どんな調査か
世界価値観調査(World Values Survey、WVS)は、政治・経済・労働・宗教・家族などについて人々が何を大切にしているかを、世界各国で同じ質問票を使って尋ねる国際比較調査である。運営するのは世界価値観調査協会(World Values Survey Association、WVSA)で、各国の研究チームが自国で調査を実施する。協会の会長はウィーン大学のクリスティアン・ハープファー(Christian Haerpfer)で、事務局本部はウィーン、法人の所在地はストックホルムの未来研究所(Institute for Future Studies)、データアーカイブはマドリードに置かれている。調査は1981年に始まり、協会の創設者は政治学者ロナルド・イングルハート(Ronald F. Inglehart)である。これまでに累計120以上の社会が参加しており、幸福感と生活満足度を初期から尋ねているため、国ごとの長期の推移を追える。
何をどう測っているか
調査は数年ごとの「波(Wave)」と呼ばれる単位で行われ、各国で全国を代表するように選んだ1,000〜3,200人に同じ質問票で尋ねる。第7波(2017〜2022年)の回答者は合計約12.9万人である。幸福に関する主な質問は三つある。一つ目は幸福感で、「全体として、あなたは幸せだと思いますか」に「非常に幸せ」から「まったく幸せでない」までの4段階で答える。二つ目は生活満足度で、生活全般への満足を1〜10の10段階で答える。三つ目は「人生を自由に動かせる感覚」で、これも1〜10で答える。日本の発表では、幸福感は「非常に幸せ」と「やや幸せ」の合計を「幸せ」、生活満足度は6〜10を「満足」として集計している。日本調査は1990年から電通総研が参加し、対象は18歳以上(近年は18〜79歳)で、方法は訪問面接法(1981年・1990年・1995年)、郵送法(2000年・2024年)、訪問留置法(2010年)と回によって異なる。
これまでの歩み
第1波(1981〜1984年)は24か国・地域が参加し、日本は1981年3月に1,204人を訪問面接で調査した。第2波(1990〜1994年)は公式ページに47か国・地域が並ぶが、このうち欧州の調査は欧州価値観研究(EVS)として別に提供され、WVSの統合データは18か国・社会、24,558人である。第3波(1995〜1998年)は56か国・地域、第4波(1999〜2004年)は中東・アフリカ・アジアの国々が多く参加した41か国・地域、第5波(2005〜2009年)は58か国・地域で実施された。第6波(2010〜2014年)は60か国・地域の85,000人超が回答した。第7波(2017〜2022年)は2020年7月に初回データが公開され、実査状況ページでは77か国・地域、最終版(6.0版)のデータには66か国・地域が収められている。第8波は2024年に実査が始まり、日本調査は2024年7〜8月に郵送法で1,272人に行われた。EVSと合わせた1981〜2022年の統合データ(約120か国)も無料で公開されている。
分かってきたこと
日本の幸福感は1995年以降9割近くで安定している
日本で「幸せ」と答えた人は1990年に77.7%だったが、1995年に89.0%へ大きく上がった。その後は2000年86.5%、2005年87.3%、2010年86.5%、2019年88.3%、2024年88.4%と、9割弱の水準が続いている。イングルハートらの論文は、長期的に幸福度が上昇した国の一つとして日本を挙げている。
生活満足度は幸福感より上下が大きい
生活全般に「満足」と答えた人は、1990年71.7%、1995年72.6%、2000年69.3%、2005年80.9%、2010年73.8%、2019年74.4%、2024年71.2%である。最高は2005年、最低は2000年で、1990〜2024年の7回の中で約11ポイントの幅がある。2010年調査では生活や家計の満足度が直近5年で約7ポイント下がり、自分の生活程度を「中の下」とみる人が増えた。個人の幸福感が安定する一方で、満足度は時期によって動いている。
「勤勉なら成功できる」という考えは弱まり続けている
「勤勉に働けば成功する」と考える人は1995年に70.2%で時系列最高だったが、2005年に57%へ約13ポイント下がり、2024年には53%で過去最低となった。2024年には「成功は運やコネが大きい」と考える人が過去最高となった。2005年には、収入は平等より成果報酬を支持する人が多かった(65.9%対28.1%)。
人生を自由に動かせる感覚は長期で高まった
人生を「自由に動かせる」と答えた人は1990年に45.8%だった。2000年は63.0%、2005年は62.4%、2010年は50.0%と上下したが、2024年には68.9%と2019年から約11ポイント増えた。
政治への信頼は低く、社会の行方への見方は厳しい
国会を信頼する人は1995年に24.2%、2000年に19.7%にとどまり、2000年の新聞・雑誌への信頼70.2%とは大きな差があった。2024年の時系列レポートは、政府・政党への不信が強まり、国が「悪い方向に向かっている」が48%にのぼり、日本の経済競争力への悲観が急増したと報告している。2010年には日本に不安を感じる人が93%に達した。