世界の思想と宗教の幸福観マップ

西洋近現代 | 思想(世界観・組織的運動)

世俗的人文主義

世俗的人文主義(Secular Humanism) | 成立:1800〜1950年 | 地域:北米 | 規模:少(組織的成員)/多(広義の無宗教19億)
1ひとことで言うと

神を前提にしないこの世界で、理性と共感により、今ここでの人間の充実を実現すること

神も来世も前提にせず、この世界のこの人生の中で、理性と思いやりによって人間の充実を実現しようとする立場。個人の自己実現と、他者を傷つけないこと、より良い社会を作ることを結びつける。修行法は持たず、教育や社会運動、宗教によらない結婚式・葬儀などが実践の形。

2そもそもどんな思想?

神や来世を前提とせず、理性と科学と人間の尊厳に基づいて生きることを掲げる世界観・運動。1933年の『ヒューマニスト宣言』(米国)以来、宣言を重ねてきた。国際組織Humanists Internationalの加盟団体は60カ国以上。組織的な会員は数百万人だが、世界の「無宗教」人口(約19億人)の多くが暗黙にこれに近い世界観をもつ。

どれくらいの人が信じているか、学んでいるか

組織的なヒューマニストの数から見ると、Humanists Internationalは約120の加盟団体、60を超える国に広がっています(この数値は本調査で公式サイト上の確認に至っておらず、裏づけが必要です)。加盟団体の個人会員数を合計しても数百万人規模で、最大はノルウェー人道主義協会の会員約10万人規模です。参考として、無宗教・無所属の人口は約19.0億人(2020年、Pewの2025年発表)で、世界第3位のグループです。

重要な注意があります。組織的なヒューマニストの数と無宗教人口(19億人)とは、3〜4桁違います。「思想としての影響圏」と「組織化された成員」を厳密に分ける必要があります。また「無宗教」は「非信仰」ではありません。Pewによれば、神または高次の力を信じる無所属者はアメリカで68%、フランスで30%、中国で7%です。「無宗教」を「世俗的・非宗教的な世界観」と同じものとみなしてはいけません。

3この思想が言う「幸せ」

世俗的人文主義(せぞくてきじんぶんしゅぎ。英語でセキュラー・ヒューマニズム。神や来世を前提とせず、理性と科学と人間の尊厳に基づいて生きることを掲げる世界観と運動)が言う幸せの言葉は、宣言文書の中にあります。1933年にアメリカで出された『ヒューマニスト宣言I』(34名が署名した15か条の綱領文書)の第12条は、「善き生(the good life)」「生の満足」「生きる喜び(joy in living)」という言葉を使います。第8条は「人格の完全な実現」を人生の目的とみなし、「その発展と成就を今ここ(in the here and now)に求める」と述べます。2022年にグラスゴーで全面改訂された『現代ヒューマニズム宣言』では、中心の言葉が「人間の開花(human flourishing。フラーリッシング。持てる力を発揮して満ちている状態)」に移ります。ほかに充足、自由思想、合理主義、自然主義(超自然的なものを認めず、世界を自然の法則で説明する立場)といった言葉も並びます。

この思想にとって善き生とは、超自然的な救済も来世の報いも前提にせず、この世界のこの生のうちに達成される人間の充実です。1933年宣言の第12条は「宗教は生きる喜びのためにいっそう働かねばならないと信じ、人間のうちなる創造的なものを育み、生の満足を増す達成を促す」と述べています。2022年の宣言では、倫理の土台が「生きものが苦しみ、また開花しうるということ」に置かれました。幸福はここで、三つのものが結びついたものとして定義されます。第一に個人の自己実現(創造性・知識・愛・自律)。第二に他者を害さないという制約。第三に「より善い世界を築く」という社会への関わりです。2003年の『宣言III』には「社会に益するよう働くことが個人の幸福を最大化する」という一文があります。

