、時間をおいてから幸福の面で恩恵を得ていた。目先の満足だけで一日を測らず、悩みを伴っても価値ある課題に向き合う時間をもつことが、深い充実につながる。 参考:Baumeisterら(2013)「Some key differences between a hap…」 /Huta & Ryan(2010)「Pursuing Pleasure or Virtue: The D…」 人物 英国の哲学者・経済学者(1806-1873) 「すべての人間は幸福を求める。例外はない。戦争に行く者も避ける者も、この同じ欲望から動いている」 All men seek happiness. This is without exception.
— ブレーズ・パスカル 『パンセ』(1670)
あらゆる行動の根底に幸福への欲求がある
心理学では パスカルの言葉は、人の目標が階層構造(具体的な目標の上に、より抽象的な目標が連なる仕組み)をなし、その頂点に幸福があるという見方に重なる。Austin & Vancouver(1996)は目標研究のレビューで、日々の行動は上位の目標に結びついて組織されると整理した。Suhら(1998)は60か国以上を対象とした相関研究で、生活満足(人生全体への満足度)を判断するときの拠り所が、個人主義の国ほど自分の感情に、集団主義の国ほど周囲の規範に重みを置くことを示した。求めるものは同じでも、そこへ至る道筋は人や文化によって異なる。正反対の選択をする人にも同じ願いがあると想像することが、相手への理解につながる。 参考:Austin & Vancouver(1996)「Goal constructs in psychology: Str…」 ↗ /Suhら(1998)「The shifting basis of life satisfa…」 人物 フランスの数学者・思想家(1623-1662) 「人生の目的は、幸福の追求である」 The very purpose of our life is to seek happiness.
— ダライ・ラマ14世 『ダライ・ラマ こころの育て方』(1998)冒頭の趣旨
宗教の違いを超えて、人は幸福を求めて生きる
心理学では この名言は、主観的幸福感(人生への満足と快い感情)の追求を生きる根本的な動機とみて、それを心の訓練で育てられると説く。Lyubomirskyら(2005)は先行研究を整理し、幸福は遺伝や境遇だけでなく、意図的な活動(自ら選んで続ける行動)によっても持続的に高めうると論じた。Fredricksonら(2008)は会社員を対象にした実験で、慈悲の瞑想(他者の幸せを願う瞑想)を続けるとポジティブ感情が増え、人とのつながりなどの資源が育つことで生活満足度が高まることを示した。ただし幸福を焦って求めすぎると落胆しやすいため(Maussら, 2011)、他者への思いやりを軸にするとよい。毎日数分、身近な人の幸せを願う時間をもつことが、幸福を育てる一歩になる。 参考:Lyubomirskyら(2005)「Pursuing Happiness: The Architectu…」 /Fredricksonら(2008)「Open hearts build lives: Positive …」 /Maussら(2011)「Can seeking happiness make people …」 ↗ 人物 チベット仏教の最高指導者(1935-)。ノーベル平和賞 「主観的幸福感とは、自分の人生に対する認知的評価と感情的反応からなる」 — エド・ディーナー Diener (1984) の主観的幸福感(SWB)の定義
幸福の科学的測定を可能にした操作的定義
心理学では ディーナーの定義は、幸福を「人生満足度(人生全体をどう評価するかという認知的判断)」と、「快い感情が多く不快な感情が少ないこと」という感情面の両方からとらえるものであり、主観的幸福感(SWB)の三部構造として知られる。Lucasら(1996)は本人の回答と家族や友人による評定を突き合わせ、満足度と快・不快の感情がそれぞれ別の側面として測れることを示した。Kahneman & Deaton(2010)は米国の大規模調査で、収入は人生の評価とは高い水準まで関連し続ける一方、日々の感情との関連は途中で頭打ちになることを見いだした。幸福には「振り返って納得できるか」と「毎日が心地よいか」の二つの顔がある。自分の状態を点検するときは、両方に目を向けることが助けになる。 参考:Diener(1984)「Subjective Well-Being」 /Lucasら(1996)「Discriminant validity of well-bein…」 /Kahneman & Deaton(2010)「High income improves evaluation of…」 人物 米国の心理学者(1946-2021)。「Dr. Happiness」 「ウェルビーイングは、ポジティブ感情・没頭・関係・意味・達成の5つの要素からなる(PERMA)」 — マーティン・セリグマン 『ポジティブ心理学の挑戦(Flourish)』(2011)
幸福は単一の感情ではなく複数の柱を持つ
心理学では セリグマンの言葉は、ウェルビーイング(心身が満たされた良好な状態)を、快い感情に加えて、没頭(時間を忘れて打ち込む状態)、人間関係、意味、達成という複数の柱でとらえる多次元モデル(幸福をいくつもの側面の組み合わせと見る考え方)である。Butler & Kern(2016)は、世界各地の成人を対象にPERMAを測る尺度を作った。その結果、5つの要素を区別して測れることと、得点が高い人ほど生活満足度や健康状態がよいことが分かった。Ryff(1989)による成人の調査も、人生の目的や良好な対人関係が、快い感情とは別の幸福の側面であることを示した。日々の暮らしでは、5つのうち手薄な柱を見つけて少しずつ補うことが、偏りのない充実につながる。 参考:Butler & Kern(2016)「The PERMA-Profiler: A brief multid…」 /Ryff(1989)「Happiness is everything, or is it?…」 人物 米国の心理学者(1942-)。ポジティブ心理学の創始者 「心理的ウェルビーイングは、快楽ではなく、人間の潜在力の実現に関わる6つの次元からなる」 — キャロル・リフ Ryff (1989) 心理的ウェルビーイング(PWB)モデル
自己受容・人格的成長・人生の目的・環境制御・自律性・積極的他者関係の6次元
心理学では リフの主張は、幸福を「気分のよさ」(ヘドニア:快楽としての幸福)だけでなく、自分の可能性を生かして生きること(エウダイモニア:よく生きることとしての幸福)として捉える見方である。Ryff & Keyes(1995)は米国の全国規模の成人調査で、自己受容や人生の目的などの6次元が、それぞれ区別できるまとまりをもつことを確かめた。さらにKeyesら(2002)は大規模調査の分析から、生活満足や快感情といった主観的幸福感と心理的ウェルビーイングが、互いに関連しつつも別の側面であることを示した。楽しい時間に加えて、成長や目的、人とのつながりを時おり見直すことが、充実した日々につながる。 参考:Ryff & Keyes(1995)「The structure of psychological wel…」 /Keyesら(2002)「Optimizing well-being: The empiric…」 人物 米国の心理学者。ウィスコンシン大学教授。MIDUS研究を主導 「幸せの4つの因子:「やってみよう」「ありがとう」「なんとかなる」「ありのままに」」 — 前野隆司 『幸せのメカニズム』(2013)。日本人1500人の因子分析に基づく
幸福の心的要因を4因子に整理した日本発のモデル
心理学では この名言は、幸福を「やってみよう」(自己実現と成長)、「ありがとう」(つながりと感謝)、「なんとかなる」(前向きと楽観)、「ありのままに」(独立と自分らしさ)という四つの心の働きで捉える。これは心理的幸福感(よく生きているという実感)の考え方と重なる。Ryff(1989)は成人への調査から、人格的成長、他者との良好な関係、自己受容、自律性などを幸福の次元として示した。Emmons & McCullough(2003)の実験では、感謝したことを毎週書き留めた人は、人生をより前向きに評価するようになった。四つのうち手薄なものを振り返り、小さな挑戦や感謝の言葉から育てることが、幸せの土台づくりにつながる。 参考:Ryff(1989)「Happiness is everything, or is it?…」 /Emmons & McCullough(2003)「Counting blessings versus burdens:…」 人物 日本の幸福学研究者。慶應義塾大学大学院SDM研究科教授(元キヤノン技術者) 「幸福とは、望むものをすべて持ち、かつ、悪しきものを何も望まないことである」 — アウグスティヌス 『至福の生』(386)
欲求の充足と欲求の質の両方が幸福の条件
心理学では この名言は、幸福を欲求の充足と欲求の質の両面から捉えている。後者は目標内容理論(何を目指すかによって心の健康が変わるとする考え)と重なる。Niemiecら(2009)は大学卒業生を縦断的に追跡した。その結果、人間関係や成長などの内発的目標を達成した人ほど幸福感が高かった。一方で、富や名声などの外発的目標の達成は幸福感と結びつかず、不安などの不調とも関連していた。Larsen & McKibban(2008)も、望むものを持つことと、持っているものを望むことが、それぞれ独立に幸福と関連すると報告している。目標を立てるときにその中身を一度見直すことが、満ち足りた暮らしにつながる。 参考:Niemiecら(2009)「The path taken: Consequences of at…」 ↗ /Larsen & McKibban(2008)「Is Happiness Having What You Want,…」 ↗ 人物 古代ローマ末期の神学者・哲学者(354-430) 出典に諸説あり
「幸福とは、健康であることと、記憶力が悪いことである」 Happiness is good health and a bad memory.
