幸せの禅語百選

春来草自生

はるきたってくさおのずからしょうず

春が来れば、草はおのずから生える。はからいや焦りがなくても、時が満ちれば、なるべきことはおのずからなる。

出典の物語

『禅林句集』の対句「どっしりと動かず、何事もなく坐っていれば、春が来て草がおのずから生える」の後半である。「兀然(ごつねん)」は、山のようにどっしりと動かないようす。何もはからわず、ただ坐っていると、春が来て草が自然に生えてくる。悟りは、求めて手に入れるものではなく、時が熟せばおのずから現れるものだ、ということを、春の草に託した句である。草に「早く生えろ」と命じても生えないし、「生えるな」と命じても止められない。春が来れば生える。それだけのことが、人間にはなかなかできない。禅の修行では、悟りを急ぐ心が、かえって悟りを遠ざけるとされる。種をまき、土を整え、水をやる。そこまでが人の仕事で、あとは春を待つ。お茶の席では早春の掛け軸として用いられ、冬を越した命の力強さと、それを急かさない心の両方を感じさせる。

兀然無事坐、春来草自生(『禅林句集』)

出典:『禅林句集』(「兀然無事坐 春来草自生」)

ウェルビーイング研究とのつながり

物事を急がず、待つことができる「忍耐(ペイシェンス)」の高い人は、人生満足度や希望が高く、抑うつや否定的感情が低いことが示されている(Schnitker, 2012)。また、変えられない状況を無理に変えようとするより、自分を状況に合わせる「二次的コントロール」が、日本をはじめとする文化で心の健康を支えていることが論じられている(Weisz, Rothbaum & Blackburn, 1984)。「春が来れば草は生える」は、この忍耐と二次的コントロールの表現である。

現代の暮らし・仕事への示唆

成果を急ぐあまり、芽が出る前に土を掘り返してしまう。子どもの成長、部下の育成、自分自身の変化。どれも、はからいで速められるものではない。春来草自生は、「やるべきことをやったら、あとは待つ」という姿勢を教える。これは怠慢ではなく、プロセスへの信頼である。研究でも、過度なコントロール欲求は不安を高め、むしろ成果を損なうことが知られる。土を整え、水をやる。その上で、芽が出る時期は芽に任せる。待つことができる人は、焦る人より、結局多くのものを育てる。

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