幸せの名言集
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ソーシャル・サポート、所属感、孤独感、社会関係資本など人とのつながり。
「世界の主要ウェルビーイング研究」の概念と代表的な論文です。名言の内容が実証されているという意味ではありません。
「朋あり遠方より来たる、また楽しからずや」 — 孔子 『論語』学而第一
友との再会は人生の根源的な喜びである
心理学では この言葉は、Baumeister & Leary(1995)のいう所属欲求(人とつながっていたいという根源的な欲求)が満たされる喜びを表している。Diener & Seligman(2002)は大学生を対象にした調査で、とりわけ幸福度の高い人ほど友人や家族との関係が豊かであることを示した。またLiuら(2023)の実験では、しばらく連絡をとっていなかった知人から不意に連絡を受けた人は、送り手が予想する以上にそれを喜ぶことが分かった。遠くの友が訪ねてくる嬉しさは、迎える側にとって大きいのである。しばらく会っていない友人に短い便りを送ることが、相手と自分の双方の喜びにつながる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 /Liuら(2023)「The surprise of reaching out: Appr…」 ↗ 人物 春秋時代の思想家(BC551-479)。儒家の祖 出典に諸説あり
「友情とは、二つの身体に宿る一つの魂である」 Friendship is a single soul dwelling in two bodies.
— アリストテレス(に帰される) ディオゲネス・ラエルティオス『ギリシア哲学者列伝』
※伝承による帰属
深い友情は自己の拡張である
心理学では この名言は、心理学でいう「他者の自己への包含」(親しい相手が自分の一部のように感じられること)を言い表している。Aronら(1991)は一連の実験で、人は親しい相手を資源の分配で自分と同じように扱うことや、配偶者と自分の特徴が食い違う項目では「自分に当てはまるか」の判断が遅くなることを示し、親密な関係では自己と他者の境界が重なり合うと論じた。さらにAronら(1992)は、二つの円の重なりで親密さを測る尺度を作り、重なりを大きく感じる人ほど関係が親密で、その後も関係が続きやすいことを見いだした。友人の喜びや悩みを自分ごととして受け止める時間を意識して持つことが、互いの心を近づける助けになる。 参考:Aronら(1991)「Close relationships as including o…」 ↗ /Aronら(1992)「Inclusion of Other in the Self Sca…」 ↗ 人物 古代ギリシャの哲学者(BC384-322) 出典に諸説あり
「早く行きたければ一人で行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け」 If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together.
— アフリカのことわざ(とされる) 出自に諸説あり
※アフリカ起源かどうかは確認されていない
持続的な成果は協働からしか生まれない
心理学では この言葉は、心理学でいう社会的つながり(他者と結びついている感覚)が、困難な課題に取り組み続ける力を支えることを言い表している。Carr & Walton(2014)は複数の実験で、実際には一人で作業していても「仲間と一緒に取り組んでいる」と感じる手がかりを与えられた人が、難しい課題に長く粘り、課題そのものへの興味も高まることを示した。またSchnallら(2008)の研究では、友人と一緒に坂の前に立った人は一人の人よりも傾斜をゆるやかに見積もり、友人との付き合いが長いほどその傾向が強かった。道のりが長いときこそ、進み具合を誰かと分かち合う場をつくることが、最後まで歩き続ける助けになる。 参考:Carr & Walton(2014)「Cues of working together fuel intr…」 ↗ /Schnallら(2008)「Social support and the perception …」 ↗ 「ウブントゥ:私があるのは、あなたがあるから(人は他者を通して人になる)」 I am because we are.
— 南部アフリカの思想 デズモンド・ツツらが世界に紹介
自己は関係の中で成立する
心理学では この言葉は、心理学でいう相互依存的自己観(自分を周囲との関係の中で定義する自己のとらえ方)と深く響き合う。Markus & Kitayama(1991)は、自己のとらえ方が文化によって異なることを理論的に整理し、関係を軸に自己を捉える文化では、感情や動機づけも他者とのつながりに根ざすことを示した。さらにAronら(1991)は、既婚者を対象とした実験で、自分と配偶者で異なる特徴について「自分に当てはまるか」を判断するときほど反応が遅れることを見いだした。これは、親しい相手が自己の一部に組み込まれていること(他者の自己への包含)を示している。自分を形づくってくれた人を思い浮かべ、その人に感謝を伝えることが、自分自身を大切にすることにもつながる。 参考:Markus & Kitayama(1991)「Culture and the Self: Implications…」 ↗ /Aronら(1991)「Close relationships as including o…」 ↗ 人物 ツツ(1931-2021)は南アフリカの大主教。ノーベル平和賞 「一期一会」 — 千利休の茶の湯の心 井伊直弼『茶湯一会集』で定式化
語としての定式化は幕末の井伊直弼による
この茶会は一生に一度かぎりのものと心得て、主客ともに誠を尽くせ、という茶道の心得。たとえ同じ相手と何度会っていても、「今日のこの出会い」は二度と繰り返されない一回きりのものである、という構え
心理学では 「一期一会」は、心理学でいう時間的希少性の認識(この時間には限りがあると意識すること)が、目の前の体験を深く味わうこと(セイバリング:良い体験に意識を向けて丁寧に味わうこと)を促す、という考えに通じる。Kurtz(2008)は卒業を控えた大学生を対象にした実験で、卒業までの残り時間が少ないと意識させた学生ほど大学生活の活動に積極的に関わり、幸福感も高まったことを示した。Layousら(2018)も、今いる土地で過ごす最後の一か月のつもりで暮らすよう求める介入が、幸福感を高めることを報告している。人と会う前に「この時間は二度とない」と一呼吸おいて思い出すことが、相手との会話を丁寧に味わう助けになる。 参考:Kurtz(2008)「Looking to the Future to Appreciat…」 ↗ /Layousら(2018)「Reframing the ordinary: Imagining …」 ↗ 人物 利休(1522-1591)は茶道の大成者 「友情は、「君もなのか。私だけかと思っていた」と言う瞬間に生まれる」 Friendship is born at that moment when one person says to another: What! You too?
— C・S・ルイス 『四つの愛』(1960)
共通体験の発見が友情の起点である
心理学では この名言は、心理学でいう「Iシェアリング」(同じ出来事に同じ感じ方をしていると気づく体験)と、自己開示(自分の内面を相手に打ち明けること)が親密さを生む過程を言い当てている。Pinelら(2006)は実験で、主観的な反応が自分と重なる相手に、人はより強い好意とつながりを感じることを示した。またAronら(1997)は初対面の二人に、少しずつ踏み込んだ質問を交互に答え合ってもらう実験を行った。その結果、世間話をした組より親密さが高まることを確かめた。日々の会話では、無難な話題で止めずに、自分の小さな本音や好みを一つ口にしてみる。それが「君もなのか」という出会いを呼び込む助けになる。 参考:Pinelら(2006)「Seeing I to I: A Pathway to Interp…」 ↗ /Aronら(1997)「The Experimental Generation of Int…」 ↗ 人物 英国の作家・批評家(1898-1963)。『ナルニア国物語』 「知恵が人生全体の幸福のために備えるもののうち、最も偉大なものは友情の獲得である」 Of all the means to insure happiness throughout the whole life, by far the most important is the acquisition of friends.
