各思想からの悩み相談30 ・ 家族 9/30
配偶者に、いなくなってほしいと思ってしまう
この悩みの形
この悩みは、口にした瞬間に自分を責めてしまう種類のものです。だから最初に書いておきます。そう思ってしまうこと自体は、あなたが悪い人であることを意味しません。長く一緒にいる相手に対して、心が「この関係から出たい」と信号を出しているのです。信号の形が「相手がいなくなれば」という極端な像をとるのは、出口が見えないときに心が描く、いちばん手っ取り早い絵だからです。思いを持つことと、それを行いに移すことは、まったく別のものです。
本マップの目盛りで見ると、幸せの主語を「個人」から「関係」へ、関係を「二人」から「網」へ、という二つの転換が必要なことが分かります。現代の標準的な答えは、「話し合って関係を改善する」か「自分らしく生きるために別れる」のどちらかで、どちらも個人の決断の問題として描かれます。けれども47の伝統のうち、幸せの主語を関係や共同体に置く伝統は28あり、それらは二人の関係を「二人だけの密室」として見ません。周りの人、制度、身体、時間。密室を開けるところから、多くの伝統の言葉は始まります。
選択肢は、大きく三つです。関係を変える、距離を取る、関係を終える。伝統の言葉は、どれが正しいかを決めてはくれません。決めるのはあなたです。ただ、どれを選ぶにしても先に整えておく構えと、どれを選ぶ前にも必ず確かめるべき一つのこと(次の節)を、伝統は持っています。
- 除去・回復型
- 仏教(上座部)、神道、エピクロス派
- 認識転換型
- ストア派、道家(老荘)、禅
- 関係構成型
- アドラー(個人心理学)、Ubuntu、マオリ
- 贈与・応答型
- 仏教(浄土)、キリスト教
- 副産物型
- ユング(分析心理学)、実存主義
- 制度・集計型
- ケイパビリティ・アプローチ、カント
先に言っておきたいこと
各伝統の言葉を置く前に、一つだけ確かめてください。「いなくなってほしい」という思いの背景に、あなた自身が傷つけられている現実はありませんか。殴る、物を壊す、大声で威圧する、人前で侮辱する、行動や交友を監視する、生活費を渡さない、性的な行為を強いる。これらは配偶者間の暴力(DV)やモラルハラスメントと呼ばれ、「夫婦の問題」ではなく、法律と制度の対象です。この場合、「相手を理解しよう」「自分の見方を変えよう」という伝統の語彙は、害のある関係に留まる理由として働いてしまいます。本マップの安全装置の観点から、この文章の言葉は、そうした現実がある人には当てはめないでください。先に、相談先(最後の節)に連絡することをお願いします。
逆に、自分の言動が相手を傷つけているかもしれない、と気づいている人もいるでしょう。その気づきも、責める材料ではなく、相談の入口です。
もう一つ。伝統の言葉は、相手を変える道具ではありません。ここに書く言葉はすべて、あなた自身の構えを整えるためのものです。
各思想からの答え
除去・回復型——「こうあってほしい」の火を見る
仏教(上座部)
上座部仏教(パーリ語の経典を用い、スリランカや東南アジアに広まった仏教)は、苦の根を渇愛(かつあい。止まらない「もっと欲しい」「これは嫌だ」)に見ます。『ダンマパダ』216偈に「渇愛から憂いが生じ、渇愛から怖れが生じる。渇愛を離れた人に憂いはない。どうして怖れがあろうか」とあります。これを引きつけると、「相手がこうであってほしい」「この関係から逃れたい」という二つの思いは、どちらも渇愛です。この伝統は、思いを消せとは言いません。「今、追いかけているな」と気づくだけにする。火を見ているあいだは、燃料を足さずに済みます。相手を変える前に、まず自分の中で燃えているものを見るのが、この伝統の順序です。
神道
神道(日本固有の神々への信仰と祭祀の伝統)では、穢れは内面的な罪ではなく、付着した状態としての不浄で、悔い改めではなく祓と禊(みそぎ。水で洗い清める儀礼)によって流します。今のあなたに置き直すと、「こんなことを思う自分は汚れている」という罪悪感を、神道は持ちません。くもりは責めて落とすものではなく、洗って流すものです。一日の終わりに、その日に浮かんだ思いを、入浴や手水(てみず。手を洗う略式の禊)と一緒に流す。それは思いの否認ではなく、思いを翌日に持ち越さないための儀礼です。
エピクロス派
