幸せの名言集

気持ちの切り替えの名言58選

「人生はクローズアップで見れば悲劇だが、ロングショットで見れば喜劇である」

Life is a tragedy when seen in close-up, but a comedy in long-shot.

— チャールズ・チャップリン インタビューでの発言

視点の距離を変えれば、出来事の意味は変わる

心理学では
この名言は、心理的距離(出来事を時間・空間・視点の面でどれだけ遠くから捉えるか)によって、同じ出来事の意味づけが変わるという考えに重なる。McGrawら(2012)は一連の実験で、深刻な不運ほど時間的・社会的に遠ざけて捉えたときに笑いを誘いやすくなることを示した。まさに「悲劇も引いて見れば喜劇」である。またKrossら(2005)の実験では、つらい体験を「壁にとまったハエ」のように離れた視点から振り返った人は、当事者の目線で思い返した人より感情的な動揺が小さく、出来事を新たな意味で捉え直しやすかった。落ち込んだときは「10年後の自分なら、これをどう笑い話にするか」と一歩引いて眺めることが、気持ちを切り替える助けになる。 参考:McGrawら(2012)「Too Close for Comfort, or Too Far …」 ↗/Krossら(2005)「When Asking “Why” Does Not Hurt Di…」 ↗
人物
英国出身の映画俳優・監督(1889-1977)
「明日は明日の風が吹く(Tomorrow is another day)」

Tomorrow is another day.

— マーガレット・ミッチェル 『風と共に去りぬ』(1936)結びの台詞

スカーレット・オハラの最後の台詞

今日の絶望を明日に持ち越さない

心理学では
この言葉は、楽観性(物事はいずれ良い方向に向かうという期待)と、情動調整(気持ちの波を整えるはたらき)の知恵を表している。実際、一晩眠ること自体が心のリセットを助ける。van der Helmら(2011)は、感情を揺さぶる画像を半日おいて二度見せる実験を行った。その結果、間に睡眠をとった人は起きていた人に比べ、二度目に見たときの扁桃体(不安や恐れに関わる脳部位)の反応が弱まり、感じる感情の強さも和らいだ。この働きには、レム睡眠(夢を多く見る睡眠)が関わっていると考えられている。つらい日ほど結論を急がず、まずはぐっすり眠り、翌朝の頭で考え直すことが立ち直りへの近道になる。 参考:van der Helmら(2011)「REM Sleep Depotentiates Amygdala A…」 ↗
人物
米国の作家(1900-1949)。ピュリッツァー賞
「私を殺さないものは、私をより強くする」

What does not kill me makes me stronger.

— フリードリヒ・ニーチェ 『偶像の黄昏』(1889)

独語原文:Was mich nicht umbringt, macht mich stärker.

乗り越えた逆境は力に変わりうる

心理学では
この言葉は、心的外傷後成長(つらい出来事と向き合う中で、自分の強さや人生観が深まること)に重なる。Tedeschi & Calhoun(1996)は、逆境を経験した人の多くが、人間関係の深まりや自分の強さの実感といった前向きな変化を報告することを示し、それを測る尺度を作った。Seeryら(2010)は米国の成人を追跡した縦断研究で、ある程度の逆境を経てきた人ほど、逆境をほとんど経験していない人よりも心の不調が少なく、生活満足度が高いことを見いだした。ただし重すぎる逆境には、周囲の支えを組み合わせるとよい。乗り越えた経験を振り返り、そこで得た力を言葉にすることが、次の困難への備えになる。 参考:Tedeschi & Calhoun(1996)「The posttraumatic growth inventory…」 ↗/Seeryら(2010)「Whatever does not kill us: Cumulat…」
人物
ドイツの哲学者(1844-1900)
「人間万事塞翁が馬」

— 『淮南子』人間訓

福→禍→福と転じる胡人の老人の故事

砦の老人(塞翁)の馬が逃げた(禍)→名馬を連れて帰った(福)→息子がその馬から落ちて骨折した(禍)→そのおかげで徴兵を免れ生き延びた(福)。禍福は最後まで分からないから、目先の出来事で一喜一憂するなという故事

心理学では
この故事の知恵は、感情予測(将来の出来事で自分がどう感じるかの見積もり)の研究と重なる。Gilbertら(1998)は、失恋や大学教員の終身雇用審査などを題材に予想と実際の気持ちを比べ、人は悪い出来事のつらさが長く続くと過大に見積もりやすいことを示した。心には出来事を受け止めて意味づけ直す働き(心理的免疫)があるのに、それを見落とすのである。また、全米の成人を数年追ったSeeryら(2010)の縦断研究では、逆境をまったく経験しなかった人よりも、ほどほどに経験した人ほど心の健康が良好だった。うまくいかない日こそ「まだ途中だ」と考え、結論を急がない構えが気持ちの切り替えにつながる。 参考:Gilbertら(1998)「Immune neglect: A source of durabi…」 ↗/Seeryら(2010)「Whatever does not kill us: Cumulat…」
人物
前漢の思想書(BC2世紀)
「幸福の一つの扉が閉じるとき、別の扉が開く。しかし私たちは閉じた扉ばかり見て、開かれた扉に気づかない」

When one door of happiness closes, another opens; but often we look so long at the closed door that we do not see the one which has been opened for us.

— ヘレン・ケラー 『我が宗教』ほか

喪失への固着は次の機会を見えなくする

心理学では
この名言は、反すう(失ったものを繰り返し考え続けること)が注意を過去に縛り、Snyder(2002)の希望理論でいう経路思考(目標へ至る別の道を思い描く力)を妨げる様子を言い当てている。Wroschら(2003)は、若者やがんの子をもつ親などを対象とした調査で、かなわない目標から気持ちを離し、新しい目標に取り組み直せる人ほど、侵入的な思考やストレスが少なく、主観的幸福感が高いことを示した。閉じた扉を手放す力と、別の扉へ向かう力の両方が幸福と結びついているのである。失敗や別れのあとは、悲しみを認めたうえで「いま開いている扉は何か」を書き出すことが、次の一歩を見つける助けになる。 参考:Wroschら(2003)「Adaptive Self-Regulation of Unatta…」 ↗/Snyder(2002)「TARGET ARTICLE: Hope Theory: Rainb…」
人物
米国の著作家・社会活動家(1880-1968)
「人生は、10%が自分に起こる出来事で、90%がそれにどう反応するかで決まる」

Life is 10% what happens to you and 90% how you react to it.

— チャールズ・スウィンドル 説教・著作より

出来事より反応の選択が人生を決める

心理学では
この名言は、エリスのABC理論(出来事そのものではなく、その受け止め方が感情や行動を左右するという考え)や、認知的再評価(出来事の意味をとらえ直して気持ちを整える方法)と重なる。Gross(1998)は不快な映像を見せる実験を行い、意味をとらえ直すよう求められた人は、表情を抑えるだけの人より嫌悪感が弱まることを示した。またGross & John(2003)の調査では、ふだんから再評価を使う人ほど前向きな感情や幸福感が高く、人間関係も良好であった。思わぬ出来事に出会ったら、まず一呼吸おいて「別の見方はないか」と問い直すことが、気持ちの切り替えの助けになる。 参考:Gross(1998)「Antecedent- and response-focused e…」 ↗/Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」
人物
米国の牧師・著述家(1934-)
「人間から全てを奪うことはできても、与えられた状況で自らの態度を選ぶという最後の自由だけは奪えない」

Everything can be taken from a man but one thing: the last of the human freedoms—to choose one's attitude in any given set of circumstances.

— ヴィクトール・フランクル 『夜と霧』(1946)

反応の選択の自由は最後まで残る

心理学では
フランクルの言う「態度を選ぶ自由」は、心理学では認知的再評価(出来事の意味づけを捉え直して感情を整えること)にあたる。Gross & John(2003)は大学生などを対象にした相関研究で、日頃から再評価を使う人ほどポジティブ感情や人生満足度が高く、抑うつが低いことを示した。さらにTroyら(2013)はストレスを経験した成人を調べ、自分では変えられない状況に置かれているときほど、再評価の能力が高い人は抑うつが低いことを見いだした。ただし変えられる状況では、捉え直しに加えて状況そのものへの働きかけを組み合わせるとよい。思うようにならない日こそ、「この状況にどう向き合うか」を自分で選ぶ一呼吸が、心の立て直しにつながる。 参考:Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」/Troyら(2013)「A Person-by-Situation Approach to …」 ↗
人物
オーストリアの精神科医(1905-1997)。強制収容所からの生還者
「人は物事そのものによってではなく、物事についての考えによって悩まされる」

Men are disturbed not by things, but by the views which they take of things.

