幸せの名言集

親切の名言26選

「私たちは大きなことはできません。小さなことを大きな愛をもって行うだけです」

We can do no great things, only small things with great love.

— マザー・テレサ 講話より

行為の大きさより、込める愛の大きさ

心理学では
この言葉は、向社会的行動(他者のためになる行い)の価値が、行為の規模よりも、そこに込める動機の質にあることを示している。Dunnら(2008)は、参加者に少額のお金を渡し、自分のためか他人のために使うよう割り当てる実験を行った。その結果、他人のために使った人ほど幸福感が高まり、金額の大小は結果を左右しなかった。また、Weinstein & Ryan(2010)は実験と日誌研究を通じて、義務感からではなく自ら望んで行う援助(自律的動機による援助)が、助ける側の幸福感を高め、受け手にもよりよい影響を与えることを示した。日々の挨拶やちょっとした手助けも、相手を思う気持ちを込めて自分の意思で行えば、互いの心を満たす行為になる。 参考:Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」/Weinstein & Ryan(2010)「When helping helps: Autonomous mot…」
人物
カトリック修道女(1910-1997)。ノーベル平和賞
「情けは人の為ならず」

— 日本のことわざ

「他人のためにならない」という解釈は誤用

人への親切は巡り巡って自分に返る

心理学では
この名言は、心理学でいう間接互恵性(親切をした相手ではなく、周囲の第三者から親切が返ってくる仕組み)と、親切が行為者自身の幸福感を高める働きの両方を言い当てている。Wedekind & Milinski(2000)は、参加者同士がお金を渡し合う実験で、他者に気前よく与えた人ほど、別の参加者から与えられやすくなることを示した。またDunnら(2008)の実験では、受け取ったお金を他人のために使うよう指示された人のほうが、自分のために使った人より、その日の終わりの幸福感が高かった。見返りを数えずに小さな親切を重ねることが、信頼と心の満足の両面で自分を支える土台になる。 参考:Wedekind & Milinski(2000)「Cooperation Through Image Scoring …」 ↗/Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」
「他人に幸せになってほしいなら、思いやりを実践しなさい。自分が幸せになりたいなら、思いやりを実践しなさい」

If you want others to be happy, practice compassion. If you want to be happy, practice compassion.

— ダライ・ラマ14世 著作・講話

思いやりは他者と自分の両方の幸福の鍵

心理学では
この名言は、思いやり(コンパッション:他者の苦しみに心を寄せ、和らげたいと願う気持ち)や向社会的行動(人のためになる行動)が、受け手だけでなく行う本人の幸福にもつながることを表している。Fredricksonら(2008)は会社員を対象に、他者の幸せを願う慈悲の瞑想を数週間続ける実験を行い、実践した人ではポジティブ感情が増え、周囲からの支えなどの資源が育ち、人生の満足度が高まることを示した。またDunnら(2008)の実験では、渡されたお金を他人のために使った人の方が、自分のために使った人より幸福感が高かった。身近な人の幸せを心の中で願う時間や、小さな親切を一日に一つ加えることが、相手と自分の双方の幸せにつながる。 参考:Fredricksonら(2008)「Open hearts build lives: Positive …」/Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」
人物
チベット仏教の最高指導者(1935-)。ノーベル平和賞
「与えることで貧しくなった人は、いまだかつて一人もいません」

No one has ever become poor by giving.

— アンネ・フランク 『アンネの日記』

与えることは損失ではない

心理学では
この名言は、向社会的行動(他者のためになる行い)が、与えた側の豊かさを損なうどころか増やすという見方と重なる。Dunnら(2008)の実験では、受け取ったお金を他者のために使うよう指示された人のほうが、自分のために使った人よりも、その日の終わりの幸福感が高かった。さらにMogilnerら(2012)の一連の実験では、他者の手助けに時間を使った人は、自分のために時間を使った人や思いがけず自由時間を得た人よりも、時間にゆとりがあると感じていた。与えることは、心の満足だけでなく「足りている」という実感も育てるのである。日々の小さな差し入れや短い手助けを意識して取り入れることが、自分自身の満たされた感覚につながる。 参考:Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」/Mogilnerら(2012)「Giving Time Gives You Time」 ↗
人物
ドイツ生まれのユダヤ人少女(1929-1945)。隠れ家生活の日記を残す
「怨みは怨みによってやむことなく、慈しみによってやむ」

Hatred is never appeased by hatred. It is appeased by love.