— エピクロス 『主要教説』27
友情こそ幸福の最大の資源である
心理学では エピクロスのいう友情は、心理学でいう社会的つながり(信頼し支え合える人間関係)にあたる。Diener & Seligman(2002)は大学生を対象にした相関研究で、際立って幸福度の高い人ほど、友人や家族との関係が充実していることを見いだした。さらにHolt-Lunstadら(2010)は、多数の縦断研究を統合したメタ分析で、人間関係が豊かな人ほど長生きする傾向があることを示した。友情は日々の気分だけでなく、人生全体を支える資源である。忙しい日々でも友人に近況を尋ね、感謝を言葉にする時間をもつことが、その資源を育てることにつながる。 参考:Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 /Holt-Lunstadら(2010)「Social Relationships and Mortality…」 ↗ 人物 古代ギリシャの哲学者(BC341-270)。「エピクロスの園」で共同生活 「「人」という字は、人と人とが支え合ってできている」 — ドラマ『3年B組金八先生』 脚本:小山内美江子。武田鉄矢の台詞
※漢字学的には俗説だが、教育的メタファーとして広く定着
人は支え合う存在であるという教育的メッセージ
心理学では この台詞は、人は互いに支え合うことで成り立つという相互依存(自分と他者の幸せが結びついている状態)の考え方を表している。Baumeister & Leary(1995)は、多くの研究を整理し、他者とのつながりを求める「所属欲求」を人間の基本的な欲求と位置づけた。さらにBrownら(2003)は、高齢の夫婦を長期にわたって追跡した縦断研究で、家族や友人、近所の人を手助けしている人ほど、その後の死亡リスクが低いことを見いだした。支えられるだけでなく、支える側に回ることも本人の健やかさと結びついているのである。身近な人に小さな手助けを申し出て、困ったときには自分からも頼る。その往復が、互いを支え合う関係を育てることにつながる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Brownら(2003)「Providing Social Support May Be Mo…」 ↗ 人物 1979年開始のTBSの学園ドラマ 「人は誰も、それ自体で完結した島ではない」 No man is an island, entire of itself.
— ジョン・ダン 『不意に発生する事態についての瞑想』第17(1624)
ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』の題辞でも有名
人間は本質的に相互接続的な存在である
心理学では この言葉は、心理学でいう所属欲求(他者とつながり、受け入れられたいという基本的な欲求)を言い表している。Baumeister & Leary(1995)は数多くの研究を検討し、人との安定した結びつきを求める気持ちは人間の根源的な動機であり、それが満たされない状態は心身の不調と結びつくと論じた。さらにHolt-Lunstadら(2010)は、多数の追跡研究をメタ分析(複数の研究結果を統合する分析)し、社会的なつながりが豊かな人ほど生存率が高く、孤立にともなう危険は喫煙など既知の健康リスクに並ぶ水準であることを示した。身近で支えてくれる人の存在に目を向け、短い感謝の言葉を伝えることが、自分と他者を結ぶ橋を太くする一歩になる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Holt-Lunstadら(2010)「Social Relationships and Mortality…」 ↗ 人物 英国の詩人・聖職者(1572-1631)。形而上詩人の代表 出典に諸説あり
「あなたは、最も多くの時間をともに過ごす5人の平均である」 You are the average of the five people you spend the most time with.
— ジム・ローン 講演での発言として流通
※厳密な初出は特定されていない
誰と過ごすかの選択が自分をつくる
心理学では この名言は、社会的伝播(感情や行動が人から人へ広がる現象)を言い当てている。Fowler & Christakis(2008)は、米国の地域住民を長期追跡した縦断データで人間関係の網の目と幸福感を分析した。その結果、幸福な人と身近につながる人ほど、後に自分も幸福になりやすく、その関連は友人の友人の友人にまで及んでいた。肥満についても、つながりを通じた同様の関連が報告されている(Christakis & Fowler, 2007)。ただし、似た者同士が集まる傾向も重なるため、人を選ぶだけでなく、自分が良い影響を届ける側に回る意識も大切である。誰と時間を過ごすかを少し意識して選ぶことが、自分の心と習慣を育てることにつながる。 参考:Fowler & Christakis(2008)「Dynamic spread of happiness in a l…」 /Christakis & Fowler(2007)「The Spread of Obesity in a Large S…」 ↗ 人物 米国の起業家・自己啓発講演家(1930-2009) 「良い人間関係が、私たちを幸福にし、健康にする。以上」 Good relationships keep us happier and healthier. Period.
— ロバート・ウォールディンガー TEDトーク(2015)。ハーバード成人発達研究の知見
85年超の縦断研究の結論は「人間関係」だった
心理学では この名言は、社会的つながり(他者と支え合い、受け入れられているという感覚)が、心の幸福だけでなく体の健康の土台にもなることを示している。ハーバード成人発達研究を率いるWaldinger & Schulz(2010)は、80代の夫婦を対象に日々の気分や体調を記録してもらう調査を行い、パートナーとの結びつきが安定している人ほど、体の痛みが強い日でも気分が落ち込みにくいことを見いだした。またHolt-Lunstadら(2010)は、多数の追跡研究をまとめたメタ分析(複数の研究結果を統合する手法)で、人とのつながりが豊かな人ほど死亡リスクが低いことを報告している。大切なのは知り合いの数より、安心して頼れる関係の質である。身近な人に感謝を言葉で伝えることが、幸福と健康を育てる確かな一歩になる。 参考:Waldinger & Schulz(2010)「What's love got to do with it? Soc…」 ↗ /Holt-Lunstadら(2010)「Social Relationships and Mortality…」 ↗ 人物 米国の精神科医。ハーバード成人発達研究の第4代所長 「幸福は、分かち合われたときにのみ現実のものとなる」 Happiness only real when shared.
— クリストファー・マッカンドレス 遺品の書き込み(ジョン・クラカワー『荒野へ』で紹介)
トルストイを読みながらの傍注として残された
孤独の果てにたどり着いた結論
心理学では この名言は、心理学でいう「キャピタライゼーション(良い出来事を人に伝え、喜びを広げること)」や「経験の共有」の働きを言い当てている。Gableら(2004)は日記調査などを用い、良い出来事を人に話した日ほど、出来事そのものの影響を超えて前向きな気分や満足感が高いことを示した。またBoothbyら(2014)の実験では、同じチョコレートを同時に味わう相手がいると、言葉を交わさなくても、一人で味わうより味が強く感じられた。ただし共有の効果は、相手が熱心に受け止めてくれるかどうかで変わるため、聞き手としての応じ方も大切にするとよい。小さな喜びこそ身近な人に言葉にして伝えることが、幸福を確かなものにする。 参考:Gableら(2004)「What Do You Do When Things Go Righ…」 ↗ /Boothbyら(2014)「Shared Experiences Are Amplified」 ↗ 人物 米国の青年(1968-1992)。アラスカでの単独生活の末に死去。映画『イントゥ・ザ・ワイルド』 「一本の矢は容易に折れるが、三本束ねれば折れない」 — 毛利元就 「三子教訓状」に基づく「三本の矢」の逸話
逸話としての「三本の矢」は後世の脚色を含む
結束は個の脆さを補う
心理学では この名言は、心理学でいうソーシャルサポートの緩衝効果(支え合う関係が、ストレスの悪影響をやわらげる働き)を言い表している。Coanら(2006)は、電気ショックの予告という脅威にさらされた既婚女性を対象に実験を行った。その結果、夫の手を握っているときは、見知らぬ人の手を握るときや誰の手も握らないときに比べて、脅威に関わる脳の反応が小さくなった。またSchnallら(2008)の研究では、友人と一緒に坂を見た人は、一人で見た人より坂の傾きを緩やかに見積もった。仲間がいると、困難そのものが小さく感じられるのである。つらい時期ほど一人で抱え込まず、身近な人に声をかけることが、折れない心を支える力になる。 参考:Coanら(2006)「Lending a Hand」 ↗ /Schnallら(2008)「Social support and the perception …」 ↗ 人物 戦国時代の武将(1497-1571)。中国地方の覇者 「和を以て貴しと為す」 — 聖徳太子 十七条憲法第一条(604)
十七条憲法の成立・作者については学術的議論がある
調和を最上の価値とする
心理学では この言葉は、関係性調和(身近な人との関係が穏やかで良好な状態)を重んじる姿勢に通じる。Kwanら(1997)は香港と米国の大学生を対象にした調査で、関係性調和を感じている人ほど、自尊心とは別に人生満足度が高いことを示した。第一条は「上和らぎ下睦びて事を論う」と続き、ここでいう和は議論を封じるものではない。Edmondson(1999)は企業のチームを対象にした研究で、心理的安全性(意見を言っても責められないという共有された感覚)が高いチームほど、学習行動が活発であることを見いだした。ただし和を沈黙と取り違えないよう、孔子の「和して同ぜず」と併せて読むとよい。相手を尊重しながら率直に話せる場を自分から整えることが、和を育てる第一歩になる。 参考:Kwanら(1997)「Pancultural explanations for life …」 /Edmondson(1999)「Psychological Safety and Learning …」 ↗ 人物 飛鳥時代の皇族・政治家(574-622) 出典に諸説あり
「一人でできることは僅かだが、力を合わせればできることは多い」 Alone we can do so little; together we can do so much.
