幸せの禅語百選

一花開五葉

いっかごようをひらく

一つの花が五枚の花びらを開き、実は自然に結ばれる。一人の志から、やがて大きな流れが生まれる。

出典の物語

達磨大師が、後継ぎの慧可(えか)に教えを伝えたとき、授けた詩だと伝えられる。「私はもともと、この国(中国)に来て、教えを伝え、迷える人を救おうとした。一つの花が五枚の花びらを開き、実はおのずから結ばれるだろう」。「五枚の花びら」については、達磨から数えて五人の後継者(慧可・僧璨・道信・弘忍・慧能)のことだという説と、六祖慧能の後に分かれた禅の五つの流派のことだという説がある。どちらにしても、一人のインド僧の志が、やがて中国じゅうに、そして日本へと花開いていった禅の歴史を予言した詩として大切にされてきた。注目したいのは「実はおのずから結ばれる」の「おのずから」である。実が結ばれるのは、人が無理に結ばせるのではなく、花が開けば自然に実るということ。達磨は「私が禅を広める」とは言っていない。「教えを伝える」までが自分の仕事で、あとは花が自然に開くのを信じている。「春来草自生」と同じ心が、こちらは師から弟子への信頼として語られている。

吾本来茲土、伝法救迷情、一花開五葉、結果自然成(達磨の伝法偈)

出典:達磨の伝法偈(『景徳伝灯録』巻三/『六祖壇経』)

ウェルビーイング研究とのつながり

自分の死後も続くものに関心を向け、次の世代を育てようとする「生成性」は、Eriksonが中年期の発達課題とした概念で(Erikson, 1950)、生成性の高い人ほど中年以降の心理的な幸福が高いことが示されている(McAdams & de St. Aubin, 1992; An & Cooney, 2006)。自分では見届けられない実りのために種をまく達磨の態度は、この生成性の典型である。

現代の暮らし・仕事への示唆

自分の仕事の成果を、自分の目で見届けられるとは限らない。種をまく人と、実を収穫する人は、しばしば別の人である。達磨は中国で理解されず、九年壁に向かい、一人の弟子に法を伝えて去った。その一花が、千年以上かけて五葉を開いた。教育、研究、組織づくり、子育て。どれも成果が出るのは、自分がその場を離れた後かもしれない。研究でいう「生成性(次世代への関心)」は、中年以降の幸福感と深く結びつく。今日まいた種が、いつ、誰の手で実るか。それを知らなくても、まける人でありたい。

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