— ブッダ 『法句経(ダンマパダ)』第5偈

報復ではなく慈悲だけが連鎖を断つ

心理学では
この言葉は、心理学でいう「許し(forgiveness、報復や恨みの気持ちを手放し、相手に善意を向け直すこと)」の働きと重なる。Bushman(2002)の実験では、挑発した相手を思い浮かべながらサンドバッグを叩いた人は、怒りが晴れるどころか、かえって怒りと攻撃性が強まった。またWitvlietら(2001)の実験では、自分を傷つけた人への恨みを思い返すと心拍や血圧が上がり、否定的な感情も強まった。一方で、相手に共感して許す場面を思い描くと、それらが和らいだ。ただし深刻な被害の場面では、許しを急がず、自分の安全を守ることと組み合わせるとよい。怒りがわいたら相手の事情を一度想像してみることが、怨みの連鎖から自分を解き放つ一歩になる。 参考:Bushman(2002)「Does Venting Anger Feed or Extingu…」 ↗/Witvlietら(2001)「Granting Forgiveness or Harboring …」 ↗
人物
古代インドの宗教家(BC5世紀頃)。仏教の開祖
「どんなに小さな親切も、決して無駄にはならない」

No act of kindness, no matter how small, is ever wasted.

— イソップ 寓話「ライオンとネズミ」の教訓

寓話の教訓として後世に定式化された文言

小さな親切が、後に大きな救いになる

心理学では
この名言は、心理学でいう返報性の規範(親切を受けたら返そうとする社会的なルール)と、向社会的行動(他者のためになる行動)が持つ力を言い当てている。Gouldner(1960)は、受けた恩に報いる規範が多くの社会に共通し、人間関係を支えていると論じた。さらにKumar & Epley(2023)の実験では、温かい飲み物を手渡すといった小さな親切について、する側は相手の喜びを低く見積もりがちである一方、受け手は予想以上に心を動かされていた。親切の価値は、した本人が思うよりも大きいのである。「こんなことで」とためらうときこそ、ひと声かけるような小さな親切を実行することが、人とのつながりを育てる。 参考:Gouldner(1960)「The Norm of Reciprocity: A Prelimi…」 ↗/Kumar & Epley(2023)「A little good goes an unexpectedly…」 ↗
人物
古代ギリシャの寓話作家(BC6世紀頃)
出典に諸説あり
「親切は、耳の聞こえない人にも聞こえ、目の見えない人にも見える言語である」

Kindness is the language which the deaf can hear and the blind can see.

— マーク・トウェイン(とされる) 典拠不詳

※帰属に諸説あり

親切は言葉を超えて伝わる

心理学では
この名言は、親切が言葉に頼らずに伝わることを突いている。心理学では、相手が善意を向けているかという「温かさ」の判断は対人認知(人が他者をどう受け取るか)の中心的な次元とされ、人は能力より先に温かさを読み取る(Fiskeら、2007)。さらにHertensteinら(2006)の実験では、相手の姿が見えない状態で前腕に触れられただけでも、参加者は思いやりや感謝、愛情といった感情を偶然以上の確率で読み取れた。親切は表情やしぐさ、触れ方といった非言語の手がかり(言葉以外のサイン)にも乗って届くのである。うまい言葉が見つからないときは、そっと手を貸す、うなずいて耳を傾けるといった小さなふるまいが、気持ちを伝える助けになる。 参考:Fiskeら(2007)「Universal dimensions of social cog…」 ↗/Hertensteinら(2006)「Touch communicates distinct emotio…」 ↗
人物
米国の作家(1835-1910)
「親切にしなさい。あなたが出会う人は皆、それぞれに厳しい戦いを戦っているのだから」

Be kind, for everyone you meet is fighting a hard battle.