— エピクテトス 『提要(エンキリディオン)』第5章

苦しみの源は出来事ではなく解釈である

心理学では
この言葉は、心理学でいう認知的評価(出来事をどう受け止めるかという心の働き)の考え方そのものであり、エリスの論理療法やベックの認知療法もこの一節を源流に掲げている。Gross(1998)の実験では、不快な映像を医療者のように客観的に眺めるよう見方を変えた人は、表情を抑え込んだだけの人と違い、嫌悪感そのものが弱まった。こうした捉え直しを認知的再評価(見方を変えて意味づけし直すこと)と呼ぶ。Gross & John(2003)の調査でも、日頃から再評価を使う人ほど前向きな感情や幸福感が高い。落ち込んだときは「自分はこれをどう解釈しているか」と問い、別の見方を一つ書き出すことが、気持ちを切り替える助けになる。 参考:Gross(1998)「Antecedent- and response-focused e…」 ↗/Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」
人物
古代ギリシャのストア派哲学者(55頃-135頃)
「苦しみは出来事そのものからではなく、それに対する自分の評価から生じる。そしてその評価は、今この瞬間に取り消すことができる」

If you are distressed by anything external, the pain is not due to the thing itself, but to your estimate of it; and this you have the power to revoke at any moment.

— マルクス・アウレリウス 『自省録』第8巻

評価を変えれば、苦しみはいま消せる

心理学では
この言葉は、心理学でいう認知的再評価(出来事の意味づけを捉え直して感情を変える方法)を的確に言い表している。Gross(1998)の実験では、不快な映像を見る際に「医学的な目で客観的に見よう」と捉え直した人は、感情を押し殺した人と違って嫌悪感そのものが弱まり、体の興奮も高まらなかった。Gross & John(2003)の調査でも、日頃から再評価を使う人ほど前向きな感情や幸福感が高いことが示されている。ただし大きな喪失の直後は、まず気持ちを受け止めてから捉え直すとよい。心がざわついたら「別の見方はできないか」と一度問い直すことが、気持ちの切り替えの助けになる。 参考:Gross(1998)「Antecedent- and response-focused e…」 ↗/Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」
人物
ローマ皇帝・ストア派哲学者(121-180)
「泣いても一生、笑っても一生」

— 日本のことわざ

同じ一生なら、笑って生きる構えを選ぶ

心理学では
この名言は、出来事は変えられなくても、それに向き合う感情の構えは選べるという、ユーモア・コーピング(笑いでつらさをやわらげる対処)の考え方に通じる。Keltner & Bonanno(1997)は配偶者を亡くした人々を対象に、故人について語る場面を観察した。その結果、自然な笑いが見られた人ほど苦痛が小さく、周囲との関係も良好であった。またFredrickson & Levenson(1998)の実験では、恐怖を感じる映像の後に楽しい映像を見ると、心拍などの体の高ぶりが早く収まった。ただし悲しみは押し込めず、泣いたうえで笑いを取り戻すとよい。沈んだ日こそ小さな可笑しさを一つ探すことが、気持ちを切り替える足がかりになる。 参考:Keltner & Bonanno(1997)「A study of laughter and dissociati…」 ↗/Fredrickson & Levenson(1998)「Positive Emotions Speed Recovery f…」
「楽しいから笑うのではない。笑うから楽しいのだ」

We don't laugh because we're happy, we're happy because we laugh.

— ウィリアム・ジェームズ 情動の末梢起源説(ジェームズ=ランゲ説)の通俗的要約

要旨。原文は「泣くから悲しい」の形

身体の動きが感情をつくる側面がある

心理学では
この名言は、心理学でいう表情フィードバック仮説(顔の筋肉の動きが脳に伝わり、感情の感じ方に影響するという考え)を言い表している。Colesら(2019)は、表情と感情体験に関する多数の実験をメタ分析(複数の研究結果を統合する方法)し、表情をつくると感情がその方向へ動くという、小さいながらも確かな効果を示した。さらに、世界各地の研究室が同じ手順で行ったColesら(2022)の大規模実験でも、意図的に笑顔をつくると幸福感が高まる結果が得られた。ただし効果は穏やかなので、気分を一変させる手段ではなく、切り替えのきっかけとして使うとよい。落ち込んだときはまず口角を上げてみることが、気持ちを立て直す最初の一歩になる。 参考:Colesら(2019)「A meta-analysis of the facial feed…」 ↗/Colesら(2022)「A multi-lab test of the facial fee…」 ↗
人物
米国の心理学者・哲学者(1842-1910)
出典に諸説あり
「運命がレモンをくれたら、それでレモネードを作れ」

When fate hands you a lemon, make lemonade.

— デール・カーネギー 『道は開ける』(1948)。実業家ジュリアス・ローゼンウォルドの言葉として紹介

原型はエルバート・ハバードの追悼文(1915)とされる

不利な材料を有利な結果に転換せよ

心理学では
この名言は、ベネフィット・ファインディング(逆境の中に得たものを見いだすこと)や肯定的再評価(出来事の意味を前向きに捉え直すこと)にあたる。Affleckら(1987)は、初めて心臓発作を経験した男性を長期にわたって追跡する縦断研究を行った。その結果、発作後に生き方の見直しなどの利点を見いだした人ほど、その後の再発や病気が少なかった。Helgesonら(2006)のメタ分析でも、逆境に利点を見いだす人ほど抑うつが低く、前向きな気分が高い傾向が示されている。ただし、つらさの渦中では無理に意味を探さず、気持ちが落ち着いてから振り返るとよい。不運のあとに「ここで何が手に入ったか」を一つ書き出すことが、次の一歩につながる。 参考:Affleckら(1987)「Causal attribution, perceived bene…」 ↗/Helgesonら(2006)「A meta-analytic review of benefit …」
人物
米国の自己啓発作家(1888-1955)
出典に諸説あり
「困難の中にこそ、機会がある」

In the middle of difficulty lies opportunity.

— アインシュタイン(とされる) 典拠不詳

※帰属に諸説あり

危機は再定義すれば機会になる

心理学では
この名言は、ストレス研究でいう「挑戦評価」(困難を脅威ではなく、力を伸ばす機会として受け止める見方)を言い表している。Jamiesonら(2012)の実験では、人前で話す課題の前に「緊張は力を発揮する助けになる」と教わった人は、心臓や血管の反応が挑戦型に近づき、脅威への注意の偏りも小さくなった。Crumら(2013)も、ストレスを成長の糧ととらえる見方を伝える映像を会社員に見せる実験を行い、心身の不調が減り、仕事ぶりも向上することを示した。困ったときは「ここから何を得られるか」と自分に問いかけることが、次の一歩を踏み出す助けになる。 参考:Jamiesonら(2012)「Mind over matter: Reappraising aro…」 ↗/Crumら(2013)「Rethinking stress: The role of min…」 ↗
人物
理論物理学者(1879-1955)
出典に諸説あり
「おもしろき こともなき世を おもしろく」

— 高杉晋作 辞世の句と伝わる

下の句の作者・成立には諸説あり

「面白いことなど何もないこの世を、面白く(生きてやろう)」。下の句「すみなすものは心なりけり」(そう住みなす=面白くするのは心である)が続き、世界の面白さを決めるのは状況ではなく自分の心だと結ぶ辞世

心理学では
この句は、心理学でいう認知的再評価(出来事のとらえ方を変えて感情を整えること)と、興味の自己調整(退屈な活動に自ら工夫を加えて面白くすること)を言い当てている。Sansoneら(1992)は、単調な文字の書き写し作業を課す実験で、続ける理由を与えられた人ほど書き方に変化をつけるなどの工夫を自発的に生み出し、その工夫が作業への興味を高めることを示した。またGross & John(2003)の相関研究では、日ごろ再評価を使う人ほど肯定的な感情を多く経験し、幸福感が高いことが分かっている。退屈な仕事や毎日の家事にも小さな遊びや目標を一つ足すことが、世界を面白く住みなす第一歩になる。 参考:Sansoneら(1992)「Once a boring task always a boring…」 ↗/Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」
人物
幕末の長州藩士(1839-1867)。奇兵隊創設
「人生とは、あなたが別の計画を立てるのに忙しくしている間に起きていることだ」

Life is what happens to us while we are making other plans.

— アレン・ソーンダース 雑誌のコラム(1957)。後にジョン・レノンの歌詞で有名に

レノン「Beautiful Boy」(1980)以前に初出が確認されている

計画への固執は現在を見えなくする

心理学では
この名言は、心理学でいう「マインドワンダリング」(目の前のことから心が離れ、別のことを考えている状態)の落とし穴を言い当てている。Killingsworth & Gilbert(2010)は、スマートフォンで日常の気分と考えごとを随時尋ねる経験サンプリング研究を行い、心がさまよっているときほど人の幸福感が低いことを示した。Brown & Ryan(2003)も、今この瞬間に注意を向けるマインドフルネス(いまの体験への気づき)の傾向が高い人ほど、心理的ウェルビーイングが高いことを報告している。ただし計画も大切なので、考える時間と味わう時間を分けるとよい。食事や会話の途中でひと呼吸おき、目の前の出来事に注意を戻すことが、人生を取りこぼさない助けになる。 参考:Killingsworth & Gilbert(2010)「A Wandering Mind Is an Unhappy Min…」/Brown & Ryan(2003)「The benefits of being present: Min…」
人物
米国の漫画家・コラムニスト(1899-1986)
「物事に良いも悪いもない。考え方がそう決めるだけだ」

There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.

