幸せの禅語百選

松無古今色 竹有上下節

まつにここんのいろなく たけにじょうげのふしあり

松は昔も今も変わらぬ緑。竹には上と下の節がある。変わらないものと、区別のあるもの。平等と差別は、どちらも真実である。

出典の物語

禅のお坊さんが暗記した句集『禅林句集』に収められた、五文字ずつの対句である。前の句「松に古今の色なし」は、松の緑が千年前も今も変わらないことをいう。時の流れに左右されない、変わらないもの、みな等しいという世界。後の句「竹に上下の節あり」は、竹に上の節と下の節という区別があることをいう。それぞれの場所に、それぞれの節がある。区別のある、一つひとつ違うという世界。禅ではこの二つを「平等」と「差別(しゃべつ=区別)」として対にして、どちらか一方に偏ることを戒める。平等だけを見れば「みな同じ」という空っぽの理屈に落ち、区別だけを見れば「みな違う」という分断に落ちる。松の変わらぬ緑と、竹の節の区別は、同じ庭に同時にある。お茶の席では前の句だけ、または後の句だけが掛けられることも多いが、本来は二つで一つの句である。お正月には「松無古今色」が、変わらないめでたさを表す言葉として好まれる。

松無古今色、竹有上下節(『禅林句集』)

出典:『禅林句集』(五言対句)

ウェルビーイング研究とのつながり

職場での「包摂(インクルージョン)」は、「集団への所属感」と「自分らしさ(独自性)の尊重」の両方が満たされたときに成り立つ、という理論がある(Shore et al., 2011)。これは、人が「みんなと同じでいたい」と「自分だけの存在でいたい」の両方を求めるという最適弁別性理論(Brewer, 1991)に基づく。所属感だけでは同化を強い、独自性だけでは排除になる。「松(平等)」と「竹(区別)」の両立は、このインクルージョンの二条件に対応している。

現代の暮らし・仕事への示唆

組織で「みんな平等」と言えば個性が消え、「みんな違う」と言えば秩序が消える。松と竹は、その両方が同時に成り立つことを示している。人としての尊厳において違いはなく(松)、役割や経験や得意において違いがある(竹)。この二つを混同すると、能力の違いを人の価値の違いと取り違えたり、逆に役割の違いを認めずに全員を同じ扱いにしたりする。ダイバーシティとは、松の平等の上に竹の差別を活かすことだろう。変わらないものを一つ持っている人は、違いを恐れずにいられる。

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禅語の出典・読み・解釈には諸説があります。本百選は通行の解釈に従っていますが、茶会の軸や講話など正式な場で用いる際は、原典や専門書(『禅語辞典』『茶席の禅語大辞典』など)でご確認ください。研究とのつながりは、禅語の主題に対応する心理学・幸福研究の知見を示したもので、禅語そのものの効果を実証したものではありません。 読み物版:PDF(127P) / 一覧:Excel(100語・引用研究つき)
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