— イアン・マクラーレン 1897年のクリスマス向け寄稿

※プラトンやフィロンの言葉として広く誤流通(Quote Investigator検証済)

誰もが見えない苦労を抱えている

心理学では
この名言は、相手の立場に立って内面を想像する「視点取得」を勧めている。人は他人のふるまいを性格のせいにして、背後の事情を見落としやすい(対応バイアス)。Gilbert & Malone(1995)は、この傾向が生じる仕組みを多くの研究から整理している。Toi & Batson(1982)の実験では、事故で困っている学生の話を聞く際に「本人の気持ちを想像する」よう指示された大学生で共感が強まり、手助けを申し出る人が増えた。相手の苦労を思い描くことが、親切の入り口になるのである。無愛想な店員や不機嫌な同僚に出会ったら、「この人にも見えない事情がある」と一度思い浮かべる。それが穏やかな一言につながる。 参考:Gilbert & Malone(1995)「The correspondence bias.」 ↗/Toi & Batson(1982)「More evidence that empathy is a so…」 ↗
人物
スコットランドの牧師・作家(1850-1907)。本名ジョン・ワトソン
出典に諸説あり
「私がこの世を通るのは一度きり。だから、できる善行と親切は今しよう。先延ばしも省略もしてはならない」

I shall pass through this world but once. Any good therefore that I can do, let me do it now.

— スティーヴン・グレレット(とされる) 典拠不詳(ウィリアム・ペン説などもある)

※帰属に諸説あり

親切の機会は二度と戻らない

心理学では
この名言は、人生の時間には限りがあると意識することで、思いやりのある行動(向社会的行動:他者のためになる自発的な行動)を「今」選び取る姿勢を説いている。Kurtz(2008)は卒業を控えた大学生を対象に実験を行った。残り時間が少ないと意識させられた学生は、大学生活の活動に積極的に関わるようになり、幸福感も高まった。また、Lyubomirskyら(2005)が紹介した介入研究では、親切な行いを週のうち1日にまとめて実行した人たちで幸福感が高まった。時間は一度きりだと思い出すことは、善い行いを後回しにしない後押しになる。気づいた親切は、その日のうちに一つ実行に移す。 参考:Kurtz(2008)「Looking to the Future to Appreciat…」 ↗/Lyubomirskyら(2005)「Pursuing Happiness: The Architectu…」
人物
フランス生まれの米国のクエーカー宣教師(1773-1855)
「一日一善」

— 日本の標語

毎日一つの善行を習慣にする

心理学では
「一日一善」は、心理学でいう向社会的行動(他者のためになる行い)を、日々の習慣として続けることにあたる。Otakeら(2006)は日本の大学生を対象に、自分がした親切を一週間数えて記録してもらう介入を行い、主観的幸福感(自分を幸せだと感じる度合い)が高まることを示した。また、Nelsonら(2016)の実験では、他者や社会のための親切を数週間続けた人は、自分へのご褒美を続けた人よりも、心の充実(フラーリッシング)が大きく高まった。ただし、同じ行いの繰り返しで新鮮味が薄れてきたら、内容に変化をつけるとよい。小さな手助けを一日一つ意識して行い、夜にそれを振り返ることが、相手だけでなく自分自身の幸せにもつながる。 参考:Otakeら(2006)「Happy People Become Happier throug…」/Nelsonら(2016)「Do unto others or treat yourself? …」
出典に諸説あり
「見返りを期待せず、ふとした親切を行いなさい。いつか誰かが、あなたに同じことをしてくれると信じて」

Carry out a random act of kindness, with no expectation of reward.

— ダイアナ妃(とされる) 発言として流通

※帰属に諸説あり

無償の親切が親切の連鎖を生む

心理学では
この名言は、心理学でいう「一般化互恵性(親切を受けた人が、その相手ではなく別の誰かに親切を返すこと)」を信じる姿勢である。Fowler & Christakis(2010)は、見知らぬ人同士が協力ゲームを行う実験で、協力的なふるまいを受けた人が、のちに出会う別の相手にも協力的になることを示した。親切は人から人へと広がっていくのである。またBartlett & DeSteno(2006)の実験では、助けられて感謝の気持ちを抱いた人は、恩人だけでなく見知らぬ人にも手間を惜しまず力を貸した。親切は相手から直接返ってこなくても、感謝を介して社会のどこかを巡っていく。見返りを数えずに小さな親切を手渡すことが、自分の暮らす世界を少しずつ温かくすることにつながる。 参考:Fowler & Christakis(2010)「Cooperative behavior cascades in h…」 ↗/Bartlett & DeSteno(2006)「Gratitude and Prosocial Behavior」
人物
英国皇太子妃(1961-1997)。地雷廃絶・エイズ患者支援などの慈善活動
「和顔愛語(和やかな顔と、思いやりのある言葉)」