— ヘレン・ケラー(とされる) 発言として流通
※帰属に諸説あり
協働は個の限界を超える
心理学では この名言は、集合的効力感(「自分たちなら力を合わせてやり遂げられる」という集団としての確信)という考え方に通じる。Gullyら(2002)のメタ分析(多くの研究を統合する手法)では、効力感の高いチームほど成果も高く、その関連はメンバーが互いに頼り合う仕事ほど強かった。またWoolleyら(2010)は、複数の小集団にさまざまな課題に取り組んでもらう研究を行った。その結果、集団の成績は、最も優秀な一人の知能よりも、発言の機会が均等であることやメンバーが相手の気持ちを読み取る力と強く関連していた。日々の仕事や暮らしでは、誰もが声を出せる場をつくることが、一人では届かない成果につながる。 参考:Gullyら(2002)「A meta-analysis of team-efficacy, …」 ↗ /Woolleyら(2010)「Evidence for a Collective Intellig…」 ↗ 人物 米国の著作家・社会活動家(1880-1968) 「最も恐ろしい貧困は、孤独であり、愛されていないという感覚である」 The most terrible poverty is loneliness, and the feeling of being unloved.
— マザー・テレサ 発言・講話より
孤独は物質的貧困に勝る苦しみである
心理学では この名言は、心理学でいう主観的孤独(人とのつながりが足りないと感じる心の痛み)の重さを言い当てている。Baumeister & Leary(1995)は、人には帰属欲求(受け入れられ大切にされたいという根本的な欲求)があり、それが満たされないと心身に広く悪影響が及ぶと論じた。さらにHolt-Lunstadら(2015)は、多数の追跡研究をまとめたメタ分析で、客観的な孤立だけでなく「孤独だ」という感覚そのものも早期死亡リスクの高さと関連することを示した。問われるのは周りにいる人の数ではなく、愛されていると感じられるかどうかである。身近な人に感謝や気づかいを言葉で伝えることが、自分と相手の両方の心を豊かにすることにつながる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Holt-Lunstadら(2015)「Loneliness and Social Isolation as…」 人物 カトリック修道女(1910-1997) 「袖振り合うも多生の縁」 — 日本のことわざ 仏教の縁(えにし)の思想に基づく
「多生」は輪廻転生を重ねる意。「他生」とも書く
偶然の小さな出会いにも意味がある
心理学では このことわざは、心理学でいう「弱い紐帯(家族や親友ほど近くない、ゆるやかなつながり)」や、見知らぬ人との短いやりとりがもつ価値を言い当てている。Sandstrom & Dunn(2014)はコーヒー店の客を対象にした実験で、店員と笑顔や短い会話を交わすよう求められた人は、手早く用事を済ませた人より前向きな気分と帰属感(どこかに属している感覚)が高まることを示した。Epley & Schroeder(2014)も、通勤電車で隣の乗客に話しかけた人のほうが通勤を快く感じることを実験で示し、人はこうした会話の楽しさを低く見積もりがちだと指摘している。レジでのひと言や、隣り合った人への会釈を大切にすることが、日々の小さな幸せにつながる。 参考:Sandstrom & Dunn(2014)「Is efficiency overrated?: Minimal …」 ↗ /Epley & Schroeder(2014)「Mistakenly seeking solitude」 ↗ 「友を得るには、相手の関心を引こうとするのではなく、相手に純粋な関心を寄せることだ」 You can make more friends by becoming interested in other people than by trying to get other people interested in you.
— デール・カーネギー 『人を動かす』(1936)
関係構築の出発点は相手への関心である
心理学では この名言は、心理学でいう応答性(相手を理解し、認め、気づかう姿勢)が親しさの土台になるという考えと重なる。Huangら(2017)は、初対面の人どうしの会話を対象にした実験で、相手に多く質問した人、とくに相手の話を受けて掘り下げる質問をした人ほど、相手から好感を持たれることを示した。また、大学寮のルームメイトを追跡したCanevello & Crocker(2010)の縦断研究では、自分をよく見せようとする目標よりも、相手を思いやる目標を持つ人ほど応答的にふるまい、互いの関係の質も良好であることと関連していた。会話では、自分の話を用意するより、相手の言葉にひとつ問いを返すことが、友情の入り口になる。 参考:Huangら(2017)「It doesn’t hurt to ask: Question-a…」 ↗ /Canevello & Crocker(2010)「Creating good relationships: Respo…」 ↗ 人物 米国の自己啓発作家・話し方講師(1888-1955) 「すべての悩みは、対人関係の悩みである」 — アルフレッド・アドラー(の思想の要約) 岸見一郎・古賀史健『嫌われる勇気』(2013)で流布
※アドラーの直接の言葉ではなく、思想の現代的要約
悩みの根源は関係の中にある
心理学では この言葉は、心理学でいう所属欲求(他者とつながり、受け入れられたいという根源的な欲求)の重みを言い当てている。Baumeister & Leary(1995)は数多くの研究を検討し、人には安定した人間関係を求める基本的な動機があり、それが脅かされると不安や落ち込みが生じやすいことを示した。さらにEisenbergerら(2003)は、パソコン上のボール回しで仲間外れにされる実験を行い、そのとき身体の痛みにも関わる脳の領域が活動することを見いだした。人間関係の傷は、文字どおり「痛み」として体験されるのである。悩みを抱えたときは、その奥にどんな関係への思いがあるかを見つめ直すことが、解決の糸口になる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Eisenbergerら(2003)「Does Rejection Hurt? An fMRI Study…」 ↗ 人物 オーストリアの精神科医(1870-1937)。個人心理学の創始者 「徳は孤ならず、必ず隣あり」 — 孔子 『論語』里仁第四
徳を積んで誠実に生きる人は、孤立したままでは終わらない。必ず理解者や仲間が隣に現れる ── 正しさが報われないように見える時期を支えてくれる、孔子の励まし
心理学では この言葉は、心理学でいう間接互恵性(善い行いが評判を通じて広まり、直接の相手以外の第三者からの協力として返ってくる仕組み)と重なる。Wedekind & Milinski(2000)は、大学生がお金を譲り合う実験ゲームを行い、過去に気前よく与えていた人ほど、ほかの参加者からも多く与えられることを示した。またBarclay & Willer(2007)の実験では、協力する相手を自由に選べる場面で、寛大にふるまった人ほどパートナーとして選ばれやすかった。徳は目立たなくても、周囲はそのふるまいを確かに見ている。すぐに報われない時期にも誠実な行いを日々積み重ねることが、信頼できる仲間との出会いにつながる。 参考:Wedekind & Milinski(2000)「Cooperation Through Image Scoring …」 ↗ /Barclay & Willer(2007)「Partner choice creates competitive…」 ↗ 人物 春秋時代の思想家 「非常に幸福な人々に共通する唯一の外的条件は、豊かで満足のいく人間関係だった」 — エド・ディーナー Diener & Seligman (2002)「Very Happy People」
最も幸福な人々を分けたのは人間関係だった
心理学では この名言は、良好な人間関係が幸福の「必要条件」(それがなければ成り立ちにくい条件)に近いことを示している。背景には、人は他者と安定した結びつきを求める根源的な欲求を持つとする所属欲求理論(つながりは基本的な動機だとする考え)がある(Baumeister & Leary(1995))。Diener & Seligman(2002)は大学生を対象に、幸福度が特に高い人と平均的な人、低い人を比較した。その結果、非常に幸福な人は共通して友人や家族、恋人との関係が良好で、一人で過ごす時間が短かった。ただし関係が良いだけで幸福が保証されるわけではなく、関係は土台にあたる。身近な人に感謝を言葉で伝え、ともに過ごす時間を意識して確保することが、幸福の土台を育てることにつながる。 参考:Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 /Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 人物 米国の心理学者(1946-2021)。「Dr. Happiness」。主観的幸福感研究の父 「ミタクエ・オヤシン ── すべては、わが親族」 Mitákuye Oyás'iŋ (All my relations).