— シェイクスピア 『ハムレット』第2幕第2場

ハムレットの台詞

価値判断は事実ではなく思考の産物である

心理学では
この台詞は、心理学の評価理論(感情は出来事そのものではなく、その受け止め方から生じるという考え)とよく重なる。認知療法がこの一節を好んで引くのも、同じ発想に立つからである。Gross & John(2003)は大学生などを対象にした相関研究で、出来事の意味をとらえ直す「認知的再評価」を日ごろ使う人ほど、前向きな感情が多く、幸福感も高いことを示した。さらにJamiesonら(2012)の実験では、人前でのスピーチ課題の前に、高まる動悸を「体が力を出す準備」と解釈するよう教わった人は、心臓血管の反応がより効率的になった。嫌な出来事に出会ったら「別の見方はないか」と一度問い直すことが、気持ちの切り替えにつながる。 参考:Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」/Jamiesonら(2012)「Mind over matter: Reappraising aro…」 ↗
人物
英国の劇作家(1564-1616)
「心はそれ自体が一つの場所であり、地獄を天国に変え、天国を地獄に変えることができる」

The mind is its own place, and in itself can make a heaven of hell, a hell of heaven.

— ジョン・ミルトン 『失楽園』(1667)第1巻

パブリックドメインの叙事詩の一節

環境ではなく心が経験の質を決める

心理学では
この言葉は、出来事そのものより意味づけが感情を左右するという「認知的評価」(状況の受け止め方)の考え方に重なる。Gross(1998)は不快な映像を見せる実験を行った。場面をとらえ直す「再評価」を指示された人は、感情を抑え込むよう指示された人と違い、身体の負担を増やさずに嫌悪感を弱められた。Gross & John(2003)でも、日頃から再評価を使う人ほど前向きな感情や幸福感が高かった。ただし深刻な問題では、状況そのものに働きかける行動と組み合わせるとよい。つらいときは「別の見方をするとどう見えるか」と自問することが、気持ちの切り替えの助けになる。 参考:Gross(1998)「Antecedent- and response-focused e…」 ↗/Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」
人物
英国の詩人(1608-1674)
「第二の矢を受けてはならない」

— ブッダ 『雑阿含経』(箭経)の教え

痛み(第一の矢)は避けられないが、それへの反応の苦しみ(第二の矢)は選べる

心理学では
この教えは、出来事そのものの痛み(一次的苦痛)と、それを嫌い、反すう(同じ考えを繰り返すこと)して押し返そうとするときに生まれる苦しみ(二次的苦悩)を分ける考え方に重なる。ACT(受け入れて大切な行動に向かう心理療法)では、これを「きれいな痛み・汚れた痛み」と呼んで区別する。慢性痛の患者を調べたMcCracken(1998)の相関研究では、痛みを受け入れている人ほど、痛みの強さとは別に、抑うつや痛みへの不安が低かった。Zeidanら(2011)の実験では、数日間の瞑想訓練によって、熱刺激の痛みの「強さ」以上に「不快さ」が和らいだ。つらいときは「いま痛い」とだけ認め、そこに自分が付け足している考えに気づくことが、第二の矢を避ける助けになる。 参考:McCracken(1998)「Learning to live with the pain: ac…」 ↗/Zeidanら(2011)「Brain Mechanisms Supporting the Mo…」 ↗
人物
古代インドの宗教家(BC5世紀頃)。仏教の開祖
出典に諸説あり
「痛みは避けられない。しかし、苦しみは選択できる」

Pain is inevitable. Suffering is optional.

— ランナーの格言 村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』で紹介され広まった

※出典不詳のマラソン格言

痛みへの態度は自分で決められる

心理学では
この格言は、心理学でいう痛みの「受容」(痛みと闘うのをやめ、あるものとして受け止める態度)に通じる。痛みそのものと、抵抗や思い悩みから生じる二次的な苦悩とを分けて考える発想である。McCracken & Eccleston(2003)は慢性疼痛の患者を対象とした相関研究で、痛みを受容している人ほど抑うつや痛みへの不安が少なく、日常生活の機能も保たれていることを示した。Zeidanら(2011)の実験では、マインドフルネス瞑想(いまの体験を評価せずに観察する練習)の短期訓練が、痛みの強さ以上に痛みの不快さを和らげた。つらいときは、痛みがあることをまず認め、いまできる一歩に注意を向けることが助けになる。 参考:McCracken & Eccleston(2003)「Coping or acceptance: what to do a…」 ↗/Zeidanら(2011)「Brain Mechanisms Supporting the Mo…」 ↗
「今日一日、怒らず、怖れず、悲しまず」

— 中村天風 「誦句」として弟子に伝えた言葉

正直・親切・愉快に、と続く

感情の構えを一日単位で整える

心理学では
この言葉は、感情調整(自分の感情の強さや向きを整えること)を一日単位で意識づける実践である。その中心となるのは、出来事の意味づけを変える「再評価」である。Gross & John(2003)の相関研究では、再評価を習慣的に使う人ほど前向きな感情が多く、幸福感も高かった。Webbら(2012)のメタ分析(多くの研究の統合)でも、再評価には感情を和らげる効果が確認されている。ただし感情を押し殺す(抑制)とかえって負担が増すため、湧いた怒りや不安は一度認めてから捉え直すとよい。朝にこの言葉を唱え、心がざわついたら「別の見方はないか」と問い直すことが、穏やかな一日につながる。 参考:Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」/Webbら(2012)「Dealing with feeling: A meta-analy…」 ↗
人物
日本の思想家(1876-1968)。天風会創始者。多くの経営者・アスリートが師事
出典に諸説あり
「病は気から」

— 日本のことわざ 『黄帝内経』の「百病は気に生ず」に遡るとされる

重病の精神論的解釈に用いるのは不適切

心の状態は身体の状態に影響する

心理学では
この言葉は、心と体が互いに影響し合うという心身相関(心の状態が体の働きに及ぶこと)を言い表している。精神神経免疫学(心と免疫のつながりを調べる分野)では、Cohenら(1991)が健康な成人に風邪ウイルスを点鼻する研究を行い、事前に測ったストレスが高い人ほど風邪を発症しやすいことを示した。さらにCohenら(2003)は同様の方法で、ふだん前向きな感情を多く抱く人ほど風邪を発症しにくいことを報告している。ただし、気の持ちようは治療の代わりではないため、体調が悪いときは受診と組み合わせるとよい。日々の小さな気分転換や、よい出来事を味わう習慣が、体を守る土台づくりにつながる。 参考:Cohenら(1991)「Psychological Stress and Susceptib…」 ↗/Cohenら(2003)「Emotional Style and Susceptibility…」 ↗
「人間到る処青山あり」

— 月性 詩「将東遊題壁」(1843)

「青山」は墳墓の地の意

「青山」とは骨を埋める墓地のこと。「世界のどこにでも死に場所はあるのだから、故郷にしがみつかず、大志を抱いて外へ出よ」という幕末の詩の一節。土地や慣れた場所への執着を解く言葉

心理学では
この句は、慣れた土地への執着を手放し、外へ踏み出す姿勢を説く。心理学でいえば、経験への開放性(新しいものを受け入れる傾向)をもって環境移行(住む場所や所属が変わる節目)に臨むことにあたる。Zimmermann & Neyer(2013)はドイツの大学生を縦断的に追跡し、留学した学生は国内にとどまった学生よりも、開放性が増し、情緒不安定さが減る方向に変化したことを示した。Maddux & Galinsky(2009)も、外国で暮らした経験の長い人ほど創造的な問題解決にすぐれることを報告している。新しい場所で戸惑ったときは「ここにも居場所はつくれる」と考え、小さな挑戦を一つずつ重ねることが成長につながる。 参考:Zimmermann & Neyer(2013)「Do we become a different person wh…」 ↗/Maddux & Galinsky(2009)「Cultural borders and mental barrie…」 ↗
人物
幕末の僧・尊王攘夷論者(1817-1858)
「終わりよければ、すべてよし」

All's well that ends well.

— シェイクスピア 戯曲『終わりよければすべてよし』の題名。ことわざとしても流通

結末の良さが全体の意味を塗り替える

心理学では
この名言は、心理学でいう「ピーク・エンドの法則」(経験の記憶は、最も強い瞬間と終わりの印象に大きく左右されるという傾向)をよく言い当てている。Kahnemanら(1993)の冷水に手を浸す実験では、参加者は短い試行よりも、最後に水温を少し上げた時間を足した長い試行のほうを、もう一度受けるものとして選んだ。Redelmeierら(2003)は大腸内視鏡検査の無作為化試験で、検査の終わりを穏やかにすると、患者が振り返って感じる不快さが軽くなり、再検査も受け入れやすくなることを報告した。つらい一日や難しい会議でも、最後に小さな達成や感謝の言葉を置くことが、経験全体を前向きな記憶として残すことにつながる。 参考:Kahnemanら(1993)「When More Pain Is Preferred to Les…」 ↗/Redelmeierら(2003)「Memories of colonoscopy: a randomi…」 ↗
人物
英国の劇作家(1564-1616)
「禍を転じて福と為す」

— 『戦国策』『史記』

災いを逆に幸運の材料へ転換する

心理学では
この言葉は、心理学でいう「ストレス関連成長」(つらい出来事を経て、人間関係や価値観が深まること)に通じる。Parkら(1996)は大学生を対象に成長を測る尺度を作り、出来事を前向きに捉え直す対処(肯定的再評価)をする人ほど、成長を多く報告することを示した。Seeryら(2010)は米国の成人を追跡した縦断研究で、逆境経験がほどほどにある人は、まったくない人や非常に多い人より心の健康が良好であることを見いだした。ただし渦中でつらさが強いときは、まず休息や周囲の支えを優先するとよい。落ち着いたら「この経験で何を得たか」を書き出すことが、禍を次の一歩の材料に変える助けになる。 参考:Parkら(1996)「Assessment and Prediction of Stres…」/Seeryら(2010)「Whatever does not kill us: Cumulat…」
「雨降って地固まる」

