大道無門
大いなる道には門がない。どこからでも入れるが、どこにも入口はない。入るべき門を探している限り、入れない。
出典の物語
問題集『無門関』の序文に、編者の無門が書いた詩である。「大いなる道には門がない。しかし、千差万別の道がある。この関所を通り抜ければ、天地の間を独りで歩くことができる」。「無門関」という本の題名そのものが、この逆説を含んでいる。「門の無い関所」。関所なのに門がない。門がないのだから、どこからでも通れるはずだが、門がないからこそ、どこから入ればよいのか分からない。禅の修行者は、悟りへの入口を探す。この問題を解けば、この師匠につけば、この修行をすれば。しかし、入口を探している限り、入口の外にいる。大道は、すでにその人が立っているところにある。門がないのは、閉ざされているからではなく、すでに中にいるからである。「千差万別の道がある」とは、入口は無いが、道は無数にある、ということ。それぞれの人が、それぞれの場所から、それぞれの道を行けばよい。「天地の間を独りで歩く」は、天地の間を、誰にも頼らず自分の足で歩く自由のこと。これは孤独ではなく、「位のない本当の人」「主人公」としての自立である。『無門関』の四十八の問題は、この序文の心のもとに編まれている。
出典:『無門関』序(無門慧開)
ウェルビーイング研究とのつながり
「最善の選択肢」を探し続ける傾向(最大化志向)の強い人は、より良い結果を得ても満足度が低く、後悔や抑うつが多いことが示されている(Schwartz et al., 2002)。就職活動では、最大化志向の学生のほうが高い給与の職を得たが、仕事への満足度は低かった(Iyengar, Wells & Schwartz, 2006)。また、選択をやり直せると思っている人のほうが、やり直せない人より選んだものへの満足が低い(Gilbert & Ebert, 2002)。「正しい入口を探すのをやめた瞬間が、入った瞬間」という大道無門は、選び方より歩き方を重んじるこれらの知見に通じる。
現代の暮らし・仕事への示唆
キャリアにも人生にも、「正しい入口」があると思いがちだ。この資格を取れば、この会社に入れば、この人と出会えば。しかし大道に門はない。入口を探して立ち尽くしている間に、大道はすでに足元にある。研究でも、人生の満足度は「正しい選択をしたか」より「選んだ道をどう歩いたか」に左右されることが示されている。門がないのだから、今いる場所から歩き始めればよい。千差の道のどれを選んでも、本気で歩けばそれは大道である。入口を探すのをやめた瞬間が、入った瞬間である。
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