エピクロス派(紀元前4世紀末のアテナイでエピクロスが開いた学派)は、幸せとは身体に苦痛がなく心に動揺がない状態であり、安全と休息と友は「自然で必要な欲望」に属すると考えました。確かめるべきは、今の家であなたの一つ目の欲望、つまり安全・睡眠・休息が満たされているかです。満たされていないなら、問題はあなたの構えではなく、環境です。エピクロスは、苦痛の源から身を引くことを、最も基本的な実践としました。
認識転換型——問題の置き場所を変える
ストア派
ストア派(紀元前3世紀にゼノンが開き、ローマ時代にセネカやエピクテトスが実践した哲学)は、「人を動揺させるのは物事そのものではなく、物事についての判断である」(エピクテトス『提要』5)と言います。そして自分次第のものと、そうでないものを分けます。相手の性格、相手の習慣、相手の心の中で起きていることは、自分次第ではありません。自分次第なのは、自分の言い方、自分の判断、そしてこの関係にどう関わるかという行動です。あなたの場面で言えば、相手を変えようとする努力に注いできた力を、自分の行動に戻す、ということです。ただし、ストア派の不動心は、害を受け続けるための技法ではありません。
道家(老荘)
道家(『老子』『荘子』を中心とする中国の思想)は、押すほど閉じる、という構造を知っています。無為とは何もしないことではなく、介入をやめることです。相手を変えようとする働きかけ——指摘、要求、ため息——を一週間やめてみる。空いた沈黙に、何かが流れてくることがあります。流れてこなければ、それもまた情報です。「どちらが正しいか」の争いから一度降りることが、道家の最初の一歩です。
禅
禅(坐禅を中心とし、師との直接のやりとりを重んじる大乗仏教の一派)は、言語による概念化や、自分と他者を二分すること自体を、妨げと見ます。ここから言えるのは、「配偶者」「夫」「妻」というラベルをいったん外して、今日この一日のこの人だけを見る、という見方になります。長年のあいだに積もった「この人はこういう人だ」という像が、目の前の人を見えなくしていることがあります。像を外して見た今日の相手が像と同じでも違っても、それは判断の材料です。
関係構成型——二人の密室を開ける
アドラー(個人心理学)
アドラー(フロイトと決別して個人心理学を創始した医師)は、人生の課題を仕事・交友・愛の三つに分けました。岸見一郎が再構成した「課題の分離」でいえば、相手がどう振る舞うかは相手の課題であり、あなたの課題は、あなた自身がこの関係でどう振る舞い、どう決めるかです。今のあなたに置き直すと、「相手が変わってくれれば」という待ち方は、自分の課題を相手に預けている状態です。預けたものを引き取る。それは関係を続ける場合も、距離を取る場合も、終える場合も、同じ最初の一歩です。ただし課題の分離は、撤退や無関心ではありません。
Ubuntu
ウブントゥ(南部アフリカの「人であること」を指す言葉)は、「私の人間性は、あなたの人間性のなかに、解きほぐせないほど結び込まれている」(ツツ『赦しなくして未来なし』)と言います。相手を人として扱えなくなった関係は、自分の人間性も削っているのです。だからこの伝統は、二人の問題を二人で抱えさせません。長老の調停、対話、合議。日本の暮らしで言えば、第三者を入れることです。友人でも、親族でも、家庭裁判所の調停でも構いません。密室を開けることは、相手を責めることとは別です。
マオリ
マオリ(ニュージーランドの先住民)のテ・ファレ・タパ・ファー(四つの壁をもつ家)は、健康を霊性・心・身体・家族の四本の柱で見ます。あなたの場面で言えば、揺れているのは「家族」の柱です。残りの三本が立っていれば、家はすぐには倒れません。身体を整える、心を支える相手を持つ、自分を超えるものとの関係を保つ。一つの側面が揺れるときに、他の三つを先に支える。それが、決断を急がずに済ませる、この伝統の知恵です。
贈与・応答型——変えられない自分を、先に受け取る
仏教(浄土)
浄土教(阿弥陀仏の本願を信じ、念仏を称える仏教の流れ。日本では法然と親鸞)は、人は凡夫(ぼんぶ。欲や怒りを断てない普通の人)であり、そのままで救われていると説きます。妨げは悪そのものではなく、自力への執着です。親鸞の悪人正機(自分の善を頼めない人こそ本願の正しい対象だという考え)は、自分の善さを頼めなくなった人にこそ向けられた言葉です。「こんなことを思わない自分になろう」という努力も、自力のはからいです。思ってしまう自分を、凡夫として先に受け取る。それは思いを肯定することではなく、思いと自分を同一視しないことです。
キリスト教