— 『無量寿経』 浄土教の根本経典

続く「先意承問」は相手の意を先んじて汲むこと

和やかな表情(和顔)と、思いやりのこもった言葉(愛語)。お金や物を持っていなくても、表情と言葉なら誰でも今すぐ人に施せる ── 仏教が説く、もっとも身近な布施のかたち

心理学では
和やかな表情と思いやりのある言葉は、心理学でいう向社会的行動(他者のためになる行い)のなかでも、もっとも元手のかからないものである。表情には感情伝染(相手の表情や気分が自然に移る現象)が働く。Dimbergら(2000)の実験では、意識できないほど短く笑顔を見せられただけでも、見た人の顔の笑う筋肉が反応した。またSandstrom & Dunn(2014)は、コーヒー店で店員に笑顔を向けて短く言葉を交わすよう求められた人は、手早く済ませるよう求められた人に比べて、前向きな気分と人とのつながりの感覚が高まることを実験で示した。和顔愛語は、受け取る側だけでなく施す側の心も温めるのである。レジや廊下で交わす一言に笑顔を添えることが、互いの一日を明るくする。 参考:Dimbergら(2000)「Unconscious Facial Reactions to Em…」 ↗/Sandstrom & Dunn(2014)「Is efficiency overrated?: Minimal …」 ↗
「無財の七施:財がなくても、眼施・和顔施・愛語施など七つの施しができる」

— 仏教の教え 『雑宝蔵経』

お金がなくても、まなざしや言葉で人に与えられる

心理学では
無財の七施は、心理学でいう向社会的行動(他者のためになる行い)を、お金をかけない小さなふるまいにまで広げた考え方である。Sandstrom & Dunn(2014)は、コーヒー店の客に店員と目を合わせ、笑顔で短い会話をするよう依頼する実験を行った。その結果、手早く用件だけを済ませた客と比べて、前向きな気分と人とのつながりの感覚が高まった。またOtakeら(2006)は日本の大学生を対象に、自分がした親切を一週間数える介入を行い、主観的幸福感(自分は幸せだという実感)が高まることを報告している。朝の挨拶にやわらかなまなざしと温かいひと言を添えることが、相手と自分の双方の心を温める。 参考:Sandstrom & Dunn(2014)「Is efficiency overrated?: Minimal …」 ↗/Otakeら(2006)「Happy People Become Happier throug…」
「人間のいるところ、どこにでも親切の機会がある」

Wherever there is a human being, there is an opportunity for a kindness.

— セネカ 『幸福な生について』

親切に特別な条件は要らない

心理学では
この名言は、親切を特別な善行ではなく、人と接するあらゆる場面にある行動として捉えている。心理学でいう向社会的行動(他者のためになる自発的な行動)である。Otakeら(2006)は日本の大学生に、自分がした親切を1週間数えて記録してもらう介入研究を行い、記録した群で主観的幸福感(自分がどれだけ幸せかという感覚)が高まることを示した。数えることで、身近な親切の機会に気づきやすくなるのである。Curryら(2018)のメタ分析(多数の研究の統合)でも、親切な行為が行った本人の幸福感を高めることが確認されている。席を譲る、ひと声かけるといった小さな親切を一日の終わりに振り返る習慣が、次の親切と自分の幸福の両方につながる。 参考:Otakeら(2006)「Happy People Become Happier throug…」/Curryら(2018)「Happy to help? A systematic review…」
人物
古代ローマのストア派哲学者(BC4頃-AD65)
「親切は、親切を生む」

Kindness gives birth to kindness.