なぜそう考えるのでしょうか。神と来世を前提にしない以上、幸福の実現はこの生涯の中にしかないからです。一言でいえば、神を前提にしないこの世界で、理性と共感により、今ここでの人間の充実を実現すること、という幸せです。

幸せを妨げるもの

この思想が批判の対象にしてきたものは五つあります。①超自然主義と啓示宗教(神の啓示を根拠にする宗教。幸福を来世に繰り延べ、現世の努力を軽んじるとされます)。②教条主義・権威主義・検閲。③人間を生まれつき罪深い存在とみなす原罪論(げんざいろん。キリスト教の教え)。④政教一致と、宗教による法・教育・生殖の統制。⑤非合理主義と疑似科学です。

幸せを妨げるものとして挙げられるのは、無知、不平等、抑圧、そして「人間には自分の生を改善する力がない」という諦念(ていねん。あきらめ)です。この思想で幸せの反対にあたる言葉は、超自然主義・無知・諦念、つまり「無知と誤った認識」だと整理できます。

4幸せに近づく道

制度・政策儀礼・祭祀共同体・対話

世俗的人文主義は、個人の修行体系を持ちません。これは意図的です。特定の救済論や修養論を退け、各人が理性と経験に基づいて自ら生き方を決める、という原則に立つからです。代わりに実践は四つの形をとります。①教育(批判的思考、科学的リテラシー、宗教によらない道徳教育)。②社会運動と政策提言(政教分離、人権、LGBTQ+の権利、リプロダクティブ・ライツ=性と生殖に関する自己決定の権利、終末期の自己決定)。③ヒューマニスト・セレモニー(宗教によらない結婚式・葬儀・命名式。特に英国と北欧で制度化されています)。④コミュニティ形成(倫理文化協会=Ethical Culture Society、サンデー・アセンブリー=Sunday Assembly。宗教によらない集会)です。

幸せはどこで実現するのでしょうか。個人の内面(自律的な自己実現)と、社会制度(人権・民主主義・教育)の両方です。2022年の宣言は「他者を害さない限りでの個人的な喜び」と「より善い世界の構築」「平和と人間的開花」を並べて置き、個人と社会をつないでいます。

いつ実現するのでしょうか。現世限定、「今ここ」です。来世を否定するため、幸福の実現期限は各人の生涯の中に閉じます。同時に、進歩と人類全体の未来への志向が強く、これは改善主義(メリオリズム。世界は人間の努力で少しずつ良くできるという考え)と呼ばれます。まとめると、今ここでの自己実現モデルであり、実践の形は制度・政策、儀礼、共同体・対話に分類されます。

5この思想の「幸せ」のかたち——8つの目盛り
幸せの動き
持っている力を伸ばして発揮する(開花型)
幸せの主語
一人ひとりの心と生き方
「私」と世界の境目
分離型——「私」と世界をはっきり分けて考える
境遇(運)との関係
境遇に左右される(だから制度や関係で支える)
自分で作るか、与えられるか
努力して手に入れる
苦しみの位置
取り除くべき妨げ
いつ実現するか
現世
幸せの反対
無知・誤認(超自然主義、無知、諦念)

「私」と世界の境目

世俗的人文主義の人間観は、自然の一部としての人間です。人間は自律的で理性的であり、同時に進化の産物である有限な存在です。超越的な魂や不滅の実体は認めません。個人の尊厳と自律を強く肯定する点はカント(18世紀ドイツの哲学者。人間の自律と尊厳を倫理の中心に置きました)に近いのですが、その根拠づけは形而上学(けいじじょうがく。経験を超えた原理を論じる哲学)ではなく、自然主義に置かれます。

「私」と世界の関係の型で言えば、分離型です。自律的で理性的な個人が単位であり、人間は自然の一部ではあるものの、自然や超越者との融合を目指すことはありません。

境遇(運)と、努力か贈与か

境遇については「非独立」です。幸福が教育・人権・制度という社会的条件に左右されることを、この思想は積極的に認めます。だからこそ、社会制度の改善が実践の中心になります。