— 日本のことわざ

揉め事や困難の後に、かえって基盤が強くなる

心理学では
この言葉は、心理学でいう「心的外傷後成長」(困難と向き合う中で、人とのつながりや自分への信頼がかえって深まる変化)に重なる。Tedeschi & Calhoun(1996)は質問紙調査で、つらい出来事を経た人の多くが、他者との絆や自分の強さを以前より実感していると報告することを示した。Seeryら(2010)の縦断研究でも、逆境がまったくなかった人より、ほどほどの逆境を経てきた人ほど心の不調が少なく、生活満足度が高い傾向があった。揉め事やつまずきの後に、何を学び、誰と支え合えたかを振り返ることが、次の土台づくりにつながる。 参考:Tedeschi & Calhoun(1996)「The posttraumatic growth inventory…」 ↗/Seeryら(2010)「Whatever does not kill us: Cumulat…」
「災難には価値がある。我々のすべての誤りが燃えてくれた。神に感謝しよう。また新しく始められる」

There is great value in disaster. All our mistakes are burned up. Thank God we can start anew.

— トーマス・エジソン 1914年の工場火災の際の言葉と伝わる

逸話には脚色の指摘もある

大損失すら再出発の機会と捉える

心理学では
エジソンの言葉は、心理学でいう「肯定的再評価」(出来事の意味をとらえ直すこと)、とくに「ベネフィット・ファインディング」(逆境の中に益を見いだすこと)の好例である。Helgesonら(2006)は、病気や喪失などの逆境を経験した人々を対象とした研究をメタ分析し、逆境に益を見いだす人ほど抑うつが低く、前向きな気分が高い傾向にあることを報告した。またDaiら(2014)は、検索履歴やジムの利用記録などを分析し、新年や誕生日といった「区切り」の直後に、人が目標に向けた行動を始めやすいことを示した。過去を「燃えた」ものとして区切る見方は、この再出発の心理に通じる。つまずいた日を「新しく始める日」と名づけ直すことが、次の一歩を後押しする。 参考:Helgesonら(2006)「A meta-analytic review of benefit …」/Daiら(2014)「The Fresh Start Effect: Temporal L…」 ↗
人物
米国の発明家(1847-1931)
「上機嫌であることは、他人に対する礼儀である」

— アラン(エミール・シャルティエ) 『幸福論』の趣旨

機嫌は私事ではなく、場への贈り物である

心理学では
アランの言う上機嫌は、感情伝染(表情や声を通じて気分が周囲に移る現象)を踏まえると、場全体への配慮である。Barsade(2002)は、小集団に明るく振る舞う協力者を加える実験を行った。その結果、快い気分がメンバーに広がり、協力が増えて対立が減ることを示した。Fowler & Christakis(2008)も、地域住民を長期にわたって追った縦断研究で、幸福な人とつながる人ほど後に幸福になりやすいという関連を見いだした。ただし作り笑いで無理をする場面では、休息など自分の気分の手当てと組み合わせるとよい。人に会う前に一呼吸おいて表情を整えることが、周りへのささやかな贈り物になる。 参考:Barsade(2002)「The Ripple Effect: Emotional Conta…」 ↗/Fowler & Christakis(2008)「Dynamic spread of happiness in a l…」
人物
フランスの哲学者(1868-1951)
出典に諸説あり
「人間の最大の罪は、不機嫌である」

— ゲーテ(とされる) エッカーマン『ゲーテとの対話』に基づくとされる

※文言・出典には議論がある

不機嫌は周囲を害する選択である

心理学では
ゲーテの言葉は、感情伝染(表情や声を通じて、気分が周囲へ無意識に移る現象)の観点から読み解ける。Barsade(2002)は、学生の小グループに演技者を加え、快活な態度や不機嫌な態度を示させる実験を行った。その結果、ポジティブな気分が広がったグループでは協力が増え、対立が減った。人が相手の表情を自然にまねることで感情まで共有する仕組みは、Hatfieldら(1993)も整理している。不機嫌は自分だけの問題ではなく、場の空気と協力関係を左右するのである。苛立ちに気づいたら一呼吸置き、表情と声の調子を整えてから人と向き合う。それが、職場や家庭の雰囲気を守ることにつながる。 参考:Barsade(2002)「The Ripple Effect: Emotional Conta…」 ↗/Hatfieldら(1993)「Emotional Contagion」 ↗
人物
ドイツの文豪(1749-1832)
出典に諸説あり
「ピンチはチャンス」

— 日本で流通する標語 出典不詳(大平正芳の言葉とする説など)

※出典不詳

危機は再定義すれば機会になる

心理学では
この標語は、心理学でいう挑戦評価(困難を「脅威」ではなく「力を試す機会」と受け止めること)に通じる。同じ出来事でも、どう評価するかで心身の反応は変わる。Jamiesonら(2012)は人前で話す課題を用いた実験で、緊張による動悸を「体が備えている合図」と捉え直すよう伝えると、心臓血管の反応がより適応的になることを示した。Jamiesonら(2010)も、試験に臨む学生に同じ捉え直しを促すと数学の成績が上がることを報告している。ただし一人では抱えきれない場面では、周囲を頼ることと組み合わせるとよい。胸が高鳴ったら「準備が始まった」と言い換えて、一歩を踏み出す。 参考:Jamiesonら(2012)「Mind over matter: Reappraising aro…」 ↗/Jamiesonら(2010)「Turning the knots in your stomach …」 ↗
「その日を終えたら、それで終わりにせよ。できることはした。失策や不合理もあっただろうが、早く忘れよ。明日は新しい日だ」

Finish each day and be done with it. You have done what you could.

— ラルフ・ワルド・エマーソン 書簡・随想より

一日の失敗はその日のうちに手放す

心理学では
この名言は、心理学でいう「心理的離脱(仕事や出来事から気持ちを切り離すこと)」によって、失敗を何度も思い返す「反すう」を断つ知恵にあたる。Sonnentagら(2008)は働く人に毎日記録をつけてもらう日誌研究を行い、夜に仕事から心理的に離れられた日ほど、翌朝の気分が良いことを示した。またDaiら(2014)は、週や月の始まりといった時間の区切りの直後に、人がジム通いなどの自己改善の行動を始めやすいことを見いだし、これを「フレッシュスタート効果」と名づけた。一日の終わりに「今日はここまで」と区切りをつけ、翌朝を新しい出発点とみなすことが、立て直す力につながる。 参考:Sonnentagら(2008)「"Did you have a nice evening?" A d…」 ↗/Daiら(2014)「The Fresh Start Effect: Temporal L…」 ↗
人物
米国の思想家・詩人(1803-1882)。超越主義
「太陽を失って涙していると、星もまた失うことになる」

If you shed tears when you miss the sun, you also miss the stars.

— ラビンドラナート・タゴール 『迷い鳥たち』(1916)

パブリックドメインの詩集の一節

喪失への固着は、次の光を見えなくする

心理学では
この名言は、失ったものを繰り返し思い返す「反すう」(同じ考えを何度もなぞる心の癖)が、いまある別の良いものから目をそらさせることを語っている。Nolen-Hoeksemaら(1994)は、死別を経験した人々を追跡した縦断研究で、喪失について反すうしがちな人ほど、その後も抑うつが長引きやすいことを示した。Stroebe & Schut(1999)の二重過程モデル(悲嘆への向き合い方の理論)も、悲しみに浸る時間と新しい生活に目を向ける時間を行き来することが回復を支えると説く。涙を流すのは自然なことである。泣いたあとは、身近な「星」を一つ探す時間をもつことが次の一歩につながる。 参考:Nolen-Hoeksemaら(1994)「Ruminative coping with depressed m…」 ↗/Stroebe & Schut(1999)「THE DUAL PROCESS MODEL OF COPING W…」 ↗
人物
インドの詩人・思想家(1861-1941)。アジア初のノーベル文学賞
「もろもろの事象は、心にもとづき、心を主とし、心によってつくり出される」

Mind precedes all mental states. Mind is their chief; they are all mind-wrought.