— イングリッド・バーグマン(とされる) 典拠不詳(シュバイツァーの言葉とする説もある)
※帰属に諸説あり
健康と「忘れる力」というユーモラスな幸福定義
心理学では この名言の「記憶力が悪いこと」は、心理学でいう感情減衰バイアス(fading affect bias:嫌な出来事にともなう感情ほど、時間とともに早く薄れていく傾向)に重なる。Walkerら(2003a)は日記法などの研究をまとめ、出来事の記憶に結びついた不快な感情は快い感情よりも早く弱まり、この偏りが人生を全体として心地よいものに感じさせる働きをもつと論じた。さらにWalkerら(2003b)は、抑うつ傾向の高い人ほどこの偏りが弱いことを報告している。ただし、つらい体験から得た教訓は書き留めておくとよい。過ぎた失敗を何度も思い返すより、体を整え、嫌な気持ちを手放す時間をもつことが、穏やかな幸福につながる。 参考:Walkerら(2003a)「Life is Pleasant—and Memory Helps …」 ↗ /Walkerら(2003b)「On the emotions that accompany aut…」 ↗ 人物 スウェーデン出身の女優(1915-1982)。『カサブランカ』 出典に諸説あり
「私の世代の最大の発見は、人間は心の持ち方を変えることによって、人生を変えられるということだ」 The greatest discovery of my generation is that human beings can alter their lives by altering their attitudes of mind.
— ウィリアム・ジェームズ(とされる) 典拠不詳
※定型文としては典拠不詳
心的態度の変更可能性こそ人間の希望
心理学では この言葉は、心理学でいう認知的再評価(出来事の意味づけをとらえ直すこと)や、認知行動療法の前提にある「考え方は変えられる」という人間観を先取りしている。Gross & John(2003)は大学生などを対象にした相関研究で、出来事をとらえ直す方略を日ごろ使う人ほど、前向きな感情や人生満足度が高く、抑うつが低いことを示した。さらにSin & Lyubomirsky(2009)のメタ分析(多数の研究の統合)では、感謝や楽観を育てる心理的介入が幸福感を高め、抑うつ症状を和らげる効果が確認されている。嫌なことがあった日こそ「別の見方はないか」と一度問い直す習慣が、人生の手ざわりを少しずつ変えていく。 参考:Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」 /Sin & Lyubomirsky(2009)「Enhancing well‐being and alleviati…」 人物 米国の心理学者・哲学者(1842-1910) 「生きがいを最も感じるのは、自分のしたいことと義務とが一致したときである」 — 神谷美恵子 『生きがいについて』(1966)
「したい」と「すべき」の一致が生きがいの核心
心理学では この名言は、自己決定理論でいう「内在化」(外から課された義務を自分の価値として取り込むこと)が進み、「したい」と「すべき」が重なった状態を指している。Sheldon & Elliot(1999)は大学生を追跡した縦断研究で、自分の価値や関心に根ざした「自己一致目標」を持つ人ほど努力が続き、目標を達成したときに幸福感が高まりやすいことを示した。またWrzesniewskiら(1997)は、仕事を「天職」(意義と喜びが重なる営み)と捉える人ほど、仕事と人生への満足度が高いことを見いだした。日々の務めに「これは自分の大切にしたい何につながるか」と問い直すことが、義務を生きがいへ変える一歩になる。 参考:Sheldon & Elliot(1999)「Goal striving, need satisfaction, …」 /Wrzesniewskiら(1997)「Jobs, Careers, and Callings: Peopl…」 人物 日本の精神科医(1914-1979)。ハンセン病療養所・長島愛生園で勤務 「幸福の約50%は遺伝的な設定値、約10%は環境、約40%は意図的な活動によって説明される」 — ソニア・リュボミアスキー Lyubomirsky, Sheldon & Schkade (2005)
要旨。数値の解釈には近年修正・批判があることに注意
幸福には自分で動かせる大きな部分がある
心理学では この名言は、幸福には遺伝による「設定値(人が戻りやすい幸福の基準点)」がある一方、行動で動かせる余地も大きいとする「持続的幸福モデル」を表している。Lykken & Tellegen(1996)は双生児研究で、幸福感の個人差に遺伝が大きく関わることを示した。他方、Sin & Lyubomirsky(2009)のメタ分析(多数の研究の統合)では、感謝や親切などの意図的な活動を促す介入に、幸福感を高める効果が確かめられた。ただし割合は推定法によって変わる目安であり、暮らしの環境を整えることも併せるとよい。今日できる小さな行動を一つ選んで続けることが、幸福を育てる足場になる。 参考:Lykken & Tellegen(1996)「Happiness Is a Stochastic Phenomen…」 /Sin & Lyubomirsky(2009)「Enhancing well‐being and alleviati…」 人物 米国の心理学者。幸福介入研究の第一人者 「我々の偉大で輝かしい傑作とは、適切に生きることである」 Our great and glorious masterpiece is to live appropriately.