— ソフォクレス 『アイアース』

善意は連鎖する

心理学では
この名言は、心理学でいう「向社会的行動の伝播」(親切を受けた人が、恩人以外の第三者にも親切を回すこと)を言い当てている。直接の見返りではなく善意が人から人へ巡るという意味で、「間接互恵性」とも呼ばれる。Fowler & Christakis(2010)は、見知らぬ人どうしが相手を替えながら協力ゲームを行う実験で、協力的な相手と組んだ人が、その後は別の相手にも協力的になることを示した。善意は人を介して広がるのである。Chancellorら(2018)も職場での実験で、同僚から親切を受けた社員が周囲により多くの親切をするようになることを見いだした。日々の小さな手助けや声かけは、目の前の一人を越えて、職場や地域に善意の輪を広げる起点となる。 参考:Fowler & Christakis(2010)「Cooperative behavior cascades in h…」 ↗/Chancellorら(2018)「Everyday prosociality in the workp…」 ↗
人物
古代ギリシャの三大悲劇詩人の一人(BC497頃-406頃)
出典に諸説あり
「親切は、社会をつなぎとめる黄金の鎖である」

Kindness is the golden chain by which society is bound together.

— ゲーテ(とされる) 発言として流通

※帰属に諸説あり

親切は社会の結合原理である

心理学では
この名言は、向社会的行動(他者のためになる行動)が人と人のあいだに信頼と協力の網を広げる働きを言い当てている。Putnam(2000)は、日常の親切や信頼の積み重ねを社会関係資本(つながりが生む共有財産)と呼び、地域社会の土台と論じた。Fowler & Christakis(2010)は、見知らぬ者同士がお金を出し合うゲームの実験で、親切にされた人がのちに別の相手にも気前よくふるまうことを示した。協力は、人から人へと連鎖して広がったのである。職場や近所での小さな手助けは、受け取った相手の先にいる誰かにまで届く。その一つひとつが、まわりをつなぐ鎖を強くすることにつながる。 参考:Putnam(2000)「Bowling Alone」 ↗/Fowler & Christakis(2010)「Cooperative behavior cascades in h…」 ↗
人物
ドイツの文豪(1749-1832)
「たらいの水は、向こうへ押しやれば自分の方に返ってくる」

— 二宮尊徳 「たらいの水」の逸話として伝わる

逸話として伝わるもので、記録上の文言には揺れがある

与えれば返り、奪えば失う

心理学では
この名言は、互恵性(受けた恩を返そうとする人の傾向)と、向社会的行動(他者のためになる行動)が自分にも益をもたらすことを、たらいの水にたとえたものである。Fowler & Christakis(2010)は、相手を入れ替えながら行う協力ゲームの実験で、協力を受けた人がその後、別の相手にも協力しやすくなり、親切が人から人へ広がっていくことを示した。またDunnら(2008)は、お金を他人のために使うよう割り当てた人のほうが、自分のために使った人より幸福感が高まることを実験で確かめている。親切は人づてに巡って戻るだけでなく、与えたその場で自分の心も満たす。見返りを数えず、身近な人に小さな手助けを差し出すことが、信頼と温かい関係を育てる第一歩になる。 参考:Fowler & Christakis(2010)「Cooperative behavior cascades in h…」 ↗/Dunnら(2008)「Spending Money on Others Promotes …」
人物
江戸後期の農政家・思想家(1787-1856)。報徳思想
「年を重ねると、自分には二つの手があることに気づく。一つは自分を助ける手、もう一つは他者を助ける手である」

As you grow older, you will discover that you have two hands, one for helping yourself, the other for helping others.