— ブッダ 『法句経(ダンマパダ)』第1偈

経験世界の質は心のありようが決める

心理学では
この偈は、出来事そのものよりも、それをどう受け止めるかが体験の質を決めると説く。心理学でいう認知的評価(出来事に意味づけをする心の働き)の考え方であり、認知療法の発想とも重なる。Gross(1998)は不快な映像を見せる実験を行い、場面を別の角度から捉え直す再評価(見方の切り替え)をすると嫌悪の感情そのものが弱まり、感情を押し殺すだけではそうならないことを示した。Gross & John(2003)の調査でも、日頃から再評価を使う人ほど前向きな感情が多く、幸福感が高い。嫌な出来事に出会ったら「別の見方はないか」と一度問い直すことが、気持ちを切り替える助けになる。 参考:Gross(1998)「Antecedent- and response-focused e…」 ↗/Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」
人物
古代インドの宗教家(BC5世紀頃)。仏教の開祖
「心暗きときは、即ち遇うところ悉く禍なり。眼明らかなれば、途に触れて皆宝なり」

— 空海 『性霊集』

同じ道でも、心の状態次第で禍にも宝にもなる

心理学では
空海の言葉は、心理学でいう気分一致効果(気分と同じ色合いの情報に注意や記憶が向きやすい現象)を言い当てている。Bower(1981)は催眠で喜びや悲しみの気分を誘導する実験を行い、人はそのときの気分に合う出来事を思い出しやすいことを示した。Fredrickson & Branigan(2005)は、映像で感情を引き起こす実験から、前向きな感情が注意の幅を広げ、思いつく行動の選択肢を増やすことを見いだした。心が明るいと、同じ道にも手がかりが見えやすくなるのである。何もかも悪く見える日は判断を急がず、散歩や休息で気分を整えてから状況を見直すことが、見落としていた「宝」に気づく助けになる。 参考:Bower(1981)「Mood and memory.」 ↗/Fredrickson & Branigan(2005)「Positive emotions broaden the scop…」
人物
平安初期の僧(774-835)。真言宗開祖。弘法大師
出典に諸説あり
「心の中では、善い狼と悪い狼が戦っている。勝つのは、おまえが餌を与えたほうの狼だ」

The one you feed.

— チェロキーの寓話とされる 「二匹の狼」の物語として流通

※ネイティブアメリカンの伝承とされるが、20世紀の伝道文書由来とする指摘がある

祖父が孫に語る形式の寓話。怒り・妬み・恐れの狼と、愛・希望・思いやりの狼が心の中で常に戦っており、どちらが勝つかは生まれつきではなく「どちらに餌(注意と時間)を与えるか」で決まる、と説く

心理学では
この寓話は、注意の向け方が感情を育てるという考えを物語にしたものである。嫌な出来事を何度も考える反すう(同じ悩みを頭の中でなぞり続けること)は悪い狼への餌に、よい体験をじっくり味わうセイバリング(喜びを意識して味わうこと)は善い狼への餌にあたる。Nolen-Hoeksema & Morrow(1993)の実験では、落ち込んだ人が自分の気分について考え続けると気分は晴れにくく、別のことに注意を向けると気分が和らいだ。Bryantら(2005)の介入研究では、楽しかった思い出を毎日思い返す練習が幸福感を高めた。沈んだ日は考え込みをいったん止め、今日うれしかったことを一つ思い返すことが善い狼を育てる。 参考:Nolen-Hoeksema & Morrow(1993)「Effects of rumination and distract…」 ↗/Bryantら(2005)「Using the Past to Enhance the Pres…」 ↗
「良いことを連れてこない不幸は、ない」

No hay mal que por bien no venga.

— スペイン語圏のことわざ No hay mal que por bien no venga

どんな悪い出来事も、後から見れば何らかの良いことにつながっている、というスペイン語圏で最もよく使われる励ましのことわざ。日本の「災い転じて福となす」に相当する

心理学では
このことわざは、心理学でいう「ベネフィット・ファインディング」(逆境の中に、得たものや意味を見いだすこと)を言い表している。Affleckら(1987)は、初めて心臓発作を起こした男性を長期にわたって追跡した縦断研究で、発作後まもなく「この病気から得たものがある」と語った人ほど、その後の再発作や健康悪化が少なかったことを報告した。またKing & Miner(2000)の実験では、つらい体験から得た恩恵について数日間書いた大学生は、その後の学内保健センターの受診が減った。ただし傷がまだ生々しいうちは、まず悲しみや怒りを十分に認めてから良い面に目を向けるとよい。困難に出会ったら、少し時間をおいて「この経験が自分にもたらしたもの」を書き出してみることが、気持ちの立て直しにつながる。 参考:Affleckら(1987)「Causal attribution, perceived bene…」 ↗/King & Miner(2000)「Writing about the Perceived Benefi…」 ↗
出典に諸説あり
「終わってしまったことを泣くのではなく、それが起こったことに微笑みなさい」

No llores porque ya se terminó, sonríe porque sucedió.

— ガブリエル・ガルシア=マルケス(とされる) 典拠不詳

※ドクター・スースの言葉としても流通し、典拠は特定されていない

失った悲しみを、恵まれていたことへの感謝に反転させる言葉。喪失の場面で「もう無い」に向く注意を「確かに在った」へ向け直す

心理学では
この名言は、喪失を「奪われたもの」ではなく「授かっていたもの」と捉え直す肯定的再評価(出来事の意味を前向きに解釈し直すこと)を勧めている。Davisら(1998)は、身近な人を亡くした人々を追跡した縦断研究で、喪失の経験から得たものを見いだせる人ほど、その後の心の適応が良好であることを報告した。またBryantら(2005)の実験では、楽しかった思い出を味わうように振り返る練習(ポジティブな回想)が幸福感を高めた。ただし喪失の直後は、まず悲しみを十分に感じる時間を持つとよい。大切なものを失ったときは、共に過ごした一場面を思い出し「あってよかった」と言葉にすることが心の支えになる。 参考:Davisら(1998)「Making sense of loss and benefitin…」 ↗/Bryantら(2005)「Using the Past to Enhance the Pres…」 ↗
人物
コロンビアの作家(1927-2014)。ノーベル文学賞。『百年の孤独』
「言霊の幸わう国 ── 言葉には、現実を動かす力が宿る」

— 『万葉集』(山上憶良・柿本人麻呂の歌) 「そらみつ大和の国は…言霊の幸わう国」(万葉集 巻5・894ほか)

呪術的側面と心理的機能を区別して扱うのが現代的な読み方

古代日本人は、口に出した言葉には現実を左右する霊力(言霊)が宿ると考え、良い言葉は良い現実を、不吉な言葉は不吉な現実を招くとした。祝詞や忌み言葉の文化の根にある思想

心理学では
言葉が現実を動かすという考えは、心理学ではセルフトーク(自分への語りかけ)が感情や行動を方向づける働きとして捉えられる。Krossら(2014)は、人前でのスピーチを控えた参加者を対象に実験を行った。「私」ではなく自分の名前を使って自分に語りかけるよう促すと、不安がやわらぎ、場面を脅威ではなく挑戦として受け止めやすくなり、スピーチの出来も良く評価された。またHatzigeorgiadisら(2011)のメタ分析(多数の研究を統合する分析)では、セルフトークの訓練がスポーツの成績を高める効果が確認されている。口にする言葉は、心の向きを切り替える入口になる。緊張する場面の前に、自分の名前を呼んで「〇〇なら大丈夫」と声をかけることが助けになる。 参考:Krossら(2014)「Self-talk as a regulatory mechanis…」 ↗/Hatzigeorgiadisら(2011)「Self-Talk and Sports Performance」 ↗
「心をどこか一カ所に留めれば、心はそこに囚われる。どこにも留めなければ、心は全身に行き渡る(不動智)」

— 沢庵宗彭 『不動智神妙録』(柳生宗矩に与えた剣禅一致の書)

剣禅一如の思想を代表する古典

剣の立ち合いで相手の刀に心を留めれば刀に、勝ち負けに留めれば勝ち負けに心を奪われて動けなくなる。心をどこにも固着させないことが、かえって全体に対応できる自由な心(不動智)を生む、という教え

心理学では
この教えは、注意の固着(一点に注意が張りつき、ほかが見えなくなる状態)を離れ、開かれた注意(対象を絞らず、全体に気づいている状態)に立つことにあたる。Loftusら(1987)の実験では、凶器を持つ人物を見た参加者の視線は凶器に集まり、顔などほかの細部の記憶が乏しくなった。刀に心を奪われる姿そのものである。一方、Slagterら(2007)は、集中的な瞑想合宿を経た人では、先に現れた刺激に注意を取られて直後の刺激を見落とす現象が減ることを報告した。失敗や不安が頭を離れないときは、それを追い払おうとせず、呼吸や周りの音へ気づきを広げてみる。それが次の一手に応じる心の自由につながる。 参考:Loftusら(1987)「Some facts about "weapon focus."」 ↗/Slagterら(2007)「Mental Training Affects Distributi…」 ↗
人物
江戸初期の臨済宗の僧(1573-1646)。将軍家剣術指南役・柳生宗矩の師
「ヨーガとは、心の働きを静めることである」

Yogaś citta-vṛtti-nirodhaḥ.