— ミシェル・ド・モンテーニュ 『エセー』第3巻13章
人生最大の作品は、生き方そのものである
心理学では モンテーニュのいう「適切に生きる」は、心理学のエウダイモニア(自分の価値に沿って生き、持ち味を発揮することで得られる充実)に重なる。Ryff(1989)は、幸福を快い気分だけでなく、人生の目的や人格的成長なども含む「心理的幸福感」として捉え直した。さらにStegerら(2008)は、大学生に毎日の行動を記録してもらう日誌研究を行った。その結果、人を助ける、目標に向けて努力するといった意義ある行動が多い日ほど、生きる意味や前向きな気分が高かった。人生という作品は、特別な偉業よりも一日ごとの振る舞いで形づくられる。今日の小さな選択を自分が大切にしたい価値に沿わせることが、その作品の一筆になる。 参考:Ryff(1989)「Happiness is everything, or is it?…」 /Stegerら(2008)「Being good by doing good: Daily eu…」 ↗ 人物 フランスのモラリスト(1533-1592) 「人には、自律性・有能感・関係性という、三つの基本的心理欲求がある」 — エドワード・デシ&リチャード・ライアン 自己決定理論(SDT, 1985-)
幸福の栄養素は文化を超えて三つある
心理学では この言葉は、自己決定理論の中核である基本的心理欲求理論を表している。自律性(自分で選び、納得して行動している感覚)、有能感(物事をうまくこなせている感覚)、関係性(大切な人とつながっている感覚)は、植物にとっての水や日光のように、心が健やかに育つための栄養素と位置づけられる。Reisら(2000)は大学生の日誌研究で、三つの欲求が満たされた日ほど気分がよく、体の不調も少ないことを示した。さらにChenら(2015)はベルギー、中国、アメリカ、ペルーの4か国で調査し、欲求が満たされている人ほど、文化を問わず幸福感が高いことを見いだした。一日の終わりに「自分で選べたか」「何かをやり遂げたか」「誰かとつながれたか」と振り返ることが、満ち足りた毎日への手がかりになる。 参考:Reisら(2000)「Daily Well-Being: The Role of Auto…」 /Chenら(2015)「Basic psychological need satisfact…」 人物 米国の心理学者。ロチェスター大学。自己決定理論の創始者 「タット・トヴァム・アシ ── 汝は、それ(宇宙の根源)である」 Tat tvam asi.
— 『チャーンドーギヤ・ウパニシャッド』 古代インドの聖典(BC8-6世紀頃)。父が息子に説く場面の言葉
ヴェーダーンタ哲学の「大文章(マハーヴァーキヤ)」の一つ
あなたという個人の本質(アートマン)と、宇宙の根源(ブラフマン)は、実は同じ一つのものだ、というインド哲学の中心命題(梵我一如)。塩が水に溶けて見えなくても水全体を塩辛くしているように、根源は万物に遍在している、と説明される
心理学では 「汝はそれである」という言葉は、心理学でいう自己超越体験(自分と世界の境界が薄れ、より大きなものとつながっている感覚)に重なる。Yadenら(2017)は、宗教体験や畏敬、瞑想、没頭などにみられるこの種の体験を整理し、自己の輪郭がゆるむことが他者や世界とのつながりの感覚と結びついていることを論じた。Piffら(2015)の実験では、畏敬(圧倒されるほど大きなものに触れたときの感情)を感じた人は自分を小さく感じ、困っている人を進んで助けた。悩みに閉じこもりがちなときこそ、空や森、星空など自分より大きなものに目を向ける時間をもつことが、心を広く保つ助けになる。 参考:Yadenら(2017)「The Varieties of Self-Transcendent…」 ↗ /Piffら(2015)「Awe, the small self, and prosocial…」 「この地上で唯一、私たちだけが、利己的な自己複製子の専制に反逆できる」 We, alone on earth, can rebel against the tyranny of the selfish replicators.
— リチャード・ドーキンス 『利己的な遺伝子』(1976)結び
生物は遺伝子を運ぶ「乗り物」として進化してきたが、人間だけは遺伝子の命令(生存と繁殖の最大化)に逆らい、自分自身の価値(避妊も、養子も、純粋な利他も)を選べる、という宣言。冷徹な遺伝子観の書の、最も人間的な結論
心理学では この言葉は、進化が与えた傾向(生存や繁殖に有利な欲求)と、自ら選ぶ価値とを切り分ける視点であり、心理学でいう自律性(自分の価値に沿って行動を選ぶこと)に通じる。Buss(2000)は進化心理学の立場から、地位争いや嫉妬など、祖先の環境で役立った心の仕組みが、現代ではむしろ幸福を妨げると論じた。またDunnら(2008)の実験では、お金を他者のために使うよう指示された人のほうが、自分のために使った人より幸福感が高まった。衝動が湧いたら一呼吸おき、自分が大切にしたい価値に照らして選び直す。その小さな反逆が、満ち足りた日々につながる。 参考:Buss(2000)「The evolution of happiness.」 ↗ /Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」 人物 英国の進化生物学者(1941-)。オックスフォード大学元教授 「幸福は、内から来るのでも外から来るのでもない。「あいだ」から来る」 Happiness comes from between.
— ジョナサン・ハイト 『しあわせ仮説』(2006)
幸福の条件は、心の持ち方(内)だけでも環境(外)だけでもなく、自分と他者・仕事・自分より大きなものとの「関係の質」にある、という総括。古代の知恵と現代科学を照合した同書の結論部の定式
心理学では この名言は、幸福を性格や環境の条件そのものではなく、人と人、人と活動との「関係性」から生まれるものと捉える見方である。自己決定理論(意欲と幸福を支える基本的欲求の理論)を示したRyan & Deci(2000)は、自律性・有能感と並んで関係性(他者とのつながりの実感)を、幸福に欠かせない欲求に位置づけた。またDiener & Seligman(2002)は大学生を対象とした相関研究で、幸福度がとりわけ高い人ほど家族や友人との関係が豊かであることを示した。内面を整えたり条件を変えたりするだけでなく、誰と、何と、どう関わっているかを見直すことが、幸福への近道になる。 参考:Ryan & Deci(2000)「Self-determination theory and the …」 /Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 人物 米国の社会心理学者(1963-)。ニューヨーク大学教授。道徳基盤理論で著名 「大切にすべきは、ただ生きることではなく、善く生きることである」 The most important thing is not life, but the good life.
— ソクラテス プラトン『クリトン』
脱獄を勧める友人クリトンに、死刑を前にしたソクラテスが答えた言葉。生存そのものより「どう生きるか」の質を上に置く ── 西洋の幸福論の出発点となった一言
心理学では この言葉は、心理学でいう「エウダイモニア的幸福」(価値に沿い、自分の可能性を生かす生き方から生まれる幸福)を、快や満足を中心とする「ヘドニア的幸福」と区別する発想の原点にあたる。Ryff(1989)は成人を対象に、人生の目的や個人的成長など六つの側面からなる心理的幸福感の尺度を作り、それが単なる幸福感や生活満足とは別の次元をとらえることを示した。Huta & Ryan(2010)の介入研究では、日々の行動で善さや卓越を目指した人は、快を求めた人よりも、人生の意味や心が高められる感覚が後まで続いた。一日の終わりに「今日、自分は善く生きたか」と問い直す習慣が、生の質を育てる助けになる。 参考:Ryff(1989)「Happiness is everything, or is it?…」 /Huta & Ryan(2010)「Pursuing Pleasure or Virtue: The D…」 人物 古代ギリシャの哲学者(BC470頃-399)。著作を残さず、対話で哲学した 「幸福は徳の報酬ではなく、徳そのものである」 Blessedness is not the reward of virtue, but virtue itself.