— ラコタ族(スー族)の祈りの言葉 ラコタの儀式で唱えられる定型句
ラコタ語。儀式・スウェットロッジの結びの言葉
人間だけでなく、動物・植物・石・風まで含めたすべての存在を「親族」と呼ぶ世界観。祈りの結びに唱えることで、自分が万物のつながりの中の一員であることを確認する
心理学では この祈りは、心理学でいう「自然とのつながり(nature connectedness:自分を自然の一部と感じる度合い)」を、帰属感(自分は仲間の一員だという感覚)と地続きにとらえた言葉である。Mayer & Frantz(2004)は、自然を「共同体の仲間」と感じる度合いを測る尺度を作り、その感覚が強い人ほど人生満足度が高いことを示した。さらにCapaldiら(2014)のメタ分析(多数の研究の統合)では、自然とのつながりを感じる人ほど幸福感が高いという関連が一貫して確認された。食事の前や散歩の途中に、口にするものや足元の草木を「親族」と思い浮かべてみる。その小さな習慣が、自分が大きなつながりの一員であると感じ直し、感謝の心を育てる助けになる。 参考:Mayer & Frantz(2004)「The connectedness to nature scale:…」 ↗ /Capaldiら(2014)「The relationship between nature co…」 「オハナ ── 血のつながりを超えて、支え合い、誰も置き去りにしない拡大家族」 — ハワイの伝統的概念 ハワイ語の「オハナ(家族)」
映画『リロ&スティッチ』を通じて世界的に知られるようになった概念
ハワイでは家族(オハナ)は血縁に限定されず、養子・友人・隣人まで含む支え合いの共同体を指す。語源はタロイモの株(オハ)から次々と芽が出る様子で、みなが同じ根でつながっているという含意を持つ
心理学では オハナの考え方は、心理学でいう社会的ネットワークの多様性(家族・友人・隣人など、種類の異なる関係を幅広く持つこと)と、社会的サポート(困ったときに頼れる人からの支え)に重なる。Cohenら(1997)は健康な成人に風邪ウイルスを投与して経過を追い、関係の種類が多い人ほど風邪を発症しにくいことを見いだした。Holt-Lunstadら(2010)のメタ分析でも、社会的つながりが豊かな人ほど生存率が高いことが示されている。支えの根を血縁の外にも広げておくことは、心身の守りになる。友人や隣人に「困ったら言ってね」と声をかけ、互いに頼れる輪を少しずつ育てることが、自分も誰かも置き去りにしない暮らしにつながる。 参考:Cohenら(1997)「Social Ties and Susceptibility to …」 ↗ /Holt-Lunstadら(2010)「Social Relationships and Mortality…」 ↗ 「知恵はバオバブの木のようなもの。ひとりの人間では、抱えきれない」 Wisdom is like a baobab tree; no one individual can embrace it.
— アカン族(西アフリカ)のことわざ 西アフリカの口承のことわざ
バオバブの巨木を一人で抱きかかえられないように、知恵は一人の頭には収まらず、共同体で持ち寄って初めて全体になる、という教え。年長者への敬意と対話の文化の基盤にある言葉
心理学では このことわざは、心理学でいう集合知(集団として発揮される知的な力)と、知的謙虚さ(自分の知識には限りがあると認める姿勢)を言い表している。Woolleyら(2010)は、少人数のグループにさまざまな課題を解いてもらう研究を行った。その結果、集団の成績には課題をまたいで共通する力があることが分かった。さらにその力は、メンバー個人の知能よりも、他者の気持ちを読み取る感受性や、発言の偏りの少なさと強く関連していた。Learyら(2017)も、知的謙虚さの高い人ほど異なる意見に開かれ、主張の根拠の強さを見極める傾向があることを報告している。職場の会議でも家族の相談でも、一人で答えを抱え込まず、誰もが話せる場をつくることが、よりよい知恵につながる。 参考:Woolleyら(2010)「Evidence for a Collective Intellig…」 ↗ /Learyら(2017)「Cognitive and Interpersonal Featur…」 ↗ 「ナマステ ── 私の中の尊いものが、あなたの中の尊いものに、敬意をもって挨拶します」 Namaste: The divine in me bows to the divine in you.
— インドの伝統的挨拶 サンスクリット語の挨拶(ナマス=敬礼、テ=あなたに)
合掌(アンジャリ・ムドラー)とともに行われる
単なる「こんにちは」ではなく、相手の内なる神聖・尊厳に自分の内なる神聖が礼をする、という意味を持つ挨拶。出会いのたびに、互いの存在の尊さを確認し合う文化的装置になっている
心理学では ナマステは、相手を尊い存在として認める「承認(相手の存在や価値を認め、それを示すこと)」を、挨拶という日常の儀礼に組み込んだものである。人には帰属欲求(他者とつながりたいという基本的な欲求)があり、ささやかな承認でもこの欲求は満たされる。Wesselmannら(2012)の実験では、通行人に目を合わせず素通りするような視線を向けると、目を合わせた場合よりも、相手は他者とのつながりを感じにくくなった。Sandstrom & Dunn(2014)の実験でも、コーヒー店で店員と笑顔や短い会話を交わした人は、手早く済ませた人より前向きな気分と帰属感が高まった。挨拶の瞬間に相手の目を見て言葉を交わすことが、互いの尊さを確かめ合う日々の習慣につながる。 参考:Wesselmannら(2012)「To Be Looked at as Though Air」 ↗ /Sandstrom & Dunn(2014)「Is Efficiency Overrated?」 ↗ 「会話とは、言葉による毛づくろいである」 — ロビン・ダンバー 『ことばの起源 猿の毛づくろい、人のゴシップ』(1996)の趣旨
サルが毛づくろいで絆を確認するように、人間は雑談やおしゃべりで絆を維持している、という進化的仮説。会話の内容(情報)より、会話をすること自体(接触)に絆形成の機能があるとする
心理学では この名言は、ダンバーの社会的グルーミング仮説(言語は、サルの毛づくろいに代わって仲間との絆を保つ手段として進化したという考え)を言い表している。Dunbarら(1997)は人々の日常会話を観察し、会話の時間の大部分が専門的な情報のやりとりではなく、人間関係や身近な人をめぐる話題に使われていることを見いだした。さらにSandstrom & Dunn(2014)は人々の日々の交流を記録してもらう研究を行い、親しい友人に限らず、顔見知り程度の相手とのやりとりが多い日ほど、幸福感や帰属感(自分は集団の一員だという感覚)が高いことを示した。用件のないあいさつや雑談は、無駄話ではなく関係を保つ営みの中心である。同僚や近所の人に一言声をかける習慣が、日々のつながりを育てる。 参考:Dunbarら(1997)「Human conversational behavior」 ↗ /Sandstrom & Dunn(2014)「Social Interactions and Well-Being」 ↗ 人物 英国の進化人類学者(1947-)。オックスフォード大学。「ダンバー数(安定的関係は約150人)」で著名 「みんなで力を合わせれば、大きすぎる仕事はない」 ʻAʻohe hana nui ke alu ʻia.