努力か贈与かについては、人間の努力と制度による達成、と整理できます。神からの恵みのような贈与の次元は、原理的に排除されます。幸福は誰かから与えられるものではなく、人間が自分たちの力で作り出すものです。

苦しみの位置

苦しみは、取り除かれるべきものです。2022年の『現代ヒューマニズム宣言』は、倫理の基礎を「生きものが苦しみ、また開花しうるということ」に置いています。つまり、苦しみを感じる能力そのものが道徳の根拠とされます。苦しみに意味を見いだして受け入れるのではなく、理性と共感によって減らしていく対象です。

目盛りの定義は 17のマップ の各「目盛りの定義」を参照。

6現代の幸福研究から見ると

ヘドニア/エウダイモニア、三分類の枠組み

現代の幸福研究では、幸せをヘドニア(快と満足としての幸福)とエウダイモニア(人間としての機能の発揮としての幸福)に分けることがあります。世俗的人文主義はその中間で、ややエウダイモニア寄りです。1933年宣言は「生の満足」「生きる喜び」という言葉でヘドニア的な要素を肯定しますが、「人格の完全な実現」「創造的なものを育む」という定式はエウダイモニア的です。2022年宣言はさらに「開花」へ重心を移しています。ただし理論としての精緻化は乏しく、哲学的な幸福理論としては未発達である点を明記しておきます。

もう一つの枠組みとして、快楽説(快が善)/欲求充足説(望みが叶うことが善)/客観的リスト説(快や望みとは独立に、良いものの一覧がある)という三分類があります。世俗的人文主義は、理論化しないまま、暗黙のうちに穏健な客観的リスト説を採用している、と評価するのが妥当です。

前野4因子との相性(やってみよう=◎ ありがとう=○ なんとかなる=○ ありのままに=○)

前野隆司(幸福学の研究者)の4因子との相性は次のとおりです。

やってみよう(自己実現と成長)=◎(とてもよく合う)。自己実現と創造性が幸福の中心にあるからです。

ありがとう(つながりと感謝)=○(合う)。共感と社会的関与を重んじます。

ありのままに(独立と自分らしさ)=○(合う)。個人の自律を強く肯定します。

なんとかなる(前向きと楽観)=○(合う)。世界は人間の努力で良くできるという改善主義(メリオリズム)を持ちます。

生きとし生けるものの幸せ(○ 含むが、人間との差はある)

生きとし生けるものへの配慮は○(含まれる)です。2022年の『現代ヒューマニズム宣言』は、倫理の基盤を「生きものが苦しみ、また開花しうること」に置き、人間以外の生きものを含めています。ただし、動物倫理や環境倫理の側からは、ヒューマニズムは結局「人間中心主義」ではないかという批判が向けられています。

研究でどこまで確かめられているか

研究の裏づけは「中」程度です。ただし注意が必要で、「世俗的人文主義」を変数にした研究ではなく、「無宗教」を変数にした研究が中心です。

①Pew(ピュー・リサーチ・センター。アメリカの調査機関)による「宗教的無所属」人口の増大の調査があります。②宗教性とウェルビーイング(心身の良い状態)の関係については、ヤデンら(Yaden et al.)の2022年のメタ分析(多数の研究を統合した分析。256の研究、約66万6千人)が全体の相関r=.18(弱い正の関連)を報告しつつ、宗教を重要と考える人の割合が高い国ほど相関が強い、という国レベルの調整効果を示しました。ディーナー、テイ、マイヤーズの2011年の研究は、生活条件が良好な社会では信仰者と非信仰者の主観的幸福感がほぼ同水準になることを示しています。③世界幸福度報告(World Happiness Report)の上位を占める北欧諸国が高度に世俗化した社会であることがしばしば引き合いに出されますが、これは相関であって因果ではありません。社会的信頼・所得・福祉制度という交絡要因(別の原因が両方に影響している可能性)が大きいのです。