— サム・レヴェンソン 詩文「Time Tested Beauty Tips」

※オードリー・ヘプバーンの言葉として誤流通(彼女が愛誦した詩)

人は自分と他者の両方を助けるために生きている

心理学では
この名言は、心理学でいう「共同性(他者を思いやり支えようとする傾向)」を、自分への配慮と両立させる姿を描いている。Brownら(2003)は高齢の夫婦を数年間追跡した縦断研究で、周囲に支援を与えていた人ほど、その後の死亡リスクが低いことを示した。一方、Fritz & Helgeson(1998)は、自分を顧みずに他者に尽くす「非緩和的共同性(自己を犠牲にした過剰な世話焼き)」が心身の不調と関連し、自分も大切にする共同性とは性質が異なることを明らかにした。二つの手をそろえて使うことが鍵である。日々の暮らしでは、まず自分を整える時間を確保し、そのうえで身近な人に手を差し伸べる習慣を持つことが、長く続く親切につながる。 参考:Brownら(2003)「Providing Social Support May Be Mo…」 ↗/Fritz & Helgeson(1998)「Distinctions of unmitigated commun…」 ↗
人物
米国のユーモア作家・司会者(1911-1980)
「親切な行為を意図的に行うことは、幸福感を高める最も確実な方法の一つである」

— ソニア・リュボミアスキー 『幸せがずっと続く12の行動習慣』(2007)

親切は科学的に検証された幸福介入である

心理学では
この名言は、親切を「意図的な幸福活動」(自分の意思で選び、続けることで幸福感を高める行動)として実践することを勧めている。Layousら(2012)は9〜11歳の子どもに4週間、週に3つの親切をしてもらう実験を行い、親切をした子どもは幸福感が高まり、クラスメートからも好かれやすくなることを示した。またCurryら(2018)は、親切の効果を調べた実験研究をメタ分析(多数の研究結果を統合する手法)し、親切が実行者自身の幸福感を高めるという結果をまとめている。ただし義務感だけで続けると負担になりやすいため、自分らしい親切を選ぶとよい。朝のうちに小さな親切を一つ決めて実行することが、毎日の穏やかな幸福感につながる。 参考:Layousら(2012)「Kindness Counts: Prompting Prosoci…」/Curryら(2018)「Happy to help? A systematic review…」
人物
米国の心理学者。カリフォルニア大学リバーサイド校教授。幸福介入研究の第一人者
「アロハ ── 息(ハー)を分かち合うこと。愛と敬意と思いやりをもって、互いに接すること」

Aloha: to share the breath of life.

— ハワイの伝統的価値観 ハワイ州法(Aloha Spirit法, 1986)にも精神が定義されている

ハワイ州の州法に「アロハ・スピリット」条項が実在する

アロハは挨拶であると同時に、アカハイ(優しさ)・ロカヒ(調和)・オルオル(心地よさ)・ハアハア(謙虚さ)・アホヌイ(忍耐)の頭文字を取った生き方の規範でもある。語源的には「息(ハー)を共にする」こと、つまり命を分かち合うことを意味するとされる

心理学では
アロハの精神は、心理学でいう向社会的行動(他者の役に立とうとする行動)を、挨拶や法という形で社会規範(集団で共有されるふるまいのルール)に組み込んだものである。Aknin ら(2013)は、世界各国の調査で他者のためにお金を使う人ほど幸福感が高いことを示し、さらにカナダやウガンダなどでの実験で、他者のための支出が実際に幸福感を高めることを確かめた。またFowler & Christakis(2010)は経済ゲームの実験で、協力を受けた人がその後別の相手にも協力しやすくなり、思いやりが人から人へ広がることを明らかにした。毎日の挨拶にひと言の気づかいを添えることが、職場や家庭に親切の連鎖を生む第一歩になる。 参考:Aknin ら(2013)「Prosocial spending and well-being:…」/Fowler & Christakis(2010)「Cooperative behavior cascades in h…」 ↗
「アティティ・デーヴォ・バヴァ ── 客人は、神様である」

Atithi Devo Bhava.