— ハワイのことわざ 『オレロ・ノエアウ』(ハワイのことわざ集)収録
地引網や共同の畑仕事など、集落総出の労働の中で生まれた言葉。一人では持ち上がらない重さも、皆の手が加われば「大きすぎる」ではなくなる、という協働の実感の結晶
心理学では この言葉は、社会的支援(周囲から得られる助けや支え)が課題の重さの感じ方そのものを変えるという知見と重なる。Schnallら(2008)の実験では、友人と一緒に坂を見た人は、一人で見た人よりも傾斜を緩やかに見積もった。支えてくれる人を思い浮かべるだけでも、同じ傾向が見られた。またCoanら(2006)は、電気ショックの予告を受けた既婚女性が夫と手をつなぐと、脅威に関わる脳の反応が弱まることを実験で示した。仲間の存在は、困難を手に負えるものに変える資源になる。大きな仕事を前にしたら、一人で抱え込まず、誰と担うかを考えて声をかけることが最初の一歩につながる。 参考:Schnallら(2008)「Social support and the perception …」 ↗ /Coanら(2006)「Lending a Hand」 ↗ 人物 ハワイ先住民の口承(メアリー・カヴェナ・プクイ編纂) 出典に諸説あり
「小才は、縁に出会って縁に気づかず。中才は、縁に気づいて縁を生かさず。大才は、袖すり合った縁をも生かす」 — 柳生家の家訓とされる 柳生宗矩の言葉として流通(典拠不詳)
※柳生家家訓としての一次資料は確認されていない
才能の大小を、能力ではなく「縁の扱い方」で定義した言葉。偶然の出会いに気づけるか、気づいた縁を実際に生かせるか ── その差が人生を分けるという、人間関係版の偶然活用論
心理学では この言葉は、計画的偶発性理論(偶然の出来事を好奇心や柔軟性で機会に変える考え方)を人間関係に当てはめたものである。Epley & Schroeder(2014)の実験では、通勤電車で見知らぬ人に話しかけるよう指示された乗客は、一人で過ごした乗客より移動を快く感じた。一方、事前には多くの人がその逆を予想していた。縁に気づいても生かせないのは、この思い込みのせいでもある。Sandstrom & Dunn(2014)の日常記録の研究でも、顔見知り程度の相手(弱い紐帯)と多く関わった日ほど、幸福感や帰属感が高かった。店員や隣の部署の人にかける一言が、袖すり合う縁を生かす入口になる。 参考:Epley & Schroeder(2014)「Mistakenly seeking solitude」 ↗ /Sandstrom & Dunn(2014)「Social Interactions and Well-Being」 ↗ 人物 柳生宗矩(1571-1646)は江戸初期の剣術家・大名。将軍家兵法指南役 「社会的本能は、動物に、仲間との交わりの中で喜びを感じさせる」 The social instincts lead an animal to take pleasure in the society of its fellows.
— チャールズ・ダーウィン 『人間の由来』(1871)
進化論の提唱者自身が、共感や「仲間といるだけで嬉しい」という感覚を、群れで生き延びるうえで有利だったがゆえに備わった本能として記述した。人間関係が幸福の最大要因であることの、進化的な根拠の原点
心理学では ダーウィンの言う社会的本能は、心理学でいう所属欲求(他者と安定したつながりを持ちたいという根源的な欲求)にあたる。Baumeister & Leary(1995)は数多くの研究を検討し、この欲求は集団で暮らすことの生存上の利点から備わった人間の基本的な動機であり、満たされない状態は心身の不調と結びつくと論じた。また、Diener & Seligman(2002)は大学生を対象とした相関研究で、とりわけ幸福度の高い人ほど家族や友人と良好な関係を持っていることを見いだした。仲間と過ごす喜びは、人に本来備わった自然な働きである。忙しい日でも身近な人とひと言を交わし、感謝を伝える時間をつくることが、心の土台を整えることにつながる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 人物 英国の博物学者(1809-1882)。『種の起源』 「人間とは「人の間」と書く。人は、間柄的存在である」 — 和辻哲郎 『倫理学』『人間の学としての倫理学』(1934)
「人間」という日本語自体が「人と人との間」を含んでいることに注目し、人は孤立した個人としてではなく、関係(間柄)の中で初めて人になる、と論じた日本哲学の代表的定式
心理学では 和辻のいう「間柄的存在」は、心理学でいう相互依存的自己観(自分を他者との関係の中で定義する見方)にあたる。Markus & Kitayama(1991)は文化比較の研究を整理し、日本などの文化では自己が人との関係に根ざして捉えられ、感情や動機づけ(やる気の源)もその影響を強く受けることを示した。人とのつながりは、心だけでなく体の健康とも結びついている。Holt-Lunstadら(2010)は多数の追跡研究をまとめたメタ分析(複数研究の統合)で、社会的関係が豊かな人ほど長く生存する傾向があることを明らかにした。日々「ありがとう」を言葉にし、身近な人との「間」を丁寧に育てることが、自分自身を支える土台になる。 参考:Markus & Kitayama(1991)「Culture and the Self: Implications…」 ↗ /Holt-Lunstadら(2010)「Social Relationships and Mortality…」 ↗ 人物 日本の哲学者(1889-1960)。『風土』『古寺巡礼』 「雁はV字編隊で飛ぶ ── 先頭を交代し合い、互いの羽ばたきの上昇気流に乗ることで、一羽で飛ぶより約7割も遠くまで飛べる」 Lessons from Geese.
— 「雁の教訓(Lessons from Geese)」 ミルトン・オルソンの研修教材(1972頃)として流布する自然観察
※空気力学の数値等は教材的な単純化を含む
渡り鳥の編隊飛行から、チームの原理を読み取った有名な教材。先頭(最も負荷の高い役割)は固定せず交代する。後ろの雁は鳴き声で先頭を励ます。仲間が傷つけば二羽が付き添って降りる
心理学では この名言が描くのは、心理学でいう共有リーダーシップ(リーダー役を一人に固定せず、メンバーが状況に応じて担い合うこと)と互恵性(受けた助けを返し合う関係)である。Voelklら(2015)は、V字編隊で渡るホオアカトキの群れを追跡した。その結果、各個体が先頭を務めた時間と、他の個体の後ろで気流の恩恵を受けた時間がよく釣り合っており、直接的な互恵による協力が見いだされた。人のチームについても、Wangら(2014)のメタ分析(多数の研究を統合する分析)が、リーダーシップを共有するチームほど成果が高いという関連を報告している。負担の大きい役を順番に引き受け、後ろの者は声をかけて支える。こうした交代と励ましの習慣が、職場や家庭で互いをより遠くまで運ぶ力になる。 参考:Voelklら(2015)「Matching times of leading and foll…」 ↗ /Wangら(2014)「A meta-analysis of shared leadersh…」 ↗ 「友のもとへは、道が遠くとも、足しげく通え。通わぬ道は、やがて草に覆われる」 — 『ハヴァマール(オーディンの箴言)』 古エッダ所収(9〜13世紀に成立)
北欧神話の主神オーディンが人間に授けたとされる処世訓の一節。友情は放っておけば道と同じように草に埋もれる。会いに行くという「足」の労力こそが友情の実体である ── ヴァイキング時代の、驚くほど実践的な関係のメンテナンス論