— バールーフ・スピノザ 『エチカ』第5部定理42(1677)
「善く生きれば、ご褒美として幸福がもらえる」のではない。善く生きているその状態自体が、すでに幸福なのだ ── 幸福を行為の外部の報酬ではなく、行為の内部にあるものとした転換
心理学では この名言は、幸福を行為の結果ではなく、善く生きる営みそのものに見いだすエウダイモニア(自分の美徳や可能性を発揮して生きることによる幸福)の考え方にあたる。活動自体が目的となる自己目的的(オートテリック)な活動観とも重なる。Stegerら(2008)は大学生の日誌研究で、ボランティアや感謝の表明など善い行いをした日ほど、その日の人生の意味や満足感が高いことを示した。Huta & Ryan(2010)の介入研究でも、徳や成長を目指して過ごす課題は、快楽を目指す課題に比べて、のちの幸福感を高める効果が大きかった。見返りを数えるより、今日の行いを丁寧に積み重ねること自体が、満たされた一日につながる。 参考:Stegerら(2008)「Being good by doing good: Daily eu…」 ↗ /Huta & Ryan(2010)「Pursuing Pleasure or Virtue: The D…」 人物 オランダの哲学者(1632-1677)。レンズ磨きで生計を立てながら思索した 「この人生を、もう一度、いや無数回にわたって繰り返して生きたいと望めるか ── そう問うてみよ」 — フリードリヒ・ニーチェ 『悦ばしき知識』341(永遠回帰の思想)
「まったく同じ人生が永遠に繰り返される」と告げられたとき、絶望するか、「これが人生か、さらばもう一度」と言えるか。人生への態度を測る、ニーチェが考案した最強の思考実験
心理学では ニーチェの問いは、心理学でいう生活満足感(自分の人生全体への評価)を極限まで突きつめたものである。実際、Dienerら(1985)が作成した人生満足尺度にも「人生をやり直せるとしても、ほとんど何も変えない」という項目があり、この問いは幸福の測定の中核に置かれている。またMcAdamsら(2001)は成人と学生の人生の語りを分析し、苦しい出来事が良い結果へ転じたと語る「救済の物語」をもつ人ほど、幸福感や生成性(次世代への関心)が高いことを相関研究で示した。つらい経験も含めて自分の物語として引き受ける姿勢は、人生の肯定と結びつく。迷ったときに「この選択を何度でも繰り返したいか」と自問することが、悔いの少ない日々につながる。 参考:Dienerら(1985)「The Satisfaction With Life Scale」 /McAdamsら(2001)「When Bad Things Turn Good and Good…」 人物 ドイツの哲学者(1844-1900) 「幸福な者の世界は、不幸な者の世界とは、別の世界である」 The world of the happy man is a different one from that of the unhappy man.
— ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン 『論理哲学論考』6.43(1921)
世界の中の事実(収入・出来事)は同じでも、幸福な人と不幸な人とでは「世界そのもの」の現れ方が違う。幸不幸は世界の内容ではなく、世界全体の相貌を変える ── という20世紀哲学の名句
心理学では この名言は、幸福感の「トップダウン理論」(幸福は個々の出来事の積み重ねよりも、世界を受け止める見方の枠組みに左右されるという考え)と重なる。Lyubomirsky & Tucker(1998)は、幸福度の高い人と低い人に同じ架空の出来事や自身の体験を評価させる研究を行い、幸福な人ほど同じ出来事を好意的に解釈し、思い返すことを示した。またLyubomirsky & Ross(1997)の実験では、他者が自分より良い成績を取る場面で、不幸な人ほど気分や自己評価が揺らぎやすかった。事実は同じでも、映る世界は人によって異なるのである。日々の出来事に別の見方はないかと問い直す習慣が、自分の世界を変える助けになる。 参考:Lyubomirsky & Tucker(1998)「Implications of Individual Differe…」 ↗ /Lyubomirsky & Ross(1997)「Hedonic consequences of social com…」 人物 オーストリア出身の哲学者(1889-1951)。20世紀最大の哲学者の一人 「幸福は徳に反するものではなく、むしろ幸福そのものが徳である」 — 三木清 『人生論ノート』(1941)
「幸福を求めるのは不道徳だ」という空気に対し、幸福であること自体が徳であり、機嫌のよい人は周囲への贈り物なのだと反論した。戦時下の日本で書かれた、幸福の名誉回復の書
心理学では この名言は、幸福を利己的な快楽ではなく、向社会性(他者のためになる行動をとる傾向)を育む土台ととらえる見方に通じる。Lyubomirskyら(2005)は横断・縦断・実験研究を統合したメタ分析で、幸福な人ほど協力的で人助けをしやすいことを示した。さらに、実験で気分を高めると援助行動が増えることも示している。Fowler & Christakis(2008)は地域の住民集団を20年にわたり追跡し、幸福な人の近くにいる人ほど、のちに幸福になりやすいという関連を見いだした。自分の機嫌を整えることは、自分のためだけでなく、身近な人への贈り物にもなる。 参考:Lyubomirskyら(2005)「The Benefits of Frequent Positive …」 /Fowler & Christakis(2008)「Dynamic spread of happiness in a l…」 人物 日本の哲学者(1897-1945)。西田幾多郎門下。獄中で終戦直後に死去 「人間には、生命あるもの、生命に似たものへと引き寄せられる、生まれつきの傾向(バイオフィリア)がある」 Biophilia.
— エドワード・O・ウィルソン 『バイオフィリア』(1984)
なぜ人は窓際の席を好み、水辺に惹かれ、ペットや観葉植物を欲しがるのか。数百万年を自然の中で過ごした人類には、生命への親和性が本能として組み込まれている、という仮説
心理学では ウィルソンの言うバイオフィリア(生命や自然に惹かれる生まれつきの傾向)は、心理学では「自然とのつながり(自然を自分の一部と感じる感覚)」として測られ、幸福感との関係が調べられている。Ulrich(1984)は手術後の患者の記録を比べ、窓から木が見える病室の患者は、壁しか見えない病室の患者より入院期間が短く、強い鎮痛剤も少なくて済んだことを示した。また、Capaldiら(2014)のメタ分析(多数の研究の統合)では、自然とのつながりを強く感じる人ほど、前向きな感情や人生への満足度が高かった。窓際で一息つく、街路樹に目を向ける、机に鉢植えを置くといった小さな習慣が、心の回復の助けになる。 参考:Ulrich(1984)「View Through a Window May Influenc…」 ↗ /Capaldiら(2014)「The relationship between nature co…」 人物 米国の生物学者(1929-2021)。アリ研究と社会生物学の泰斗 「動きは、生命そのものである。動きの質を改善することは、生命そのものの質を改善することである」 Movement is life. Improve the quality of your movement and you improve the quality of your life itself.
— モーシェ・フェルデンクライス 『心をひらく体のレッスン』ほか(要旨)
自分がどう立ち、どう座り、どう手を伸ばしているか ── その「動きの癖」への気づきを細やかにしていくと、思考や感情の癖まで変わっていく、という身体教育の思想。幸福を「考え方」からではなく「動き方」から変えるアプローチ
心理学では この名言は、心理学でいう「身体化された認知」(体の姿勢や動きが、思考や感情そのものを形づくるという考え方)を先取りしている。Michalakら(2015)は、歩き方をその場で本人に知らせる装置を使って、弾むような歩き方か沈んだ歩き方をしてもらう実験を行った。その結果、沈んだ歩き方をした人は否定的な言葉をより多く思い出した。またNairら(2015)の無作為化実験では、背筋を伸ばして座った人は、背を丸めて座った人より気分が前向きで、ストレスのかかる課題でも恐れが少なかった。通勤の道や会議の合間に、自分の立ち方や歩き方に一度だけ注意を向ける。その小さな気づきが、心の調子を整える入り口になる。 参考:Michalakら(2015)「How we walk affects what we rememb…」 ↗ /Nairら(2015)「Do slumped and upright postures af…」 ↗ 人物 イスラエルの物理学者・身体教育家(1904-1984)。フェルデンクライス・メソッド創始者。柔道家でもあった 「健全な身体に、健全な精神が宿るように祈るべきである」 Orandum est ut sit mens sana in corpore sano.