7系譜と発達段階

どこから来て、どこへ流れたか

どこから来たか。啓蒙思想(けいもうしそう。17〜18世紀ヨーロッパで、理性によって迷信や権威から人間を解放しようとした思想の流れ)、19世紀の自由思想運動、1876年にフェリックス・アドラー(アメリカの思想家)が始めた倫理協会運動、そして『宣言I』の署名者でもあったデューイ(ジョン・デューイ。アメリカの哲学者・教育学者)から影響を受けています。

どこへ流れたか。政教分離運動、人権・LGBTQ+・生殖の権利をめぐる運動、ヒューマニスト・セレモニー、そして世界の「無宗教」人口が暗黙のうちに持っている世界観へと流れています。1952年にアムステルダムで創設されたIHEU(現在のHumanists International=ヒューマニスト国際組織)がその国際的な受け皿です。

発達段階論から見ると

キーガン(成人の心の発達段階を研究した心理学者)の段階論では、段階3(周囲に合わせる自己)、段階4(自分の基準を持つ自己)、段階5(自分の枠組みを相対化できる自己)と進むと考えます。理性と自律による自己実現という世俗的人文主義の目標は、発達段階を色で呼ぶ言い方でいえばオレンジ(達成志向の自律した自己)からグリーン(関係性や多元性を重んじる自己)にあたります。段階4に近い位置です。

興味深いのは、1933年宣言が自らを「宗教的」と呼んだ点です。これは、アンバー(集団への帰属と規範を重んじる段階)的な「帰属の器」を、世俗的な内容で満たそうとした試みと読めます。段階5的な自己相対化は主題になりません。発達段階マップでは、器(実践を運営する自己のあり方)=段階4、目標(目指す自己のあり方)=段階4と記されています。なお、高い段階ほど良いという読みはしません。

8現代の言葉に翻訳すると

型は【伸ばす/制度で供給する】です。神なしに、理性と共感によって今ここでの充実を設計する、という考え方です。修行体系を持たないため、教育・社会運動・セレモニー(宗教によらない通過儀礼)が実践の形になります。「無宗教の社会でも儀礼と共同体は必要か」という問いに対する、一つの回答例と見ることができます。

9気をつけたいこと

安全装置制度・法・専門職倫理共同体の相互監視

タグは「制・共」です。制=制度と公共的な規範に安全を委ねる、共=共同体と開かれた討議で支える、という意味です。

具体的には、理性・科学・人権という公共的な規範、民主的な制度、開かれた討議が安全装置です。個人の実践体系を持たず、宗教的権威を退けるため、安全装置はもっぱら制度と教育に置かれます。師(指導者)や戒(生活の規律)といった伝統的な装置はありません。

誤解されやすい点

①最も重要なのは「ヒューマニズム」の日本語訳の混乱です。ルネサンス期の人文主義(Renaissance humanism)、人道主義(humanitarianism)、世俗的・現代ヒューマニズム(secular/modern humanism)の三つが混同されています。日本語の「ヒューマニズム」は日常語として人道主義の意味で使われることが多く、世俗的人文主義との混同がはなはだしい状態です。

②「人間中心主義(anthropocentrism)」との混同。これは批判者側の用法であり、この思想の自己規定ではありません。

③1933年宣言は自らを「宗教的」と呼んでいます。世俗的人文主義の出発点が「ヒューマニズムという宗教」を掲げていた事実は、日本語圏でほとんど知られていません。

④アムステルダム宣言には1952年版、2002年版、2022年版があり、混同されがちです。引用の際は必ず年を明記しておきます。

⑤「ヒューマニズムは幸福の理論を持つ」という過大評価。世界観と倫理的態度はありますが、幸福理論はありません。

学者の間で議論があること

①「宗教的ヒューマニズム」と「世俗的ヒューマニズム」の関係。1933年の宣言は自らを一貫して「宗教的ヒューマニズム(religious humanism)」と呼び、ヒューマニズムを一種の宗教として提示しました。1973年の『宣言II』以降、特に1980年にポール・カーツ(アメリカの哲学者)が起草した『世俗的ヒューマニスト宣言』が、宗教から明確に切り離そうとしました。この1933年の自己規定は、日本語圏で最も見落とされている論点です。