心理学では この名言は、心理学でいう関係維持行動(関係を保つために続ける働きかけ)の大切さを説いている。Roberts & Dunbar(2015)は、高校卒業後に進学や就職で環境が変わる若者を追跡した縦断研究で、接触の頻度が下がった友人ほど情緒的な親しさが薄れやすいことを示した。一方、家族との関係は接触が減っても保たれやすかった。またHall(2019)は、新しく知り合った相手と一緒に過ごした時間が長い人ほど、より親しい友人へと関係が深まりやすいことを報告している。友情は家族以上に、通い続けることで保たれる関係である。遠くの友人にも短い連絡や会う予定を意識して入れることが、道を草に埋もれさせない手入れになる。 参考:Roberts & Dunbar(2015)「Managing Relationship Decay」 ↗ /Hall(2019)「How many hours does it take to mak…」 ↗ 人物 北欧神話の教訓詩。アイスランドの写本で伝わる 「100ルーブルを持つな、100人の友を持て」 — ロシアのことわざ Не имей сто рублей, а имей сто друзей
お金と友人が天秤にかけられたら、迷わず友人を取れ、というロシアの代表的なことわざ。厳しい冬と激動の歴史の中で、いざという時に人を生かすのは貯金ではなく相互扶助のネットワークだった、という生活の実感の結晶
心理学では このことわざは、社会関係資本(人とのつながりが生む助け合いの資源)と社会的サポート(困ったときに頼れる支え)の価値を、お金と比べて言い表している。Helliwell & Putnam(2004)は複数の国の大規模な調査を分析し、家族や友人、近所の人との結びつきが強い人ほど人生満足度が高く、その関連の大きさは大幅な収入増に相当するほどであることを示した。またHolt-Lunstadら(2010)は多数の追跡研究をまとめたメタ分析で、社会的なつながりが豊かな人ほど長生きする傾向にあることを見いだした。日頃から感謝を言葉にし、ささやかな手助けや頼みごとを交わしておくことが、いざという時の何よりの備えになる。 参考:Helliwell & Putnam(2004)「The social context of well–being」 /Holt-Lunstadら(2010)「Social Relationships and Mortality…」 ↗ 「一杯のコーヒーには、40年の思い出(義理)がある」 — トルコのことわざ Bir kahvenin kırk yıl hatırı vardır
トルコのコーヒー文化はユネスコ無形文化遺産
一杯のコーヒーをごちそうになった恩義は、40年経っても忘れない ── トルココーヒー文化の中心にあることわざ。小さなもてなしが、何十年も続く関係の起点になるという、歓待(ホスピタリティ)の文化の凝縮
心理学では このことわざは、感謝が人と人を結びつけるという心理学の考え(find-remind-and-bind理論:感謝は良い相手を見つけ、その人との関係を深める感情だとする説、Algoe(2012))と重なる。Algoeら(2008)は、大学の女子学生団体で先輩から贈り物を受けた新入生を追跡した。その結果、感謝の強さは贈り物の値段よりも「自分のことを考えてくれた」という思いやりの受け止め方と関連していた。また、感謝を強く感じた人ほど、一か月後に相手との関係が親密になっていた。一杯のお茶やちょっとした差し入れを気持ちを込めて差し出し、受け取ったときには言葉で礼を返すことが、長く続く絆の始まりになる。 参考:Algoe(2012)「Find, Remind, and Bind: The Functi…」 /Algoeら(2008)「Beyond reciprocity: Gratitude and …」 ↗ 「仲よき事は美しき哉」 — 武者小路実篤 色紙の言葉として広く親しまれる
野菜や果物の絵に添えられた、実篤の代名詞ともいえる一句。思想でも理屈でもなく、「仲がよい」という状態そのものを「美しい」と価値づける ── 関係の良さを美の次元で肯定した、日本の家庭に最も浸透した言葉の一つ
心理学では 「仲がよい」こと自体を美しいとするこの言葉は、心理学でいう積極的な他者関係(温かく信頼し合えるつながり)を、何かの手段ではなく、それ自体に価値があるものとして捉える見方に重なる。Ryff(1989)は、心理的ウェルビーイング(よく生きている状態)を形づくる要素の一つに他者との良好な関係を挙げ、つながりを幸福の中身そのものとして位置づけた。また、Diener & Seligman(2002)は大学生を対象にした調査で、とりわけ幸福度の高い人ほど家族や友人との関係が豊かで、ひとりで過ごす時間が少ないことを示した。食卓を囲む、声をかけ合うといった身近な人とのささやかな仲のよさを、美しいものとして味わうことが、日々の充足につながる。 参考:Ryff(1989)「Happiness is everything, or is it?…」 /Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 人物 日本の作家(1885-1976)。白樺派。理想郷「新しき村」を建設した 「蜘蛛の巣も、束になれば、ライオンを縛ることができる」 When spider webs unite, they can tie up a lion.
— エチオピアのことわざ
一本一本は指で払える蜘蛛の糸も、束ねればライオンを縛る ── 最弱の存在の結束が最強の存在を制する、というアフリカの連帯のことわざ。三本の矢(毛利)と同型の知恵が、大陸を隔てて存在する
心理学では このことわざは、心理学でいう「集合的効力感」(仲間と力を合わせれば目標を成し遂げられるという、集団で共有された信念)を言い表している。Sampsonら(1997)はシカゴの多数の地域で住民調査を行い、住民どうしの信頼と、いざというときに互いのために動こうとする意志が強い地域ほど、貧困などの条件を考慮しても暴力犯罪が少ないことを示した。一人ひとりの力は小さくても、つながりが結束として共有されると、個人では太刀打ちできない問題にも向き合える。その結束は、日ごろの小さな信頼の積み重ねから育つ。身近な人に声をかけ、助け合える関係を少しずつ編んでおくことが、いざというときの大きな力になる。 参考:Sampsonら(1997)「Neighborhoods and Violent Crime: A…」 ↗ 「友のある者は、決して敗残者ではない」 Remember, no man is a failure who has friends.
— クラレンス(映画『素晴らしき哉、人生!』) フランク・キャプラ監督(1946、米国)
自死を思いとどまった主人公に、天使が本の見返しに残した言葉。事業の失敗も借金も、彼を「敗残者」にはできない。友がいる限り ── 人生の損益計算書の最終行を「友」で締める、クリスマス映画の古典の結論
心理学では この名言は、心理学でいう社会的サポートの「ストレス緩衝効果」(支えてくれる人の存在が、困難の打撃をやわらげる働き)を言い当てている。Cohen & Wills(1985)は多数の研究を整理し、周囲から支えられていると感じる人ほど、強いストレスにさらされても心身の不調が生じにくいことを示した。また Diener & Seligman(2002)は大学生を調べ、幸福度がとりわけ高い人々に共通するのは、充実した友人や家族との関係であることを見いだした。失敗や損失は人生の一場面にすぎず、人生の価値を支えるのは人とのつながりである。順調な時期から友に連絡を取り、関係を育てておくことが、いざという時の支えにつながる。 参考:Cohen & Wills(1985)「Stress, social support, and the bu…」 /Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 人物 米国映画史上最も愛される作品の一つ 「一番いけないのは、お腹がすいていることと、独りでいることだから」 — 陣内栄(映画『サマーウォーズ』) 細田守監督(2009)
90歳の曾祖母が一族に遺した手紙の一節。危機のときにまず満たすべきは、食と、そばにいる誰か ── 人間の土台を二つだけ挙げるなら何か、という問いへの日本アニメ最良の答え