— 『タイッティリーヤ・ウパニシャッド』 古代インドの聖典(1.11.2)

現代ではインド政府観光省の標語にも採用されている

訪れた客人を神そのものとしてもてなせ、という教え。母・父・師と並べて「客人を神とせよ」と説かれ、見知らぬ者への歓待(ホスピタリティ)をインド文化の中心的な徳に位置づけた言葉

心理学では
この教えは、心理学でいう向社会的行動(見返りを求めず他者のためになる行い)を、家族や知人の枠を超えて見知らぬ相手にまで広げる規範と言い換えられる。Akninら(2013)は、世界各国の大規模調査と複数の国での実験を組み合わせて検討した。その結果、他者のためにお金を使う人ほど幸福感が高く、実験でも他者のための出費が気分を高めることが示された。またKumar & Epley(2023)の実験では、ささやかな親切を受けた側の喜びは、親切をした側の予想を大きく上回っていた。もてなしは、する人とされる人の双方を満たす営みである。来客や新しい同僚に温かい一杯を差し出すことが、家庭や職場に信頼の輪を広げる第一歩になる。 参考:Akninら(2013)「Prosocial spending and well-being:…」/Kumar & Epley(2023)「A little good goes an unexpectedly…」 ↗
「おかげさま ── 目に見えない支えの「陰」に感謝する」

— 日本の伝統的な言葉 「お陰」=神仏や人々の見えない庇護の意

江戸期の「お蔭参り」など、庶民信仰とも結びついて定着した

「おかげさまで元気です」の「おかげ」は、本来、神仏や周囲の人々による目に見えない支え(陰)を指す。自分の無事や成功を自力だけの成果とせず、見えない無数の支えの結果として受け取る、日本語に埋め込まれた感謝の世界観

心理学では
「おかげさま」は、心理学でいう感謝(受けた恩恵に気づき、その送り手を意識する感情)を、成果を自力だけでなく周囲の支えに帰する見方として表した言葉である。人は自分が思う以上に支えられている。Bolgerら(2000)は司法試験を控えた人とそのパートナーを日記法で追い、本人が気づかないうちに受けていた支え(見えないサポート)ほど、落ち込みの少なさと関連することを示した。またEmmons & McCullough(2003)の実験では、ありがたいことを定期的に書き出した人は、わずらわしい出来事などを記録した人より前向きな気分が高まった。一日の終わりに、今日の無事を支えてくれた人や物事を一つ思い浮かべることが、心のゆとりにつながる。 参考:Bolgerら(2000)「Invisible support and adjustment t…」 ↗/Emmons & McCullough(2003)「Counting blessings versus burdens:…」
「優しく、礼儀正しくしていれば、世界はきっと、ちゃんとする」

If we're kind and polite, the world will be right.

— パディントン(映画『パディントン2』) ポール・キング監督(2017)。マイケル・ボンド原作

ペルーから来た小さなクマの処世訓。刑務所に入れられても、この方針を曲げないパディンтンが、周囲を一人ずつ変えていく ── 「優しさは弱さではなく方針である」ことを証明する物語

心理学では
この名言は、向社会的行動(他者のためになる行動)の社会的伝染(ふるまいが人から人へ広がる現象)を言い当てている。Fowler & Christakis(2010)は、見知らぬ者同士が協力ゲームを繰り返す実験を行った。その結果、協力的にふるまわれた人が、次に出会う別の相手にも協力的になり、親切が人づてに広がることを示した。Chancellorら(2018)はスペインの職場で、一部の社員に同僚への親切を続けてもらう実験を行った。すると親切を受けた人が、今度は別の人に親切にする「恩送り」が起きた。朝のあいさつやお礼のひと言といった小さな礼儀が、職場や家庭の空気を変える出発点になる。 参考:Fowler & Christakis(2010)「Cooperative behavior cascades in h…」 ↗/Chancellorら(2018)「Everyday prosociality in the workp…」 ↗
人物
ボンド(1926-2017)は英国の児童文学作家
「正しくあることと、親切であることの、どちらかを選ぶときは ── 親切を選べ」

When given the choice between being right or being kind, choose kind.