— パタンジャリ 『ヨーガ・スートラ』1.2

ヨーガの古典的定義。ポーズ(アーサナ)は本来その一部にすぎず、目的は、絶え間なく波立つ心の作用(チッタ・ヴリッティ=思考・感情・記憶のざわめき)を鎮め、静まった水面のような心で本来の自己に留まることにある

心理学では
この一節は、心理学でいう心のさまよい(目の前のことから注意が離れ、考えが勝手に流れる状態)や反すう(同じ悩みを繰り返し考えること)を鎮め、注意を今に戻すことにあたる。Killingsworth & Gilbert(2010)は、スマートフォンで日常の気分と考えごとをその場で尋ねる研究を行い、心がさまよっているときほど幸福感が低いことを示した。またJainら(2007)は、医療系などの学生を対象とした無作為化比較試験で、マインドフルネス瞑想が反すうや気の散りを減らし、心理的な苦痛を和らげる効果を報告している。気持ちを切り替えたいときは、数分間だけ呼吸に注意を向け、浮かぶ考えを追わずに見送る。それが心の水面を静める助けになる。 参考:Killingsworth & Gilbert(2010)「A Wandering Mind Is an Unhappy Min…」/Jainら(2007)「A randomized controlled trial of m…」
人物
古代インドのヨーガ哲学の大成者(2〜4世紀頃)
「憂き世は、浮き世 ── つらい世を、浮かれて楽しむ世へ」

— 江戸期の言葉の転換 中世の「憂き世」が江戸期に「浮き世」へ読み替えられた

浅井了意『浮世物語』(1665頃)がこの転換を象徴する

同じ「うきよ」の音に別の漢字を当て、「厭うべきつらい現世」を「どうせはかないなら、浮かれて楽しむ現世」へと価値ごと反転させた歴史的な読み替え。浮世絵・浮世草子の「浮世」はこの転換の産物である

心理学では
この転換は、心理学でいう認知的再評価(出来事の意味をとらえ直して、感情を変えること)を、時代全体で行った例である。Gross & John(2003)の相関研究では、ふだん物事をとらえ直す傾向が強い人ほど、前向きな感情を多く経験し、幸福感も高いことが示された。さらにKurtz(2008)は卒業を控えた大学生を対象に実験を行った。残りの学生生活が「もうわずかだ」と意識するよう促された学生は、その時間をより積極的に楽しみ、幸福感も高まった。はかなさの自覚は、今を味わう力に変わるのである。つらさを感じたときは「いつか終わるからこそ」と言い直してみる。そのうえで目の前の一日を楽しむ工夫をすることが、気持ちを切り替える助けになる。 参考:Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」/Kurtz(2008)「Looking to the Future to Appreciat…」 ↗
「悪い天気というものはない。悪い服装があるだけだ」

There is no bad weather, only bad clothes.

— 北欧のことわざ ノルウェー・スウェーデン等で広く使われる格言

北欧の幼児教育(森のようちえん)の合言葉としても知られる

変えられないもの(天気)を嘆くのをやめ、変えられるもの(服装=準備)に注意を移す。長く暗い冬を持つ北欧が生んだ、統制の二分法の生活版

心理学では
この名言は、変えられない状況を嘆くより、手を打てる部分に注意を向ける「問題焦点型コーピング(状況そのものに働きかける対処)」と、状況の意味をとらえ直す「再評価(見方を変えて感情を整えること)」を表している。Leibowitz & Vittersø(2020)はノルウェーの成人を対象とした調査で、冬を楽しみや機会の季節ととらえる「冬のマインドセット」をもつ人ほど、生活満足度やポジティブ感情、自己成長の感覚が高いことを報告した。この見方は、日照の少ない北の地域ほど強かった。うまくいかない日こそ、状況を責める前に自分の「服装」、つまり準備を一つ整える。その小さな備えが、外へ踏み出す力になる。 参考:Leibowitz & Vittersø(2020)「Winter is coming: Wintertime minds…」 ↗
「私が猫と遊んでいるとき、実は猫のほうが、私を相手に遊んでいるのではないと、どうして言えるだろうか」

When I play with my cat, who knows whether she is not amusing herself with me more than I with her?

— ミシェル・ド・モンテーニュ 『エセー』第2巻12章「レーモン・スボン弁護」

人間は万物の主人だという思い込みを、飼い猫との遊びのひと場面でひっくり返した有名な一節。視点を固定せず、相手の側から世界を見直してみる知的な柔軟さの見本

心理学では
この一節は、心理学でいう視点取得(相手の立場から状況を見ること)と認知的柔軟性(物の見方を切り替える力)を、ユーモアを交えて示している。Grossmann & Kross(2014)の実験では、自分の悩みを他人の悩みのように距離を置いて考えるよう促されると、他者の視点や自分の知識の限界を認める賢明な推論が増えた。またSamson & Gross(2012)の実験では、嫌な場面をやさしいユーモアで捉え直すと、皮肉なユーモアを使った場合よりも否定的な感情がやわらぎ、前向きな感情が増した。思い通りにならないときは「相手から見たら自分はどう映るか」と一度ひっくり返して眺めてみる。それが、こわばった気持ちをほどき、余裕を取り戻す助けになる。 参考:Grossmann & Kross(2014)「Exploring Solomon’s Paradox: Self-…」 ↗/Samson & Gross(2012)「Humour as emotion regulation: The …」 ↗
人物
フランスのモラリスト(1533-1592)
「本当に価値のある思想は、すべて歩くことによって生まれる」

All truly great thoughts are conceived while walking.

— フリードリヒ・ニーチェ 『偶像の黄昏』(1889)

机の前で座って捻り出した考えではなく、歩きながら訪れた考えだけを信用する、というニーチェの流儀。行き詰まったら、頭で考え続けるのではなく、まず身体を動かす ── 思考の道具としての歩行

心理学では
ニーチェの言葉は、歩くことが発散的思考(一つの問いから多様な案を広げる力)を後押しするという知見と重なる。Oppezzo & Schwartz(2014)は大学生らを対象にした実験で、座っているときより歩いているときのほうが物の新しい使い道を多く思いつき、その効果は歩いた後に座っても残ることを示した。Bratmanら(2015)の実験では、自然の中を歩いた人は都市部を歩いた人より反すう(同じ悩みを繰り返し考えること)が減った。ただし答えを一つに絞る作業では、歩いて広げた案を机で検討する形と組み合わせるとよい。行き詰まったら、まず外へ出て少し歩くことが、気持ちの切り替えと新しい発想につながる。 参考:Oppezzo & Schwartz(2014)「Give your ideas some legs: The pos…」 ↗/Bratmanら(2015)「Nature experience reduces ruminati…」 ↗
人物
ドイツの哲学者(1844-1900)
「歩くことで、私は最良の思想に出会ってきた。歩いて追い払えないほど重い思いを、私は知らない」

I have walked myself into my best thoughts, and I know of no thought so burdensome that one cannot walk away from it.

— セーレン・キルケゴール 姪への手紙(1847)

「実存の哲学者」が日課の散歩について書いた言葉。どんなに重い憂鬱も、歩いているうちに軽くなっていく ── 心の問題を心の中だけで解決しようとせず、脚に手伝ってもらうという知恵

心理学では
キルケゴールの言葉は、歩くことの二つの働きを言い当てている。一つは拡散的思考(アイデアを幅広く思いつく力)を促す働き、もう一つは反すう(同じ悩みを頭の中で繰り返し考え続けること)を断ち切る働きである。Oppezzo & Schwartz(2014)は大学生などを対象とした一連の実験で、座っているときより歩いているときのほうが独創的なアイデアが多く生まれることを示した。また、Bratmanら(2015)の実験では、自然の中を歩いた人は都市の道路沿いを歩いた人に比べて反すうが減り、反すうに関わる脳部位の活動も低下した。ただし気持ちが特に重い日は、緑のある道を選ぶとより効果的である。考えが行き詰まったときや心が沈んだときは、机を離れて少しでも外を歩くことが、気持ちを切り替える確かな一歩になる。 参考:Oppezzo & Schwartz(2014)「Give your ideas some legs: The pos…」 ↗/Bratmanら(2015)「Nature experience reduces ruminati…」 ↗
人物
デンマークの哲学者(1813-1855)
「運動は、脳にとって最良の薬である」

Exercise is the single best thing you can do for your brain.

— ジョン・レイティ 『脳を鍛えるには運動しかない!』(2008)(要旨)

運動は筋肉や心肺のためだけのものではなく、不安・抑うつ・注意力・学習に直接効く「脳の処方箋」だと示した書。気分を変えたければ、考え方を変えるより先に、まず身体を動かす方が早いことが多い

心理学では
この名言は、運動が気分や認知機能(考える・覚える働き)を整える行動的な介入になることを言い表している。Blumenthalら(1999)は、うつ病の高齢者を有酸素運動、抗うつ薬、その併用に無作為に分ける実験を行い、16週間後には運動だけの群でも薬の群と同程度に抑うつが改善することを示した。Ericksonら(2011)の無作為化実験では、1年間ウォーキングを続けた高齢者は海馬(記憶を担う脳の部位)の体積が増え、その増加は記憶の向上と関連していた。ただし症状が重い場合は、運動を専門的な治療と組み合わせるとよい。気分が沈んだら、考え込む前にまず外を少し歩くことが、気持ちの切り替えにつながる。 参考:Blumenthalら(1999)「Effects of Exercise Training on Ol…」 ↗/Ericksonら(2011)「Exercise training increases size o…」 ↗
人物
米国の精神科医。ハーバード大学医学部准教授
「調身、調息、調心 ── まず姿勢を調え、次に呼吸を調え、そして心を調える」

— 坐禅の教え(天台小止観に由来) 智顗『天台小止観』(6世紀)に基づく禅の実践原理

心は直接つかんで直すことができない。だから、まず手で触れられる姿勢から調え、次に呼吸を調えると、心はおのずと調っていく ── 「心の問題は身体の側から入る」という、瞑想実践1400年の方法論の要約

心理学では
この教えは、心理学でいうボトムアップ型の感情調整(考え方を変えるより先に、体の状態を整えることで気分を変える方法)を簡潔に言い表している。Nairら(2015)の実験では、ストレスのかかる課題の前に背筋を伸ばした姿勢をとった人は、猫背の姿勢をとった人に比べて気分がよく、恐れも少なかった。またBalbanら(2023)の無作為化比較試験では、吐く息を長くする呼吸法を毎日数分続けることで前向きな気分が高まり、呼吸数などの身体の興奮も下がった。気持ちが沈んだときは、考えを無理に変えようとせず、まず背筋を伸ばし、ゆっくり息を吐くことから始める。それが心を切り替える確かな入り口になる。 参考:Nairら(2015)「Do slumped and upright postures af…」 ↗/Balbanら(2023)「Brief structured respiration pract…」 ↗
人物
智顗(538-597)は中国天台宗の開祖
「耐えよ、わが心よ。おまえはこれよりもひどいことにも、耐えてきたではないか」

Endure, my heart; a worse thing even than this didst thou once endure.

