看脚下(照顧脚下)
「足元を見よ」。遠くの理想を語る前に、今自分が立っている場所、今の一歩に目を向けよ。
出典の物語
宋の時代の法演(ほうえん)というお坊さんが、三人の優秀な弟子と夜道を歩いていたとき、提灯の火が風で消えてしまった。真っ暗な中で、法演は弟子たちに言った。「さあ、今の心境を一言で言ってみなさい」。一人目は「五色の鳳凰が赤い空に舞う」と答え、二人目は「鉄の蛇が古い道に横たわる」と答えた。どちらも詩のように格好いい答えである。最後に圜悟(えんご)という弟子が答えた。「足元を見よ」。法演は「私の教えを滅ぼすのは、こいつだろう」と言った。これは最大のほめ言葉で、「私を継いで、さらに超えていくのはこの男だ」という意味である。灯りが消えた闇の中で、鳳凰だの鉄の蛇だのと言っている場合ではない。まず足元を照らして、転ばないように一歩を踏み出す。それが禅の実際である。この言葉は「照顧脚下(しょうこきゃっか)」の形で禅寺の玄関によく掲げられている。「履物をそろえなさい」という日常の意味と、「自分の足元、つまり自分自身をよく見つめなさい」という意味が重ねられている。
出典:『五灯会元』巻十九/『禅林類聚』(五祖法演と三仏の逸話)
ウェルビーイング研究とのつながり
理想の未来を思い描くだけでは、かえって行動が減り、達成率が下がることが示されている(Oettingen & Mayer, 2002)。効果があるのは、望む未来と、それを妨げる足元の現実とを対比させ、「いつ、どこで、何をするか」まで具体化する方法である(Gollwitzer, 1999; Oettingen, 2014)。鳳凰や鉄蛇を語る弟子ではなく「足元を見よ」と答えた圜悟を選んだ法演の判断は、この研究が示す「実行の心理学」と一致している。
現代の暮らし・仕事への示唆
ビジョン、戦略、十年後の理想像。語るのは心地よいが、提灯が消えたとき、つまり不確実性の闇の中で問われるのは、今日の一歩をどこに踏み出すかである。看脚下は、大きな話をする前に、目の前の仕事、目の前の人、自分の足元の状態を確かめよと言う。玄関で靴をそろえるという小さな行為が、禅寺でこの語とともに教えられるのは象徴的だ。靴をそろえられない人に、大きな仕事はそろえられない。遠くを見る目と足元を見る目、両方が要るが、順番は足元が先である。
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