どんな調査か
「学齢期の子どもの健康行動調査(Health Behaviour in School-aged Children、HBSC)」は、思春期の子どもの健康とウェルビーイング(心身ともに良好な状態)を国をまたいで比べる、WHO(世界保健機関)の共同研究である。1982年に始まり、4年ごとに子ども自身が答える質問紙調査として実施されている。運営はHBSC国際ネットワークで、WHO欧州地域事務局と共同で国際報告書をまとめており、現在は51の国・地域のチームが参加している。目的として、若者の健康とウェルビーイングへの新しい理解を得ること、健康を左右する社会的な要因(社会的決定要因)を明らかにすること、若者の暮らしを良くする政策や実践に役立てることを掲げている。思春期は身体・感情・認知・社会性が急速に発達する移行期であり、この時期に身についた行動は心の健康、飲酒・喫煙などの物質使用、運動、食事を通じて大人になってからの健康にも続くため、予防と支援の重要な機会だと位置づけている。
何をどう測っているか
調査はすべての参加国・地域で、国際調査実施要綱(HBSC international study protocol)に定めた共通の方法により、学校で行われる。各国・地域はクラスター抽出(学校や学級を単位に対象を選ぶ方法)で11歳・13歳・15歳の子どもを選び、その年齢層全体を代表する標本になるようにしている。各国・地域で年齢層ごとにおよそ1500人を選び、2021/22年調査には約28万人が参加した。質問は食事、運動、睡眠、いじめ、ネット利用、家族や友人・学校との関係といった健康行動と社会的な環境に加え、生活満足度と心身の不調を同じ枠組みで尋ねる。生活満足度はキャントリルの梯子(0〜10の段階で自分の人生を評価する質問)で測り、6以上を「高い」とする。2001/02、2005/06、2009/10、2013/14年調査のデータは公開されており、2022年調査の結果は2014・2018年の比較可能な数値とともにデータブラウザで比べられる。また、国連子どもの権利条約第12条(子どもが意見を聞かれる権利)を土台に、質問づくりや分析、結果の発信に若者自身が参加する参加型の手法も取り入れている。
これまでの歩み
2013/2014年調査の国際報告書「Growing up unequal(不平等のなかで育つ)」(2016年3月1日)は、欧州と北米の42か国、約22万人のデータをもとに、健康とウェルビーイングにおける性別の差と社会経済的な差を主題とし、家族・仲間・学校との関係から肥満、メンタルヘルス、喫煙・飲酒、いじめまでを扱った。2017/2018年調査の国際報告書第1巻「Spotlight on adolescent health and well-being」(2020年5月17日)は、欧州とカナダの45の国・地域、22万人超を対象とし、電子メディアでのやりとりとネットいじめ(サイバーいじめ)に関する質問が新たに加わった。この号では、個々の心身の不調の訴えと低体重も国際報告書で初めて取り上げられた。2021/2022年調査は欧州・中央アジア・カナダの44の国・地域に広がり、国際報告書第1巻「A focus on adolescent mental health and wellbeing」(2023年10月10日)は思春期の心の健康とウェルビーイングに焦点を当て、性別・年齢・社会的不平等との関係と2014・2018年からの変化を示した。同じ調査からはその後、物質使用、仲間内の暴力といじめ、性の健康、ソーシャルメディア利用とゲーム、社会的な環境(家族・学校など)をテーマにした報告書が相次いで出されている。
分かってきたこと
家族の支えが減り、学校のプレッシャーが増している
2021/22年調査の社会的環境に関する報告書によると、11歳・13歳・15歳の約28万人のうち、家族からの支えが「高い」と答えたのは68%にとどまり、2018年から大きく下がった。一方で学校でのプレッシャーは急に強まっており、特に女子への影響が大きい。報告書は国・性別・社会経済的な集団による差が大きいことも示し、若者の心の健康を支える環境づくりを急ぐ必要があると結論づけている。
健康の不平等は一貫したテーマである
2013/14年調査の報告書は表題どおり、性別と社会経済的な差を中心に据えた。2021/22年調査の心の健康の報告書も、社会的不平等との関係を主要な柱としている。デンマークのチームは30年分のデータから、肥満や自己評価の低さ、心のウェルビーイングの低さはあらゆる家庭の若者に見られるが、低所得家庭の若者ほど不釣り合いに重い負担を負うようになっており、特に恵まれない家庭の女子で目立つと報告している。スペインのチームも、性の健康の指標で社会経済的地位の低い若者ほど一貫してリスクが高く、格差が広がっていることを示した。
女子の心の健康への圧力が続いている
性別の差は版を通じて繰り返し示されている。2021/22年調査では、学校のプレッシャーの高まりが特に女子に強く表れた。オランダの2025年の全国報告書も、2021年以降に学校を楽しいと感じる生徒が減り、女子の心の健康への圧力が続いていると伝えている。
デジタル環境と睡眠が新たな焦点になった
2017/18年調査で電子メディアでのやりとりとネットいじめの質問が加わり、2021/22年調査では44の国・地域を対象に、ソーシャルメディアとゲームの利用の危険と利点の両面、問題のある使い方の傾向をまとめた報告書が出された。チェコのデータでは、平日の平均睡眠時間が初めて8時間を下回り、推奨される睡眠を満たさない若者がほぼ半数に上り、平日と休日の睡眠時間のずれ(社会的時差ぼけ)は15歳の最大55%に見られた。チェコのチームは、就寝時刻の遅れと画面を見る時間の増加を主な要因に挙げている。
食事・体重・運動にも課題がある
HBSCの報告書の一つは、不健康な食習慣、過体重と肥満の割合の上昇、身体活動の少なさを指摘している。報告書はこれらを、心血管疾患、糖尿病、がんなどの非感染性疾患(生活習慣に関わる慢性の病気)の重要な危険因子として位置づけている。