— ホメロス 『オデュッセイア』第20歌(BC8世紀頃)

怒りで我を忘れそうになったオデュッセウスが、自分の心臓に呼びかけて自制する場面。自分を「私」と「わが心よ」に分け、過去に乗り越えた経験を証拠として示す ── 西洋文学最古級の「セルフトーク」の記録

心理学では
この名言は、自分を「わが心よ」と二人称で呼ぶ「距離を置いたセルフトーク」(自分を他人のように呼んで語りかける自己対話)と、過去の克服経験の想起を組み合わせている。Krossら(2014)は一連の実験で、人前で話す前に「私」ではなく自分の名前や「あなた」で自分に語りかけた人は不安が小さく、スピーチの出来も良いと評価されることを示した。またBandura(1977)は、実際に困難を乗り越えた経験が自己効力感(「自分ならできる」という感覚)の最も強い源であると論じている。つらい場面では自分の名前で呼びかけ、これまで越えてきた壁を一つ思い出す。それが心を立て直す助けになる。 参考:Krossら(2014)「Self-talk as a regulatory mechanis…」 ↗/Bandura(1977)「Self-efficacy: Toward a unifying t…」
人物
古代ギリシャの詩人と伝わる。『イリアス』『オデュッセイア』の作者とされる
「川を渡り終えた人が、「世話になった筏だから」と担いで歩き続けるなら、それは筏の正しい使い方だろうか。渡り終えたら、筏は岸に置いていきなさい」

— 仏教説話「筏のたとえ」 『中部経典』蛇喩経

かつて自分を救ってくれた教え・方法・成功体験でさえ、役割を終えたら手放してよい ── 教えへの執着さえ戒める、仏教の中でも徹底した「手放し」の説話。「あの時はこれで助かった」が、次の川では重荷になる

心理学では
この説話の教えは、心理学でいう「構え効果(一度うまくいったやり方に固執し、より良い方法が見えなくなる現象)」への戒めに重なる。Luchins(1942)は水がめ問題の実験で、同じ手順で何問も解いた人ほど、もっと簡単な解き方がある問題でも古い手順を使い続けることを示した。Bilalićら(2008)はチェスの熟達者の視線を計測する実験で、見慣れた手筋を一度思いつくと、より良い手を探しているつもりでも目がその手筋に引き寄せられ続けることを明らかにした。経験を積んだ人ほど、筏は重くなる。行き詰まったときは「このやり方は何のためだったか」と目的に立ち返り、方法を選び直すことが、しなやかな立ち直りにつながる。 参考:Luchins(1942)「Mechanization in problem solving: …」 ↗/Bilalićら(2008)「Why good thoughts block better one…」 ↗
人物
初期仏教の代表的な説話
「一握りの塩をコップの水に入れれば飲めない。同じ塩をガンジス川に入れても、川の水の味は変わらない。心を、コップではなく川にしなさい」

— 仏教説話「塩のたとえ」 『増支部経典』3.99(塩の塊の経)

同じ量の苦しみ(塩)でも、それを受け止める心の器の大きさで、人生の味わいへの影響はまったく変わる ── 苦しみを減らす努力と並んで、「器を広げる」という第二の道があることを示した説話

心理学では
この説話が示すのは、心理的柔軟性(つらい感情や感覚を消そうとせず、抱えたまま大切なことに向かえる力)とアクセプタンス(受容)の考え方である。McCracken(1998)は慢性痛の患者を調べ、痛みを受け入れている人ほど、痛みの強さとは別に、抑うつや生活の支障が少ないことを示した。Levittら(2004)がパニック障害の患者を対象に行った実験でも、不安を抑え込むより受け入れるよう教わった群のほうが、感じる不安が少なかった。苦しみの量だけでなく、それを受け止める器の広さが暮らしの味を左右するのである。つらい気持ちが湧いたら、追い払う前に「いま塩が入った」と心の中で名づけ、川の広さを思い出す。 参考:McCracken(1998)「Learning to live with the pain: ac…」 ↗/Levittら(2004)「The effects of acceptance versus s…」 ↗
人物
初期仏教の代表的な説話
「これもまた、過ぎ去る」

This too shall pass.

— ペルシャの格言(ソロモン王の指輪の伝承) ペルシャ起源の格言。「どんな時にも真実である言葉」を求めたソロモン王の指輪に刻まれた、という伝承とともに流通

リンカーンの1859年演説で「東洋の君主の故事」として言及された

勝利に驕る日には戒めとなり、絶望の底では慰めとなる ── 良いことも悪いことも、等しく過ぎ去るというたった一言が、両方向に効く。リンカーンが演説で「あらゆる状況に当てはまる言葉」として紹介し、英語圏にも定着した

心理学では
この言葉は、感情が「いつまでも続く」と思い込む錯覚を解く働きをもつ。人は出来事への感情がどれほど長く続くかを大きく見積もりがちである(持続性バイアス)。Gilbertら(1998)は、失恋や不採用などを題材にした一連の研究で、人が自分の心の立ち直る力を見落としていることを示した。さらにBruehlman-Senecal & Ayduk(2015)は、つらい出来事を「数年後の自分」の視点から眺める時間的距離化(未来の視点から今を見ること)の実験を重ねた。その結果、この方法は苦痛を和らげ、その背景には「この状態は一時的だ」という無常の認識があることが分かった。良い時にも悪い時にもこの一言を心の中で唱え、少し先の自分から今日を見渡す。それが、浮かれすぎず沈みすぎない平静さにつながる。 参考:Gilbertら(1998)「Immune neglect: A source of durabi…」 ↗/Bruehlman-Senecal & Ayduk(2015)「This too shall pass: Temporal dist…」 ↗
「祓い、清めて、やり直す ── 罪も穢れも、水に流して回復できる」

— 神道の「祓(はらえ)」と「禊(みそぎ)」 大祓詞・神社の祓の儀式(記紀神話のイザナギの禊に由来)

「水に流す」は対人関係では安易な免責に転じうる点に注意

神道では、罪や穢れは人の本性ではなく、後から付着した「くもり」であり、祓と禊によって洗い流せるとする。年に二度の大祓で半年分をリセットする ── 「水に流す」という日本語の感覚の源流にある、更新可能性の宗教的制度化

心理学では
この名言は、心理学でいう「フレッシュスタート効果」(時間の区切りを境に過去の自分と距離を置き、新たに取り組む意欲が湧く現象)と、「セルフ・コンパッション」(過ちを犯した自分にも思いやりを向ける態度)に重なる。Daiら(2014)は、インターネットの検索記録やジムの利用記録を分析し、新年や週・月の始まりといった時間の節目の直後ほど、目標に向けた行動が増えることを示した。またBreines & Chen(2012)の実験では、過去の過ちを思い出した後に自分を思いやるよう促された人は、償いや同じ過ちを繰り返さないことへの意欲が高まった。月初めや誕生日を自分なりの「祓」の日と決め、心のくもりを洗い流して再出発する。 参考:Daiら(2014)「The Fresh Start Effect: Temporal L…」 ↗/Breines & Chen(2012)「Self-Compassion Increases Self-Imp…」 ↗
人物
日本の神道の中核的な儀礼観念
「落ち込むこともあるけれど、私、このまちが好きです」

— キキ(映画『魔女の宅急便』) スタジオジブリ『魔女の宅急便』(1989、宮崎駿監督)

物語の結びに、キキが故郷への手紙に綴る一文。落ち込みが「なくなった」のではなく、落ち込み「もある」まま、この場所と暮らしを肯定する ── ネガティブの消去ではない幸福のかたちを、13歳の言葉で示した名文

心理学では
キキの言葉は、心理学でいう「混合感情(相反する気持ちを同時に抱くこと)」と「感情の受容(嫌な気持ちを打ち消さずに認めること)」にあたる。Adler & Hershfield(2012)は心理療法を受ける人々を追った縦断研究で、悲しみと喜びが入り混じる経験が、その後の心の健康の改善に先立って現れることを示した。Fordら(2018)も実験室・日記・縦断の複数の研究から、ネガティブ感情を受け入れる人ほどストレス下での落ち込みが小さく、心の健康が良好であることを報告している。つらい日は「落ち込んでいる。それでもここが好きだ」と、両方の気持ちを言葉にする。その一言が、気持ちを切り替える足場になる。 参考:Adler & Hershfield(2012)「Mixed Emotional Experience Is Asso…」 ↗/Fordら(2018)「The psychological health benefits …」 ↗
人物
角野栄子の児童文学を原作とするアニメーション映画
「人は流れる水を鏡とせず、止まった水を鏡とする(明鏡止水)」