— ユウェナリス 『風刺詩集』第10歌(2世紀初頭)
※「健全なる精神は健全なる身体に宿る」は原義からずれた流通形
「健全なる精神は健全なる身体に宿る」として流通するが、原文は「〜宿るように祈れ」。富や名声を神に願う人々への風刺として、「願うならせめて心身の健康を願え」と述べた文脈であり、「身体を鍛えれば精神も健全になる」という意味ではない
心理学では この名言は、富や名声ではなく心身の健康をこそ願えと、願いの向け先を説くものである。心理学ではこれを、外発的目標(富や名声など外からの評価を求める目標)と内発的目標(成長・つながり・健康など、それ自体に価値のある目標)の違いとして捉える。Kasser & Ryan(1996)は成人を対象にした相関研究で、富を重視する人ほど幸福感が低く、内発的目標を重視する人ほど心が健やかであることを示した。Niemiecら(2009)の縦断研究でも、卒業後に富や名声の目標を達成することは幸福感と関連せず、成長や人間関係の目標の達成が幸福感の高さと関連していた。何かを願うときは、まず心と体の健やかさを目標の中心に据えることが助けになる。 参考:Kasser & Ryan(1996)「Further Examining the American Dre…」 /Niemiecら(2009)「The path taken: Consequences of at…」 ↗ 人物 古代ローマの風刺詩人(60頃-130頃) 「幸福とは、積極的な快の状態ではなく、苦痛の不在である」 Happiness is not a positive state, but merely the absence of pain.
— アルトゥル・ショーペンハウアー 『意志と表象としての世界』(1818)ほか
快楽は欲望が満たされた瞬間の「マイナスの解消」にすぎず、積極的な実体を持つのは苦痛の方だ、という悲観主義哲学の幸福定義。だからこそ、幸福を「増やす」より苦痛を「減らす」戦略の方が確実だと説く
心理学では この名言は、心理学の「ネガティビティ・バイアス(悪い出来事ほど強く心に響く傾向)」と「快楽順応(喜びに慣れて元の気分に戻る現象)」に重なる。Baumeisterら(2001)は感情や人間関係、学習など幅広い領域の研究を総覧し、悪い出来事が良い出来事よりも大きく長く影響することを示した。またBrickmanら(1978)の調査では、宝くじの高額当選者は一般の人より幸福とは言えず、日常のささやかな楽しみをむしろ感じにくくなっていた。喜びは薄れやすく、苦痛は残りやすいのである。日々の暮らしや仕事では、新しい快楽を足す前に、睡眠不足や人間関係の摩擦、長引く心配ごとといった苦痛の種を一つずつ減らすことが、揺るがない幸福の土台になる。 参考:Baumeisterら(2001)「Bad is Stronger than Good」 ↗ /Brickmanら(1978)「Lottery winners and accident victi…」 人物 ドイツの哲学者(1788-1860)。仏教にも通じた厭世哲学で知られる 「人生にはただ一つの幸福しかない。愛し、そして愛されることである」 There is only one happiness in this life, to love and be loved.
— ジョルジュ・サンド リナ・カラマッタへの手紙(1862)
波乱の恋愛遍歴で知られる作家が、晩年に義理の娘へ書き送った結論。名声も執筆も旅も知り尽くした人物が、幸福の定義をこの一行に絞り込んだ ── という文脈が言葉に重みを与えている
心理学では この名言は、「所属の欲求」(人と温かく安定したつながりを持ちたいという根源的な欲求)が満たされることを幸福の核とみる、心理学の見方と重なる。Diener & Seligman(2002)は大学生のうち特に幸福度の高い層を調べ、彼らに共通するのが良好で豊かな人間関係であることを示した。ハーバード成人発達研究に連なるWaldinger & Schulz(2010)も、80代の夫婦の日々の記録を分析し、配偶者と安心できる絆で結ばれている人ほど、体の痛みがある日でも気分が落ち込みにくいことを報告している。愛されるのを待つだけでなく、身近な人に自分から関心と感謝を向けることが、幸福の土台を育てる。 参考:Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 /Waldinger & Schulz(2010)「What's love got to do with it? Soc…」 ↗ 人物 フランスの作家(1804-1876)。男性名で執筆した女性作家の先駆者。ショパンの恋人としても著名 「幸福になることは、自分自身への義務であるだけでなく、他人に対する義務でもある」 — アラン(エミール・シャルティエ) 『幸福論』(1925)の趣旨
不機嫌は伝染して周囲を害するのだから、上機嫌でいる努力は礼儀であり義務である ── 幸福を「権利」や「運」ではなく「義務」と言い切ることで、幸福を意志的な実践の領域に引き込んだアランの幸福論の核心
心理学では この名言は、感情伝染(他者の表情や声の調子に無意識に同調し、気分がうつる現象)の考え方と重なる。幸福は個人の内側にとどまらず、周囲の人の気分にまで及ぶのである。Fowler & Christakis(2008)は、米国の地域住民の人間関係を長期にわたって追跡した縦断研究で、幸福な人と身近につながっている人ほど、のちに自分も幸福になりやすいことを示した。またKramerら(2014)はSNS上の大規模な実験で、目にする投稿の感情的な調子を変えると、利用者自身の投稿の調子も同じ方向に変わることを確かめた。自分の機嫌を整える努力は、家庭や職場の空気を整えることに直結する。朝の挨拶を明るく交わすことが、周りへの小さな贈り物になる。 参考:Fowler & Christakis(2008)「Dynamic spread of happiness in a l…」 /Kramerら(2014)「Experimental evidence of massive-s…」 ↗ 人物 フランスの哲学者(1868-1951)。三大幸福論の一人 「幸福は、物事そのものの中にではなく、私たちの感じ方(趣味)の中にある」 Happiness is in the taste, and not in the things.
— ラ・ロシュフコー 『箴言集』48(1665)
同じ境遇でも、幸福な人と不幸な人がいる。差を生むのは所有物ではなく、味わう側の感受性だ ── 人間心理の裏側を暴き続けたモラリストが残した、意外なほど建設的な一句
心理学では この名言は、幸福が収入や境遇などの外的条件から積み上がるという「ボトムアップ」の見方よりも、解釈や注意の向け方、性格といった本人の側から生まれるという「トップダウン」の見方(Diener(1984)が整理した幸福の二つの説明)に重なる。Lyubomirsky & Ross(1997)は、幸福感の高い学生と低い学生に同じ課題を解かせ、隣に自分より速く解く人がいる場面をつくった。すると幸福感の低い人ほど他人との比較で気分が揺れ、高い人は影響を受けにくかった。同じ状況でも、受け止め方が気分を分けるのである。日々の出来事で「何が起きたか」だけでなく「どう受け取ったか」に目を向けることが、幸福を育てる第一歩になる。 参考:Diener(1984)「Subjective Well-Being」 /Lyubomirsky & Ross(1997)「Hedonic consequences of social com…」 人物 フランスのモラリスト(1613-1680)。人間の自己愛を鋭く分析した箴言で知られる 「幸福とは習慣である。それを身につけなさい」 Happiness is a habit—cultivate it.
