幸せの禅語百選

和光同塵

わこうどうじん

自分の光(才能・悟り)を和らげ、塵(世俗)と同じになる。悟りを誇らず、人々の中に溶け込んで生きる。

出典の物語

もとは『老子』の言葉である。「その鋭さをくじき、そのもつれをほどき、その光を和らげ、その塵(ちり)と同じになる」。道を身につけた人は、その輝きを隠して、ふつうの人々の中に溶け込む、という考え方である。禅はこの言葉を取り入れて、悟った後の生き方を示す言葉として使った。悟った人が山にこもって聖者然としているのではなく、町に出て、人々と同じ塵にまみれて生きる。修行の過程を十枚の絵で描いた『十牛図』の最後の絵「入鄽垂手(にってんすいしゅ)」の境地がこれにあたる。日本では、仏が日本の神さまの姿をとって現れたという考え方(本地垂迹説)を、「和光同塵」の言葉で説明することも多かった。禅語としての「和光同塵」の核心は、「光を消す」のではなく「和らげる」ことにある。光は持ったままで、しかし人を照らしつけたり、まぶしがらせたりしない。自分の正しさや優秀さを人に押しつけない。塵と同じ高さに立ちながら、塵に汚されることもない。それが「同塵」であって「埋没」ではない理由である。

其の光を和らげ、其の塵に同じうす(『老子』第四章・第五十六章)

出典:『老子』第四章・第五十六章/『碧巌録』第四十三則 評唱ほか(禅林で転用)

ウェルビーイング研究とのつながり

リーダーの「謙虚さ」、すなわち自分の限界を認め、他者の強みを評価し、学ぶ姿勢を見せることは、部下の仕事への関与、チームの学習、組織の成果と正に関連することが示されている(Owens, Johnson & Mitchell, 2013; Ou et al., 2014)。また、部下に奉仕することを優先する「サーバント・リーダーシップ」は、部下の幸福感と組織への貢献を高める(van Dierendonck, 2011)。「光を和らげて塵に同じくする」は、こうした謙虚なリーダーシップの古い名である。

現代の暮らし・仕事への示唆

能力のある人、正しいことを知っている人ほど、その光で周囲を傷つけることがある。正論で人を追い詰め、専門性で人を黙らせる。和光同塵は、光を持ったまま、その光を和らげる知恵である。優れたリーダーの研究で繰り返し指摘される「謙虚さ」や「サーバント・リーダーシップ」は、まさにこの態度に近い。自分が正しいときほど、声を小さくする。知っているときほど、まず相手の話を聞く。光を和らげた人のまわりには、人が集まる。光を誇る人のまわりからは、人が去る。塵と同じ高さに立てる人が、本当に高い人である。

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