②カーツとAHA(アメリカ・ヒューマニスト協会)の分岐。「世俗的(secular)」を名前に冠するかどうかが組織の分かれ目になりました。

③「新無神論」(2000年代に登場した、宗教を強く批判する論者たちの潮流)との関係。

④ヒューマニズムは人間中心主義か。動物倫理・環境倫理からの批判があります。ヌスバウム(マーサ・ヌスバウム。アメリカの哲学者)が「他の種との共生」を人間の中心的ケイパビリティ(生きるうえで実現できるべき能力)に含めていることと対比されます。

⑤幸福理論の欠如。世界観と倫理的態度は示しますが、「幸福とは何か」の哲学的理論を持ちません。

10現代の私たちへのヒント

こんなときに:信仰は持たないが、生きる支えや倫理が欲しいとき。理性と共感で、今ここの充実を作りたい人に。

小さな入口:今日、誰かの状況を「自分だったら」と想像する場面を一つ持つ。共感と理性の両方を使って行動を一つ決める。

判定が近い思想:アリストテレス・プラトン・ポジティブ心理学1.0 → 思想の近さマップ

11名言——この思想を代表する言葉
宗教的ヒューマニズムは、人格の完全な実現を人生の目的とみなし、その発展と成就を今ここに求める。
Religious Humanism considers the complete realization of human personality to be the end of man's life and seeks its development and fulfillment in the here and now.
『ヒューマニスト宣言 I』(A Humanist Manifesto, 1933) 第8条

来世ではなく「今ここ」での人格の実現を人生の目的と定めた、運動の出発点の定義。自らを「宗教的」と呼んでいる点にも注意。

宗教は生きる喜びのためにいっそう働かねばならないと信じ、宗教的ヒューマニストは人間のうちなる創造的なものを育み、生の満足を増す達成を励ます。
Believing that religion must work increasingly for joy in living, religious humanists aim to foster the creative in man and to encourage achievements that add to the satisfactions of life.
『ヒューマニスト宣言 I』(A Humanist Manifesto, 1933) 第12条

「生きる喜び」「生の満足」という語で、禁欲や来世の報いではなく現世の充実を肯定する条項。

私たちは、他者を害しない個人の喜びと充足のあらゆる源を尊び、創造的で倫理的な生き方を養うことによる自己の成長は一生の営みだと考える。
We value all sources of individual joy and fulfilment that harm no other, and we believe that personal development through the cultivation of creative and ethical living is a lifelong undertaking.
Humanists International『現代ヒューマニズム宣言』(Declaration of Modern Humanism, 2022, グラスゴー) 第3項

個人の喜びを「他者を害しない限りで」肯定し、倫理と創造性による生涯の自己成長と結びつける現行の綱領。

社会の利益のために働くことが、個人の幸福を最大にする。
Working to benefit society maximizes individual happiness.
『ヒューマニズムとその願望=ヒューマニスト宣言 III』(Humanism and Its Aspirations, 2003) 最終段落

個人の幸福と社会への貢献を対立させず、一つに結ぶ世俗的人文主義の基本姿勢を一文で示す。

善き生とは、愛に促され、知識に導かれた生である。
The good life is one inspired by love and guided by knowledge.
Bertrand Russell, What I Believe (1925) 第2章「The Good Life」