— エルバート・ハバード 『エピグラム集』ほか(1900年代)
幸福を出来事(起こるもの)ではなく習慣(繰り返すもの)として定義し直した一句。感謝する、笑う、機嫌を整える ── 小さな行為の反復が「幸福な人」という状態を作る、という実践的幸福観
心理学では この名言は、幸福を「意図的活動」(自分で選んで続ける行動)の積み重ねとして捉える見方と重なる。Lyubomirskyら(2011)は大学生を対象に、感謝の手紙を書く、理想の未来を思い描くといった活動を数週間続けてもらう実験を行い、幸せになりたいという意欲をもって取り組んだ人ほど幸福感の向上が大きいことを示した。また、Lallyら(2010)は、新しい行動を毎日同じ場面で繰り返してもらう研究から、行動は反復とともに少しずつ自動的になり、ときどき一日休んでも習慣化は大きく損なわれないことを見いだした。朝のコーヒーのあとに感謝を一つ思い浮かべるように、決まった場面に小さな行為を結びつけて繰り返すことが、幸福を身につける近道になる。 参考:Lyubomirskyら(2011)「Becoming happier takes both a will…」 /Lallyら(2010)「How are habits formed: Modelling h…」 ↗ 人物 米国の著述家・出版人(1856-1915)。警句の名手 「幸福な人生を送るのに必要なものは、ごくわずかである。そのすべては、あなた自身の中に、あなたの考え方の中にある」 Very little is needed to make a happy life; it is all within yourself, in your way of thinking.
— マルクス・アウレリウス 『自省録』第7巻
ローマ帝国の全権力と全財産を手にした皇帝が、陣中の日記に書きつけた結論。外的資源を極限まで持った人物による「必要なものはごくわずか」という証言には、実験に近い説得力がある
心理学では この言葉は、幸福を左右するのは外的な条件よりも、出来事の受け止め方(認知的評価)や何を大切にするか(価値観)だという考えに重なる。Dittmarら(2014)は多数の研究をまとめたメタ分析で、お金や持ち物を重視する価値観(物質主義)が強い人ほど、生活満足や心の健やかさが低い傾向にあることを示した。また、Lyubomirsky & Ross(1997)の実験では、幸福感の高い人は自分より成績のよい他者を目にしても気分が揺らぎにくく、同じ状況を不幸な人とは違う形で受け止めていた。足りないものを数える前に、すでにあるものへの自分の見方を点検することが、幸福の土台を内側に築く助けになる。 参考:Dittmarら(2014)「The relationship between materiali…」 /Lyubomirsky & Ross(1997)「Hedonic consequences of social com…」 人物 ローマ皇帝・ストア派哲学者(121-180) 「幸福は「何を」ではなく「いかに」に関わる。幸福は対象ではなく、才能である」 — ヘルマン・ヘッセ 随想「幸福」(1949)の趣旨
何を手に入れるか(対象)をいくら変えても、幸福になれない人はなれない。幸福とは、いま目の前にあるものを味わう能力 ── 磨くことのできる「才能」だ、というヘッセ晩年の結論
心理学では ヘッセの言う幸福の「才能」は、心理学でいう味わう力(セイバリング:よい経験に注意を向け、その喜びを意識的に深めたり長引かせたりする働き)に重なる。Quoidbachら(2010)の質問紙調査では、喜びを人と分かち合う、いまこの瞬間に注意を向けるといった味わい方をよく使う人ほど、幸福感が高かった。さらにHurley & Kwon(2012)は、大学生にセイバリングを日々練習してもらう介入研究を行い、ネガティブ感情や抑うつ症状を減らす効果を見いだした。食事の一口目や仕事が片付いた瞬間に数秒立ち止まって味わう習慣が、この才能を磨く助けになる。 参考:Quoidbachら(2010)「Positive emotion regulation and we…」 ↗ /Hurley & Kwon(2012)「Results of a Study to Increase Sav…」 ↗ 人物 ドイツ生まれの作家(1877-1962)。ノーベル文学賞 「幸魂(さきみたま)── 人を幸せにし、豊かに実らせる、魂のはたらき」 — 神道の魂観 「幸魂奇魂 守給幸給(さきみたま くしみたま まもりたまえ さきわえたまえ)」の祈祷詞(大神神社ほか)
一霊四魂の体系化は幕末以降の神道説であることに注意
神道では魂に複数のはたらきを見る。荒々しい力(荒魂)、和ませる力(和魂)、そして人を「幸(さき)わえさせる」=咲かせ実らせる力が幸魂である。「幸せ」の語源が「咲き映え」に通じるという説とも響き合う、日本語の幸福観の古層
心理学では 幸魂は、自ら栄えることと他者を栄えさせることを、一つのはたらきとして捉える。心理学でいえば、向社会的行動(他者のためになる行い)が本人の主観的幸福感(気分のよさや人生への満足)をも高めるという知見に重なる。Dunnら(2008)の実験では、受け取ったお金を他人のために使うよう指示された人のほうが、自分のために使った人よりも夕方の幸福感が高かった。Akninら(2013)は各国の調査と実験から、他者のための出費と幸福感の結びつきが文化を越えて見られることを示した。幸せを抱え込まず手渡すものと考え、身近な人へのささやかな贈り物や手助けを日々に取り入れることが、自分自身を咲かせることにもつながる。 参考:Dunnら(2008)「From wealth to well-being: Spendin…」 ↗ /Akninら(2013)「Prosocial spending and well-being:…」 人物 日本の神道の伝統的観念(一霊四魂の整理は近代神道説による) 「幸せって何だっけ、って聞くけどな、人間、「あぁ、生まれてきてよかった」って思うことが何べんかあるだろう。そのために生きてんじゃねえのか」 — 車寅次郎(映画『男はつらいよ 寅次郎物語』) 山田洋次監督・第39作(1987、松竹)
「人間は何のために生きてんのかな」と問う甥への、寅さんの答え。幸福を状態や所有ではなく、「生まれてきてよかった」と思える瞬間の回数として定義する ── 日本映画が生んだ最も愛される幸福の定義
心理学では 寅さんの言葉は、心理学でいう「ピーク体験(存在が丸ごと肯定されるような至高の瞬間)」の積み重ねが、「人生の意味(生きる価値があるという感覚)」を支えるという見方に重なる。Fredrickson & Kahneman(1993)の実験では、人は体験を振り返って評価するとき、その長さよりも、最も強く感じた瞬間と終わりの印象を重く見ることが示された。またKingら(2006)は、日々の前向きな感情が多い人ほど人生に意味を感じやすいことを示し、実験で気分を高めると人生の意味の評価も上がることを報告している。うれしかった場面を書き留めて時々読み返すことが、「生まれてきてよかった」という実感を育てる助けになる。 参考:Fredrickson & Kahneman(1993)「Duration neglect in retrospective …」 ↗ /Kingら(2006)「Positive affect and the experience…」 人物 渥美清(1928-1996)演じる寅さんは48作続いた国民的シリーズの主人公 「生きてるだけで、丸儲け」 — 明石家さんま 持ちネタ・座右の銘として著名
命があること自体がすでに「儲け」であり、その上に起こることはすべておまけである ── 幸福の基準線を「生存」まで下げることで、日常のすべてを黒字に変えてしまう会計法。娘IMALUの名前の由来としても知られる
心理学では この名言は、幸福の判断が「参照点(比べる基準)」との差で決まるというプロスペクト理論(Kahneman & Tversky(1979))の考え方を、自分で基準を「生存」まで引き下げる技として使っている。Kooら(2008)は大学生を対象とした実験で、恋人との出会いなど良い出来事が「もし起きなかったら」と想像する心的引き算(今あるものを頭の中で消してみること)が、その出来事をただ思い出すよりも気分を高めることを示した。Friasら(2011)の実験でも、自分の死を具体的に思い描いた人は感謝の気持ちが高まった。朝の数秒、「今日も生きている」と心の中で引き算してから一日を始めると、ささいな出来事も儲けとして味わえるようになる。 参考:Kahneman & Tversky(1979)「Prospect Theory: An Analysis of De…」 ↗ /Kooら(2008)「It's a wonderful life: Mentally su…」 ↗ /Friasら(2011)「Death and gratitude: Death reflect…」 ↗ 人物 日本のお笑いタレント(1955-)。飛行機事故(日航123便)を偶然回避した経験が言葉の背景にあるとされる 「幸福とは、あたたかい子犬」 Happiness is a warm puppy.