— 荘子 『荘子』徳充符

「明鏡止水」の出典

波立った水面は何も映さないが、静まった水面は世界をありのままに映す ── 心も同じで、ざわめきが収まったときにだけ、物事の本当の姿が見える。「明鏡止水」の四字の原典であり、武道・茶道の心法の中心語になった

心理学では
この名言は、気分一致効果(そのときの気分に合った情報ほど目に入り、判断もその色に染まる傾向)を見抜き、心を鎮めることを正しい認識の前提に置いている。Lerner & Keltner(2001)は、恐れを感じやすい人ほど危険を大きく見積もり、怒りを感じやすい人ほど小さく見積もることを示し、感情の波が現実の映り方を変えることを明らかにした。またHafenbrackら(2014)の実験では、短時間のマインドフルネス瞑想(いまの体験を評価せずに眺める練習)が、すでに払った費用に引きずられる判断の偏りを減らした。大事な決断の前には数分だけ呼吸に注意を向け、心の水面が静まってから物事を見直す。 参考:Lerner & Keltner(2001)「Fear, anger, and risk.」 ↗/Hafenbrackら(2014)「Debiasing the Mind through Meditat…」 ↗
「喜怒哀楽の未だ発せざる、之を中と謂う。発して皆節に中(あた)る、之を和と謂う」

— 『中庸』 儒教の経典(四書の一つ)第一章

感情がまだ動き出す前の静けさが「中」、感情が動いたときに場と程度にかなっている状態が「和」── 感情を殺すのではなく、適切に発することを理想とした、東洋の感情調整論の古典的定式。「中和を致せば、天地位し、万物育す」と壮大に続く

心理学では
この一節は、心理学でいう感情調整(気持ちの動きを自分で整える働き)の理想を表している。目指すのは感情を押し殺すことではなく、場面に応じて出し方を加減する柔軟性である。Gross & John(2003)の相関研究では、感情を表に出さず押し込める傾向が強い人ほど幸福感が低く、出来事の捉え方を見直す再評価(物事の意味をとらえ直すこと)をよく使う人ほど幸福感が高かった。またBonannoら(2004)は同時多発テロ後のニューヨークの大学生を追跡し、求めに応じて感情表出を強めることも弱めることもできた学生ほど、その後の心理的適応が良いことを見いだした。心が波立ったら一呼吸おき、「この場にふさわしい出し方は何か」と自分に問うことが、気持ちの切り替えの助けになる。 参考:Gross & John(2003)「Individual differences in two emot…」/Bonannoら(2004)「The Importance of Being Flexible」 ↗
人物
『中庸』は孔子の孫・子思の作と伝わる
「過去は痛みをもたらす。だが、そこから逃げることもできるし、学ぶこともできる」

The past can hurt. But the way I see it, you can either run from it, or learn from it.

— ラフィキ(映画『ライオン・キング』) ディズニー(1994)

過去から逃げ続けた王子シンバに、老ヒヒの導師が杖で一撃してから語る教え。「痛かったか? だが、もう過去のことだ」── 過去の痛みの存在は変えられないが、それへの応答(逃走か学習か)は選べる、という二択の提示

心理学では
この名言は、出来事は変えられなくても、それへの応じ方は選べることを示す。心理学では、痛みを避け続ける「体験の回避」(嫌な記憶や感情から目をそらすこと)と、出来事を見つめて意味づけ直す「情動処理」(経験を心の中で消化すること)が区別される。Pennebaker & Beall(1986)は大学生を対象に実験を行い、過去のつらい体験を事実と感情の両面から数日間書いた人は、その後の健康センター受診が減ることを示した。Krossら(2005)の実験では、つらい記憶を一歩引いた視点から振り返ると、感情的な反応が小さくなった。過去が痛むときは、少し距離を置いて「ここから何を学べるか」を書き出すことが、痛みを糧に変える一歩になる。 参考:Pennebaker & Beall(1986)「Confronting a traumatic event: Tow…」 ↗/Krossら(2005)「When Asking “Why” Does Not Hurt Di…」 ↗
人物
ロジャー・アレーズ&ロブ・ミンコフ監督
「音楽のいいところは、それに打たれても、痛くないってことさ」

One good thing about music, when it hits you, you feel no pain.

— ボブ・マーリー 楽曲「Trenchtown Rock」の一節としても知られる発言

「hit(打つ/心を打つ)」の二重の意味を使った、音楽の効用の定義。人生の打撃は痛いが、音楽の打撃は痛みなしに心を揺さぶり、むしろ痛みを和らげる ── 音楽を薬として使う文化の代弁

心理学では
この名言は、心理学でいう音楽による感情調整(音楽を使って気分を整え、つらさをやわらげる働き)を言い当てている。Saarikallio & Erkkilä(2007)は思春期の若者への面接調査から、彼らが気分転換や感情の発散、慰めを得るために音楽を使い分けていることを明らかにした。さらにHoleら(2015)は、手術を受けた成人を対象とした無作為化比較試験(くじ引きで条件を分ける実験)を統合したメタ分析で、音楽を聴くと術後の痛みと不安が軽くなり、鎮痛薬の使用も減ることを示した。音楽は心だけでなく体の痛みにも届く。落ち込んだ日や気が張る場面に備えて、心を支えてくれる曲のリストを用意しておくことが、自分を立て直す助けになる。 参考:Saarikallio & Erkkilä(2007)「The role of music in adolescents' …」 ↗/Holeら(2015)「Music as an aid for postoperative …」 ↗
人物
ジャマイカのレゲエ音楽家(1945-1981)
「「諦める」の語源は、「明らめる」── 状況を明らかに見て、勝てる場所を選び直すこと」

— 為末大 『諦める力』(2013)

仏教語「諦(たい)=真理を明らかに見る」の原義とも通じる

400mハードルに「転向した」世界メダリストの哲学。100mを諦めたのではなく、自分が世界と戦える場所を明らかに見極めた ── 諦めを敗北の語彙から、戦略の語彙へ取り戻した現代の名著の中心概念

心理学では
この名言は、心理学でいう「目標の離脱と再関与」(達成が難しい目標から手を引き、別の目標に力を注ぎ直すこと)にあたる。Wroschら(2003)は大学生や重病の子をもつ親などを調べ、かなわない目標から離れやすい人ほど、また新たな目標に取り組み直せる人ほど、幸福感が高くストレスが少ないことを示した。Miller & Wrosch(2007)の縦断研究でも、目標を手放しにくい青年ほど、その後に体内の炎症の指標が上昇していた。ただし、まだ届く目標では粘り強さも生きるので、状況の見極めが鍵になる。行き詰まったときは、手放すものと力を移す先を書き出すことが次の一歩につながる。 参考:Wroschら(2003)「Adaptive Self-Regulation of Unatta…」 ↗/Miller & Wrosch(2007)「You've Gotta Know When to Fold 'Em」 ↗
人物
日本の元陸上選手(1978-)。世界選手権で二度の銅メダル
「脳は、悪い経験にはマジックテープのように貼りつき、良い経験にはテフロン加工のように弾いてしまう」

The brain is like Velcro for negative experiences but Teflon for positive ones.

— リック・ハンソン 『ブッダの脳』『幸せになれる脳をつくる』(2013)

脅威を見逃した祖先は死んだが、ごちそうを見逃した祖先は死ななかった ── だから脳はネガティブ優先に設計されている。対策は、良い経験が起きたとき10〜20秒とどまって「味わい、取り込む(taking in the good)」こと。設計の偏りを、意図的な注意で補正する

心理学では
この名言は、ネガティビティ・バイアス(悪い情報を良い情報より強く受け止め、記憶しやすい心の傾き)と、その補正としてのセイバリング(良い体験を意識的に味わうこと)を語っている。Baumeisterら(2001)は、対人関係や感情、記憶など幅広い領域の研究を概観し、悪い出来事のほうが良い出来事より心に強く長く影響することを示した。一方、Bryantら(2005)は大学生を対象とした実験で、楽しかった思い出を一日二回じっくり思い返す練習をした群が、しなかった群より幸福感が高まったことを報告している。良い瞬間に気づいたら次へ急がず、数呼吸ぶん立ち止まって味わうことが、心の偏りを整える助けになる。 参考:Baumeisterら(2001)「Bad is Stronger than Good」 ↗/Bryantら(2005)「Using the Past to Enhance the Pres…」 ↗
人物
米国の神経心理学者(1952-)

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名言の収集・分類・解説はAI(Claude)を活用し、はぴテックが確認したものです。「出典に諸説あり」の名言は、その人物の言葉として流通しているものの一次資料での確認が難しいもの、「要旨」は趣旨を短くまとめたものです。心理学の補足は、名言の知恵を心理学・幸福研究の知見で読み解いたもので、引用した論文は学術データベースで実在を照合しています。 解説付き全選(PDF) / 一覧(Excel)
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