— 映画『ワンダー 君は太陽』 スティーヴン・チョボスキー監督(2017)。R・J・パラシオ原作。ウェイン・ダイアーの言葉の引用として劇中で示される

ウェイン・ダイアーの言葉の引用として流布

顔に障害を持つ少年の学校生活を描く物語の、先生が黒板に書く「今月の格言」。論破の勝利は関係を壊すことがあり、親切は正しさを運ぶ最良の器でもある ── 正しさと優しさの優先順位を、子どもに手渡せる形にした一文

心理学では
この名言は、素朴実在論(自分こそ物事をありのままに見ていると感じる心の癖)への戒めと、向社会的行動(相手のためを思う行い)の勧めを重ねたものである。Proninら(2004)は一連の調査と実験で、人は他者の判断には偏りを見いだしやすい一方、自分の判断は客観的だと思い込みやすいことを示した。また、Yeagerら(2014)の中学生を対象にした実験では、作文への厳しい指摘に「あなたなら高い基準に届くと信じている」という一言を添えると、書き直しに取り組む生徒が増えた。正しさは、温かさに包まれてはじめて相手に届く。意見がぶつかったときは、勝ち負けの前に相手を気づかう一言を添えることが、関係と納得の両方を守る助けになる。 参考:Proninら(2004)「Objectivity in the Eye of the Beho…」 ↗/Yeagerら(2014)「Breaking the cycle of mistrust: Wi…」 ↗
人物
原作は世界的ベストセラー児童文学
「美しい唇のためには、優しい言葉を話しなさい。美しい瞳のためには、人々の良いところを探しなさい」

For attractive lips, speak words of kindness. For lovely eyes, seek out the good in people.

— サム・レヴェンソン(オードリー・ヘプバーンの愛誦で著名) レヴェンソンの詩「Time Tested Beauty Tips」。ヘプバーンが晩年に愛誦し、葬儀でも朗読された

※ヘプバーンの言葉として流通(原作者はレヴェンソン)

「美のヒント」の形を借りた人格論 ── 美しさの手入れの対象を、化粧品から言葉と眼差しへ置き換える。ヘプバーン自身が晩年をユニセフ活動に捧げたことで、詩は彼女の生き方の説明になった

心理学では
この詩の知恵は、心理学でいう「温かさの後光効果」(人柄の良さが外見の評価まで引き上げる働き)と、「他者への肯定的なまなざし」の大切さに重なる。Kniffin & Wilson(2004)は、高校の同級生や大学のスポーツチームといった実際の集団を調べ、周囲から好かれ、敬意を持たれている人ほど、外見的にも魅力的だと評価されることを示した。またWoodら(2010)の研究では、他者を好意的に見る人ほど、本人の幸福感や協調性が高いことが分かっている。優しい言葉は相手の目に映る自分を美しくし、良いところを探す目は自分の心を明るくする。身近な人の長所を一つ見つけて言葉にして伝えることが、内と外の両方の美しさにつながる。 参考:Kniffin & Wilson(2004)「The effect of nonphysical traits o…」 ↗/Woodら(2010)「Perceiver effects as projective te…」 ↗
人物
レヴェンソン(1911-1980)は米国のユーモア作家。ヘプバーン(1929-1993)は英国の女優・ユニセフ親善大使
「マナアキタンガ ── 他者の尊厳(マナ)を高めるように、敬い、もてなし、世話をすること」

Manaakitanga.

— マオリの価値観 マオリ文化の中核概念の一つ

ニュージーランドの観光・医療・教育の公式理念にも採用されている

語根の「マナ」は人の霊的な力・尊厳を指す。もてなしとは、食事や親切の提供そのものではなく、相手のマナを高める行為である ── ホスピタリティの目的を「相手の尊厳の増進」に置いた、先住民の関係倫理

心理学では
マナアキタンガは、心理学でいう「受け手の自尊心を守る援助」(助けられる側が一人前として尊重されていると感じられる関わり方)に通じる。Fisherら(1982)は、援助を受ける側の反応を調べた研究を総覧した。その結果、助けが相手に「自分は無力だ」と感じさせると、感謝よりも自尊心の傷つき(自己脅威)を生みやすいことを示した。またBolgerら(2000)は、司法試験を控えた人とそのパートナーを日記法で追跡した。本人が気づかないほどさりげない支え(見えないサポート)を受けた日ほど、落ち込みが少ないことを見いだしている。人をもてなし、世話をするときは「何をするか」に加えて、相手の誇りを損なわない渡し方を工夫する。それが、相手の尊厳を高める本当のもてなしにつながる。 参考:Fisherら(1982)「Recipient reactions to aid.」 ↗/Bolgerら(2000)「Invisible support and adjustment t…」 ↗

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