— チャールズ・シュルツ 『Happiness Is a Warm Puppy』(1962)
スヌーピーを抱きしめるルーシーの絵に添えられた一文から生まれた絵本。幸福の定義を抽象論ではなく「触れられる温かさ」に置き、「幸福とは〜である」という言葉遊びの世界的流行を作った
心理学では この名言は、幸福を抽象的な理念ではなく、触れて感じる具体的な体験としてとらえている。心理学でいえば、主観的幸福感(自分が感じる幸せの度合い)のうち、ポジティブ感情(心地よさや安らぎ)の側面にあたる。McConnellら(2011)はペットの飼い主を対象に調査と実験を行い、飼い主ほど自尊心が高く孤独感が低い傾向があることを示した。さらに、仲間外れにされた後でペットについて書くと、落ち込みがやわらぐことも確かめた。Nagasawaら(2015)は、犬と飼い主が見つめ合うと双方でオキシトシン(絆に関わるホルモン)が増えることを実験で示している。自分にとっての「あたたかい子犬」を書き出し、それに触れる時間を意識してつくることが、日々の安らぎにつながる。 参考:McConnellら(2011)「Friends with benefits: On the posi…」 ↗ /Nagasawaら(2015)「Oxytocin-gaze positive loop and th…」 ↗ 人物 米国の漫画家(1922-2000)。『ピーナッツ』を50年間一人で描き続けた 「天国の門で、二つのことを訊かれる。「人生の喜びを見つけたか?」「あなたの人生は、他の誰かを喜ばせたか?」」 Have you found joy in your life? Has your life brought joy to others?
— 映画『最高の人生の見つけ方』 ロブ・ライナー監督(2007)。劇中で古代エジプトの言い伝えとして語られる
劇中の伝承として語られる(実際のエジプト文献との対応は創作)
余命宣告を受けた二人の老人が「棺桶リスト」を実行する旅の中で交わされる問い。幸福の総括をこの二問に圧縮する ── 自分の喜び(享受)と他者への喜び(貢献)という、幸福研究の二本柱そのもの
心理学では この二つの問いは、幸福研究でいうヘドニア(快や楽しさを味わう幸福)とエウダイモニア(意味や他者への貢献に根ざす幸福)を、人生の総括として問うものである。Huta & Ryan(2010)は、楽しさを求める動機と意味や善さを求める動機を大学生で比べ、両者がそれぞれ異なる面の幸福と関連し、両方をあわせ持つ人ほど幸福感が幅広く高いことを示した。またDunnら(2008)の実験では、渡されたお金を他人のために使った人は、自分のために使った人より一日の終わりの幸福感が高かった。一日の終わりに「今日楽しめたこと」と「誰かを喜ばせたこと」を一つずつ振り返る習慣が、この二問への答えを育てる。 参考:Huta & Ryan(2010)「Pursuing Pleasure or Virtue: The D…」 /Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」 人物 ジャック・ニコルソン&モーガン・フリーマン主演 「幸せかどうかは、わかんない。でも、楽しいか楽しくないかで言ったら、楽しい」 — 甲本ヒロト 音楽誌インタビューでの発言として著名
「幸福」という大きな採点を保留し、いま手元で判定できる「楽しい」だけで生きる ── ロックを50代60代まで続ける本人の、評価軸の縮小という知恵。「幸せになりたい」と言ったことがない、とも語る
心理学では この言葉は、幸福研究でいう「人生評価」(自分の人生を総合的に採点する判断)と「経験的幸福」(その時々に感じる楽しさや気分の質)の区別に重なる。Kahneman & Deaton(2010)は米国の大規模調査を分析し、収入は人生評価とは高い水準まで関連し続ける一方、日々の感情との関連はある水準で頭打ちになることを示した。この結果は、両者が別の物差しであることを表している。さらにMaussら(2011)の実験では、幸福を重視するよう促された人は、楽しい映像を見たあとでもかえって幸福感が低かった。「幸せになろう」と力むより、目の前の活動が楽しいかどうかに目を向けることが、日々の充実につながる。 参考:Kahneman & Deaton(2010)「High income improves evaluation of…」 /Maussら(2011)「Can seeking happiness make people …」 ↗ 人物 日本のロックミュージシャン(1963-)。THE BLUE HEARTS等のボーカル 「幸福とは、貢献感である」 — アルフレッド・アドラー(アドラー心理学の定式) 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(2013)で広く流布した要約
定式化は『嫌われる勇気』による現代的要約
「誰かの役に立っている」という主観的な感覚 ── それが幸福の正体だとするアドラー心理学の結論。実際に感謝されたかどうかではなく、貢献「感」でよいという点が要諦で、承認欲求(他者の評価待ち)から幸福を切り離す
心理学では アドラーのいう貢献感は、心理学の「善行感(beneficence:自分が他者に良い影響を与えているという感覚)」に近い。Martela & Ryan(2016)は、調査によって、他者の役に立っていると感じる人ほど幸福感が高く、この感覚が自律性などの基本的欲求とは別に幸福と関連することを示した。さらに実験で、人助けにつながる作業が善行感を通じて気分を高めることも確かめている。Dunnら(2008)の実験でも、受け取ったお金を他人のために使った人は、自分のために使った人より幸福感が高かった。日々の小さな手助けを「役に立てた」と自分で味わうことが、他人の評価に頼らない幸福につながる。 参考:Martela & Ryan(2016)「The Benefits of Benevolence: Basic…」 /Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」 人物 オーストリアの精神科医(1870-1937)。個人心理学(アドラー心理学)の創始者 「大道無門 ── 大いなる道に、決まった門はない」 — 無門慧開 『無門関』自序の頌(1228)
「透り得ば乾坤に独歩せん(くぐり抜ければ天地を独り歩む)」と続く
「大道無門、千差路有り(道はどこからでも入れる。千の道がある)」── 悟りへの入り口は特定の門に限られず、日常のあらゆる場面が入り口になりうる、という禅の宣言。幸福への道もまた一つではない ── 掃除からでも、仕事からでも、悲しみからでも入れる
心理学では この名言は、心理学でいう等結果性(同じ良い状態に、異なる経路からたどり着けること)を言い表している。Petersonら(2005)は成人を対象とした相関研究で、幸福への向かい方を快楽・没頭・意味の三つに分けた。その結果、どの向かい方も生活満足と関連し、三つがそろって高い人ほど満足度が高かった。またLyubomirsky & Layous(2013)は、感謝や親切など幸福を高める活動の効果が、その人の性格や好みとの相性に左右されることを論じている。人に勧められた正解の門を探すより、今日の掃除や仕事、悲しみの中にある自分なりの入り口に目を向けることが、幸福への確かな一歩になる。 参考:Petersonら(2005)「Orientations to happiness and life…」 /Lyubomirsky & Layous(2013)「How Do Simple Positive Activities …」 人物 南宋の禅僧(1183-1260)。公案集『無門関』の編者 「死と、時間と、愛 ── 人は皆、この三つを求め、恐れ、それによって生かされている」 — 映画『素晴らしきかな、人生』の主題 デヴィッド・フランケル監督(2016)(要旨)
娘を亡くした広告マンが「死」「時間」「愛」に宛てた手紙を書く物語。人生のあらゆる広告も選択も、この三つの概念に帰着する ── 喪失の底で、三つの抽象と対話し直すことで人生に戻っていく寓話
心理学では この名言は、心理学の社会情動的選択性理論(残り時間をどう感じるかが、何を大切にするかを左右するという考え)とよく重なる。Carstensenら(1999)は一連の研究をまとめ、高齢者や重い病に直面した人など、残された時間を限られたものと感じている人ほど、新しい出会いよりも親しい相手との情緒的に意味のある時間を選ぶことを示した。またKurtz(2008)は、卒業を控えた大学生に「学生生活はもうすぐ終わる」と意識させる実験を行い、そう意識させた学生のほうが残りの日々を積極的に味わい、幸福感が高まることを見いだした。死と時間を意識することは、愛を深める入口になる。ときどき「これはあと何回あるか」と数えてみることが、身近な人と過ごす今日を大切にする助けになる。 参考:Carstensenら(1999)「Taking time seriously: A theory of…」 ↗ /Kurtz(2008)「Looking to the Future to Appreciat…」 ↗ 人物 原題 Collateral Beauty(副次的な美) 「幸福とは、スキルである。テニスや楽器と同じように、練習によって上達する ── 瞑想家たちの脳が、それを示している」 Well-being is a skill.