心理学では この台詞は、食欲と並ぶ「所属の欲求(他者とつながりたいという根源的な欲求)」を、人間の土台に置くものである。Baumeister & Leary(1995)は、この欲求が満たされないと心身が損なわれる基本的欲求であると論じた。Tomovaら(2020)は、成人に長時間の孤立と絶食をそれぞれ体験してもらう実験を行った。その結果、孤立した後には人が集う画像に対して、絶食後に食べ物の画像を見たときと似た渇望の反応が、中脳(欲求に関わる部位)に生じることが示された。孤独は、脳にとって空腹と同じ「欠乏」なのである。つらい時期にある人には、まず温かい食事を用意し、そばにいることが何よりの支えになる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Tomovaら(2020)「Acute social isolation evokes midb…」 ↗ 人物 細田守(1967-)は日本のアニメーション監督 「共同体感覚 ── 他者を仲間と見なし、そこに自分の居場所があると感じられること」 — アルフレッド・アドラー 個人心理学の中核概念(Gemeinschaftsgefühl)
世界を「敵だらけの戦場」と見るか、「仲間のいる共同体」と見るか。後者の感覚こそ精神的健康の指標であり、あらゆる対人の悩みの出口だとアドラーは考えた。他者信頼・自己受容・他者貢献の三つ組で育つとされる
心理学では アドラーのいう共同体感覚は、心理学でいう所属感(集団に受け入れられ、そこに居場所があるという感覚)に近い。Baumeister & Leary(1995)は多くの研究を概観し、人には安定したつながりを求める根源的な欲求(所属欲求)があり、それが満たされないと心身の健康が損なわれやすいと論じた。Lambertら(2013)は相関研究と縦断研究に加えて実験も行い、所属感を思い起こさせると、人は人生の意味をより強く感じることを示した。身近な人を「敵」ではなく「仲間」として見る目線を持ち、小さな貢献を重ねることが、自分の居場所を育てることにつながる。 参考:Baumeister & Leary(1995)「The need to belong: Desire for int…」 /Lambertら(2013)「To Belong Is to Matter」 「おれは剣術も使えねェんだコノヤロー!! 航海術も持ってねェし!! 料理も作れねェし!! ウソもつけねェ!! おれは助けてもらわねェと、生きていけねェ自信がある!!」 — モンキー・D・ルフィ(尾田栄一郎『ONE PIECE』) 『ONE PIECE』アーロン編(集英社)
「お前に何ができる」という敵の挑発への、船長の返答。できないことを恥じるどころか、堂々と列挙し、「助けてもらう自信」と言い切る ── 弱さの開示が仲間の結束の核になることを示した、リーダー論としても読まれる名場面
心理学では ルフィの言葉は、弱さの開示(自分の限界を隠さず見せること)と援助要請(困ったときに助けを求めること)を堂々と肯定している。Brukら(2018)は一連の実験で、本人は自分の弱さを見せることを「みっともない」と感じやすい一方、他者は同じ行為を勇気ある好ましいものとして受け取ることを示した。またFlynn & Lake(2008)の実験では、人は頼みごとに相手が応じてくれる見込みを実際より低く見積もることが分かった。できないことを認めて頼っても、思うほど失望されないのである。苦手なことを一つ「手を貸してほしい」と口に出すことが、信頼で結ばれた仲間づくりの第一歩になる。 参考:Brukら(2018)「Beautiful mess effect: Self–other …」 ↗ /Flynn & Lake(2008)「If you need help, just ask: Undere…」 ↗ 人物 尾田栄一郎(1975-)は日本の漫画家 「世界は、最初の一歩を踏み出す勇気のない、孤独な人々であふれている」 The world's full of lonely people afraid to make the first move.
— トニー(映画『グリーンブック』) ピーター・ファレリー監督(2018)。実話に基づく
孤独を「性格」や「運命」ではなく、「最初の一歩の不在」として捉え直した台詞。天才ピアニストと粗野な運転手 ── 交わるはずのない二人の友情の物語が、この一歩の価値を証明する
心理学では この台詞は、孤独が「拒絶予期」(話しかけても嫌がられるという思い込み)によって保たれる仕組みを言い当てている。Cacioppo & Hawkley(2009)は、孤独を感じる人ほど他者の反応を脅威として読み取りやすく、それが人に近づくことを控えさせる悪循環を生むと論じた。一方、Epley & Schroeder(2014)は通勤中の人を対象に実験を行った。その結果、電車やバスで見知らぬ人に話しかけるよう求められた人は、一人で過ごした人より快適な時間だったと報告した。参加者は事前に逆の結果を予想しており、相手も予想以上に会話を歓迎していた。挨拶や一言の声かけといった小さな一歩が、思いがけないつながりへの扉を開く。 参考:Cacioppo & Hawkley(2009)「Perceived social isolation and cog…」 ↗ /Epley & Schroeder(2014)「Mistakenly seeking solitude.」 ↗ 人物 アカデミー作品賞受賞作 「あの12歳のときのような友だちは、その後、二度とできなかった。……誰にとっても、そうなのかもしれない」 I never had any friends later on like the ones I had when I was twelve. Jesus, does anyone?
— 語り手(映画『スタンド・バイ・ミー』) ロブ・ライナー監督(1986)。スティーヴン・キング原作
線路を歩いた二日間の冒険を、作家になった主人公が回想する結びの言葉。人生で友情が最も濃かった季節の一回性 ── 失われたことを嘆くのではなく、あったことの奇跡を確認する視線が、この映画を永遠にした
心理学では この名言は、「チャムシップ」(思春期前に育つ、同性の親友との濃密な関係)の一回性と、それを振り返る「ノスタルジア」(過去を懐かしむ感情)の働きを言い当てている。精神科医のSullivan(1953)は、この時期の親友関係が、相手の幸せを自分のことのように感じる力を初めて育てると論じた。またWildschutら(2006)は、懐かしい思い出の多くが親しい人と過ごした場面であることを示した。さらに、懐かしさを思い起こすことが他者とのつながりの感覚や自尊心を高めることを実験で見いだした。ときには昔の友との日々を思い出し、その時間があったことに感謝することが、今の人間関係を温める力になる。 参考:Sullivan(1953)「The Interpersonal Theory of Psychi…」 ↗ /Wildschutら(2006)「Nostalgia: Content, triggers, func…」 ↗ 人物 原作は中編「The Body」 「同情してほしいんじゃない。この俺を、対等にからかってくれる奴が欲しかったんだ」 — フィリップ(映画『最強のふたり』) エリック・トレダノ&オリヴィエ・ナカシュ監督(2011)。実話に基づく(要旨)
首から下が麻痺した大富豪が、介護経験ゼロの青年ドリスを雇った理由。丁寧な憐れみより、遠慮のない冗談 ── 「弱者」としてではなく「対等な人間」として扱われることこそ、彼の最大の必要だった
心理学では この名言は、支援される側の尊厳を言い当てている。相手を一方的な「助けられる人」として扱う関わりは、負い目や無力感(自分では何もできないという感覚)を生みやすい。Bolgerら(2000)は司法試験受験者とそのパートナーを対象にした日誌研究で、本人が「助けられた」と意識した支援は落ち込みの増加と関連し、気づかれない支援は落ち込みの減少と関連することを示した。Keltnerら(2001)のレビューも、親しい間柄での遊び心あるからかい(冗談めかした軽口)が、親密さを伝える合図になることを整理している。困難を抱える人には、気遣いを前面に出すより、いつも通りの軽口を交わすことが、その人らしさを守る助けになる。 参考:Bolgerら(2000)「Invisible support and adjustment t…」 ↗ /Keltnerら(2001)「Just teasing: A conceptual analysi…」 ↗ 人物 フランス映画史上最大級のヒット作 「すべての真の生とは、出会いである」 All real living is meeting.