神を前提しない善き生の定式として、20世紀ヒューマニズムで最も広く引かれる一行。理性(知識)と共感(愛)の両輪。

12もっと知りたい人へ

主な典拠:『ヒューマニスト宣言 I』(1933) 第8条「Religious Humanism considers the complete realization of human personality to be the end of man's life and seeks its development and fulfillment in the here and now.」第12条「Believing that religion must work increasingly for joy in living...」(いずれも原文確認済)/『ヒューマニスト宣言 II』(1973)/『世俗的ヒューマニスト宣言』(1980、カーツ)/『ヒューマニズムとその願望=宣言III』(2003)「Working to benefit society maximizes individual happiness.」/『現代ヒューマニズム宣言』(2022, グラスゴー)「We value all sources of individual joy and fulfilment that harm no other...」

参考文献:Humanists International, Declaration of Modern Humanism (2022)(一次資料)/American Humanist Association, Humanist Manifesto I/II/III (1933/1973/2003)(一次資料)/Kurtz, P. (1980) A Secular Humanist Declaration, Prometheus Books/※SEPには「Secular Humanism」の独立項目が確認できなかった

13用語解説
世俗的 宗教によらない、という意味
ヒューマニズム ここでは「神なしに人間の理性と尊厳を基礎に置く世界観」。日本語の「人道主義」「人文主義」とは別
ヒューマニスト宣言 1933年以降、米国のヒューマニスト団体が出してきた綱領文書。I(1933)、II(1973)、III(2003)がある
世俗的ヒューマニスト宣言 1980年にポール・カーツが起草した宣言。宗教から明確に切り離すことを目指した
現代ヒューマニズム宣言 2022年にグラスゴーで全面改訂された国際的な宣言。中心語は「開花」
アムステルダム宣言 国際組織が出した宣言。1952年版、2002年版、2022年版があり、引用時は年の明記が必要
自然主義 超自然的なものを認めず、世界を自然の法則で説明する立場
無宗教・無所属 特定の宗教に属さない人々。世界で19億人。ただし多くは神や霊を信じている
ヒューマニスト・セレモニー 宗教によらない結婚式・葬儀・命名式。英国や北欧で制度化されている
開花(フラーリッシング) 人が持てる力を発揮して満ちている状態。2022年宣言の中心語
人格の完全な実現 1933年宣言第8条が人生の目的として掲げた言葉。今ここでの発展と成就を求める
改善主義(メリオリズム) 世界は人間の努力によって少しずつ良くできる、という考え方
自由思想 宗教的権威によらず、理性によって考える立場。19世紀の運動として世俗的人文主義の前史をなす
啓蒙思想 17〜18世紀ヨーロッパで、理性によって迷信や権威から人間を解放しようとした思想の流れ
倫理協会運動 1876年にフェリックス・アドラーが始めた、宗教によらない倫理の共同体運動
原罪論 人間は生まれつき罪を負っているとするキリスト教の教え。世俗的人文主義はこれを批判する
政教分離 国家と宗教を切り離すこと。この思想の主要な社会運動の一つ
リプロダクティブ・ライツ 性と生殖に関する自己決定の権利
人間中心主義 人間だけを道徳の中心に置く立場。批判者がヒューマニズムに向ける呼び名で、自己規定ではない
Humanists International 1952年にアムステルダムでIHEUとして創設された国際組織。60カ国以上に加盟団体がある
ポール・カーツ アメリカの哲学者。1980年の『世俗的ヒューマニスト宣言』を起草した
フェリックス・アドラー アメリカの思想家。1876年に倫理協会運動を始めた
デューイ ジョン・デューイ。アメリカの哲学者・教育学者。1933年宣言の署名者の一人
カント 18世紀ドイツの哲学者。人間の自律と尊厳を倫理の中心に置いた
ヌスバウム マーサ・ヌスバウム。アメリカの哲学者。「他の種との共生」を人間の中心的ケイパビリティに含めた
ケイパビリティ 人が生きるうえで実際に実現できる能力や機会のこと
Pew(ピュー・リサーチ・センター) アメリカの調査機関。世界の宗教人口の推計を発表している
メタ分析 多数の研究結果を統計的に統合して、全体の傾向を調べる方法
交絡要因 二つのものの関係を、実は別の第三の原因が作り出している可能性のこと

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