— リチャード・デイヴィッドソン ウィスコンシン大学での瞑想の脳研究(2000年代-)(要旨)
長期瞑想者の脳では、幸福・思いやりに関わる回路の活動と構造が明確に変化していた ── 幸福は生まれつきの気質でも幸運の結果でもなく、訓練可能な技能だという、瞑想と神経科学の共同研究の結論。ダライ・ラマとの対話から始まった研究プログラム
心理学では この名言は、幸福を生まれつきの気質ではなく、練習で伸ばせる「ウェルビーイングの可塑性」(心の状態は訓練によって変わりうるという性質)として捉えている。Davidsonら(2003)は、働く成人を対象に、マインドフルネス瞑想(今この瞬間に注意を向ける練習)を8週間行う群と待機群を比べる実験を行った。その結果、瞑想群では前向きな感情と関連する左前頭部の脳活動が高まり、ワクチンへの免疫反応も強まった。Dahlら(2020)も、気づき・つながり・洞察・目的の四つの側面は練習で育つと整理している。一日数分でも呼吸に注意を向ける時間を続けることが、幸福という技能を磨く第一歩になる。 参考:Davidsonら(2003)「Alterations in Brain and Immune Fu…」 /Dahlら(2020)「The plasticity of well-being: A tr…」 ↗ 人物 米国の神経科学者(1951-)。感情神経科学の第一人者。『世界最先端の研究が教える新事実 心理学BEST100』等でも紹介 「快楽は、脳の広い領域に散らばる小さな「快楽のホットスポット」から生まれる。そして幸福には、欲すること(wanting)と味わうこと(liking)のバランスが要る」 — モルテン・クリンゲルバッハ&ケント・ベリッジ 快楽の神経科学(hedonic hotspots)の研究(要旨)
ドーパミンは「快楽物質」ではなく「欲求(wanting)」の物質で、実際に「味わう(liking)」快楽は別の小さな部位が担う ── この分離は、欲しくてたまらないのに楽しめない(依存)や、次々に求めて味わえない(快楽の踏み車)の脳内の正体を説明する
心理学では この名言は、報酬を「欲すること」(誘因顕著性:対象に強く引き寄せられる動機づけ)と「味わうこと」(快の感じそのもの)が別々の仕組みで働くという考え方を表している。Berridge & Robinson(1998)はラットの実験で、脳内のドーパミンを大きく減らしても甘味への快の表情反応は保たれ、報酬を求める行動だけが弱まることを示した。Peciña & Berridge(2005)は、側坐核のごく小さな領域でオピオイドを働かせたときにだけ甘味の快反応が強まることを見いだし、「ホットスポット」の存在を裏づけた。次の刺激を追うより、いま手にあるものをゆっくり味わう時間をとることが、幸福の土台を育てる。 参考:Berridge & Robinson(1998)「What is the role of dopamine in re…」 ↗ /Peciña & Berridge(2005)「Hedonic Hot Spot in Nucleus Accumb…」 ↗ 人物 ベリッジはミシガン大学、クリンゲルバッハはオックスフォード/オーフス大学の神経科学者 「『しあわせはいつも』── 幸せの決定権を、状況や他人ではなく「自分のこころ」に返す代表作(本文は原典でご確認ください)」 — 相田みつを 『しあわせはいつも』(角川文庫ほか)所収の代表作
著作権保護期間中のため本文は掲載せず、作品の紹介に留めた(管理:相田みつを美術館)
同じ出来事を前にしても、幸せと感じる人とそうでない人がいる ── その分かれ目を外側の条件ではなく、受けとめる心の側に置いた一行の書。高杉晋作の辞世「すみなすものは心なりけり」と響き合う、日本語の幸福観の現代の定番
心理学では この書が示すのは、幸福の「トップダウン理論」(幸せは外側の条件の足し算ではなく、物事の受けとめ方から生まれるという考え)である。Diener(1984)は主観的幸福感(自分を幸せだと感じる度合い)の研究を整理し、収入や境遇などの客観的な条件だけでは、幸せの個人差を十分に説明できないことを示した。Lyubomirsky & Ross(1997)は、隣で同じ課題を解く人の速さを変える実験を行い、幸福感の高い学生ほど、他人の出来に気分や自己評価が左右されにくいことを見いだした。うまくいかない日こそ、他人と比べる前に自分の受けとめ方を一度問い直す。それが、幸せの舵を自分の手に取り戻す一歩になる。 参考:Diener(1984)「Subjective Well-Being」 /Lyubomirsky & Ross(1997)「Hedonic consequences of social com…」 人物 日本の詩人・書家(1924-1991)。「書の詩人」と呼ばれ、没後にミリオンセラーとなった 📮 毎週土曜の朝、メールで届きます その週にご紹介したウェルビーイング研究のダイジェストを無料でお届けします。
確認メールのリンクで登録完了。いつでも配信停止できます。
📧 サンプルを見る
あわせて読む 世界の主要ウェルビーイング研究 → 名言が言ってきたことを、研究はどう確かめてきたか。幸せの研究の著名論文2,358本を、要旨と研究の系譜で。 思想ごとの名言も 世界の思想と宗教の幸福観マップ → 47の思想・宗教それぞれを代表する名言を、思想の幸福観とあわせて。
名言の収集・分類・解説はAI(Claude)を活用し、はぴテックが確認したものです。「出典に諸説あり」の名言は、その人物の言葉として流通しているものの一次資料での確認が難しいもの、「要旨」は趣旨を短くまとめたものです。心理学の補足は、名言の知恵を心理学・幸福研究の知見で読み解いたもので、引用した論文は学術データベースで実在を照合しています。
解説付き全選(PDF) / 一覧(Excel)
© 株式会社はぴテック