— マルティン・ブーバー 『我と汝』(1923)
世界との関わりには二つある ── 相手を利用・分析の対象とする「われ-それ」と、全存在で向き合う「われ-なんじ」。人が本当に生きているのは後者の瞬間だけだ、とする対話の哲学の中心命題。関係性の幸福論の理論的支柱
心理学では ブーバーの「われ-なんじ」は、相手を手段ではなく一人の人格として受け止める関わり方であり、心理学でいう応答性(相手を理解し、認め、気にかけること)に通じる。Sandstrom & Dunn(2014)は、コーヒー店の客に店員と心を通わせて話すよう求める実験を行い、用件だけを効率よく済ませた場合より、前向きな気分と帰属感(つながっている感覚)が高まることを示した。Epley & Schroeder(2014)も、通勤電車で見知らぬ人と会話した人は、黙って過ごした人より道中を快く感じたと報告している。レジや窓口で目を合わせて一言交わすことが、日々の小さな「出会い」を生む。 参考:Sandstrom & Dunn(2014)「Is efficiency overrated?: Minimal …」 ↗ /Epley & Schroeder(2014)「Mistakenly seeking solitude」 ↗ 人物 オーストリア出身のユダヤ人哲学者(1878-1965) 「言葉は、誤解のもとだよ。……大切なのは、毎日少しずつ近づいて、なつかせること」 — キツネ(サン=テグジュペリ『星の王子さま』) 『星の王子さま』(1943)(要旨)
「仲良くなる方法は?」と問う王子に、キツネは「ことば」ではなく「時間」を教える ── 毎日同じ時刻に、少しずつ距離を縮めること。関係は説明ではなく、反復される小さな接近によって作られる
心理学では キツネの教えは、単純接触効果(くり返し接するだけで相手への好意が増す現象)と、時間をかけて親密さが育っていく過程に重なる。Moreland & Beach(1992)は、講義への出席回数だけを変えた女性たちについて受講生に印象を尋ねるフィールド実験を行い、一度も言葉を交わしていなくても、よく姿を見せた人ほど好意的に評価されることを示した。Hall(2019)も、転居した成人や大学新入生を調べ、ともに過ごした時間が長い相手ほど、知人から友人、親友へと関係が深まっていることを報告している。親しくなりたい相手がいるなら、うまい言葉を探すより、同じ時間・同じ場所に少しずつ顔を出すことが近道になる。 参考:Moreland & Beach(1992)「Exposure effects in the classroom:…」 ↗ /Hall(2019)「How many hours does it take to mak…」 ↗ 人物 フランスの作家・飛行士(1900-1944) 「対話(ダイアローグ)の語源は、ギリシャ語のディアロゴス ──「意味(ロゴス)が、人々の間を(ディア)流れ通うこと」である」 Dialogue comes from the Greek word dialogos. Logos means 'the word'... and dia means 'through' — a stream of meaning flowing among and through us.
— デヴィッド・ボーム 『ダイアローグ』(On Dialogue, 1996)
勝敗を決めるために意見を打ち合う議論(discussion ── 語源は「打ち砕く」でパーカッションと同根)と、意味が川のように参加者の間を流れ、誰のものでもない新しい理解が立ち上がる対話は、根本的に別の営みである ── 量子物理学者が晩年に取り組んだ、対話の理論の出発点
心理学では ボームのいう対話は、心理学でいえば「共有現実」(他者と世界の見方を分かち合っている感覚)を、勝ち負けではなく協働で築く営みである。Woolleyら(2010)は小集団にさまざまな課題を解かせる研究で、発言の機会が一部の人に偏らず均等に回るグループほど、集団全体の問題解決力(集団知性)が高いことを見いだした。Itzchakovら(2017)の実験では、評価をはさまず深く聴いてもらった話し手は、自分の考えの両面を認め、より極端でない見方をするようになった。結論を急ぐ前に一人ずつ話す番を回し、まず聴き切ることが、誰のものでもない新しい理解を生む土台になる。 参考:Woolleyら(2010)「Evidence for a Collective Intellig…」 ↗ /Itzchakovら(2017)「I Am Aware of My Inconsistencies b…」 ↗ 人物 英国で活動した理論物理学者(1917-1992)。量子論の大家にして対話論の祖。クリシュナムルティとの対話でも知られる 「対話とは、共に考える技法(the art of thinking together)である」 Dialogue is the art of thinking together.
— ウィリアム・アイザックス 『ダイアローグ ── 対立から共生へ、議論から対話へ』(1999)
一人で考えてから意見を持ち寄るのではなく、「考えること」そのものを一緒に行う ── 誰の発言でもない洞察が場から生まれるとき、対話は成立している。ボームの理論をMITで組織の実践に翻訳した、対話論の標準的定義
心理学では アイザックスの言う「共に考える」は、集合的知性(集団が個人の足し算を超えて発揮する問題解決力)の考え方に重なる。Woolleyら(2010)は少人数の集団にさまざまな課題を解かせ、集団ごとに一貫した「集団の知性」があることを示した。それはメンバーの知能の高さよりも、発言が一部の人に偏らず、互いの気持ちを察する力が高い集団ほど高かった。Edmondson(1999)も職場のチームを調べ、率直に発言できると感じるチームほど学習行動(質問や失敗の共有)が多いことを見いだした。会議では結論を急がず、全員に話す番が回るよう問いかけることが、場から新しい考えを生む助けになる。 参考:Woolleyら(2010)「Evidence for a Collective Intellig…」 ↗ /Edmondson(1999)「Psychological Safety and Learning …」 ↗ 人物 米国の経営学者。MITダイアローグ・プロジェクトを主導。ピーター・センゲの協働者 「寒い冬の日、ヤマアラシたちは暖を取ろうと身を寄せ合ったが、互いの棘が刺さって離れた。寒さに耐えかねてまた近づき、また離れ ── ついに、ほどよい距離を見つけた」 — アルトゥル・ショーペンハウアー 『余録と補遺』(1851)「ヤマアラシ(ハリネズミ)のたとえ」
フロイト『集団心理学と自我の分析』の引用で広く知られた
近すぎれば傷つけ合い、遠すぎれば孤独に凍える ── 人間関係の根本問題を一枚の寓話にした古典。答えが「くっつく」でも「離れる」でもなく、「試行錯誤の末のほどよい距離」である点が要諦。フロイトが引用し「ヤマアラシのジレンマ」として心理学に定着した
心理学では この寓話は、心理学でいう「接近‐回避の葛藤」(つながりたい気持ちと、傷つきたくない気持ちのせめぎ合い)を描いている。Murrayら(2006)は親密な関係の研究を整理し、人は相手に近づいて安心を得たい欲求と、拒絶から身を守りたい欲求との間で、距離を絶えず調整していると論じた。Manerら(2007)は「ヤマアラシ問題」を題に掲げた実験で、仲間外れを経験した人がかえって新たな相手とのつながりを求めるようになることを示した。ただし、他者からの評価を強く恐れる人ではこの傾向が弱いため、まず安心できる相手から近づくとよい。一度で正解を出そうとせず、近づいては離れながら相手ごとの心地よい距離を探ることが、長続きする関係につながる。 参考:Murrayら(2006)「Optimizing assurance: The risk reg…」 ↗ /Manerら(2007)「Does social exclusion motivate int…」 ↗ 人物 ドイツの哲学者(1788-1860) 「この世で最も大切なものは何か? それは人、それは人、それは人である」 He tangata, he tangata, he tangata.
— マオリのことわざ(ファカタウキー) He aha te mea nui o te ao? He tangata, he tangata, he tangata.
マオリで最も知られることわざ。問いへの答えが三度繰り返される ── 富でも土地でも名誉でもなく、人。ニュージーランドでは式典・教育・政策文書にまで引用される、人間中心の価値の宣言
心理学では このことわざは、心理学でいう所属欲求(他者と温かく安定した絆を持ちたいという根源的な欲求)を、富や名誉よりも上位に置く宣言である。Diener & Seligman(2002)は大学生を対象とした研究で、とりわけ幸福度の高い人々に共通する特徴を調べ、彼らがそろって豊かな人間関係を持っていたことを見いだした。またHolt-Lunstadら(2010)は多数の研究を統合したメタ分析(複数の研究結果をまとめて検証する方法)で、社会的つながりが強い人ほど死亡リスクが低いことを示した。人とのつながりは心の幸福だけでなく、命そのものを支える土台である。忙しい日ほど、成果や物より先に身近な人へ時間と言葉を向けることが、暮らしの豊かさにつながる。 参考:Diener & Seligman(2002)「Very Happy People」 /Holt-Lunstadら(2010)「Social Relationships and Mortality…」 ↗ 人物 ニュージーランド先住民マオリの口承の知恵 📮 毎週土曜の朝、メールで届きます その週にご紹介したウェルビーイング研究のダイジェストを無料でお届けします。
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