研究の系譜と論争 ・ 世界 ・ 系譜1
イースタリン論争(所得と幸福)
1974年にEasterlinが「国内では所得が高い人ほど幸福だが、国の経済成長は国民の幸福を高めない」というパラドクスを提示した。2008年にStevenson & Wolfersがギャラップ世界調査などを使って「所得と幸福は国の内外ともに対数線形で結びつく」と反論し、2010年にEasterlinらが長期の時系列では関係が消えると再反論した。
Kahneman & Deaton(2010)は生活評価(ladder)は所得とともに上がり続けるが感情的幸福は年収7万5千ドル前後で頭打ちになると報告し、Killingsworth(2021)は経験サンプリングで感情的幸福にも頭打ちは無いと示した。両者はKillingsworth, Kahneman & Mellers(2023)の敵対的協働で「不幸な少数派では頭打ち、幸福な多数派では上がり続ける」と整理した。
Jebb et al.(2018)は飽和点が地域で異なることを示している。
読むときの注意:何を幸福とするか(評価か感情か)、所得を対数で見るか、国の比較か個人の比較かで結論が変わる。
この系譜の論文(年順・7本)
- 1974W2332 経済成長は人間の暮らしを改善するか?――いくつかの実証的証拠 Easterlin(1974) Nations and Households in Economic Growth(書籍の章) 主要400 被引用 4,788 国内では高所得者ほど幸福だが、経済成長で国全体の幸福は上がらないという「イースタリン・パラドックス」を示した。
- 2008W2341 経済成長と主観的幸福感――イースタリン・パラドックスの再検討 Stevenson(2008) Brookings Papers on Economic Activity 主要400 被引用 539 国の豊かさと平均幸福度には明確な正の関連があり、飽和点も見られないとして、イースタリン・パラドックスに反論した。
- 2010W0108 高所得は人生評価を高めるが感情的ウェルビーイングは高めない Kahneman(2010) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 主要400 被引用 3,013 所得は人生評価と上がり続けるが、日々の感情的幸福は年収約7.5万ドルで頭打ちになることを示した。
- 2010W0551 幸福と所得のパラドックス再考 Easterlin(2010) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 主要400 被引用 1,108 長期的には国の所得が増えても幸福度は上がらないという関係が、発展途上国や体制移行国を含む幅広い国々でも成り立つことを示した。
- 2018W1028 世界の幸福、所得の飽和点、転換点 Jebb(2018) Nature Human Behaviour 主要400 被引用 346 世界の調査データから、幸福は所得とともに無限に上がるのではなく一定額で飽和し、その水準は地域で異なることを示した。
- 2021W1163 経験的ウェルビーイングは年収7万5000ドルを超えても所得とともに上昇する Killingsworth(2021) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 主要400 被引用 226 170万件超の瞬間報告から、日々の気分も人生評価も年収7万5000ドルを超えて所得の対数とともに上がり続けることを示した。
- 2023W1246 所得と感情的ウェルビーイング:対立の解決 Killingsworth(2023) Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America 主要400 被引用 146 共同再分析により、所得に伴う幸福の頭打ちは最も不幸な約2割の人にのみ見られ、全体では所得とともに幸福が上がり続けることを示した。
系譜図でこの流れの論文だけが浮かび上がり、左から右へ年代順に並びます。
つながり ほかの保存版コレクションから、内容の近いもの
- 名言集経済成長は、必ずしも人々の幸福を高めないリチャード・イースタリン
- 名言集感情的な幸福は年収約7万5千ドルまでは所得とともに高まるが、それ以上では頭打ちになるダニエル・カーネマン
- 禅語百選吾唯足知私は、足りていることを知っている。欲望を追いかける前に、すでに満ちていることに気づく。
- 幸せに効くこと主観的経済状況『いくら稼ぐか』より『どう感じているか』のほうが幸福との相関が強いんです
- 幸せに効くこと経済成長率国が豊かになっても、格差が広がれば幸せは増えない
- 調査・報告書地球幸福度指数(ハッピー・プラネット・インデックス)幸福感と寿命を、環境への負荷で割り、「地球にやさしく幸せに生きている国」を比べる指数。
- 発達マップアランの幸福論と発達段階5つの発達段階で比べた表・思想・哲学・宗教との対応
- 思想マップアドラー(個人心理学)自分は共同体の役に立っているという感覚(共同体感覚)を持って生きられれば、劣等感は勇気に変わり幸福は自ずと訪れる
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