キリスト教の隣人愛の掟には、「自分のように」という条件が付いています。自分を損なうことを、この伝統は愛と呼びません。また幸せは、自力で獲得する徳の完成ではなく、恩寵(神からの無償の贈り物)として与えられるものです。ここから言えるのは、関係のために自分をすり減らしてきた人は、掟の後半だけを実行してきたのかもしれません。また、赦しは相手の行いを是認することではなく、自分が報復の鎖から降りることです。それは関係を続ける根拠にも、終える根拠にもなります。
副産物型——影を見る
ユング(分析心理学)
ユング(スイスの精神科医。分析心理学の創始者)は、自分の認めたくない側面(影)を認めず、他人の中に見てしまうことを投影と呼びました。「人は光の像を思い描くことによってではなく、闇を意識化することによって明るくなる」(『哲学の木』)という言葉があります。今のあなたに置き直すと、相手の中に見える耐えがたいものの一部が、自分の影であることがあります。すべてではありません。一部です。その一部を引き取ったとき、相手の像が少し変わることがあります。変わらなければ、残りは本当に相手のものです。
実存主義
実存主義(人間にはあらかじめ決まった本質がなく、自ら選ぶことで自分を作ると考える哲学)は、人は自由であるよう宣告されている、と考えます。「仕方なく一緒にいる」という言い方を、サルトルは自己欺瞞(自由から逃げるために自分に嘘をつくこと)と呼びました。続けるにせよ、距離を取るにせよ、終えるにせよ、「自分が決めた」と言える形で決める、ということです。決めない状態を続けることも一つの選択であり、それも自分の名前で引き受けるものです。
制度・集計型——選べる幅があるか
ケイパビリティ・アプローチ
ケイパビリティ・アプローチ(経済学者センと哲学者ヌスバウムの理論)は、善き生を「実際に選べる生き方の幅」で測ります。そして長く抑圧された人は望みを下げてしまう(適応的選好)と指摘します。あなたの場面で言えば、「別れたくても別れられない」の多くは、構えの問題ではなく幅の問題です。収入、住まい、子ども、親族、情報。幅が狭いなら、幅を広げる行動(相談、制度の確認、収入の確保)は、決断より先にできることです。幅が広がってから決めたほうが、どの選択も自分のものになります。
カント
カント(18世紀ドイツの哲学者)は、人を手段としてのみ扱ってはならない、と言いました。相手を自分の幸せのための手段として見ていないか、そして自分を相手や世間体のための手段にしていないか、の両方を一度だけ問うのです。どちらの問いも、答えによって行き先が変わります。尊厳は、相手にも自分にも、同じ重さで当てはまります。
今日からできる三つのこと
試すなら、この中から一つ。伝統の実践(瞑想・行・祈り)の代わりではなく、考え方に触れるための小さな入口です。
- 「いなくなってほしい」という思いが浮かんだとき、消そうとせず「今、追いかけているな」と気づくだけにする(仏教(上座部))
- 相手を変えようとする働きかけを一週間やめ、その間に自分の身体と睡眠を整える(道家(老荘))
- 二人以外の誰かに、この悩みを一度だけ言葉にする。友人、親族、相談窓口のどれでもよい(Ubuntu)
こういうときは専門家へ
殴られる、物を壊される、怒鳴られて萎縮する、人前で侮辱される、行動や交友を制限される、生活費を渡されない、性的な行為を強いられる。一つでも当てはまるなら、配偶者間の暴力(DV)やモラルハラスメントの可能性があり、「夫婦の問題」ではなく制度の対象です。DV相談ナビ(#8008)に電話すると、最寄りの相談窓口につながります。各都道府県の配偶者暴力相談支援センター、内閣府のDV相談プラス(0120-279-889、24時間)でも相談できます。身の危険があるときは110番、緊急でない相談は警察相談専用電話(#9110)です。別居や離婚、お金の問題は法テラス(0570-078374)や、家庭裁判所の夫婦関係調整調停で扱えます。眠れない、涙が止まらない、消えてしまいたいと思う、という状態が続くなら、精神保健福祉センターや心療内科、よりそいホットライン(0120-279-338)へ。自分が相手を傷つけているかもしれないと気づいた人も、同じ窓口が入口です。
この悩みを含む30の悩みは、PDFでも読めます:各思想からの悩み相談30(PDF)
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